第2話 日常と勢力をもつということの意味
二日間の航宙をへて、宇宙貨物船【レイリア】はラナテコロニーの外縁部にある停泊地に係留された。
一応経路を示すためと航宙計画書外の行動をとったことをバールデン共和国の宇宙運輸委員会に報告する為だ。
私とレリアは一応、宙賊被害者の体で運輸委員会の下部組織である運輸局にレイナやローディととも出頭した。
乗っていたことにしたアリバイ用の小型艇は【レイリア】に固定具で固定されている。
事情聴取を運輸局対宙賊対策部で自情聴取をうけることとなったが、一時間もしないうちに調書がとられて解放された。
海賊を撃滅したのは謎の艦だということにしてある。
私とレリアはたまたま迷子になっているときにそこに居合わせて、【レイリア】の修理に協力した浮遊民ということにした。
金さえあれば浮遊民でも戸籍はつくれるのがこの世界だ。
そのお金は今回の【レイリア】の積み荷の輸送代金から出すことになっている。
このコロニーでの用事を終えてメゾン・プライム・コロニーへ出発した。
予定では船内時間の三日後の午後に到着予定だ。
ちなみに【レイリア】のまわりには護衛の駆逐艦が七隻も隠蔽状態で同行していた。
メゾン・プライム・コロニーはこのあたりのコロニーとしては大規模な商業コロニーで、政府機関も役所を開いている。日本で言えば県庁所在地みたいなコロニーだ。
メゾン・プライム・コロニーに到着すると、まずは納品先の企業へ、期限を守れなかったことへの謝罪にレイナ以下三名が向かった。
幸い一時間ほどの交渉で、違約金の支払いは免除してもらえることになった。それというのも宙賊の襲撃を受けたという証拠がバールデン共和国宇宙軍にの調査ですでに判明しており、その証拠情報が納入先に送付されてきていたらしい。
宙賊の被害で納入が遅れる場合、免責するというのがこの国の法律らしい。
おかげで満額の依頼料を得られてレイナ達はほくほく顔だった。そしてその足で本社とは名ばかりの雑居ビルの三階の事務所にいくと、ミメットという女性事務員とテンダーという男性事務員が出迎えてくれた。
そこでこまごまと折衝を行って、ミメットとテンダーは本社の移転には反対らしかったが、ついてくるという。
そしてバールデン共和国公民局の支局で私とレイリアの戸籍登録と、移動民登録を行った。登録料が一人500万クレジットはかかった。本籍地はここメゾン・プライム・コロニーとなるが、移動民であるため人頭税の支払い義務はない。
そしてこれからが交渉の本番だった。
運輸局や鉱業局にあらかじめ遠距離通話で根回しをしておいたが、まずは運輸局に航路データーを提出し、その正当性を認めてもらわないといけない。
そしてその航路データーをもとに鉱石採掘権の付与を鉱業局に認めてもらうというのが流れだ。
運輸局にはわりとすんなり航路証明をもらえたが、鉱業局での交渉はなかなか進まなかった。それというのも私たちが持ち込んだ試掘鉱石標本にこちらのレアタルが含まれていたからだ。
そのため、その小惑星帯を鉱石局は自分たちの縄張りにしようと小細工をしてくる始末だ。
業を煮やしたレリアは、鉱石局の関係者の不正の証拠をどこからか集めてきて、それを鉱山局支局長のところに持ち込んだ。
その不正の証拠の中には支局長の収賄の証拠なども含まれており、それを見た支局長は泡を食って倒れる騒ぎとなった。
それから一週間後、ようやく事態が動いた。鉱山局第三課管理官という役職の人物が本部からやってきて、証拠の提出をうけいれるが、これ以上の鉱山局の騒ぎを起こさないことを条件に該当領域の独占的採掘権をコロニー【ルエル】に認めるという決定を下した。これにより一気に物事が進められる。
エネルギー変換で物質を合成するのは非常にコストが高い。それに比べて採掘で得られる資材はリーズナブルだ。
