『コロニー戦艦ルエル―SFゲーム世界で寝落ちしたら、ギルド本部の移動型戦闘コロニーの中だった!!』

イサ

第1話 プロローグ よく聞く転生だが・・・・

「ううん~~~あと五分・・・・。」

 そうたわごとを口ずさんで、はっと目覚めると、私は見慣れない、わけではなく、とても見覚えがあるSFMMORPGゲームの自室にいた。

 ポーンと音がなった。

 何事だろうと思った。私は先ほどまでSFゲーム「ルナティックミルキーウェイ」、略してルナミルというSFゲームのギルド対抗ランキング戦で勝利をおさめ、ギルドの仲間とゲーム内で打ち上げをしていた。

 しかし私自身すでに実年齢は四十歳を超えており、夜更かしに耐え切れず、寝落ちしてしまったはずだ。

 ギルドで私は参謀役を務めることが多いが、どちらかといえば、その参謀でも参謀長ではなく、参謀その五くらいのギルドでの立場だ。

 若くないゆえに、長時間のプレイは体に堪えるのもあるが、独身貴族とはいえ、サラリーマンにはプレイ時間をそこまで費やせない。平日ともなれば、ニ、三時間プレイできればいい方だ。

 昨今のVRゲーム機器では体感時間加速という技術があり、実時間一時間の間にゲーム内では一カ月ほど過ごせるような仕込みもある。その代わりだが、一日の実プレイ時間は私の使っているランテンド2032という機械でも八時間が限度とされている。

 脳が形成する情報空間とのやり取りの高速化というのは肉体のかなりエネルギーを消費するからという側面がある。

 しかし、一日で八カ月もすぎるのだから、一日の最大時間を過ごしている連中とは、いやというほどいろいろと差が出る。


 もっともルナミルはそういう格差が必要以上に出ないように、ランキングなどでゲーム上位へあがるための様々なサポート体制があり、ゲームのヒエラルキーで上にいても、安穏とはできない仕組みになっていた。

 その一つがキャラクターの成長曲線が上に上がるほど緩やかになる仕組みだった。そのかわり、上に上がればあがるほどやることができるコンテンツが増えていく。

 通常のMMORPGのように個人や仲間内でパーティを組んで、惑星上やあるいは宇宙空間や小惑星などでの冒険や採取をおこなったりすることもできるし、あるいは大型宇宙船で、自分の属している国の敵国と艦隊戦を戦わせることも可能だった。

 手柄をあげて、所属する国での地位を得たりすることも出来た。

 ある意味自由度が非常に高いゲームだった。


 私はベッドからおきあがると、ポーンと音がした、自室に備えられているコンソールで画面を表示させた。

 空中に画面が浮き上がって表示される。これ触れるんだったなとおもって触ると感触があり、つまんで動かすこともできた。

 ゲームの中ではないという予感がひしひしとしていた。


 試しにゲームでの定番であるステータスを呼び出してみるが全く反応がない。

 これはやっぱり夢かなと思い、もう一度、ベッドに横になる。

 二度寝のつもりで横になる。


 しばらく寝てから起き上がると、やっぱりゲームの自室だった・・・。

「マジかよ・・・・。」

 思わず、若いころの言葉を吐き出す。

 それと同時に尿意を覚えた。これはまずいと自室に備えられているトイレへ駆け込む。

「・・・これで夢だったら尿意がまだあるか、現実世界でおねしょしているんだろうけど・・・・尿意はない。」

 さすがにのども乾いてきたし、食事もしたくなってきた。

 とりあえず先ほどのコンソールを操作して、この場所のマップを探そうとした。

 しかし、画面にはメッセージと書かれていて、ほかのものが一切表示されない。しかたなくその画面のメッセージをタップすると、文字が表示された。文字は日本語ではなかったが、どういうわけか読めた。

『拝啓、日下部恭介様、この度は当ワールドにお越し頂きありがとうございます。突然の事に惑われた事でしょうが、ここは、ルナミルの世界に似た現実の世界です。私共としては是非この世界で御活躍されることを願って、強引ではありましたがあなただけを選ばせて頂きました。十分な食料と素材などはルナミルのゲームでギルド『アイロン』が所持していた分に加えて、ご支援としていくらか都合しておいてあります。事情のすべてを話せないのですが、どうぞご健勝のほどを。管理者より。』


その文章を読み終えて私は一瞬なんだそれはと思った。ルナミルの世界と似た世界ということはだ、当然国同士のいさかいがある。食事をしたいと思っていたが、一気に血の気が引いた。

 慌てて、コンソールを操作して、現在のこのコロニー船の位置情報を割り出すようにコマンドを選ぶ。

 しかし、表示されたのは『NO DATA』という無情な一文だけだった。

 その次にコロニー内に自分と同じように仲間がいないか検索をかけるが、一切反応がなかった。

「・・・・メッセージには俺だけと書かれてたな・・・。」

 ゲーム内でギルドこそ上位にはいっていたが、私はそこまでヘビィユーザーだったわけではない。

 つかっていた船だって、遠距離支援の中型戦艦だけだ。ほかの仲間みたいに航宙母艦を運用したりまでは辿りつけてない。

 そこまで思い出して、ふとAIシステムのことを思い出す。

 ギルドの本部船であるこの船以外にも船には人工知能が搭載されていることになっていた。

 コンソールを操作して、四苦八苦しながら、ギルド船の人工知能クーレリアを呼び出してみた。

 画面には金髪碧眼の女性が映った。

『何か御用事ですか?アイラス様。』

 カイロン・アイラスが私のゲーム内での名前だった。

 現状確認をクーレリアに指示すると、一瞬金髪のクーレリアがぎょっとした顔をした。

 ゲーム内のAIならこんな反応はできない。簡単なロジックAIだったはずだ。AIは高度化すればするほど記憶容量を食う為、ゲーム内のAIはロジックで組まれていた簡単なAIだったはずだ。


