第9話 ヘンリック連邦戦役

 宣戦布告後、まずは友好国への戦力の供与が行われた。

 ペルセウスⅢ級やタルタロスⅡ級を中心とする戦闘コロニー艦が一国につきだいたい十隻ほど派遣され、合計300隻ほど、友好国に貸し出された。

 それとは別にルエルや旧バールデン共和国に近い、敵対国であるベネラート王国に進軍を開始した。

 ベネラート王国は旧バールデン共和国の友好国だったが、我が国がヘンリック連邦と関係が悪化すると、ヘンリック連邦に迎合するような対応を始めた。

 ハイザンス帝国とは歴史的に敵対国だったことも影響していたのだろうとレリアは分析していた。

 ノーレタス通商にも軍が派遣された。

 こちらは元々どちらつかずの対応の国家だったが、現在も宇宙条約機構加盟国だ。

 ぶっちゃけいってしまうと、こちらの首都の近くにある国家なので、リスクを避けるためにという面が大きく、半ば強引に侵攻した。


 戦争が開始されてからしばらくして、ベネラート王国の陥落が国営放送や民間メディアで報じられると、旧バールデン共和国の貴族たちの連名で、ベネラート王国国王一家の助命歎願が届いた。

 さすがにこれは考慮に入れないわけにはいかず幹部会議の議題となった。

「今回の助命をどのように扱うかで今後の国家運営にも影響が出ます。」

 レリアの言葉に皆頷いた。

「結論から言うと私は助命に反対です。ハインツには悪いですが、これで造反を企てる貴族がいればこちらとしても直轄地を増やす理由になるので一石二鳥です。」

 レリアが会議のしょっぱなからぶち込んできた。

「この件を考慮すると、バールデン貴族たちに私たちを動かす力があると示すことになります。これが将来の連邦制国家樹立の障害となります。」

 署名の中には公爵二名の名はない。伯爵以下の貴族がほとんどだ。とはいえ穏健派と思われる貴族の名もある。ハインツと元は同じ派閥だった子爵家や男爵家の名前もあった。

「うちの寄り親だったバウスマン侯爵は賛成してないところを見ると・・・こりゃ、試金石にされてるな。蹴った方がいいな。」

 ハインツすら反対らしい。

 私は個人的には連座で処罰は避けたかったが、こうなると処刑は避けられそうになかった。

「いまどこまで貴族が僕らに影響を与えれるかの実験だな。ベネラートの王族はその出汁に使われてる。」

 ハインツのこの言葉が決め手になり助命は脚下されることとなった。


 数日後、王都で王族や貴族とその一族郎党の公開処刑が行われた。

 それを見物している国民の中には跪いて涙を流している人間が何人もいた。どうやら国民から愛されていた王家だったらしい。

 わたしとしては今回の処刑は後悔を感じた。だが、レリアによると処刑してよかったと反対の意見のようだった。

「敬愛を受ける王家というのは非常に有能であることが多いです。そして独立心も旺盛であると言えます。今回の事は将来の禍根を確実につぶせたとみるべきです。」

 その論理で行くと国民に愛されてない王家なら生かしておくことも可能だという論理になる。しかし、そういう王家は圧政を敷いている場合がほとんどだ。

 相矛盾するこのことに私は頭痛がした。

 ノーレタス通商のほうは会戦にもならず、軍というか傭兵艦隊が追い散らされてそれで終わってしまった。

 ノーレタス通商は、商会や会社といった有力財閥のトップによる少人数寡頭政治を行っている国だ。いやだったかというべきか。

 すでにそれらの財閥は接収され解体の予定に従って動いてしまっていて、財閥トップ一家については公開処刑を実施し、社員については刑罰の対象外とした。

 こちらは一般市民から処刑された財閥一家に石が投げられたりしている光景がよく見られた。

 格差社会だったようで、貧乏に落とされて立ち上がれないようにされた人々が非合法武装組織を組織し、財閥と時には争い、時には迎合するという状態だったようだ。

