第26話 非武装平和主義と武装平和主義

 総旗艦ヴァンスの幹部クルー区画のバー・ペリュドリーで、私とイワンと修一は、ウィスキーをロックで割りながら、テーブルで飲んでいた。いつもはカウンター席だが、今日は修一がいるため、テーブル席だ。

「・・・・でだ、修一のところうちとギルドと同じで5000人越えの大規模ギルドだっただろ?いくら分裂したにしても人数すくなすぎないか?」

 私のその言葉に修一は苦い顔をした。

「いつかは言われるとおもってたが・・・・・要はこの世界にわたってきて、最初の争いが、武装放棄でいくか、戦いながら自ら平和を勝ち取るかのグループでもめたんだ。」

 修一によると、武装を放棄して、平和主義で行くと決めたグループが当初最大派閥になってたそうだ。憲法で侵略戦争の放棄を定めている日本からきていたせいもあるのかもしれないが、しかし、宇宙でそれは命取りではないだろうか。

「いま、うちにのこってる女子連中の半分くらいはそっちにいた。」

 そして彼らは武力を持つというスリースターズの方針に反対して、武装を持たず非武装の輸送船で大挙して外へ出ていったそうだ。

「あとはまあ、たぶん想像のとおりだよ。現地のトンド王国という国のハラー男爵というやつに騙されてその連中のほとんどが奴隷にされた。這う這うの体で助けを呼んだ連中の連絡で救出作戦を敢行したが・・・・助けれたのはわずかだった。」

 それでも千人くらいはいたそうだが、現地人を殺しても地球人は殺さない派やら、トンド王国滅ぼす派やらができて、分裂に分裂を繰り返し、現状の数になったそうだ。

「俺たちの転生時の本部要塞はいまだにトンド王国に占領されたままなんじゃないかな。まあギルドマスター権限でシステムを凍結してきたから、まともに運用はできないはずだが・・・・。」

 不味い情報を聞いた。当時の技術をリバースエンジニアリングされると色々問題だ。

 うちのギルドとは開発思想が違うから一概にいえないが、同程度の科学力かそれ以上の科学力をトンド王国が手にした可能性がある。

 顔色の変わった俺をみて修一は首を振る。

「技術開発関連の施設や生産施設は爆破してきたから・・・奴ら程度が同じ技術をえることはない。仮にできてたら、俺たちは奴らから逃げれなかったさ。」

 トンド王国はホモサピエンス型の人類の王国だったそうだが、政治腐敗が酷い国だったそうだ。

 絶対王政を目指す王家と、封建王政を支持する貴族の主導権争いが絶えなかったらしい。

「技術開発が一見無駄に見える基礎技術の積み重ねという事をまったく理解してない連中でさ、実用技術ばかりに目がいってたぜ。推進装置もあの時点でまだプラズマロケットモーターをつかってるんだぜ?ありえんだろ?」

 重力制御推進システムに届いていないなら、せいぜいリアクターも核融合炉が関の山だろう。

「武力で勝てないもんだから、あの手この手の小細工で要塞に手を出してきてさ・・・・・・裏切り者のギルド員の手があったせいで侵入を許しちまった。それで逃げ出す羽目になったわけだ。」

 修一いわく平和主義はそれを信じる者とその周りの者にとって毒にしかならないとのことだ。

 まあ、わからんでもない。

「逃げた時にギルドから離れた連中もそれなりにいたが、この間の【バースト】になった連中が痛かったな。ギルド員がすくなくなってるのに同じ地球人同士で結ばれるべきだとか、地球人をふやすためだとかいって、未成年の女の子にせまりやがるんだぜ?あれは気持ち悪かった。」

 しまいには集団でおそわれて女の子が強姦されかかったのを契機に、その連中とも修一たち上層部は対立、争いになり、殺し合いになったそうだ。

「んで、まあ地球人同士でころしあうなんてとか、せっかく生きてるんだから殺すなとかいうやつらが出ていって【バースト】になった。」

 修一たちはそれで隠れ住んでいたコロニーを放棄し、この間廃棄したコロニーをつくって技術屋として商売を始めて、軌道にのりかかったところだったそうだ。

「ブリザンド星系帝国の要塞構築の仕事は旨かったぜ。が、そのあとがいけねぇ。パワール辺境伯家許すまじだ。作らせるだけ作らせておいて、運用で失敗して失ったからって、それをうちらのせいにしやがる。」

「まあ、割とある話だな。貴族は体面で成り立ってるから、だれかに責任を擦り付けないと家がつぶれる。技術者をエスケープゴードに使ったのは頂けないが、貴族側の言い分も分からんでもない。」

 修一が目を細めた。

「んだよ?貴族の肩を持つのか?」

「そういうわけじゃないが・・・・立場が違うと考え方も違うということを言いたいんだ。」

「まあ、恭介は大統領閣下になる前は皇帝陛下で、ハイザンス帝国の貴族どものを使っていたからなぁ?」

「こうてい?まじかよ?」

「そのせいで、いまもうちの公用語はハイザンス帝国語だ。」

「もっとも簒奪して皇帝になったあげくに貴族を潰しまくった皇帝として有名だがな?」

 イワンの言葉に修一は笑った。

「おうおう・・・やるじゃねぇか!」

 背中を叩いてくる。ちょっと酔いすぎではないかと思った。バーテンダーにオレンジジュースとつまみを頼む。

 バーテンダーがグラスにオレンジジュースを継いで持ってきた。

「とりあえずこれを飲め。すこしは酔い覚ましになる。」

 修一は肩をすくめた。

「そこまでよったわけじゃないがな・・・・・・なにせいままで溜まりにたまってたからな。ぐちっぽくて済まん。」

 イワンがすかさず答える。

「まあ、そういう愚痴を聞くのも酒を飲む理由だし構わんさ。」

 その後はなごやかに酒を飲む時間となった。



 修一を家に送った後、イワンがボソッといった。

「平和を勝ち取るには力がいる。なにより武装戦力がな。俺には非武装で平和になるというのは矛盾しているようにしか思えん。」

 恭介もそれには賛成だった。日本が非武装平和主義になったのはそもそも中国勢力とソビエトロシア勢力のアメリカ合衆国でのロビー活動の結果押し付けられたものだ。当初ソビエトは日本を攻めとるつもりだったことは有名だ。戦争で一方的に勝つために仕込まれたものでしかないのだ。

 途中でアメリカ合衆国が方針を転換して再武装を日本国に勧告してきた結果、警察予備隊ができ、それから自衛隊ができたのも、ソビエト社会主義共和国連邦ロシアと中華人民共和国が日本を占領しようとしたからにほかならない。

 冷戦の結果、日本はかりそめの平和を享受してきたが、一方で、地下では中華人民共和国にしこまれた過激派やカルト宗教の活動などで一般市民や警察官に多くの犠牲者が出ている。

 結局力なきものは力あるものに食い物にされる典型例だろう。

 そのおまけにこの宇宙は平和ではない。平和を勝ち取り安定を得るためには力がいる。改めて恭介はイワンの言葉に頷いた。

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