第30話 マッカード宇宙連邦との対話

【銀河ユニオン歴】20年1月1日。今年もまた一年が始まる。戦争中とはいえ調査開拓船団に参加している人間相手に新年パーティを開いていた。

 どちらかと言えば戦争に対する慰労会である側面が大きい。

 そんな新年のパーティの中、イスカンド星系の星系知事職を務めている、ベライオ・フェニック氏が、私に接触してきた。

「おかげさまで、星系の完全失業率は大幅に下がりました。わたしもほっとしています。」

「そいつはよかった。」

 私はそう答えたが、一星系レベルの資料は目にすることが少ない。このバービル銀河で占領した星系だけでも一万二千は余裕で超えている。

 私が直に指揮を執ったから彼とは接触があるが、権力機構はほぼAIのシステムに切り替わっており、彼は名ばかりの星系知事に近い。

 彼らが属していたもともとマッカード宇宙連邦は星系の独立性が高く、それの連邦国家であるから、地球で言えばアメリカ合衆国の州の扱いに近い。

 いまのところ私の一存であえて連邦との接触は避けているが、そろそろ対処を決めないといけない。

 我々が本拠にしたイスカンド星系はマッカード宇宙連邦の本拠とされるマッカードニア星系とかなり離れている。

 我が国に組み込むのは前提だが、国民共和制国家であるだけにヘンリック連邦と同様に扱いが難しい。インテリゲンチャが育ってるだけに、軍政を強いると、民衆が敵に回りやすい。最初から民主化のロードマップをプランとして組み込むべは規定路線だが、向こうがそれを飲まなかった場合が問題だ。

 どちらにせよ軍事力を背景にしつつも交渉するという方針にすべきだろう。

 バービル銀河を統一するという方針は変えない。

 最近になって管理者を名のる存在の意図がおぼろげながら見えてきた気がする。とにかく銀河規模の勢力を造って、宇宙全体の科学力を引き上げるのが目的なのは確実だ。

 ただ、バービル銀河でそれをやるはずだった【スリースターズ】は内紛でそれを失敗した。だから私が呼ばれたのだろう。私が来たのは【スリースターズ】が来てから二十年くらい後だ。


 いずれにせよ、交渉団を編成しなければなと思った。


 しかし、便りは向こうから来ることとなる。マッカード宇宙う連邦の星系循環船というものが、イスカンド星系にやってきた。

 イスカンド星系はすでに別の国の領土だと聞いてアッカード連邦のこの船は補給と交渉を求めてきた。

 ベライオ・フェニック星系知事を介して我々は交渉を開始した。

 相手の船長はルクセンド・アッカートニーといい、各星系の状況を監査するという役目を循環船が担っていることを伝えてきた。

 こちらとしては最初から方針を伝えた。


 【ルエル連邦】は隣の銀河を統一した【銀河ユニオン】に属し、そこの議長国を務める国家であり、国是として拡張主義の民主国家だと。

 そしてそちらの意向の遺憾を問わず、併合する予定だと伝えた。

 その私の言葉にさすがにアッカトニー船長は顔色を無くした様子だった。

「・・・・・併合に応じなければ・・。」

「戦争ですね。」

「我が連邦軍はそれなりに強壮だと自負している軍です。それと戦うとおっしゃられるのか?」

 交渉に使っているのは総旗艦ヴァンスの公共区画にある会議場の一室だ。

 そこの広く長いテーブルの両側に双方の関係者が分かれて座っている。フェニック氏はこちら側の席だ。

 私は、このバービル銀河の星域図を表示させた。

「我々の船なら一日もしないこちらからうちにそちらの首都星マッカード星系に到達できます。これが何を意味するかお分かりになりますか?」

「一日ですと?」

「それにあなた方の船を乗せたこの総旗艦ヴァンスで直接そっちらの首都に明日にはお邪魔することも出来ますよ?」

 そこまで言われてアッカドニー船長は口を閉じた。

 むこうの役人らしい女性が手を挙げた。議長をしているイワンがどうぞと声をだした。

「マッカード宇宙連邦広域調査員のイネ・ハヤットです。私としては併合の是非については首都に持ち帰り、交渉を続けるべきだと考えますが・・・・・その前に、なぜフェニック知事がそちらの席に座っておられるのかが不思議でした。」

 フェニックは苦笑した。

「我々のこのイスカンド星系が、ブリザンド星系帝国に襲撃をたびたび受けていたことは御存じでしょう?再三にわたって救援要請を出してました。が・・・・救援は間に合いませんでした。星系の防衛力では対応できない状態に陥った時に、ブリザンド帝国を打ち破ったのが【ルエル連邦】軍でした。もっともも【ルエル連邦】は我々を助けるつもりはなく、そのままこの星系を制圧しました。犠牲者は出ましたが、少数で済んだのは早めに降伏したことが大きいでしょう。」

 そしてフェニックはつづけた。

「自分はそのまま【ルエル連邦】のイスカンド星系知事に横滑りで入ったわけです。」

 すると相手側から声が上がる。

「それは祖国への裏切りではないですか!!」

「星系を売り渡して地位をえるとはおぞましい!!」

 しかし、フェニックはさらりと続けた。

「我々が犠牲者を出しながらブリザンド星系帝国との戦争をしていた時に本国は何をしてくれましたか?支援の物資すら送られてきたことはありません。物理的に遠かったのもあるでしょう。ですが・・・救援要請は五年前から出してました。それで今回のこのこ来たのが監査のための循環船ときました。循環船一隻でブリザンド星系帝国がたおせるならいいですね?」

 その場が新シンとした。

「我々を救ってくれたのがかつての祖国の同胞ではなく、侵略者のルエル連邦だったのは事実です。現実この星系は【ルエル連邦】による開発で大いに活況を呈しています。残念ながらかつての祖国の技術や資本力ではなしえなかった現状です。いまさら祖国に戻りたいなどと思う人間は少ないでしょうね。」

 そこまで言い切ると、フェニックは耳を立てながら座った。

 マッカード宇宙連邦側はシンと静まり返ってしまった。


 レイナから強引な案が示される。

「このままでは全権をもっているのはこちら側だけでお話にはなりません。持ち帰ってもらうにしても時間がかかりすぎます。そちらとの連携が必要ですが、この総旗艦をもってマッカード宇宙連邦首都マッカードニアに訪問するというのは如何でしょうか?途中の星系での交渉をしながらになりますが、概算で二週間で現地につくでしょう。」

 結局、その日の会は散会になったが、すでに総旗艦とその護衛艦隊群はマッカードニア星系へむけて移動を開始した。相手に合わせる必要はないという船団会議での結論だ。


 そして一週間後、総旗艦ヴァンスとその護衛艦隊群あわせて二億隻以上はマッカードニア星系の第八惑星のさらに外側を回る公転軌道に乗った。【銀河ユニオン歴】1月9日の事である。

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