第57話 巌窟王の争点

 最近書類仕事がなかなか終わらない。

 気休めにだが、巌窟王トーマス・アーレイ氏の資料を手に取った。

 その資料はそもそもの事案発生時点での調査内容だった。


 トーマス・アーレイ氏は会社の同僚との付き合いで、映画に誘われて、当日映画館に行ったが、誘った当人がなかなか現れなかった。

 我々の事後調査で明らかになったのは、映画をさそったのがトーマス・アーレイ氏を刑事告訴した女性の方からだということだ。

 ところが警察の調書ではトーマス・アーレイ氏からさそったことになっている。

 もちろんこれはトーマス・アーレイ氏を抹殺しようとしたチェイン人民共和国の意図で動いていたモリアール家による指示で調書がねつ造されたからだ。

 トーマス・アーレイ氏が実際に拇印で捺印した調書は二組のみで、それは自分の無実を説明する内容だった。それすらも警察側あるいは担当刑事により内々に処分されている。

 そしてトーマス・アーレイ氏が罪を自白したようにみえる調書を作成し、それを検察へ送検した。


 映画にさそった当人がなかなか現れなかったのはこの工作において、トーマス・アーレイ氏から誘ったように思わせる工作の為だったと我が方の調査で明らかになっている。

 当然だが誘ったほうが遅刻していくなど無礼千万だ。何かあったかと電話したりするのも当然だ。

 この心理トリックをモリアール側はついてきている。

 そのうえ、不可解なのは被害者であるはずの原告側が告訴を行った時点での検体調査を断っていることだ。

 この手の事件では決定的な証拠となるはずの検体調査を断った。その事に我が方は注目して調査を行った。

 そのことで原告側が血縁者から性的虐待を受けていたとの情報を入手することとなった。

 この血縁者の精子が検体検査で検出されることを原告側は恐れたと我が方の調査では結論づけている。

 また、トーマス・アーレイ氏が、原告の相談にのるために自宅へ連れかえざるをえなかったのもこの性的虐待の相談をコーヒーショップで行われたことが原因と当方は掴んでいる。

 この原告の言葉が決め手となり、状況は作られたといっていいい。

 本心で相談したかったのか、それとも言わされかの問題はある。だがどちらにせよ状況はこのように作られた。


 ここでセツラが関わっているのは、原告がこのような相談をしたのがトーマス・アーレイ氏のみではなかったことだ。

 そのことでこの原告の血縁者はチェイン人民共和国の工作機関セツラに弱みを握られることになり、トーマス・アーレイ氏を嵌めるというこの事案を発生させるに至っている。


 男女交際のあと、ゆるやかな友人づきあいのあった相手にトーマス・アーレイ氏も騙されるとは思っていなかったようだ。

 無理のない話である。

 その分、チェイン人民共和国の非道さが目に付く。

 そのうえ警察側にチェイン人民共和国やモリアール家から金などを供与されて動く人間がいれば、詰みである。

 問題の刑事は当初トーマス・アーレイ氏の任意の家宅捜索を行った際に裁判所からの命令でとか述べたそうだ。だが刑法上、警察側からの申請があって裁判所も捜査令状を出す。

 刑事がこのような嘘をつくことは規則上許されていない。

 裁判所にトーマス・アーレイ氏の注目を向けさせるためにこのような嘘を該当刑事はついたとみられている。

 我が方の調査で、刑事が買収されていたという結論が出ている。隠れ借金があり、金銭的に困っていたとの情報もある。

 それでありながら金遣いが荒かったと同僚刑事からの証言もある。


 モリアール家がわも追跡を警戒してこのような間接的な手段をとったのだろう。


 正直ここまでくるとブリザント司法のうち警察の信用問題が大きい。AIの直轄業務にするべきか迷うところだ。

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