第55話 司法組織の凋落の歴史

 本日私が手に取ったのは『ブリザンド星系帝国司法組織の凋落』というレポートだ。

 私のところに持ち込まれるレポートは基本的に調査用AIが収集し、情報分析AIがまとめたものだ。

 さっそくレポートの内容に目を通す。


 ブリザンド星系帝国司法組織は大戦敗戦後は戦前に比べむしろその能力が強化されていた。

 これは共産主義勢力との対決という同盟国との一致した見方があったためだ。

 しかしこれが崩れたのは前号に記した警察官僚から宰相幕閣長官にまでなった人物によるところが大きい。

 彼の裏切り行為は前号に乗せたが、最初のきっかけはチェイン人民共和国側からの接触だ。公安警察の外事課の協力者であったチェイン人二名との接触が契機となっている。

 彼自体はその当時は外事課ではなく、本来なら接触するはずがないのだが、ある事件の実況見分時に接触が発生した。外事課の協力で、チェイン人同士のの抗争事件の見聞を行った。

 ここから予測されるに抗争事件そのものが茶番劇だった可能性が高い。

 そして彼がこの事件で犯人をあげることになる。

 その後は前号のレポートの通りだ。

 そして、彼が与党の政治家になるころ、チェイン人民強国はチェイン人のネットワークを使いブリザンド星系帝国の同盟国がチェイン人民共和国と国交正常化を進めるように、同盟国議会のロビイストに資金を投入した。

 これに慌てた当時のブリザンド星系帝国政府は、いっきにチェイン人民共和国との融和姿勢を打ち出す。当時の宰相が政治教育を受けていない人物だったのも原因だといえるだろう。

 この間にかなりブリザンド星系帝国の司法組織は破壊されてがたがたになっていたが、トドメが、次の総選挙で彼が派閥を鞍替えした宰相の方針と関係している。

 この宰相はブリザンド星系帝国に諜報機関を作るという方針を打ち出した。そこまではいいが、宰相の腹心である幕閣長官が彼であったことだ。

 組織再編を名目に、公安警察内の機密部署をふくめて、組織を壊滅に追いやり、またこれにより警察における主導権を彼が握ってしまった。

 そして、表裏で工作し、チェイン人民共和国の指示通りに、情報組織を作らせなかっただけでなく、準備組織をつくるとして公安警察内部の秘密組織を切り捨てた。

 彼は結局このことが露見し、そのときの宰相とともに降ろされるわけだが、警察には隠然とした勢力を確保していた。

 さらに旧家の御役目、いまでいえば国への無償ボランティアみたいなものだが、それも次の宰相の時代に機能不全にした。

 またこれに関連して経済のバブル崩壊も彼が生み出している。

 そして彼の司法地盤をモリアール家とトージェイン家が分ける形で受け継ぐことにになり、モリアール家が旧文部省系のみならず警察庁系の権力をもえる始まりとなった。

 決定的なのはモリアール家が宰相になったことだ。

 彼が宰相幕閣長官時代にすでに、武装革命組織セツラは設立されており、そことの連動で、モリアール家とのつながりができていた。

 彼の政治家としての資金源のひとつががモリアール家だったわけだ。

 警察庁内部の情報がチェイン人民共和国に洩れる原因がこうういう歴史でつくられていったわけだ。

 彼の葬儀にチェイン人民共和国が特使を派遣したのは有名すぎるはなしだ。


 そしてそれらの関係の間に学校現場ではセツラによりグスライティング階級に置かれた被害者の自殺者が量産されていたわけだ。

 地方警察署のほうは、送検至上主義になり、ロクにちょうさをしなかったり、手に負えなくなるのをみると、上に報告をあげて調査範囲を広げたり、あるいは公安警察にまかせたりするという発想も失われてしまった。


 以上が、ブリザンド星系帝国の司法組織の凋落の歴史だ。


 私としてはキーパーソンは個人だが、バックに常にチェイン人民共和国が存在したことに目をむけたいところだ。

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