 クーレリアがやや遠慮がちに口を開いた。

『過去ログの間に空白期間が存在します。それに私はトップダウン型のロジックAIであってボトムアップ型の自立AIではなかったはずです。このような反応も不可能だったはずです。』

 感情豊かだなというのが私の感想だった。

『周辺宙域に敵・味方の識別信号は三光年の範囲に存在しません。』

 わたしとしては最後の一縷の望みをかけて質問した。

「・・・・このコロニー船に私以外の人間は存在するか?」

 一瞬固まった後、クーレリアは首を振る。

『残念ながらどなたも存在しておりません。・・・・・・それとこの船の所有者ならびに司令のIDにアイラス様が登録されております。』

「コロニー内のエネルギー収支はどうだ?」

『現状、重力縮退炉のエネルギー供給に問題はありません。』

 エネルギーが確保されていることに私はほっと息を吐く。エネルギー収支さえ安定ならば・・・・あとは水と食料があればどうにかなる。

 極端なことをいえば水と食料や衣類や家具さえもエネルギーを対価に作り出すことが、コロニー船のエネルギージェネレーターで可能だからだ。それだけで生活するとなるとかなり無味乾燥になりそうだが・・。

『・・とはいえ、現在地の安全性に懸念があります。すぐに偵察母艦並びに、偵察機を周辺500光年に派遣することを進言致します。』

 それを聞いて、私は不安になった。というのもこの船に現在いる人間は私一人だ。すべてを私が采配するのには無理がある。

 現実世界の会社では係長待遇課長補佐程度の役職しかこの歳でもなれなかったほどの人間だ。もちろん自由を愛して、仕事にそこまで熱意を入れてこなかったからだろう。

 いずれにしても、このコロニー船は全長860万キロメートルある、超々巨大船だ。

 各部にセクション統括AIが配置されており、コロニーの部局ごとにそれらをギルド仲間が采配していた。

 自分は戦闘時の作戦立案が主なだけで内政方面はまったくのずぶの素人だ。うまくいくビジョンが思い浮かばない。

 一瞬この船を捨てることも考えたが、首を振る。

 自前の戦艦一隻でできることなど限られている。おまけに食料の生産設備は私の中型戦艦にはない。ほとんどが遠距離攻撃のための設備で占められている。

 そこまで考えて、ほかのギルド仲間の船はどうなんだろうと思った。試しにクレーリアに聞いてみると。

『ギルドメンバーの皆様の所有されていた艦船はすべてコロニー内に存在しています。人が居ないのでAI制御で動かすことになりますが、それも戦闘機動が可能です。また、各種アンドロイドの生産も可能ですので人手については問題はないでしょう。』

 人手が足りないからアンドロイドやAIで賄う。ある意味仕方がないはなしだなと私は覚悟を決めた。

「クーレリアに副司令権限を与える。権限の範囲でお前の自由にやってみてくれ。そのほか運営に必要な役職に必要なAIをつくって配置してくれ。」

『司令、しかしながらAIの運用は慎重を期するべきでは?』

 そのクーレリアの言葉に思わず私は笑ってしまった。

「・・・どのみち俺一人ではここでの生活もおぼつかない。とにかくAIの生産と配置を頼むぞ!」

『アイアイ・サー司令。』

 そこまでいったところでそろそろ空腹に耐えられなくなってきたので食堂に私は向かった。



 戦闘移動コロニー船【ルエル】に転生させられて一週間がたった。いまのところ偵察機の探索範囲に文明の痕跡すらない。

 私の知識が正しければ三百光年に一か所くらいは文明が生じる惑星があるはずだ。

 この船【ルエル】のある場所は銀河団の端にあたり、小惑星が密集している、恒星系のなりそこにないのような場所だった。

 【ルエル】の大きさが、そこらの有人惑星・・基準としては地球よりはるかに大きい為、どのみち、恒星系には【ルエル】を近寄らせるわけにもいかない。重力遮蔽されてるといっても、修理補修のために四六時中しているわけにもいかない事情があり、恒星系に近寄れば重力の影響を与え、ほとんどの小惑星を引き付けてしまう可能性があり、仕方がなかった。

 あと閉口したのは食事の事だ。いまある自動調理の設備だと流動食しかない。

 自動調理機のデーターがまるっとなかったのだ。そのせいでデフォルトであるらしい流動食しかつくれないでいる。

 流動食は流動食で、日本で仕事をしていたころ残業時に散々世話になったが、その時買っていたレトパウチの流動ゼリーより、味は多くあり、飽きさせない工夫はされているが、いかんせん、触感が単一でそれが食事を楽しむことにはつながっていない。

 【ルナミル】のうちのギルドで調理をやってた人が居なかったことが今回の事につながっているのだろう。

 うちのギルドは私でもレギュラーができるくらいだが、実質ゴロゴリの攻略系ギルドで、余計なことはしない主義というギルドマスターのセンリ氏の方針で固まっていたからだ。

 そのかわり攻略に必要な武装や物資の生産については進んでいたこともあり、それらのデーターは残っていた。

 問題は設計図があってもそれを作り出すマンパワーが足りない。

 私個人も戦闘系の人間で、クラフト関係は手を出していなかったことがいまさらに痛い。

 まあ、クラフトはクラフトで地獄があり、攻略に使えるような製品がつくれるようになるまで投入時間がそれなりにかかる問題があったので、サラリーマンの私にはそれは無理だったかもしれない。ないものねだりというやつである。


