第23話 ロマンと現実

 ブリザンド星系帝国は首都は我が国が占領せしめたが、選帝侯家が健在であり、組織的反抗能力は失われてはなかった。

 一方で、情報収集の結果、近隣国家の侵攻や、在地領主による独立運動なども起き始めていることを掴んでいた。

 ブリザンド星系帝国は銀河規模の封建国家であるため、各星系を治める貴族の権限が強い。皇帝はいたが、その代表者でしかなく、選帝侯家はその貴族中で最も強い勢力を誇ってる。

 王政国家の連合国家というのが最も適当なブリザンド星系帝国の説明だろう。


 【銀河ユニオン歴】19年7月2日、この日、ブリザンド星系帝国の選帝侯家の一つ、パワール辺境伯家の領地であるパルド星系で要塞が建造されていることを我が軍の偵察艦隊がつかんだ。

 映像解析の結果、完成まではあと三カ月はかかるだろうことも判明したが、建造されている球形要塞は直径二万kmを越えており、主砲の出力も前回戦った要塞より高くなることが予想された。

 これに対して、相談した結果、ケレンミのある作戦だが、要塞製造筐体と要塞本隊の破壊のための艦隊を送り込み、破壊せしめたあとに撤退する案が採用された。

 この突入艦隊の旗艦には到着したばかりのタナトス級を14隻を投入することが決まった。艦隊旗艦は機動力を優先して、タナトス級三百二十一番艦ティフィエルが選ばれた。

 指揮官にはメセナのコピーAI、イプセルに決まり、同年7月15日、艦隊はイスカンド星系を出発した。

 それと並行するようにクサカベ星系の巨大要塞が完成し、調査開拓船団旗艦と本隊は根拠地をイスカンド星系へと移した。


 破壊工作艦隊は送り出した一方、通常の浸透占領作戦は継続していた。

 そおかげで、ブリザンド星系帝国の領有星系を新たに38落とし、残りは93星系となった。


 忙しく過ごす中、本国のクラフターAIであるラグナから私に個人的な連絡が入った。

 なんだと思って対応に出ると、【防衛機能ナノマシン】を液体のように使い、艦船や要塞、コロニーなどの防壁につかう技術が開発されたことを報告してきた。

「それってなんかのSF小説であったなんとか金属層とかいうやつ?」

『ああ、そんな話もありましたが・・・・金属でそれを造るのは物理的に無理です。どうあがいても宇宙の低温や高温の温度差、それに放射線に耐えれません。今回開発したのはナノマシンにしては大き目のシロモノなんですが・・・まあ見た目は黒い水ですね。これ単体で荷電粒子砲を防ぐシールドを張ることが可能です。』

有名作家のSF有名小説のアレを夢見たことはあったが現実には無理だと理解した。それはそうとわざわざ連絡してきたには理由があるだろう。

『それでですね、実践テストをやりたいのですが、その題材にブリザンド星系帝国から分捕った要塞を使わせてもらえませんかね?』

 敵に使われた時は脅威だったが、いざ手に入れてみると無駄が多く、持て余しているロッペマー要塞だった。まあ、船団資産になってるから、会議に掛ければたぶん認証はえられるだろう。しかし、防衛ナノマシンをつかうにしては妙なく雲行きである。

「しかし、わざわざあのデカブツをつかわんでも・・・・。」

『浮遊砲台は実現しましたけど、液体上に浮上しで砲撃する砲台はまだ実現できてません。』

「まさかあの名作SFアニメみたいにやろうと?」

『そうです。』

 そこまで聞いて頷きかけたが、まてまてと思った。あのSFでは艦船の出入港に関わる技術的な問題は割愛されていた。

 ナノマシンでくるんだはいいが、艦船の出入港ができないないし、時間がかかるようでは、要塞的にはデメリットが大きすぎる。

「出入港の・・・・・・各内部軍港への出入りはどうなる?」

『やはりそこがきにかかりますか・・。まあ一定の解決は図れているんですがね・・・・ナノマシンに信号を与えると、力場操作により内部港のハッチ上から移動するようにつくってあります。ただ・・・』

「移動速度と反応速度に難があると?」

『そうなんですよね。おいおい解決していくとは思うんですが。』

 なんともAIらしからぬ発言をしてくれるラグナだ。

 わたしとしてはロマンではある。しかしだ、公金を投入してまでそれを実現するメリットはあるか?まあ、あのお荷物となっている要塞を使う分には予算的には優しいか・・・。

「主砲はどうする?」

『現状の主砲は廃止ですね。解体します。』

 まあそうだろうなと思った。

『あんな中途半端な大砲なんて私の存在意義に反します。大砲を積むなら、基部は最小化して、出力をあげる努力位はしてほしいものです。だいたい、要塞本体を回転させなきゃ標準もつけれない砲なんぞ欠陥兵器です!』

 すがしがしいまで言い切った。ロマン砲にはこだわりがあるラグナらしい。

『ちなみにそのナノマシンはいくらか群体容積はとりますが、それ単体でレーザーを発射できます。』

「ほう・・・。」

『荷電粒子砲の・・・・・プラズマ射撃はさすがに・・・プラズマの弾体素材が必要なのでまだ研究中ですが・・・そのうち実現させる予定です。』

 そこまで聞いて、それなら液体内から浮上する砲台なんていらないのでは?と思った。

『高性能化させていけば不要ですね。ですが、それはそれ。ロマンはロマンです。』

「まあ・・・・船団会議には掛けてみるが、理由がそれだと弱いなぁ。普通の艦船の表層保護に使えばいいだけだろ。実際問題として。」 

 ラグナは肩をすくめた。

『そういう指摘は予想はしてました。だけどロマンとはいえ、標準化もできない兵器は実際問題として役に立ちません。研究予算も限られます。だから必死に標準化作業をしてきたわけです。』

 一般に使える兵器として防御ナノマシン群体を研究開発したら、こんどは目標としていた浮上砲台を使う必要がなくなったと。わりと兵器開発であるあるではある。

「私としては、要塞を使って防御ナノマシンの実験するところまでは認可はしてやる・・・・・・・が浮上砲台は・・・。主砲になるような砲台は開発してないだろ?」

『予算くれるんなら開発しますよ?』

「現実的に主砲でそこまで小型化ができるか・・・が問題だな。」

『命中率考えなければ、実現はらくですけどねぇ。名作アニメでやってたような電荷を複数の砲台で連携させて、中央からエネルギー弾体を射出するなんてことはできなくもないですが・・・・・・無駄が多すぎて論外です。だいたい標的誤差を計算する時間がもったいないし・・・・そこまでするなら固定砲台にして連射させた方がまだ一発当たりのエネルギー量が上ですし効率的です。』

 次の日会議にかけたら、ロッペマー要塞の使用許可は下りた。が、浮上砲台の予算については不可とされた。半重力浮遊砲台型で主砲をつくることなら認可するという話になった。ほぼ砲台型の艦船をつくるようなものだ。

 液体の上を浮遊するというやり方だとどうやっても射線が安定しないというのがレリアの出した結論だった。

 ロマンは現実には厳しい。常々そう思った。

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