第27話 仕事

 修一たちが来て、すこしおちついてきたころ、修一から、宇宙船の製造・販売をさせてくれないかという提案があった。

 修一たちの技術で宇宙船を造るまではいいが、もしこちらの技術に関するものが流出したら事だ。問題はどの程度技術的にダウンサイジングした、宇宙船を販売するかだ。


「俺たちは技術屋として少なくてもこっちに来てからは身を立ててきた。だから技術の大切さは嫌ほどわかっている。作りたいのは民間向けのオーダーメイドと既製品の筐体だ。」

「・・・・・重力制御を完全に載せるなら高能率化した第八世代の核融合炉か第一世代の重力縮退炉が必要ですね。」

 レリアがさらりと条件をだしてきた。

「重力制御推進方式でやるのか・・・・ずいぶん速度と活動範囲が広がるがいいのか?」

 その言葉に私は苦笑いをした。

「レリアが言ったのは現状での上限ボーダーだろ?」

「はい。」 

 修一は少し考えていた様子だが、口を開く。

「生産工場はどうする?コロニーをつくるのも手だが・・・。」

「まずは・・・この調査開拓総旗艦のなかに使ってない工場ラインがある。そこでの製造から始めてみてはどうだ?そこなら作ったらダメなラインかどうかはすぐ判断できる。」

「いいのか?」

「ああ。ほかの生産船が増えてきて、こっちの軍事系ラインのいくつかは作り直ししなきゃならん。民間用の奴なら、現行のラインでもつくれるだろ?」

「型落ちというのは気にかかるが・・・まあ・・・・・・・オートメッションのラインを使わせててもらえるなら文句ない。」

「動力炉については別ラインでこっちで標準化して引き渡すが、それでいいか?」

「動力炉かぁ・・・。」

「さすがに動力炉をそのまま作られると・・・顧客がなにをやるかわからんからな。」

「しゃーねーな。それで手を打つ。」

 こうして【スリースターズ】ブランドの民間宇宙船の販売が、【メッサー運輸】とタイアップする形で始まった。

 宇宙船の通信販売だというのでいまバービル銀河では話題になりはじめた。

 それと同時に、攻略中のブリザンス帝国の選帝侯パワール辺境伯家から、【スリースターズ】宛に、賠償金の請求が来たが、こちらは無視することとなった。

 どうもパワール辺境伯家はこちらの宇宙船を運んでいる輸送艦を襲ったり拿捕しようとしていたらしくて、レイナが頭にきて、完全制圧艦隊をおくることを主張してきた。


 【スリースターズ】の技術者がぬけたことで、パワール辺境伯家は残存している要塞の再建も停滞ていることが聞こえてきていた。

 どちらにせよチャンスではある。相手が軍備を整える前に一挙侵攻をはかるかという話になり、本国から追加の艦隊や、新造した5000万km球形移動要塞ネメシス級を五基送り込むこととなった。

 ネメシスは防護ナノマシン層に覆われており、普段砲台タレットはその防護ナノマシン層にかくれていて、そこから重力制御で浮上して、攻撃を行う形になっている。某名作アニメみたいにタンクに注液して潜液しているわけではないのがポイントだ。

 重力制御で、要塞本体に固定して砲撃を行う為、軸線がずれる心配もない。そして射程が40km口径主砲で230光年ある。

 相手の35km口径の荷電粒子要塞砲にも耐える設計だ。安全マージンはブリザンド星系帝国の技術だと50km口径までは確実に耐えれるそうだ。

 生産設備も充実しており、ペルセウス級を巨大化させて球形にした要塞といった感じだ。


 【銀河ユニオン歴】19年10月20日、イスカンド星系に集結していたブリザンド帝国完全制圧艦隊は、ネメシス級三番艦アーリエルを旗艦に合計18億隻にも上る大艦隊で出航した。

 なおこの艦隊の指揮は前回指揮官だったAIイプセルが務め、人間の乗員は一人もいない。うちの軍ではよくあるパターンである。


 イプセルはブリザンド残存勢力の中継地点に一個づつネメシス級を次元転移させ、そこから艦隊を吐き出して一挙に中心星域と周辺星域を占領していくという、分散侵攻策をとった。

 相手方の球形巨大要塞とはいっても20万km級でこちらの5000万km級と落差が大きい。

 二つの相手方要塞とイプセルの乗艦するネメシス級球形要塞アーリエルが相対する事態になったが、イプサムは要塞主砲の打ち合いになるまえに、射程外からアーリエルの主砲を叩きこみ、一挙に二つの巨大要塞を破壊した。

 一方的に要塞砲を撃ち込まれて崩壊していく相手の要塞二基には哀愁すらかんじた。

 そのうえイプサムは荷電粒子主砲の切り替えでのγ線レーザーでの継続射撃で、パルド星系に集まっていた敵艦隊をほとんど薙ぎ払ってしまった。そして星系制圧に必要な艦艇としてペルセウスⅥ級を10隻とそれに艦載されている艦隊をのこすと、早々と本隊をパワール辺境伯家の本拠地パワード星系に向けて次元転移した。


 

 次元転移後はパワード星系のコロニーのいくつかを要塞主砲で焼き払った。そのうえ惑星上の都市すら焼き払う徹底さだ。

「都市を立て直す作業を面倒だからって、向こうの市民事殺す奴があるか!」

 その私の声にイプサムは涼しい顔だ。

『いくらんなんでも軍要コロニーにかぎってますよ。そこにすんでる市民までは仕方がないですが、今回の課題はどれだけ短い時間に完全制圧するかをAIクイーンに課せられてましてね・・・・。』

 レリアをみると頷いたが、その頷きはどうなんだと思った。

「軍事コロニーをおとしておけば・・・辺境伯家の関係者が残らないで済みます。居住惑星については主要な軍事都市だけ焼き払いました。一般市民の犠牲は最小限度に抑えられるはずです。」