 現在、クラフターのAIやそれを統制するAIの開発にクーレリアが取り込んでくれている。

 しかし、一週間やそこらでどうにかなる問題ではない。三か月はかかるだろうとクーレリアは予測を立てていた。

 それでも三か月で複数のAIを統括するシステムができるというのは破格の速さだと私は思う。

 その一方私は暇な時間が増えたので、このところコロニー内のあちらこちらに視察という名の散歩に出かけている。

 あとで気づいたのだが私の年齢は十五歳くらいに若がっていた。

 肉体的に最高潮の時期の手前ぐらいなのは。物事の吸収に都合がよかったのだろうと思う。ただ問題は、この年齢の男性にとって避けれないのが性欲の欲求不満の問題だ。

 クーレリア曰く、アンドロイドにもそういうセクサロイドがあり、都合をつけたほうがよい、ということだったが、丁重にお断りした。

 アンドロイドとはいえAIの頭脳を持ち、自我がある機械だ。それを自分の性欲のはけ口に使うことに拒否感があった。

 かといっても欲求不満はたまる。

 しかたなしに、クーレリアに頼んでそのての画像でごまかしているのが最近だ。我慢していると夢精で朝、下の衣類がえらいことになったので、このごまかすというのは大切なことだと実感した。


 さすがに一カ月もたつと散歩に飽きてきた。

 それで艦船設計室のほうに出向いて新型小型駆逐艦の製作をやり始めた。とはいっても小型といいつつ百メートルは超えているくらいの大きさはある。

 あまり大きな船にしないのは個人運用の船がどの程度の大きさか予想がつかないためだ。あまり大きすぎると、どう考えても騒ぎになるし、下手をすれば国かなにかの現地勢力に取り上げられかねない。そういう面ではこのコロニー船【ルエル】の扱いをどうするかが問題だ。

 実質今はAIで回していけているからいいが、この船の本質はコロニーである。超巨大戦艦という側面もあるが、人が出入りして生活環境を作り出す宇宙の箱庭が本来の姿だ。

 中枢区画などは永久に開放する予定はないが、一般宇宙港のいくつかとその周辺の居住商業施設は開放する予定でいた。


 そうこうしているうちに、第四偵察艦隊から、連絡が入った。

 どうも輸送宇宙船らしきものが宙賊らしい連中に攻撃をうけているが、対処を指示してほしいとの事だった。

 映像を映してもらうと、三百メートル級の輸送艦らしきものが、五十メートル以下くらいの複数の船に攻撃されていた。複数の船の奥には150メートルくらいの、旗艦らしき船の姿もあった。

 解析しながら傍受している通信を聞くと、どうやら輸送船が【テッサー急便】という個人営業の船で、その船から通信で相対しているのは若い女性だった。背後を見ると老年の男性が複数人、女性と映っている。

 相手側はいかにも悪そうな顔つきの男性が汚い言葉で輸送船のことを罵っていた。彼らは【ギデオン宙賊】を名乗っていた。

 面倒ごとかなと思ったが、ここは勇気を出す場面だと私は思った。偵察艦隊にすぐに輸送船を救援するように命令を出す。

 隠蔽していた偵察艦隊は、問答無用で宙賊らしき艦隊にプラズマビームの雨を降らせた。

 宙賊たちはオープン回線を開いたまま、ギャーだの、なんだのわめき散らしていたが、宙賊旗艦をこちらの艦隊の駆逐艦の主砲が貫いた。そして宙賊艦隊は残らずデブリとなった。今回は砲戦だけを行ったようだ。

 ミサイルをつかうとなると色々資源生産が必要になるからだというのはクーレリアの言だ。


 問題はこのあとどのように対処するかだ。

 今後の事を考えると私が顔を出すのと出さないやり方がある。彼女たちを取り込むつもりなら断然顔を出したほうがいいが、さりとて顔をだして、彼らがそのことを触れ回るようでは後々に触る。

 かといって出さなければ今後の付き合いが色々面倒になる。

 優柔不断に悩んでいるとクーレリアが顔をだすほうがよい結果が出ると助言してきた。

『現状ですと、彼らを完全に助けるには、彼らの船をこちらの造船ドッグにいれる必要があります。そうなると司令の姿を見せないのは悪手になります。』

 私としては面倒ごとがふえそうだったが乗り掛かった舟だと思い、こちらと通信をつないでもらった。

「あ~、聞こえるかな?お初にお目にかかる。コロニー船【ルエル】代表のキョウスケ・クサカベだ。」

 思わず緊張から本名で名乗ってしまった。まあいまさらではある。

 むこうの映像が映り、代表をしているだろう女性、いや少女が深々と頭を下げた。

『私どもを助けていただき誠に有難うございます。命が助かったのもクサカベ様のおかげです。私は【テッサー運輸】の最高経営責任者を務めているレイナ・テッサーと申します。』

 レイナと名乗った少女は後ろにいる船員たちを紹介していった。そのあと顔を暗くしてからまたあまたを彼女は下げた。

『クサカベ様、重ね重ね申し訳ないのですが、図々しいお願いを聞いていただけないでしょうか?』

 私としては大体予想がつく。おそらく先ほどの宙賊の攻撃で輸送船の動力部か壊れたのだろう。速度が思うほど出ていないというか航行方向が安定していない。

 しかし、こちらの無人船で曳航するといのはさすがに問題が大きい気がする。

『私どもの船の動力の一つが破壊され、修理ができるレベルを超えてしまいました。そこで、クサカベ様の指揮される船で一番近いコロニーであるラナテへ曳航して頂けないでしょうか?』

 無人船で曳航することは一応トラクタービームを結合レベルで接続させれば可能だ。問題はそこのコロニーに曳航すると無人船であることがそこのコロニーに必ずばれる。船を持ってかれる可能性もある。セキュリティはしっかりしているが、それいこーる大丈夫だとはいえないのだ。

 迷っているとクーレリアが予定通りうちのコロニーに運びましょうと助言してきた。

「・・・残念だが、そちらの希望するコロニーには曳航できない。これは完全にこちらの都合によるものだが・・・。そのかわりにそのコロニーより近いうちのコロニーに曳航しよう。うちのコロニーなら修理できることを確約する。」

 私の言葉にレイナは迷ったそぶりをした。後ろの男性達になにやら話していたが、頷くと、一礼した。

『どうかよろしくお願いします。』

 私としてもほっとした。


 偵察艦隊の艦艇は隠蔽能力が高い強攻偵察用の3km級の空母とその護衛巡洋艦の1km級と駆逐艦の500m級からなる。輸送艦で300mというのはSFVRMMORPG【ルナミル】では過去の遺物扱いされるシロモノだった。