そして鉱山局の肝いりで、【ルエル】は公式に独立系コロニーとしてバールデン共和国に承認された。宇宙条約機構にも申請はおくられたらしい。
これで大手を振ってコロニー船を使うことができるようになり、私はほっとすると同時にこれからの仕事の責任の重大さに威を痛めることになりそうだった。
移民局に申請してすでに正式クルーになった面々とミメットとテンダーを独立系コロニーのクルーとして登録した。
移民局は大きなオフィスだったが、係の女性職員にコロニーへの大規模移民に興味はないかと声をかけられた。
こういうときに大量に入れすぎると組織が運用しずらくなる経験をゲームの【ルナミル】でも経験したことがあるので、準備が整ったらお願いしますと、一応保留の返事を出しておいた。
コロニーの申請時に【ルエル】の大きさや許容可能人数は正直に申請しておいた。そうしないと将来正式な移民の受付ができないらだ。
今現在、【ルエル】は移民組織の受け皿となる統括組織を形成中だ。あらたな移民はその中で配置されることとなる。
レリア曰く、競争がないのもダメだが、過当競争で、勝者がいつまでも勝者の地位を独占したり、敗者復活ができないのはもっと悪いそうだ。
そのため適度な競争と、最低限の生活保障を組み合わせた制度をコロニー内でしくこととなっていた。
メソン・プライム・コロニーで忙しくすごしつつ、ようやくルエルに帰る時がやってきた。
お土産は大量の万能調理器用のデーターや服飾プリンター用の衣類のデーターなど、これからの生活に必須なデーター類がほとんどだった。
そして【レイリア】には今回の移住予定の事務員二名のほかにリノアが仕方なく業績悪化で馘首した【メッサー運輸】の元従業員とその家族がのっていた。
「いっきに住人がふえるな?」
私のその声にレイナがクスリと笑った。
「これは第一陣よ。第三陣まで用意してるわ。」
レリアを見るとレリアは頷いた。どうやら彼女の計画の通りらしい。それなら安心だ。
しかし、ここまで従業員がいた会社なら中規模の会社だったはずだ。それが何故一隻の貨物船しかない会社になったのかが不思議だった。
「・・・・・宙賊にやられたのよ・・・・・それも大手のブングスター運輸に雇われた連中にね。それで違約金の支払いで【レイリア】以外の船を売るしかなかったのよ。あそこの連中はここの運輸航路を狙ってた。だけどうちとしてもメイン航路だから譲れない。合併の話も出たけど、断ったわ。そしたら宙賊をけしかけてきたってわけ。」
まさかと思った。すると壊滅させた宙賊というのは・・・・。
「よそう通り、私の親の仇かその仇の仲間よ。」
これは根が深いなと私は思う。親を殺されても運輸会社を続けているのも、暗殺を行わせた連中への意趣返しもあるんだろう。よくもまあそんな状態で今までいきてこられたなと思った。
【レイリア】が出航してすこしコロニーから離れると予定通り駆逐艦艦隊が合流した。
駆逐艦は重力迷彩で姿を消して同行していた。
そろそろ第八惑星軌道をこえて次元跳躍に入ろうとしたところで、敵識別警報が鳴った。
姿を現したのは約十二隻の60mくらいの小型艦、おそらく駆逐艦の艦隊だ。奥には150m級の戦艦がこちらに向けて主砲を向けていた。
「船長、オープンチャンネルで通信がはいっております。如何なさいますか?」
元社員のオペル・シュタインヘッセのその声にレリアは不機嫌そうに出してと答えた。
正面のスクリーンに男性が映っていた。
『いようぉ?弱小運輸会社さんよぉ?最後の船で夜逃げかぁ?』
正面に映った男性とレイナは顔なじみらしい。
「引っ越しの最中よ。カイト、いい加減にしたらどうなの?虎の子のそちらの駆逐艦艦隊まで持ち出して、正気とは思えないわ!」
『それがどうにかなるんだよ。ほんとコネがない弱小会社は大変だよな?』
