第25話 名残

 我々が掴んだのは相手の国家の名称が【スリースターズ】ということだった。【スリースターズ】とはVRSFゲーム【ルナティックミルキーウェイ】において、私たちのギルド【アイロン】とライバル関係にあったギルドだ。

 代表者などについて調べていくと、向こうは大規模ギルドそのまま転生してきたらしい。こちらの情報ネットワークなどから拾い上げた初期メンバーの数からして確実だ。

 そして理由は定かではないが、勢力が分裂したということだ。分裂したほうのグループはギルド【バースト】を名のっているらしい。

 おそらく彼らも管理者か、それに類する存在から転生させられたとみていいだろう。

 問題は敵にするか否かだ。

 レリアとレイナに相談すると、すぐに衝突するより、使者送って状況を確認したほうがいいと言われた。

 正直、地球出身者の存在は貴重だ。

 同じ日本人だとは限らないわけだが、そのときはその時だ。


 【スリースターズ】の勢力のある宙域まで遠い為、隠密に優れる偵察艦隊を艦船多めに編成して送り出すこととなった。

 到着するまで二週間ほどの見込みだ。


 そして【銀河ユニオン歴】8月15日、相手かたとコンタクトがとれたと連絡が入った。

 会談はすぐにでもということだったので即日、向こうに引き渡した通信機をつかって通信をつなげた。

『・・・・あ~~~あ~聞こえるか?』

 直接日本語をしゃべられるのはAIやレリア以外では久しぶりかもしれない。普段は特殊情報端末で頭に入れたハイザンス帝国語を使っていることが多い。

「聞こえている。私はギルド【アイロン】の参謀をやっていた日下部恭一、ハンドル名カイロン・アイラスだ。」

 向こうは短髪で髪を立てているが、脱色などは行っていない様子だ。顔に見覚えはない。ゲームのアバターの顔なら覚えているのだが。

 それを聞いて向こうはぎょっとした。

『・・・おっさん、不沈のカイロンかよ。とわりぃ、俺は【ルナミル】のギルド【スリースターズ】でギルマスをやってた柳修一、ハンドル名ハボック・スターだ。』

 その名前を聞いて私は驚いた。うちにギルド対抗攻略戦でいつも真っ先に突っ込んできていた人物だ。装甲の防御力の高く、速射性に優れた艦隊を使ってポイントを稼ぐのが巧かった記憶がある。

『んで、そっちはお前さん一人か?』

 すこしいうか迷ったが、正直に答えることにした。

「転生自体が私一人だけだった。」

 修一はつばを飲み込んだ。

『まじかよ・・・・。それはそれで大変そうだな・・・・。こっちはこっちでギルドメンバー全員転生させられたせいで・・・・・めちゃくちゃになったよ。』

 私がきかなくても修一は喋りまくった。

『アバターじゃなくて、リアルのほうの体を若返らせて転生させられたからな・・・・・・ロールプレイで性別をいれかえていたやつとかいっぱいいて・・・ゲーム内での結婚相手が同性だの異性だのでもめまくった。』

「それは・・・。」

『特に厄介だったのは、未成年のプレイヤーの女性だ。未成年の女の子たちに肉体関係を迫った阿呆が数人いて・・・・そいつらを押さえつけたり・・・・結局は殺す羽目になったりした。』

 ご愁傷様というしかない。

『んでもって、俺たち上層部がそういうギルド員を処刑したことに反対した連中が別ギルドをつくって離れていった。人殺しと一緒にいわれないとか言われた時、殺さずにこの世界で生きれるのかよと言いたくなったよ。』