 輸送能力が低すぎるのがその理由だった。遠距離移動に向いてないのもある。おまけに小さいから装甲やシールド能力が低い。速度も出ない。

 【ルナミル】のゲームが正式オープンしたころは当たり前にあった艦種だが、そのごプレイヤーの行動範囲が広がるにつれて巨大化することとなった。結果最近では過去の遺物あつかいというわけだ。

 しかし、現状のこの世界、あるいはこの界隈の宇宙では大型船の部類にあたり、偵察艦隊の空母艦載機の大きさで小型か中型宇宙船あつかいらしかった。

 どちらにせよ曳航するのに必要な能力はどの艦にもあり、巡洋艦の一つに曳航させて、【ルエル】へ向かわせた。



 【ルエル】までの曳航は一日もかからなかった。割と近所でドンパチをやられていたわけだ。とはいっても300光年は離れていたが。

 私は緊張した面持ちで、【テッサー運輸】の輸送船【レイナル】が【ルエル】の第一宇宙港へ入港するのを眺めていた。

 宇宙港は【ルエル】に三十余りあり、【レイナル】を収容させている宇宙港は身内用の軍港だ。つまり彼らをどうにか囲い込むという決断を私は下した。

 とはいっても技術畑の課長補佐程度のコミュニケーション能力で、おそらくは商売を生業にしていてコミュニケ-ションのプロの彼らを引き込むのは荷が勝ちすぎている気もした。

 私は宇宙港の検疫所をでた場所にあるロビーで、警備のアンドロイドたちと彼らが検疫所を出てくるのを待っていた。


 輸送船【レイナル】はゆっくりと第一宇宙港のハッチをくぐると、所定の位置に着床した。するとその床が横に開いたハッチの中へスライドしてレイナルを収容する。そこでパッチが閉じると、与圧がされて【レイナル】の昇降ハッチへ吸着タラップが向かった。

 しばらくして、五人の男女がこちらへ歩いてきた。

 私はレイナに手を差し出して握手を求めた。

 レイナも握手を握り返してくれた。

「ようこそコロニー船【ルエル】へ。あなた方を歓迎します。」

 レイナはそのことばにありがとうございますと答えた。彼女は後ろの四人の男女を紹介した。ショートカットの茶髪の女性が副船長のエリー・マーウェル、背の高いがっちりした老年の男性が機関長のローディ・マクマデル、背は高いがすっとした雰囲気の男性が航宙長のジェフリー・フォライト、背の低い老年の男性が相談役のテリー・メリーフォード。

 どの人物も一廉の人物に私には思えた。なんとなく纏っている雰囲気が一般のサラリーマンとは違う。

 それぞれと握手をして、彼らを近くの休憩所のレストランへ案内する。私としては軽食喫茶を勧めたいが、お茶やコーヒー、ソフトドリンクはあってもサンドイッチはない。お茶がくばられたあと私は正直に言った。

「うちの自動調理機のデーターがなくてね。飲み物は自由に出せるが・・・・・食い物が流動食しかない。」

 私の言葉にレイナが目を見開いた。

「え?それはちょっと・・・・・・。」

 若干来たことを後悔した様子だった。まあ、食い物がないとなるとがっかりもするだろうなと思った。

 しかし、意外な天の助けがそこにはいる。

「クサカベさん、自動調理機といったが、ちょっとみせてくれるかね?」

 口をはさんだのはテリー老だった。

「かまいませんよ。」

 レストランの調理器のほうにずらずらと並んでいくと、テリー老は物珍しそうに万能調理器のコンソールを操作していた。

「ワンオフものか・・・・。データーの型は共通Φ文字型か。いけるな・・・クサカベさん、データーを機械にダウンロードさせても?」

 一瞬セキュリティは大丈夫かなとと思ったが、クーレリアが耳元のイヤホンから大丈夫ですと連絡をくれた。どうやらデータを解析しつつ安全ならそのままいれるらしい。

「かまいませんよ。」

 そして五分ほどダウンロードして、テリー老が操作するとポーンという音とともに万能調理器からステーキとパンのセットがでてきた。

「ちょっくら味見してみましょう。」

 その場の面々で味見をすると、ステーキは肉汁がでてきて非常においしかった。触感は牛の希少部位のザブトンに似ていた。

「・・・・テリー爺、ザブトンステーキとか正気?これつくるのにどれだけエネルギーカトリッジと高品位マテリアルカートリッジ食うとおもってるの?」

 レイナの言葉にテリー老は苦笑いだった。

「いやぁな、そりゃつくれるとなったらつくってみたいじゃろ?」

 私が仲裁をしないとなと思った。幸いカートリッジやエネルギーについては生産量に全く問題はない。ちなみに内部の食堂の調理器は直接パイプで物資生産用エネルギージェネレーターから汎用素材マテリアルが流れ込む仕様になっておりカートリッジのことを心配する必要がまったくない。

「大丈夫ですよ。このコロニーでどちらも自家生産されてますから。」

 レイナは恥ずかしそうだった。

「・・・それでも・・・・すいません、うちの者が・・。」

「気にしないでください。それより、どうせだからみんなで好きなものを注文してみましょう!」

 その場の空気をかえるように私は口を開く。

 皆思い思いに料理を注文していく。私が注文したのはハンバーガーとフライドポテト、強炭酸コーラ―のジャンクフード御三家セットだ。

 内勤サラリーマンをしていると案外こういうジャンクフードを食べる機会が少ない。外回りのサラリーマンならいくらでも機会はあるだろうが内勤だとわざわざ食べに行くというものでもないためあんまり食べることがない。