「運輸学校の同期のよしみで言うけど、あなたは運輸の仕事にむいてないのではないかしらね?」
『じゃあおれからもだ。同期のよしみだ。ここで降伏して、お前は俺の女になれ。そうすれば会社の従業員もすべて助けてやる。うちの会社へあっせんしてやってもいい。』
「無理ね。私は結婚したのよ?だいたいからしてあなたにはしるわけないじゃない?」
『そりゃどういう了見だ?お前と俺が結婚すればうちの会社はもっとビッグになれる。お前たちのもつ航路はもっと交通が増える。いいことづくめじゃないか?それなのになんで断るんだよ!!』
「見解の相違ね。私は私の親から継いだ運輸会社の名前を無くさないようにしなければいけないのよ。あなたがあなたの会社の名前に誇りをもっているようにね。」
『・・・・いまさらだがな、親父のやり方には俺は反対してた。そしたら今度は俺にお前を殺せという。めちゃくちゃだよめちゃくちゃ・・・・・・。』
「あなたは引くことができないの?」
『できたらとっくにしてるさ・・・・・ほらな?』
そういうと相手の少年は大人二人に羽交い絞めにされた。
わきにいた男性が口を開く。
『我々の要求に答えないのであれば撃沈する。』
レリアに耳打ちする。
「旗艦に移乗攻撃をできないか?」
「できなくはありませんが、アンドロイドに被害がでますよ?」
「できることなら相手の少年をすくってやりたい。」
甘ちゃんですねとレリアはわらったがこう付け加えた。あなたのその甘さは命取りになるとどうじに新たな可能性を開く鍵なのでしょう。
相手との通信がきれると、強襲ポッドで相手の旗艦にアンドロイドの陸戦隊をを送るこむこととなった。
そして向こうが攻撃を仕掛けようとした瞬間に相手の旗艦に穴をあけてアンドロイド兵が次々と突入していく。
相手の艦隊は指揮系統がはっきりしてなかったせいか砲撃する艦もあればひたすら防御をする艦もいた。
こちらの護衛の駆逐艦隊は次々と相手の小型駆逐艦をデブリに変えていく。
その様子を私やほかのクルーは眺めていた。
これを見ていて、兵器の発達度合いに差があるのではといまさらながら気が付いた。こちらの船のシールドを向こうは破ることすらできていない。
いずれはそれを破るような敵が現れるだろう事は予想できる。楽勝なのも相手が民間船だからだろう。勝っては緒を締めよという格言の心に刻むべきだと私は思った。
旗艦のほうの戦いは、白兵戦になったが、向こうは陸戦兵をあまりのせていなかったらしく、こちらが優勢らしい。
民生品に毛が生えた程度の船相手では何ら問題にはならない様子だった。
レリアの指示で、相手の艦艇は旗艦を残してすべて撃沈された。
旗艦から例の少年が救出されて、貨物船【レイリア】に連れてこられた。少年の名をカイト・ブリングスターといった。
助け出された少年は、レイナの前にくると頭を下げた。
「うちの家が済まない・・・・・お前の家族を殺したのも親父の指示らしい。許してもらえるとは思っていない・・・・。」
レイナは首を振った。
「あなたの性ではないわ。とりあえず、疲れているだろうから部屋で休んでて。」
「ありがとう・・・。」
少年がブリッジから出ていくと何とも言えない不意息にその場がなった。
【メッサー運輸】にとって少年の家は仇敵だ。だがあの様子では、相当家族に抵抗していたことが予想できる。決して楽な生活ではなかっただろう。
ローディが複雑そうな顔で言った。
「人生いろいろとはいうが・・・おやっさん達の仇の息子がああだとは思わなかったな。」
レイナがそれに返した。
「ブリングスター運輸は家長主義で、家長のワンマン経営だってのは、業界でも有名だからね。カイトとは運輸学校時代に友人の一人としてそれなりの付き合いがあった。彼が私に結婚を迫ってきたのは卒業した後ね。聞いてみないとわからないけど・・・・カイトの性格からだと、うちの家族や従業員を救うために結婚を迫ったってところなんでしょうね。そのあと私の両親の乗った船が宙賊に襲われたから。」
