第56話 違法薬物シンジケートと医薬品局

 今日わたしが手に取ったのは『ブリザンド星系帝国旧厚生省医薬品局とトージェイン家の関係と違法薬物シンジケート』と題されたレポートだ。


 このレポートでは大戦中から大戦後にかけてブリザンド星系帝国内でのトージェイン家の立場の変遷が主に書かれている。


 前号や前言号あたりで、ローディス連邦のシバーナー方面を担当していたブリザンド星系帝国軍第八ローディス方面隊が、社会主義連邦会議ローディスの独裁者による指令でうごいていた憲兵隊グッタイ・トージェインによる行動により壊滅させられて、抑留者を多数出したことは述べられた。


 その後、第八ローディス方面隊への、荷止めを憲兵隊により行われていた、同盟国からの補給物資をグッタイ・トージェインはローディス軍に売却し、かなり利益を上げていた。

 その利益をもとにフィリア地域などで大麻やケシの農園を構築し、それをブリザンド星系帝国の同盟国の金策地であった場所にトージェイン家は供給し始めた。

 このことに最初に、ブリザンド星系帝国とローディスとの戦争を支援していた、同盟国の一つ連合王国が激怒し、次にマンスー領宙の引き渡しの交換条件で支援をしていたアガルタ合衆国が、その条項を履行がなされないことで激怒。

 その結果同盟国との関係がどんどん悪化し、一方でトージェイン家はその間に足場固めをして、本来ならアガルタに引き渡すはずだった宙域での商売で旧厚生省の医薬品局にも顔が利くようになる。

 そして本来の同盟国との大戦をへて、グッタイ・トージェインは戦争犯罪人として処刑される。


 しかし、トージェイン家はマンスー領域に関連する、薬剤会社を通じて、旧厚生省に圧力をかけ、医薬品局経由で戦没者を慰霊する部署に戦没者として合祀してしまう。

 このとき、トージェイン家はチェイン共産党との取引を介してしており、その関係で本来は違法薬物売買でライバルであるのチェインのセジュン財閥の支援も受けている。

 この時点でトージェイン家の大麻やケシ畑の多くがチェイン共産党の勢力下におかれていたのだからある意味当然ではあるが。

 これがブリザンド星系帝国内における違法薬物シンジケートのはじまりとなり、トージェイン家が旧厚生省で隠然とした勢力を持つ原因となる。

 薬物取締局の捜査が度々妨害されるのも、同じ官庁内にそちらの勢力下にある医薬品局があることが要因となっている。

 医薬品局の官僚の立場からすると、向精神薬や特定の難病で用いる覚せい剤などの供給源を完全に止められると、医薬品の安定供給を妨げになるという考えだ。

 これが省内対立を生み出している。


 そしてそれらの薬物や薬物原料を合法非合法両面で供給するマンスー系薬剤会社はトージェイン家の金策地となり、同時に、ブリザンド星系帝国内における非合法の右翼組織の策源地となっている。

 正直、皇家をないがしろにするのに右翼をなのっている部分がおかしいと私は思う。しかし、金があり発言権があるのがトージェイン家の関係者であるためこのような仕儀となっている。


 トージェイン家はこのような関係からチェイン人民共和国と非常に強い関係があり、ブリザンド星系帝国内の混乱の原因となっている。

 なお、トージェイン家の運び屋については別のレポートで既出のトーマス・アーレイ氏のリッチモンド一門でありながら、かつての本家を滅ぼしたゆえに裏切り者として勘当され無視されていたビッグフィールド家が関わている。

 ビッグフイールド家はリッチモンド本家のサンダウン家からリッチモンド家よりはるかあとに分家し、ビックフィールド郡司という役目を与えられていた。それれがもとで現在はビッグフィールドを名のっている。

 ビッグフィールド家は本家の名跡を継いで役目を引き継いだアーレイ家に勘当をといでもらい、そのうえでさらに名跡をつぐという野望をもっている。それだけでなく皇家に成り代わろうとすら考えている。

 しかしながら、アーレイ家というかリッチモンド家としては違法行為をして国の害になっている家を認めるわけにはいかない。

 そのうえビッグフィールド家は代々裏切りの家系と呼ばれている。現在も勝馬に乗ることを考えて動いている。

 トージェイン家との関係もそのあたりが不透明だ。

 

 トージェイン家とチェイン人民共和国のつながりはこのように強固であり、ブリザンド星系帝国の左翼右翼ともチェイン人民共和国の勢力下にある。

 薬物売買のシェアの問題があるため、ただトージェイン家やその配下の薬品会社を潰せばいいという問題ではない。

 つぶすなら代替手段が必要となる。また違法薬物のルートを絶ち、入ってこれないようにする必要もある。

 トージェイン家はアーレイ家やリッチモンド一門にとっては憎むべき、一門の軍人達や入植者の仇だが、結局この問題も、元をたどれば、一門の多くをローディスの戦地に送り込んだ、モリアーニ家に帰結してしまう。

 彼らの情報工作は巧妙であり、恨みが皇家にむくようにされていた。

 ここで重要なのがつぶすべき順番だろう。



 こうしてみるとブリザンド星系帝国の闇はものすごく深いことがわかる。行政の一部と反社会団体が癒着しているが、その原因をたどるとローディス連邦の前身である社会主義連邦会議・ローディスに行きつく。過去に行われた戦争で彼らの組織末端がいかに非道な行為をしていたかという事だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る