 非合法組織については徹底的な取り締まりと弾圧が加えられた。こういう膿の部分をのこすとあとでろくでもないことになるからだ。

 弱者の救済が国家が一切行わない中、救済組織の面はあっただろう。しかし、その組織は同様の組織員よりかなり数が多い弱者を食い物にして成り立っていた。

 非合法組織に喰いものにされる弱者を救済する、あるいは生み出さないようにするためには財閥とその非合法組織を徹底してつぶす必要があった。

 レリアがあらかじめ現地に新しい行政府と救援物資を用意していなければ、あとには無気力な弱者だけがのこされていたところだっただろう。

 行き過ぎた格差社会は絶対悪だ。それは行き過ぎた平等社会と同じようにだ。

 これは教育から始めるにしても、大人への教育も増やして対応しなければ産業を再生できそうにないなと私は感じた。



 一週間もしないうちに宇宙条約機構所属国が陥落したことをヘンリック連邦のメディアはセンセーショナルに煽り立てた。

 大統領報道官の談話では、

『我々は専制国家による侵略は絶対に許さない。ルエル連邦に必ず正義の鉄槌がおろされるだろう。』

 とう警句が最後を飾っていた。


 情報を整理すると、ヘンリック連邦側は宇宙条約機構軍を編成し、それをノーレタス通商方面から、【ルエル】に突入させる腹積もりだったらしい。

 しかしすでにノーレタス通商には移動要塞による防衛線がしかれ、その隣国のカイマ王国、イーデン連邦、サナツクス共和国にも【ルエル】連邦軍が進軍している。


 それとは別に銀河外縁部に迂回してからヘンリック連邦の首都星系を狙う移動要塞艦コロニー部隊をAIラノスが指揮している。また同時に、ノーレタス通商の領土から直進する形で移動要塞艦コロニー部隊をラノスの兄弟AIにあたるAIガレアが指揮している。

 どちらの部隊も総旗艦は新造された、戦略航宙母艦型戦闘コロニーである20000km・クイーン・クローバー級、ネーデルとルーネルだ。

 この二つの空母は先の南華条約機構軍との戦いを参考に防御力を高めた次世代戦略航宙母艦だ。クイーン・スペードの後継艦となる。

 質量攻撃にも10000kmの鉄球をぶつけられてもシールドが破綻しない仕様になっている。

 情報取集能力も高められている。ただ、艦船の製造能力はペルセウスⅢ級を大幅に下回る。しかし、艦載艦の補給は十分に行なえる仕様になっており、まさに移動要塞という名に相応しい艦だ。


 どちらの艦隊も次元隠蔽をしつつ、次元航行を使って、間の恒星系をいくつも素通りして、とにかくヘンリック連邦の首都である恒星ザンクトの都市ワルデンへ向かっていた。


 途中で、敵艦部隊が集結していると思われるタナワ星系があったが、そこに対しても素通りだ。

 集結する前叩けば、相手に大損害を与えれるが、戦争自体を見た場合、後方のザンクトを陥落させた方が被害を抑えれる。

 そのため私たちの作戦ではノーレタス通商と国境を接しているシギワル共和国内の恒星系ラグンハイドを戦場に設定して、その範囲に要塞を大量に建造しているところだ。

 前線はすでにさらに奥のシギワル共和国の隣のノーベンハイム王国に移っているが、時期が来たらずるずると前線を下げる予定だ。

 そこで相手の前衛部隊を壊滅させると同時に、首都を陥落せしめる予定だ。

 ひょっとしたら首都陥落のほうが早いかもしれない。その場合はいっきに周辺から艦隊を送り込み、侵食する予定だ。



 【ルエル】連邦歴3年1月18日、この日、【ルエル】連邦軍によるヘンリック連邦の首都恒星系ザンクトの包囲網が完成した。

「ようやくここまできたか・・・。」

 私も感慨深い。こんどこそ平和になってほしいものだ。こちらにきてからというもの戦争に次ぐ戦争で、正直気が休まっていた時期は短い。

 一方、ノーベンハイム王国での戦闘は一進一退の状況を作っていた。幸い新しいシールド装置のおかげで、艦船への被害は少ない。小惑星による質量攻撃もなんども仕掛けれたが無事に躱している。