 すでにパワード星系周辺にはセンサー網が張られており、逃げ出すのも無理になっている。

 それを私と眺めていた修一が胸ポケットの携帯端末を取り出す。

「わりぃ、商談かもしれんから・・・・外に出て・・。」

 そこまでいいかけて、修一は画面を消す。

「わりぃ・・・・・どうでもいい相手だったわ。」

 レリアが素早く言う。

「パワール辺境伯家のサンドリオン夫人からの連絡で、どうでもい個人通話というには無理がありませんか?」

 修一は苦い顔だ。

「せっかくあの業つくババアに一泡ふかせているところなのに邪魔になるようなことができっかよ?」

「今回に限っては利用価値があるんですよ。」

 そういうと正面のスクリーンの一つに、髪の毛が白くなった、どこか上品そうな顔つきと服装の女性が映った。

『・・・あら、これは大人数で。』

「サンドババア!取引を持ち掛けても無駄だ!!」

『あらあら、まあまあ、内容も離さないのに無駄も、必要もないでしょう?』

 レリアはそこに口をはさむ。

「失礼、マダム。わたくしはルエル連邦終身大統領夫人、レリア・クサカベです。交渉をお求めのようですが、どのような事柄でしょうか?」

サンドリオン夫人は、息を一瞬飲み込んだ。

『・・・・これは意外な方がおいでになりましたね。』

「わたくしどもには時間はありますが、あなた方には時間がないのではないでしょうか?」

『交渉をするおつもりなら軍を引くべきでは?』

「その必要は感じません。あなた方にとって交渉が必要でも、我々にとっては無視できる些事です。」

『ずいぶんな言いようでございますね・・・・・いいでしょう。私はサンドリオン・フェグ・ラングマータ・ディメル・パワ-ドと申します。私どもの要求はブリザンス星系帝国からのあなた方の撤退です。』

 最初にのめないような条件をだすやり方をしてきたなと私は思った。

「それで?それでは我々に利はありませんが?」

 さらりとレリアが返す。

「すでに占領地は我々が実効支配しており、あなた方にもどることはありません。直にそこもそうなるはずです。」

『利ですか?そうですねぇ、そこにいるシュウイチと同郷の者を預かっているといってもですか?ニホノジンといいましたか?』

「具体性がなく、また国家をかけるにはあまりにも安い対価ですね。」

 そのあともやり取りは続いたが、一向に進まなかった。そしてレリアがカードを切る。

「こちらとしてはあなた方を生かしておく必要性はないのですよ。だけどチャンスを与えましょう。あなたがブリザンド星系帝国の我が国への併合の書類にサインして頂けるなら、あなたの家族とごく近しい家臣の家のみ保護しましょう。」

 かなりキツイことを言っているのは俺にもわかるが、こちらとしてはこれが最低ラインだ。これ以上下がることはない。

『まあまあ・・・・・新興のお国の方は欲が深くていらっしゃるのね?』

「一応これでも1500年以上存在してきた国なのですけどね?無知とは怖いですね。一日だけ戦闘を停止しましょう。ただしそちらの攻撃がわずかでもあれば停止はなしです。いまはこちらの時間で10月31日19時ですから、おまけして明日の24時、いまから27時間を返答期限とします。戦闘停止まで2時間猶予をみますが、それが限度です。」

『いたしかたありませんね。』

「こちらが大幅に譲歩したのですから、誠意ある回答を期待します。それではごきげんよう。」

『ごきげんよう。』

 通信が切れると、レリアの命令でパワード星系の艦隊は攻撃を一斉に停止した。


「さて恭介、日本人の人質についてどうお考えですか?」

 レリアの言葉に首を振る。

「修一には悪いが、日本人の保護はプランに入れない。おそらく厄介ごとがふえるだけだ。不可逆的な精神操作技術がこっちにはある。それを施されていたりする危険性が高い。それに国としては敵国を許すという前例はつくりたくない。」

「・・だそうですが?修一は?」

「・・・・本音では助けたい。だが、下手をうてばまたひどい目に合いそうだ。それに自分から離れていった連中だ。いまさら助けてほしいとかは虫が良すぎる。ここは断腸の思いだが無視する。」

「よろしいでしょう。ではその方向で交渉を進めます。」

 レイナが息をはいた。

「うちの船を拿捕しようとしたりしてたくせに、土壇場で交渉とか頭が湧いてるとしか思えない。」

 マイエルはむしろ停戦する必要があったのかと疑問の顔だ。

「ここでブリザンド星系帝国の選帝侯が、領土の併合に調印したという事実があれば、民衆の掌握のみならず、貴族の生き残りがいても対応が楽になります。」

 時間を稼いで援軍を待っている可能性はないのかとイワンが言った。

「軍事的にはまだ後方に生産拠点が残ってるはずだ。時間を稼いで再反抗の準備のために兵力を逃がすという可能性もあるのではないか?」

「その場合は停戦協定違反としてつぶすだけです。すでにスパイボットによる包囲網は完成していますから。」


 一日猶予ができたわけが、何もしてなかったわけではなく、現地にすでに送り込んでいたスパイボットによる映像で、日本人が居ないか、またそれが事実かの確認作業をAIにやってもらていた。

 屋敷内の留置所らしい建物の地下に確かに十数員の男女がとらわれていた。

 その映像を見せられた修一は三歳くらいの男の子まで捉えられていることにショックをうけていた。

「顔つきからして五十嵐夫婦の息子だろ。」

「その五十嵐というのは?」

「【バースト】に行ったやつらの仲間だ。」

 修一は悩ましい顔をしていた。


 そして半日後くらいに通信が入り、返答があった。

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