第31話 またしても砲艦外交

「予想通り向こうは大騒ぎね。」

 レイナがスクリーンを眺めながら満足そうだ。騒ぎを起こすのが目的だったわけではないだろうが、本来の趣旨としてはもやっとする私だ。

 マッカード宇宙連邦の首都星系マッカードニア星系はどこもハチの巣をつついたような騒ぎが起きていた。

 さもありなんと言いたいところだが、会談の日取りは戦略航空母艦イワセや護衛艦とともに、首都ドニアスの沖合に降下し、航空艦内の会議室で会議が開かれることになっている。

 相手の国の会議場に私が直に行くことに全員が反対したからだ。

 かといって向こうに出向いてもらうことについても相手方が難色を示し、結果的に折衷案で我が国の艦船の中で開くこととなった。

 調査開拓船団総旗艦の直営軍だけをつれてきたが、それだけでも二億隻を超えている。

 指揮をどうとってるのか不思議になるくらいの艦船の数だ。

 ここまでくる間になんどかマッカード宇宙連邦の星系付近を通るのに折衝は持ったが、さすがの軍勢の数に、向こうも止めようがなかったようだ。

 すがすがしいまで砲艦外交だが、ネコミミ種族のマッカード宇宙連邦の国民にどう映っているか少し気になる。

 大方、侵略者が乗り込んできたといった印象だろうことは予想している。

 AIの情報工作部門はダミー会社をつかって、現地のテレビ局や新聞社の株式を買い進め、また広告代理店も買収したりして、情報工作の準備を進めている様子だ。

 すでテレビで「イスカンド星系の今」という題で放送が行われた。意見は色々あったが、その番組のアンケートで侵略されても仕方ないという意見が三割弱あったことには驚いた。

 戦争だとデモ行進しているグループも散見されるが、戦争を仕掛けようと主張するグループは少数だ。

 政府側は、こちらが大艦隊で来訪していることを隠したがっている様子だが、商業宇宙船乗りたちの一部が、我々の艦隊を撮影してこちらの電子ネットワークシステム上のSNSに投稿するのが目立ってきていた。

 すでに隠すのは無理になりつつある。

 わたしとしては別に隠そうが隠さなくて©どちらでも構わなかった。交渉が決裂すればすぐに制圧にかかるのは既定路線だ。






【銀河ユニオン歴】1月15日、この日、ようやく最初の交渉会議が開かれた。全権大使としてレイナが向かうことになった。

 戦略航宙母艦イワセは全長50kmの我が国では中型に分類される戦略航宙母艦だ。幸い、首都ドニアス近辺には大きく開いた外海が広がってる。首都から5km離れた場所にイワセは着水した。

 向こうの無人ドローンや、反重力機構を乗せたエアカーなどからその様子をテレビ局各局が撮影している様子が散見された。

 着水後、向こうの代表団を乗せた航空機がイワセの内部宇宙港に誘導されて着陸。

 代表団は閉鎖ドッグに備えられている気圧閉鎖型タラップから、イワセの内部へと進んだ。港のゲート、レイナ達は待っており、そこで握手をしている様子が盛んに撮影されていた。

 向こうの全権代表は国務長官であるテンセリア・ミームという男性だった。彼は壮年の男性で、髪の毛の色は茶色で耳の毛の色が黒色だった。着ている服は向こうのフォーマルらしい立ち襟の濃緑色の上下だ。左胸には紋章をかたどったワッペン状のものをピン止めしている。顔のつくりは日本人に近いかもしれないが、いかにもエリートらしい顔つきをしている。

 むこうは我が国とルエル連邦の友好という言葉をやたら乱発している。

 レイナはにっこり笑いつつも銀河統一は我が国の国是ですからと切り返している。


 会議室にはいり、議事進行は我が方のAIであるメセナが行っていた。その様子を私は遠隔通信で総旗艦ヴァンスの会議室のスクリーンで眺めていた。

 我が方としては、星系をいくつかのグループにわけそれを州とし、州知事と州議会を設置するという方針だ。

 複数の銀河を統治するという方向性なので、銀河の単位でも議会を設置し、銀河議会と銀河知事を設置する。

 いうまでもないが、その議員や知事は被選挙職だが、政治学校卒業と政治試験を突破した人間に被選挙権を与える形になる。

 人材がそろうまでは、実質的にAIによる軍政だ。

 ここで徐々に変えるやり方をしないのは、それをやると変更が困難になったり、とん挫する公算が高い為だ。


 我が方の提案を示すと、向こうは鼻白んだ様子だった。

「・・・・いきなりこれですか?」

 レイナがさらりと言う。

「我々の求める最低ボーダーがこれです。これ以上はあってもこれ以下はありません。あなた方は戦争かこの要件を飲むかの二択です。」

 レイナの示した案は本来のボーダーより盛った部分もある。星系全部をすぐに政治移行させるとかの部分だ。

 とはいっても三カ月くらいでいったんAI軍政に変えるのは事実だが、そこを即日となっている。

 交渉において相手が絶対飲めない条件を付けくわえて、それを本来のボーダーにおろして譲歩を演出するやり方だ。

 向こうからはイスカンド星系の返還や、即時軍の撤収、平和条約の締結の三つが示されたが、レイナがお話にならないと一蹴した。

「我が方が一日でこの星系を制圧できるのに交渉をしているのは、最初の接触の時に早期降伏してくれたベライオ・フェニック氏の要請があったからにすぎないのですよ?」

 レイナがこちら側の案を受け入れた場合の準備していたロードマップの一つを提示する。

「このように将来的には民主化します。」

 レイナはずばずばと切り込んでいく。

「あなた方はの生殺与奪の権はこちらにあることを理解してほしいところですね。我々は侵略者であることを肯定します。あなた方も別の人種の星系を制圧した記録がありますね。それと同じです。」

 レイナはタフに交渉を進めていった。


 総旗艦ヴァンスの会議室で修一は首を傾げている。

「今回なんで軍事制圧のまえに交渉を持ったんだ?ほかの国と対応が違わねぇか?」

「インテリゲンチャが育っている国というのは国民の学習レベルが高い。それでいて思想的な方向性が我が国と異なる。軍事制圧して軍政におくと大抵は市民弾圧をしなきゃならなくなる。

 絶対王政国家や封建国家は国民のインテリゲンチャが抑えられているから、逆にどうにでもなる。共産主義国家でもそれは同じだな。

 王政は王政でも立憲王政だと交渉したほうがいときもあるしな?」

「そういうもんか。しかしレイナの嬢ちゃんかなりタフなネゴシエーターだな。相手を翻弄しまくってるぜ?」

「もともと中堅どころの運送会社の社長兼会長を若い時からやってたからだろうね。地球の会社で課長補佐だった俺にはあそこまでの交渉力はないな。」

「そのわりに選択ミスが少ないきがするけどな?」

「レリアが補佐してくれるし、お前を含めて仲間がたすけてくれるからどうにかなってる。」

「・・・なるほど。」


 マッカード宇宙連邦との交渉は二週間に及んだが、結局むこうはこちらの当初のスキームラインを飲むことになった。

【銀河ユニオン歴】20年2月5日、この日マッカード宇宙連邦の【ルエル連邦】への併合調印式がイワセの会議室で行われた。その様子はマッカード連邦各地に映像配信された。

 最初の段階として、マッカード連邦軍を徐々に解体し、それをルエル連邦銀河警察に再編加入させることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る