 私はブリッジの参謀てーブルで皆の顔を見てから、号令を出した。

「時はきた!これよりヘンリック連邦に総攻撃を仕掛ける。遠征舞部隊に命じる!全艦隊進め!!ザンクトを完全制圧せよ!!」

 オペレーターが復唱して現地艦隊に命令を伝える。

 ブリッジの正面のスクリーンには現在の戦略航宙母艦クイーン・クローバー級ネーデルとルーデルから見た画像が映っている。

 二つの船は天頂方向と天底方向から恒星マーバルを見ており、戦闘の模式図がつぎつぎとわきのスクリーンで展開している。

 さすがというか、ヘンリック連邦は首都星系を無防備にはしていなかったようだ。

 しかし、いまさら1万隻程度の1000m級の艦船の攻撃でこちらは和まり消耗しない。

 第六惑星付近で互いに前線をつくりあげて削りあいが始まったが、次々とこの恒星系にあるコロニーが強襲降下艦により陥落していっている。

 すでにルーデルの打撃航宙母艦10隻は首都星ベナンゲンの衛星軌道に展開し、強襲降下艦を降下させている。

 相手方の迎撃機も上がってきているが、こちらの迎撃戦闘機のほうが数が多い。


「無事に大統領を確保できればいいんだが・・・・。」

 私のその言葉にレリアは首を振る。

「それより国防総省と情報局、連邦銀行、国土安全保障局、国家保安局を抑えれるかです。この5つを抑えれば、レジスタンスの可能性はほぼなくなります。大統領府と議会は後回しでもいいくらいです。」


 それからしばらくして、首都全域の制圧完了の報告が入る。

「大統領の確保はできました。補佐官は一人が射殺、筆頭補佐官と次席補佐官も確保されてます。報道官は自ら投降してきました。」

 レリアの報告に一瞬ほっとする。でがまだ首都星系では戦闘中だ。気を抜くわけにもいかない。


 二日後、ザンクト恒星系は完全制圧した。今後はここを拠点に周囲へ侵食を開始する。

「予想はしてましたが恒星系知事の何人かは、徹底抗戦を論じて、戦力を集めて、ザンクトの奪還を呼び掛けてます。」

「それで、こちらの勝率は?」

「97パーセントですね。質量兵器などで首都星系事破壊されれば負ける可能性はあります。しかし、現状でそれはないでしょう。」

 敵の総本山は占領したが、本格的な戦いはむしろこれからかもしれない。αセクターの我が国の占有率は2割から3割に増えたが、、それでも攻略してないヘンリック連邦の領土はαセクタ全体の割合で2割ある。

 残りの五割のうち2割が我が国の友好国。つまりαセクターののこり半分が敵なわけだ。それらを平らげていくというのは気が得なる。

 相手が広いのに、味方に援軍要請しないのはなぜかといえば、戦後の論功行賞でややこしいことになるからだ。

 どこの恒星系を渡すかでもめる事確実だ。だから我が国単独で攻略をしている。

 クーレリアの試算だと攻略にかかる年月は1年短くなってあと2カ年で達成できるだろうとの事だ。

 ΘセクターやΔセクターの事を考えると気が遠くなりそうだが、あちらはあちらで三つの勢力に割れて大戦争中だ。

 こっちに関わってくるなよといいたいが、こっちの戦争が終われば接触してくることだろうことが安易に予想できる。

 現在うちの国は絶対帝政から、寡頭独裁政治に移行している。しかし、将来的には民主化するというロードマップは作ってある。

 ただし、大統領の独裁権は大き目するつもりだ。議会が強くなりすぎると意思決定が遅れて国家存亡の危機を招きかねないからだ。

 大統領の責任が大きいともいえる。将来の大統領も胃を痛めそうだ。

 教育のもろもろが効果が出るのは100年後くらいからだ。民主化するのもそのくらいになるだろう。


 そのためには侵略戦争を辞さない対応が必要だろう。できる限り犠牲者は減らしたいが、きちんとシステムを構築さえすれば外敵がいないか少なければ存続しやすいからだ。

 ただ、外敵になる国を全部平らげるのも問題な気はする。

 戦争を忌避するあまり戦力を持たなくなる可能性が捨てきれないからだ。それでは何かの時に対応ができない。例えば銀河を越えて別の国が突然攻めてくるというのもない話ではない。

 戦力の保持に仮想敵国は必須だ。


 なにはともあれ早く戦争が終わればいいと祈るばかりだ。

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