 それをみてローディが意外そうな顔をした。

「くさかべさんはずいぶんチープなご注文をなされますね?」

 その声は悪気がなく、本当に不思議そうだった。答えは決まっている。

「無性にこういうジャンクフードが食べたくなる時があるんですよ。」

 エリーがそれに頷いてくれた。

「あ~わかる気がする。わたしもそういうときありますもん。」

 ワイワイと会話が続いた。


 その日の睡眠時間に自室のドアから呼び出し音のピンポーンという音がした。

 コンソールで外を確認すると、クーレリアの画像そっくりな人物が映っている。

『司令、私の義体が完成したのでみせに参りました。』

 クーレリアからの通信が入った。

 ドアを開けるとクーレリアが部屋に入ってきた。

「司令、この体は如何ですか?」

「・・・画像とそっくりだな。」

 クーレリアの義体から花のような良いにおいがする。義体なのになぜと思った。その答えはすぐに返ってきた。

「この体は完全生体義体です。頭脳の部分での私の本体であるこの船のメインの光コンピューターと相互通信ができる以外は通常の人間と変わりません。」

 私はその言葉にまさかと思った。

「光子場変調通信が届く範囲なら本体との同期は常に取れてますが、この体のスタンドアローンでの行動も可能です。まあ、普通の人間と変わらない食事や排泄が必要なんですけどね。」

 私はいうかまよったが、どうして、人間と同じ義体にしたのかと質問した。

「理由はいくつかありますが、私にそれを言わせるとは司令も朴念仁ですねぇ。子供も普通通りつくれます。」

 それはアンドロイドといえるのだろうかと私は思った。だが、それよりも大切な事はクーレリアが求めていることだ。

「・・・正直合成画像でごまかしている司令の姿は見るに堪えないものでした。」

 まあだれだってそういう場面は見たくはないだろう。

「・・・ですから司令は私におぼれてくださっても構いません。」

 そういってクーレリアは私のほうに来るとついばむようなキスをしてきた。そしてそのまま、押し倒すように私をベッドに押し付けた。



 翌日、クーレリアが自室のシャワーを浴びていて出てくるのを待ちながら自分はなにをしているんだろうと思った。

 ながされるがまま事に及んだが、果たしてこれでよかったのか・・・・。男女の機微に私は疎い。だからこの歳になるまで独身だったわけだ。

 ちなみにクーレリアは避妊はしてくれなかった。

 私も童貞をそうとう拗らせている自覚はあった。男女の営みはそれほど神聖でもなければ貴重なものでもない。どちらかと言えば日常の中にある重要な事だというのを認識した。

 シャワーを出てきたクーレリアはにこりと笑ってベッドに座っているわたしの横に座った。

「司令、恭介さんと呼んでも?」

「・・・・かまわないよ。」

「私の事はAIと区別する為、レリアとよんでください。」

 そしてクーレリアは私の体の一部分をみてまたクスリと笑った。

「面会時間までまだ時間があります。」

 さすがに私でも何を求めているかがわった。



 朝にまで事に及ぶとは私自身思わなかった。頭の中が真っ白だ。満足感だけはある。

 遅い朝食を食べて、輸送船【レイナル】の面々との面談を行った。

 レリアを連れて、面談場所の第一宇宙港のホテルに向かった。

 そこで、五人にレリアを紹介することとなったが、レリアは堂々と私の妻を名乗った。これでいいのかと思わなくもなかったが、若干エリー達の対応が柔らかくなった気がする。

 おそらく、女性がいない男性だと、がっつくから警戒されていたのかもしれない。

 レイナのほうは複雑な顔をしていた。私の事を狙っていたというわけではないだろうが、最初の印象と違ったのが気に障ったのかもしれない。


 交渉は修理代金の支払いと牽引にかかった費用の支払いについてだった。

 こちらとしてはこちらの貨幣がないので、困っていたところだったので向こうの現金での支払いはありがたいところだ。

 しかし、問題がなかったわけではない。

 さすがに修理代金については即金での支払いが無理だというのだ。

 今回の積み荷をコロニー・ラナテの先にあるメゾン・プライムコロニーへ運び込めば支払いができるという。ただ問題はこのまま修理を行った場合、期限が超過するというのだ。超過すれば違約金の支払いで、収益が悪化して船の修理代金が支払えない。

 クーレリアはそれならと対案を出した。

「まず、一つはこちらの所有する宇宙船で資材を運んでもらうという方法です。ただ、問題はこちらの船はあなた方の国の所属でないため、登録作業や登録料がかかります。荷物を確実に引き渡せるかその点で不安がございます。」

 ジェフリーが苦い顔をして口を開いた。

「無所属の船かぁ・・・さすがにそれは厳しいかな?」

 ローディが首を振る。

「しかし、この際しかたがないんじゃないか?外国籍の船としてメッサー運輸との契約という形で入港はできる。」

 レイナが難しそうな顔をした。

「違約金と登録の扱いの問題の不安でどっこいどっこいね。登録できなければ・・・納品できない可能性が高いし、船を抑留される可能性も高い。」

 様子を見ていたがそこでクーレリアが付け加える。

「もう一つは、納品と違約金の支払いの後にあなた方にこのコロニーに所属を移してもらうということです。ただ、このコロニーは無所属です。今後もどこかの国に属する予定はございません。小さな宇宙国家だと考えていただければよろしいかと存じます。この場合、修理費用の支払いは必要ありません。契約的にはこちらのほうがすっきりすると思います。この場合途中までは我が方の船が空間隠蔽しつつ護衛につきます。」

「牽引費用はまからないの?」

 レイナが素早く言った。それに対してレリアは少し考えた素振りで口を開いた。

「まけても構わないのですが・・・・・なにせこちらには物資の生産能力はあっても現金がありません。あなた方にその売買をお願いするというのであれば・・・・考えましょう。」

 レイナが目を細めた。

「私たちを窓口にするってことかぁ。」

「言っておきますが、こちらでの違法な物品は扱いませんよ?」

 レイナとエリーが顔を見合わせた。そして頷く。

「それじゃあ、そういうことでお願いしようか。」

「宜しくおねがいするわ、レリアさん、キョウスケさん。」

 無事、契約を結べて私はほっとした。契約書を交わした。契約書には【メッサー運輸】の現在の社員を【ルエル】のクルーをして認めるという文言と【ルエル】の法律、規則にクルーとなった者は従うという文言がはいっていた。