 修一たちは内紛を治めるのが精いっぱいで、外征する余裕もなかったそうだ。

 そしてここの銀河の技術力が低いことに目をつけて、宇宙船の製造販売を、拠点をベルザンス帝国などに一年前からおいて始めたばかりだったそうだ。

『ってことは・・・うちの要塞落したのはお前んとこか!』

「そうなる。」

『まあギルド員に被害はなかったからいいけどよう。肝心の用件は?』

「【スリースターズ】の名前が気になって、その構成員の確認。あとできればだが、地球出身者どうしで殺しはあまりやりたくないから連絡した。」

 その言葉に修一の目が細められる。

『お前も、地球人は殺したらダメで、現地人なら大丈夫とかいう口か?』

「バカバカしい。戦争になったら敵は殺す。味方は助けるでいいだろ。そこに地球もほかもないだろ?」

 修一は息を飲み込んだ。

『・・・殺し合いでそういう差別はどうかと俺も思ってここ40年やってきた。お前さんとは仲良くできそうだ。』

 その言葉に私はほっとする。地球にいた時の知人を失わずに済む。

「それはよかった。できれば同盟をくみたいんだが?」

『・・・・・同盟ねぇ、といけね、お前さんは管理者とかいうけったくその悪いやつらと顔を合わせたか?』

「転生させられて気づいたらメッセージだけ残されていたよ。」

『えらく手抜きだな・・・・おぃ。』

 まったくその通りだと私も思う。

『同盟に関しては、ちょっと考えさせてほしい。ところでお前さん方の勢力は?ブリザンドの連中を叩きまくってるようだが・・・。』

「とりあえず隣の銀河の6割を直轄して治めている。【ルエル連邦】という名前だ。こっちの銀河は全体の2割を制圧したところかな。」

『お前さんの職責は?』

「調査開拓船団団長兼終身大統領かな。政治のほうはほとんどかざりにしていってるところだけど?」

『お前さん、よくその歳で独裁なんて敷けたな?』

「いまは民主化して、選挙の準備中だよ。独裁はめんどい・・・・一人が決めないといけない事が多すぎて・・・・銀河規模だと無理に近い。まあ私が終身大統領のあいだは私がストッパー役かな。実権は娘の大統領代理に渡してある。」

『こもちかぁ。俺はこの年まで未婚だよ。いいよなぁ・・・。』

「ナノマシンで寿命が延びてるはずだから、まだ絶望するには早いんじゃないかな?」

『うちのほうはナノマシン開発がおくれてたから、アンチエイジングとか細胞修復系のナノマシンが遅れてるんだよ。』

「・・・・・・それはまずいね。」

 私はすぐにナノマシンの入った注射器を送ることに決める。むこうは本当に大丈夫なのか不安そうだが、送った艦隊には十分に医療用ナノマシンを積んでいる。

『こちらで技術屋で飯食ってるが・・・・正直そっちの装備には驚かされるばかりだ。』

 ひょっとしてAIをつかわなかったのかと質問すると。

『AIにまかせると危険があるとかの賜ったやつらのグループがいて開発には補助としてしか使ってない。』

 AIなしでやればそりゃ時間がかかって当然だ。技術的にも立ち遅れること請け合いだ。


 その日の通信はそれで終わったが、四日後、修一たちから連絡されてまた驚くことになる。

『すまんが、そっちに合流させてもらえないか?外様扱いでかまわんから、希望者だけでも受け入れてほしい。』

 レリアが少し心配そうに顔を伏せたが、小声で言った。

「ここはリスクをとるべきです。彼らを取り込めば、この銀河系で我々の技術を上回る集団はのこる【バースト】以外いなくなるはずです。問題が起きれば、排除していけばいいだけかと。総旗艦ヴァンのクルー用第八宇宙港を割り当てましょう。」

「わかった。全員受け入れても構わないよ。」

『ありがてぇ。正直こっちは限界なんだ。お前さん所みたいに移動型要塞コロニーもそんなにあるわけじゃないし・・・。』

 どうも納品した巨大要塞が破壊されたことで、選帝侯パワール辺境伯家から支払いを受けれる状態ではなくなり、戦争に負けたことに対する補償を逆に求められているそうだ。

 現在根拠にしている固定居住コロニーは廃棄するとのことだ。技術的にほかの勢力にわたると不味い品物や研究資料などの処分についても話あった。

 研究資料は一度まとめて通信でおくり、原本は破砕。その後にコロニーを爆破処理することで決まった。

 加入することになった人数は231人とそれなりに多いが、かつては我がギルドも5000人以上のメンバーがいたことを考えると、同規模だったはずの【スリースターズ】もいろいろあったのだなと思わされた。

 破砕処理と並行で、護衛の艦艇を送った。



 【銀河ユニオン歴】19年9月12日に【スリースターズ】のメンバーは全員、総旗艦ヴァンに収容された。

 合流してみてわかったが、女性の数が多い。168人、つまり7割も女性で占められている。これは相当馬鹿をやった人間がいたんだなと同情するしかなかった。

 修一にはオブザーバーとして船団会議に参加してもらうことが決まった。

「むかしはともかく、俺は技術屋だぜ?そんな会議にでても・・」

 と、しり込みしてたが強制的に参加させた。

 修一に公開できるとAIが判断した資料のメモリーをレリアが会議が終わった後渡していた。

「うへぇ・・・この歳で勉強かよ。」

「若造、その歳だろうがなんだろうが、人生これ学びだ。お前さんの副官のヒサコ・ミズカミなんか、最近、資料室にこもって勉強ばっかりしてるぞ?」

「あ、あいつ~~~。」

 私は修一の肩に手を置く。

「・・・・ひと段落したら飲みに行こう。」

「お!この船にバーまであるのか!!」

「まあな。わしとしては飲み仲間ができるのはうれしい。」

 イワンも親指を立てる。そして続ける。

「頭に叩き込む装置をつかえばたぶん・・・・一日でおわるだろ?」

「インプッターまで実用化してるのかよ!!?」

「つかうんなら、まずはブドウ糖をとってからにしたほうがいいぞ。脳のケト脂肪酸が消費されると頭が痛くなるからな。」

 経験者は語るである。


 なんにせよ、新たな仲間の加入で、新しい日が始まった。

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