第32話話 再びの根拠地の移動と今後の方針

 きょうの会議の議題は、バビール銀河における中心根拠地の形成と、通商路の構築だ。

 バビール銀河の制圧率が40パーセントを越えたあたりだが、すでに銀河の中心にあるブラックホールに近い星系であるイナクセス星系と呼ばれる恒星系を確保した。

 今後はこの星系を中心にバビール銀河の運営を行う予定ではいる。

 問題は、私たちの本拠地であるイエール銀河との接続をどうするかだ。現状、行き来できる船はうちの国が直接製造した船に限られている。

 それは渡るための航路のノウハウがないなどの問題もあるが、最大の問題は、距離が離れているのに、それを許容できる時間内に到達できる船が民間にないことだ。

 速度を上げるには、次元航行という仕組みがいる。

 VRSFMMORPGだった【ルナティック・ミルキーウェイ】ではあまり触れられてなかったが、この仕組みは、時間次元フィールドとよばれる通常空間の上の3次元領域と認識できる次元の座標を移動する技術だ。

 わかり辛いが、通常の三次元座標と並立して時空座標が併存しているとかんがえればいい。時間はこの時空座標の変化量となる。

 つまり短い時空次元座標の移動をしつつ、通常の三次元座標では長距離を移動をするという条件をクリアすれば高速移動が可能になる。

 通常状態でも時空次元座標を我々は移動しているから時間が経過する。

 面倒なのが時空次元座標も三次元空間で表現できる点だ。時空間座標の移動速度も一定ではない。

 さらに付け加えると、宇宙空間自体が時空間座標を移動し、ほかの宇宙空間との干渉がある。ここまでくるとマクロすぎて、通常では認識しづらい。

 六次元座標計算にするか三次元計算を二つにわけて連携して計算するかという問題もある。

 結論を言うと宇宙空間での次元移動というのは一瞬にできるが、常に自由に使えるわけではないということだ。方向や移動距離なども計算しなければならない。

 時空次元座標において長距離化すると時間ばかりかかるため、その時点では向かえない方向もあるわけだ。

 この問題は。さらに上の次元座標の移動で解決はできる。だが計算はかなり複雑化することは理解できると思う。

 そういう理屈の為、時間が変化量であるため過去へのタイムトラベルは不可能でありタイムパラドックスは生じえないというのがこの宇宙における我々の認識だ。


 話を戻して、航路の設定がそこで問題になる。銀河も自転しているため銀河どうしの近い場所が変わるのだ。これでは外縁部のどこに到達できるかが指定できない。

 銀河内の距離程度なら、内部星系の公転座標はわりに割り出しやすいのでどうにかなる。銀河中心への公転速度が星系毎に違うのはもちろんだが。


 私たちはうんうんうなりながら意見を出していたが、イワンがポツリと漏らした。

「いっそ、こんど根拠地にする場所とイエール銀河の一定の場所を結ぶワープゲートみたいなものを造れればいんだがな・・・。サイエンスフィクションじゃあるまいにそれはむりだろうが・・・・・。」

 しかし、それをレリアがききつけた。

「ワープゲートですか。ワープゲートの管理を我々が行うというのであれば可能ですね。船に高次元航行をさせるリスクが問題でしたが・・・・・ワープゲートならその問題は解決でき摺ますね。技術の集中管理ができる。」

 こうして、ワープゲート計画と名付けられた計画が動き出した。それは【銀河ユニオン歴】20年2月5日の事だった。





 まず小さなワープゲートシステムが試作された。とはいっても装置のエネルギー供給の関係で3kmの中空の箱型の装置になったが。

 15次元縮退炉が五つも接続されている。細長いマッチ棒でつくられたような直方体の筐体に囲まれた空間自体を目的座標に転移するという代物だ。

 6次元座標移動をさせるのに15次元縮退炉を使うというのもある意味矛盾しているような気がしないでもないが。相手に次元縮退炉の技術が渡るのを防ぐためである以上仕方がなかった。いかにリバースエンジニアリング対策をしても、それをしてしまうブレイクスルーは発生する。

 もちろんワープゲートを設置する為にはワープゲートのセキュリティの管理が問題となる。

 現在の実験施設のような簡易の設備では、警備上問題がある。

 技術的には固定空間を次元座標の制限の元に大抵の場所には転移できる。

 ワームホール的なものを想像するひとがいるかもしれないが、我々のつくる次元転移装置はそうではなく、時空座標を移動させず、通常の空間座標を移動させる装置だ。

 もちろん転移の自由度をあげる為というか目的地につねに転移できるように、時空次元のさらにうえの次元座標もいじるシステムとなっている。時空次元座標上での操作だけでは限界があるのだ。

 そして、戦争をしつつも、計画は進み、巨大な竹輪状の転移ゲートステーションの骨子が固まった。

 転移ゲートステーション自体にはAI駐留艦隊と警備の関係するAIやアンドロイドしかいない形になった。

 利用客の宿泊などはその付近に付属ステーションとして商業施設と同居させてつくることになった。

 最初建造されたのは直径1000万km、全長5800万km、内部空間直径600万kmのゲートステーションだった。ゲートステーションはクロノス級と名付けられた。

 本国のほうでも同様にクロノス級のゲートステーションが建造されている。建造場所は首都コロニー【ルエル】の近傍だ。これは何かあった場合の対処を容易にするためという目算もあった。

 それに加え、銀河を超える艦船の航行を管理するという目的もあった。


 【銀河ユニオン歴】20年5月21日、この日、銀河間をつなぐ、ワープゲートステーションの落成式が行われた。

 宇宙は新たな時代を迎えようとしていた。

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