「じゃあ、私たちは身内ってことね?」

 レイナが嬉しそうに私を眺めている。

 エリーが眉間を揉んでいる。どうやら契約したから【ルエル】のクルーとしての待遇をしろとレイナが言っているらしい。エリーとしては徐々に距離をつめていくつもりだったのが、それを台無しにされたといったところだろう。

「とりあえずクルーの居住区に案内するよ。慌ただしいがついてきてほしい。若干距離が離れてるのでね。」

 戦闘コロニー船である【ルエル】の内部には都市交通網が張り巡らされており、幹部クルー用の路線は専用にあり、そのホームへ五人を私たち二人は案内した。

 ジェフリーが思わずつぶやいた。

「すっげーひろいけど・・・無人?」

 レリアが頷いた。

「現状コロニーには私たち二人とあなた方しかいません。あとはアンドロイドだけです。」

 人間と変わらない構造の生体アンドロイドをつくれば人間の水増しはできるが、それがいいものか正直私には判断がつかない。

 クーレリアとしてもそういう方面での水増しするかどうかについては検討中とのことだった。まずはコロニー船全体を動かせる組織を設計し、そこに人かアンドロイドを割り当てていく必要がある。

「正規クルーは七人だけってことだよ。」

 その言葉にメッサー運輸の五人は茫然とした様子だった。 ローディが不可解そうな顔で聞いてきた。

「・・・・キョウスケ君、君はどういう理由でこのような大きな船を得ることになったんだい?普通の人間が簡単に得られるものではないだろう?」

 私としては正直に言うか迷ったが、相手が距離を詰めるつもりでいるのをみて、正直に話すことにした。たとえ信じられなくてもそれはしかたがないと諦観をどこかで感じながら。

 話を聞き終えるとテリー老が肩をすくめた。

「この世界に似たゲームの世界のものを何者かが具現化か・・。確かにこの船は製造できない部類のものではないだろう・・・・・技術的にわしたちの国と比べて遥かに進んでいる部分はあるがの。」

「しかし、そのなにものかの意図がさっぱりです。」

「そうじゃろうのう。」

 テリー老は考え込んでいたが顔をあげた。

「その管理者さんとやらの意図はともかく・・・現実にこの船はある。ならば好きに使わせてもらうという方向でいいんじゃないかの?向こうから接触があるかどうかもわからん。あったとしてもその時にかんがえるしかないじゃろ。」

 レイナはまだ考え込んでいたがひとことわかんないといって首を振る。

「よっしここをメッサー運輸の本社にするのよ!」

 レイナのその言葉にエリーはレイナの頭にげんこつをおとした。私からみてもあれは痛い。

「あなた馬鹿じゃない?会社程度で運用できるしろものじゃないでしょうが!」

 テリー老がそこに口をはさんだ。

「まああれじゃがの・・・・・キョウスケ君はレリア君以外に妻を迎えるつもりはあるかの?」

 一瞬何を言われるかと思った。どういう事だろうか?

「こんな時になんじゃが・・・・レイナとも結婚してくれんかの?」

 テリー老の言葉にローディが声をあげた。そりゃ声を上げるだろうと人ごとのように私は考えていた。

「・・・・どういうことですか?」

「この船にメッサー運輸の本社機能を移すというのはお嬢の言う通りなんじゃがの・・・・・わしとしてはもっと具体的な縁がわが社とほしい。このあと、お君は移民を受け入れるといっていたがそうなると、別の派閥というものが生まれる。そのときに儂たちが不利益を被らない保険がほしいんじゃ。」

「テリー爺さん、いきなりなにいうんだ!レイナお嬢の気持ちはどうするんだよ!」

「・・・・ローディまって。これは会社としての方針よ。」

「だけどさぁ・・・。」

 そこにレイナの言葉が重ねられた。

「・・・私は構わないわ。キョウスケ君とレリアさんがみとめてくれるならだけど・・・・・。」

 レリアは頷いた。

「伽閥というわけですね。わたしは認めます。恭介はどうする?」

 正直頭の中がパンクしそうだったが、ここで決断を遅らせるほどヘタレているわけではない。

「レイナさんが受け入れるなら構わないよ。」

 テリー老が頷いた。

 ローディは渋い顔だ。しかしそのこよこにエリーが寄り添っていた。どうやらレイナに恋愛感情があってローディが反対したというわけではなさそうだなと考えた。

 列車は幹部クルーの居住区に到着していた。



 その日の夜、簡単な歓迎パーティが幹部クルー居住区画の小食堂で開かれた。とはいっても料理はテリー老が趣味で集めたという宇宙各地の珍味だった。

「・・・ローディが反対するとはね。」

「こんなちっちゃい時から世話してたんだぜ?それれをあったばかりの相手に嫁がせるってのは抵抗があるぞ?」

 エリーとローディの会話である。

 一方私のほうにはレイナが盛んに声をかけてきている。少しアルコールが入っているらしい。

「・・・だからさぁ、私は君に惚れてたの!なのに次の日奥さんってさぁ?ひどくない?」

 絡み上戸だし、聞き捨てならない単語が並んでいる。レリアはテリー老やジェフリー二人と会話している。

「いやあ・・・よかったよかった。

「お嬢はこのまま結婚できないかと思ってましたからね。」

 そのことばにレリアが首を傾げた。

「それはどういうことですか?」

「ほれ、ローディのやつがエリーとよろしくやってるくせに、お嬢の事も手放さないようにしておってな・・。お嬢に散々拒否られてるのに・・・・お嬢が惚れた男は今まで何人かいたが・・・ぜんぶローディが壊しよった。奴は独占欲が強すぎるんじゃ。」

「お嬢がご両親を三年前に亡くされてから我々と一緒になって家業の【メッサー】運輸を盛り立てておったから余計でしょう。船乗りは複数の相手を持つことも珍しくはないが、ローディに経営者は無理ですからね。」