私はレイナの頭を撫でた。
「心中は複雑か・・・・。」
「恨むべき相手は間違えないわ。だから心配しないでも大丈夫よ。」
「まあ、今は君も私の妻のひとりだ。心配ぐらいはさせてくれ。」
レイナがそれを聞いてくすりと笑った。
翌日、順調に予定の航路を進んでいる。宙賊に扮したブリングスター運輸の関係者はカイトを除いてすべて始末された。
カイトに信用できる部下はいないのかと聞いて、今までいたためしがないと返されたことも大きい。
カイトは今実家の悪事をレポートに纏めている。宇宙条約機構の運輸部門に送付するつもりらしい。彼自身も実家に虐待されて生活していたらしい。
彼自身、妾の子供で、財産の継承権すら与えられていない非嫡出子扱いのままだったそうだ。当然ほかの兄弟とも折り合いが悪く、使用人にすら侮られる生活をしていたそうだ。
家の中でガス抜き役をやらされていたということに私としても憐憫の情を抱かざるを得なかった。
そんな彼は十七歳と俺の今の戸籍上の年齢より二つ上だ。
彼は救出された次の日から、【メッサー運輸】の従業員や元従業員に頭をさげるお詫び行脚をしていた。
なにもそこまでしなくてもと私なんかは思ったが、彼曰く、こういうことのけじめははっきりさせたほうがいいとのことだった。
従業員や元従業員からは割と好意的に受け止められている。もちろんなかには家族を殺されて怒りが収まらない人もいるが、その人にしてもカイトの身の上をレイナが説明するとカイトを受け入れてくれた様子だった。
問題になるのがカイトの取り扱いだが、すでにカイト自身移動民扱いになっているそうだ。戸籍も家とは別になっており、はなから家を継がせるつもりもなかったということだろう。
気にかかるのは彼の家族だが、母親はすでになく、母親の家族や血縁者はブリングスター家とは犬猿の仲らしい。
ただ、うちで雇うにせよ、どの部署に配置するかと考えている。いきなり幹部は、【メッサー運輸】の関係者に反発を生む可能性が高い。しかし、平社員にするには能力が高いのでもったいない。
レリアが私の悩みを見抜いたように口を開いた。
「当面は、幹部付きの見習い扱いでよろしいかと。時機を見て幹部に登用すれば反発は最小限におさえられるでしょう。」
レリアに言われた通りに登用することが決まった。
カイト自身それをつたえられると複雑な顔をしていた。
「あんたらの敵だった俺を登用するのか?いいのか?」
「君は無理に従わされていただけだろう。それも捨て駒や穢れ役にされて。報われてもいいと私は思うね。」
私はそう声をかえした。その言葉にカイトは涙を流した。認めてもらうとか報いてもらうということを一切してもらってなかったことがその様子からわかる。
宇宙世界といってもそういった家族内の関係の問題は変わらないんだなと私は思った。
それからしばらくしてホームである【ルエル】に到着した。
【ルエル】の第一宇宙港に降り立った【メッサー運輸】の従業員や元従業員、それにその家族は一様に驚いた様子だった。
検疫所で検疫をしたあと、港湾施設局の建物の中にある大会議室でガイダンスを行い、後日、各自の適性や希望に沿って仕事を割り振ることを説明した。また、商業区での買い物についても説明した。
いまのところ日用雑貨の店しか唯一開いている第一商業区にはないが、今後製造品のラインナップを増やして、生活環境を整える予定だ。
ただ、食事に関しては生鮮食料品などの高級品はともかく、各自に配分された居住区の家には物質ジェネレーターからつながる万能調理器があり、それでの飲食物の生産はこのコロニーの幹部となるメッサー運輸の関係者には無料にする予定でいる。
