第58話 ゲリラ戦

 今日の会議は、ローディシア連邦におけるチェイン人民軍残党に対する対策会議だった。


「基本的にゲリラ戦とは、その拠点の存在とその拠点への武器弾薬や食料の補給あるいは在庫があって初めて成り立ちます。」

 チェイン人民軍は都市地下に巨大要塞を構築することで、都市攻略戦に対応しようとしてた。

 しかし我が軍は地下どころか惑星ごと破砕し、その思惑を破壊した。

 しかし、これから攻めることになるローディシア連邦内部に、散らばるチェイン人民軍のゲリラ拠点を一個づつつぶしていかなくてはならない。

 地球の歴史ではベトナム戦争でのベトナム人コマンドーによるゲリラ戦でアメリカ合衆国は実質的に敗戦に追い込まれた。

 歴史的には毛沢東がゲリラ戦を系統づけて書籍化したことが有名だが、実際のところ、北ベトナムにゲリラ戦指導を行ったのは日本人である。日本の諜報機関と特殊兵の養成機関であった中野学校の前身にあたる軍学校で教えられた内容がこのゲリラ戦である。


 ゲリラ戦の基本は班単位から分隊規模の兵員で、浸透作戦を行い、相手補給線を奇襲で叩く事だ。

 しかし、それにはゲリラ戦を行う人員が出撃したり帰還する拠点が必要となる。

 そしてその出撃拠点は破棄することも考慮して作らなくてはならないが、後方に落とされてはならない、拠点が必要なのだ。

 チェイン人民軍は、シャンペーの地下軍事要塞を絶対防衛圏とし、最終防衛ラインをシャンペーの地下要塞浅層としていた。

 そして補給は秘密地下鉄や地下通路でペイジン方面から行うことを基本としていた。

 逆にペイジンを先に侵攻された場合、それが逆転するだけだ。

 この作戦において弱点はいくつか挙げられるが、最大の問題は補給を行う地下通路だ。そこを潰されれば持久戦を行うしかないのだ。

 しかしチェイン人は持久戦に弱い特性をもつ。

 むろん、シャンペーの地下要塞は、原子炉をもち、その電力で野菜の工場を運営し、また最悪時には、その野菜で蚕を養殖し、蛋白源とするなど、無補給籠城ができる設計ではあったが、要塞内に侵入されて施設が破壊された場合をあまり考えてなかった。

 補給物資は分散配置されていたが、侵入破壊工作に非常に脆弱なのだ。施設の露見をチェイン人民共和国が恐れた最大の理由がそれだ。

 場所さえわかれば、衛星軌道から砲撃や水中からの核融合弾による破壊などハードなやり方で施設が保持できなくすることが可能だ。

 これはペイジンの地下要塞やウーハンの地下要塞にも言える。


 今回問題となるローディシア連邦内のゲリラ拠点については、地下施設が多いとみるべきだろう。

 古くからあるウーラ山脈の要塞のこともある。


 シャンペーを先に我々が叩いたのは、シャンペーの要塞が軍事要塞というだけでなく諜報組織の中心地であり、情報センターであったことがあげられる。

 そこを叩けば、世界各地の諜報組織をある程度抑制できる。


 ローディシアの問題は、惑星内のクラマー半島内における地下施設がウィークポイントとなる。

 こちらはチェイン人民共和国の地下要塞と比べると洗練されており、隔壁などの設置場所なども考慮されている為、簡単には落せない。

 ただ、地下の古いドック式潜水艦港はウィークポイントとなるだろう。

 政争のあおりを受けて、ここの部分の近代化が遅れている。問題は入り口の開閉ゲートがそれなりに分厚いことだ。


 ローディシア側はこの地下要塞を保持することで、クラマー半島内でゲリラ戦を行うことを企図している。

 弱点は地下通路と地下潜水艦港という補給線だ。


 現代戦においてはゲリラの対策に、小型軍事ドローンを用いる、あるいは逆にゲリラ戦をしかけるのに小型軍事ドローンを用いるということが明文化されている。

 どちらにせよゲリラ側は拠点が弱点となる。

 ローディシアが余裕を持てるのは広大な領土を持ち、そこの各地に軍事生産拠点を持っていることだ。

 そしてその中間集積地に某星のウーラ山脈要塞がある。 

 したがって物量的に両面に戦場を造れば、ローディシアは対応できなくなる。


 チェイン人民共和国が健在なら、そこからの工業製品で補給を維持できるだろう。しかしチェイン人民共和国が落され、そこに戦場を配置されれば、維持できない。

 チェイン人は頭数だけは多いから、一時、ブリザンド星系帝国の同盟国であるアガノン合衆国はブリザンド星系帝国内およびフィリア地域の駐留部隊を引き上げる計画を立てていた。

 だが、実際のところ相手が核ミサイル飽和砲攻撃をしかけてきたとしても、それを撃墜するだけでなく、逆に核ミサイル飽和攻撃を行なえば、チェイン人民共和国側は対応できない。

 もっとも我が軍は惑星外からの攻撃で、破砕をおこなったわけだが。

 宇宙からの砲撃は惑星の公転や自転、地磁気に影響を与える事も考慮して行わなければならないが、標的地点の破壊は割と容易だ。実力行使しないと理解しない人種も中にいる。

 撃つぞ、撃つぞといって撃たなければなめてかかってくる。

 要塞への水攻めぐらいではチェイン人残党やローディシアは反省しないだろう。

 いつの時点でか実力行使をしなければ彼らは理解しない。

 

 ローディシアの問題はそだけでなく、ローディシア科学アカデミーの関係者に標本フェチで、地下研究所に大量の人体剥製標本を保持しているという変態がいたりする。

 その研究所の全員が変態というわけではないが、若い女性の剥製を制作して大量に保持している人物がいるのだ。


 我々は殲滅兵器人種を殲滅する為に殺しはするが、関係ない人間の死人をことさら増やしたいとは思っていない。

 しかしローディシアのこういう性倒錯者の存在は明らかになれば、おそらく大問題となるだろう。


 ちなみにブリザンド星系帝国のモリアール家の一部がこの件に関わっており、貧困世帯の少女で、セツラにおける特殊階級であるドール階級とされた人物をローディシアの性倒錯研究者に売り渡していた。

 人身売買だ。

 剥製に不要な臓器を保存し、一部お金持ちの生体移植にも使われている。

 薬剤や医薬品分野、病院や医師の手配の関係でトージェイン家もこの生体移植に関わっている。


 蛇の道は蛇だとはよくいったものだと思う。


 話はもどって、ローディシア攻略のために、特殊降下艦を設計することとなった。

 チェイン人が多いといいっても、ローディシア人まで皆殺しにするわけにはいかない。そのための地下要塞制圧用の艦船だ。


 戦争はいつまで続くのか。あまり考えたくはないが、こういう部分をしっかり押さえておかなければ国は成り立たないことを自分に言い聞かせた。

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『コロニー戦艦ルエル―SFゲーム世界で寝落ちしたら、ギルド本部の移動型戦闘コロニーの中だった!!』 イサ @isa1234

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