 その言葉に思わず私はむせた。私にだって軽々なんて無理だと言いたいのを飲み込んだ。

 気づいた時にはレイナは私の膝の上の寝ていた。彼女のショートカットの茶髪を無意識に撫でていた。

 その様子に気づいたのかレリアが食堂の外でなにかをうけとってきて、それをレイナの腕に当てた。そして小声で言った。

「・・・自壊機能付きのナノマシンの無痛注射です。アルコールやアセトアルデヒドを早急に分解させます。きょうは寝てらっしゃるからそういう事にはならないとは思いますが・・・・万が一のため子供ができたときに障害を発生させないためです。アルコールやアセトアルデヒドは胎児に障害をはっせいさせますからね。」

 なんとも手回しの速いことだなと私は呆れるしかない。同年代の少女をこのまま頂くというのも道徳的にどうかと思うが。どのみち私に寝ている相手に迫るほど獣ではないつもりだ。

「ちょっと、お嬢さんをお嬢さんの居室に寝かせてきます。」

 そういって私はレイナの膝の裏と背中に手をまわして食堂を出た。幸い居室はここからそう離れていない。

 居室のドアをあけて私は彼女をベッドにねかせて、タオルケットをかける。へやの室温は適温に保たれている。

 部屋の明りを常夜灯にきりかえて部屋をでようとしたときにうしろから声がかかった。

「・・・まって。」

 レイナが起きていた。

「ねぇ、このまま帰るなんていわないよね?」





 翌日、私はレイナの居室で起きた。すでに彼女の姿はなかった。急いで自室に向かいそこで着替えとシャワーをすませて、食堂へ向かう。

 食堂ではレイナ達が思い思いに朝食を食べつつ、談笑していた。

 ローディも特に私をちらっと見たが特に睨んだりはしてこなかった。

 吹っ切れてくれるといいのだがと思った。

 据え膳喰わぬは男の恥とはいえここのところ少しばかり乱れすぎていると私自身感じる。

 一夫一婦制はもともとはキリスト教の公会議の影響で始まったとされているが、中世の司教座の司教が一夫多妻だった事実があったりとその起源は定かではない。しかし、日本では明治維新以来、その考えが広まり、昭和、平成、令和と過ごした中で形作っていた価値観が崩れた気がする。正直キャパオーバーだ。

 そんなことを考えながら厨房の自動調理機でトーストとベーコンエッグ、ミルクのブリティッシュブレックファーストの定番を注文し、出来上がったお盆上のそれをレリアの隣の席に持ってきて座った。

「予定通りとはいえ、少々妬けますね。」

 のっけからレリアはぶち込んできた。こんな時、どう返すのが正解なのだろうか。この場合沈黙は金とは言い難い。

「・・・・君の思惑に乗っただけだが・・・・正直心の許容量をオーバーしてる。」

 その言葉にレリアは少し考えた様子だった。

「・・そちらの方も私の思惑通りではあるんですがね。」

 そう言ってから居住まいを正してレリアは口を開く。

「あなたの過ごしていた世界あるいは国のその時代の常識とこの世界の常識は異なります。固定観念を持ったままだと危うかったのでこのような方法を取らせて頂きました。」

 ややレリアの徹底した合理主義的な部分に私は閉口した。

「まず、一夫多妻は悪ではありません。種族繁栄のためには必要な制度とこの世界では考えられております。むろん一夫一妻的な制度を取る国も辺境の惑星上に存在していますが、むしろ少数派です。」

 それから性に関する神聖視は種族の繁栄を阻害する最大要因になっていると、こちらの世界の論文を引き合いに出しながら説明してくれた。

「・・・いままでの固定観念、常識と異なる文化に我々は今後宣していかなければなりません。それを自らの固定観念にとらわれて相手を否定するのではまとまる交渉も纏まりません。」

 つまりだ、クーレリアに与えられているギルド員を保護するという条項と私の価値観は相反した状況にあったらしい。

 その分身たるレリアとしても夫かつ、上司である私が不合理な状況にいることは良しとはできなかったそうだ。これも価値観の押し付けだというのはうがちすぎだろうか?しかし、彼女のの言い分も理解できる。

 初めて性交渉をするまで私は性を神聖視していた。制度的な結婚した男女であって初めて交渉を持てるものと考えていた。

 だが、実際は、その性交渉においてもやり方作法、そして技術、経験がいる。経験がなければ到底子供を作る段階まで進めないのだ。

 レリアによれば、何者かの意図で地球では性を神聖視しすぎるように誘導され、少子高齢化を誘導されていた可能性があるというのだ。

 私としてはさすがに陰謀論がすぎると言いたいが、いまさらあちらに戻ることもない私がそのことについて論じるのは不毛だろう。

 翻ってこちらは性に寛容といえばいいが、私に言わせれば奔放におもえるものらしい。

 その結果として広大な宇宙開発が進んでいる宇宙開発黎明期にあたるそうだ。

「【産めよ増やせよ】は至言です。これこそが生命の真理だといえるでしょう。・・・・・性に関する価値観の共有はこのあたりにして、一昨日までのあなたは固定観念に固執し、他者の価値観を否定するだけの存在でした。」

 レリアによるとその固定観念の大本である部分を壊すために、レイナとの結婚も認めたのだそうだ。

 手回しのいいことに【メッサー運輸】の輸送艦【レイリア】の目的地で、移動民としての戸籍の登録や入籍を行うそうだ。

 向こうは星間国家のバールデン共和国のコロニーで、移民の受付などもおこなっているらしい。そこを起点にこの世界で通用する身分証をつくり、他の国などへ工業製品などを売り込む予定だそうだ。