大規模移民を受け入れる際には、第五以降の居住区を割り当て、そこでの飲食については低価格で、流動食については無料にする方向で考えている。
スラムを生まないために最低限の生活保障の要に居住場所と万能調理器を割り当てるというわけだ。衣類についても申請があればという条件で、デザイン性の低いものを配布するということにする予定だ。
教育に関してはまだ準備段階だが、メッサー運輸の従業員か元従業員から教育担当者を選ぶことに決まっている。その担当者にひとまず教育の人材の登用は任せる予定だ。
教育の準備がすすむまでは、アンドロイドによる学校教育を行うという方針だ。
教育内容については義務教育は十六歳までとし、希望者はその上の高等教育機関へ進学するという方向で決まった。
教育については無償化の方向で考えている。
スラムをつくらせないためには生活の最低限保障と教育の無償化の二本が最低限必要だとレリアも言っていた。
専門教育についても宇宙運輸関連や、軍関連の兵学校や士官学校の準備を早急に進めている。こちらは今後もアンドロイドによる教育のみとする予定でいる。それというのも管理の問題があるからだ。
義務教育についてもアンドロイドによる教育のみにするかどうかで幹部の間で議論があった。
七人の間で意見が分かれているわけではないが、レリアと私以外はアンドロイドによる子供たちへの教育という事に若干拒否感があるらしい。
レリアからすると人に任せると不確定な事案が発生しやすいので教育関係はAI主導とする方針にしたいらしい。
もっとも専門分野の宇宙に関しない部門については外部からの登用をするかなく、教育の登用担当者をおくことになったわけだ。もちろんクーレリアによる審査つきだが。
ここ数日、カイトのほうは、テリー老について、食物データーの更新にかかりっきりだ。
今現在、第五居住区までのクルー用居住区は準備が完了したが、第六以降の居住区の家などに備え付けられている万能調理器のデーターの追加や制限の設定に追われている。
【ルエル】のブリッジの一角でその作業が行われていた。別に専門部屋を用意することも出来たのだが、あとあとその部屋の扱いが面倒になるとテリー老の判断でブリッジからの更新作業となった。
私のほうはブリッジの司令席にすわりながら、各部からの報告に目を通す毎日を送っている。
それとレリアとレイナの二人が妊娠したことがわかった。
二人とも育児休暇ということにしようとしたが、結局やることがないと、軽くではあるが仕事をしている。
【ルエル】はバールデン共和国の星海ネットに偽造アカウントを造って、いくつものプロキシサーバーを介して接続している。
星海ネットは令和の日本でいうところのインターネットだ。
ただし、離れた恒星系どうしをも結んでおり、星海ネットの中継器をクーレリアの命令でアンドロイドたちが設置して実現していた。
通信ネットワークの構築については、宇宙空間自体にエネルギー階層があり、その一部階層の粒子を通信ができるようにフォーマットすることで、そこ自体をサーバー空間化することも可能らしいが、残念ながらこの世界では実現されてないらしく、クーレリアはその情報は公開しないほうがよいと釘を刺してきた。
その通信方法を重力場通信というらしい。
クーレリアはせっせと宇宙のあちらこちらをフォーマットして領域を広げているそうだ。エネルギー階層の深いところ、高エネルギーがないとアクセスできないところに基幹サーバーを構築しているそうだ。
そうこうしているちに、メゾン・プライム・コロニーの事務所から重力場通信で連絡が入り、どうやらバールデン共和国の宇宙港湾管理省独立コロニー査察団からコロニーへの査察の申し入れがあったそうだ。
正直きな臭いが、査察を受け入れざるを得ないなというのが正直なところだ。