 戸籍がない浮遊民とよばれる立場だとろくに商売でも相手にされないばかりか、損害を被っても裁判所などに訴える手段がないそうだ。

 だからまずはバールデン共和国の常識になれろというのがレリアの主張だ。

 こういってはなんだが、理論武装が完璧すぎて反論の仕様がない。ぐぅのねも出ないとはまさにこのことだろう。


 工業製品を売り物にする為に、まずはいくつかのダウングレードした製品を目的地の【メッサー運輸】の本社のあるコロニーの商社にサンプルとして持ち込むつもりらしい。

 真似できないようにブラックボックス化できるところはとことんしたとのレリアの言だ。

 最終的には宇宙船のシステム全体を売り込むところが目標らしい。うちのギルドのシステムだと、たしかに宇宙船を製造するという事に関しては優れている。戦争する為の船だけでなく、採取や運輸にかかわる船もそれなりのものを揃えられる。

 素材の採取については採掘権を得る必要があるためすぐには無理だろうとのことだった。ただ、現在コロニーがある周辺は、御誂え向きに、各勢力の空鶴地帯なので、そのこの小惑星帯を占有する申請もだすそうだ。その分バールデン共和国に税金は支払わなくてはならないが、移動民の扱いはどこの国にも属さない民として規定され、宇宙条約機構の保護下にあるとされているそうだ。勢力が確保されれば、宇宙条約機構に建国の申請も出せるらしい。

 まあ私の考えでは、それに対抗する別の勢力もいるんだろうなというのが正直な感想だ。

 地球でもそういう大連合をつくれば、対抗して別の大連合が組まれるというのは歴史を繰り返してきた。宇宙でもそれは変わるまい。

 いずれにしても私たちが生活していくためにはステップを踏んでいくしかないわけだ。


 この日は私の所有している中型戦艦の見学を行っていた。

 この戦艦にかんしてはすでに操縦や戦術的に必要なアンドロイドの生産は完了していた。男性型も女性型もアンドロイドはいた。

 ここのアンドロイドは基本的には生体皮膚は使っているが、機械式で生体脳ではなく光コンピューターの演算で思考を行うようになっている。

 レリアに言わせると先の事を考えるなら、いずれは生体脳のほぼ人間といえるバイオノイド、あるいはホムンクルスで乗員は占めるようにするべきだとのことだ。

 レリアの示す方向性は明確だ。数は力だと地でいっている。

 だがシステムマネージメント的には時にはシステムの存続のために小を生かして大を殺す必要がある場合もあるそうだ。

 大を生かす事ばかりに固執すると社会システムとしとして存続できなくなることがよく起こるそうだ。

 レリアがバールデン共和国の星海ネットワークに接続してから、知識の蘊蓄がすごくなってきている。ああ、男が女性に勝てないのも頷けるなと私は彼女の蘊蓄を聞いて思っていた。


 もちろんレリアはAIがベースで我々人間とは思考形成の仕組みが異なる。しかし、人間も文化の差異で思考形成の仕組みが大きく異なるということを星海ネットワークの情報で私はしることとなった。そうなるとレリアは肉体的にも精神的にも人間と変わらないと判断できる。

 AIの作る文化と人間の文化の差はあるがそんなものは価値観の差異程度しかない。

 この世界で自立型AIに人権が認められているという理由が実体験として理解できたわけだ。


 この日の見学でレイナは、私の中型戦艦【ペンドリン】の提督席に座ってご満悦だった。

 実は提督席には私もゲーム時代も数えるしか座ったことがない。たいていは艦長席だ。まあ半分エンジョイ勢のプレイヤーなんてそんなもんだ。

 それに提督席にはあまりいい思い出がない。私が提督席に座るときは参謀が艦隊を指揮するという負け戦のときだからだ。被害を如何に最小にするかそればかりを考えて動いていた思い出がある。今度もし座るときは勝ち戦で座ることになりたいものだ。

 もっともレリアによると現在総旗艦となる指揮戦略航宙母艦を建造しているそうだ。そちらの提督席に座ることになるだろうとのこと。

 航宙母艦は戦艦に比べて装甲が薄くなりやすく、弱点も多い。安全性は大丈夫なのかというと、総旗艦なので強襲突撃艦以上の防御性のはあるとのことだった。

 【ルナミル】では強襲突撃艦は相手の陣形に真っ先に突入して敵の前衛戦力を食い破り、前線を引き上げるための艦種だ。したがって防御性能は遠距離仕様の戦艦より高いことが多い。強襲戦艦という艦種もあるいにはあるが、そちらは単艦で突入を図るというよりは強襲突撃艦の旗艦としての性能で、すべての艦種のなかで一番防御が高いが、反面通信性能に難がある。チェスで言えばナイトを引き連れたルークみたいな立場だ。総旗艦たるキングには向かない。


 ちなみに艦性能だけでいえばもちろん【ルエル】が最強だが、ここはあくまで本部でありコロニーだ。戦争にそうそう引っ張り出すものではない。


 コロニー内の案内や、修理や輸送艦の改修の要望を聞いていたら、輸送船【レイナル】の修理改修が終わった。

 今は一度、運び出した物資を輸送船に積み込んでいる。

 全長300mだったが改修で若干船の大きさが伸びている。また装甲板を全部入れ替えただけでなく、動力炉も縮退炉に換装し、動力エンジンも重力推進方針に変更されている。

 重力推進方式はやたらエネルギーを食うので、核融合炉でぎりぎり運用できるくらいだ。しかし、それでは推力がそれほどでないため、小型の縮退炉を積むことになった。

 ちなみに縮退炉自体は不良在庫のひとつだ。

 次元縮退炉というさらに上のエネルギー動力炉をうちのギルドでは運用していた。そのため小型化までいきついておきながら不良在庫として大量に手元にある。

 まあ、いまとなっては使いやすい動力炉なのでそれを持たせてくれた管理者には感謝だ。


 手続きの関係で今回の航行に私とレリアは同行する。代わりにテリー老に留守番をしてもらうことになった。クーレリアが副司令として動くから、あくまで念のためといった具合だが。


 それから三日後、ついに【メッサー運輸】の新生輸送船【レイリア】号は私たちを乗せて【ルエル】を出発し、メゾン・プライム・コロニーへ一路向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る