まだ本格採掘は行っていないが、機械製品の輸出はすでに行い始めている。こちらでオーパーツになるような物品はださないようにしているからその点では問題はないはずだが・・・・
問題になりそうな部分はいまのころ採掘計画権のことぐらいしか思いつかない。
採掘権に関する税金の支払いについてはめどは立っているからそこは問題はないはずだ。
クーレリアに査察団のことを相談すると、クルー区画には立ち入らせないほうがいいだろうとのことだった。
問題はそれで向こうが受け入れるかが問題だが・・。
それから一カ月後、査察団の面々が八番貨客船【レモネー】に乗船してやってきた。査察団がおろされたのは整備中の第八宇宙港だ。こちらは一般向けに開放する予定の区域だ。
宇宙港で私は妊娠で若干おなかが出てきたレリアとともに、査察団の面々を迎えた。
査察団の代表はにこやかに私と握手をした。彼はウェルガリア・アーダ・トンペクトと名乗った。
アーダはバールデン共和国における男爵位を示すと彼は語った。
共和国という名前から私は貴族制度が存在しない国だと思っていたが、そういうわけでなかったらしい。
彼らにはまず検疫所で検疫をうけてもらったが、随行員の何人かは不機嫌そうにしていた。
査察団は総勢百二十六人の大所帯で、それぞれ港湾管理部門や衛生管理部門などに分かれて査察を行うらしい。
査察団を受け入れるための宿舎となるホテルに査察団を案内し、簡単なレセプションのパーティを開いた。
査察団には第六居住区の視察などをおこなってもらい、ブリッジなどの査察は行わせない予定だ。
レセプションでは特に問題は起きなかったが、どうも、コソコソうごきまわっている人間がいるのが気にかかった。
レセプションにはテリー老と私とレリア以外はアンドロイドで対応した。
レリアからの報告でこちらのクルーの男性アンドロイドの何人かに女性随行員から性的な接触があったそうだ。
いきなりハニートラップとは恐れ入る。
そして査察当日、私は代表とその随員を引き連れて居住区の各所を案内していた。
「…先ほどから案内を受けいているこの居住区だが、あまり人が居ないようだが?」
ウェルガリアのその言葉に私は笑いつつ答えた。
「うちはもともと人数がすくないのですよ。今後、移民をうけいれる予定ではあるんですがね。まだまだ準備に時間がかかりそうです。」
「うむ・・・しかし、よくもこのような大規模なコロニーを手に入れられましたな。たしか浮遊民だったとか?」
「ええ。私は父からこのコロニーを譲り受けただけでしてね。浮遊民同士では助けあいがあります。そのようなかでこのコロニーを構築したと父祖から伝え聞いております。」
そこにレリアが鋭く付け加えた。
「時々勘違いして、これを自分たちが作ったとか、奪われたとかいう輩がでてくると他の独立コロニーの伝聞で伺っています。たしかバールデン共和国でここ数年で三カ所ほど独立コロニーを奪った貴族がいたとか?情報を精査したところ言いがかりで奪ったという証明がなされたとか?」
その言葉に一瞬ウェルガリアが苦い顔をした。
「・・・・そのような話は初めて伺いましたな。是非情報を頂きたいところですが・・。」
するとレリアは小型の情報メモリーをウェルガリアに渡した。
「これがその調査内容のROMです。」
わざわざリードオンリーメモリーで渡すとかレリアも用心しているようだ。メモリーをうけとったウェルガリアはそそくさとそれを胸ポケットにしまった。
「貴重な情報を感謝いたします。この情報は私どもで精査したのち司法局に提出することをお約束いたします。」
レリア曰くすでに司法局に送付済みだそうだ。
司法局は貴族の縄張りなのであまり期待はできないというのがレリアの言い分だ。
おそらく査察の結果、このコロニーは貴族の~~家から奪われたものだと宣言し、奪い取るつもりなのだろう。
まあそうなったら戦争だ。
アンドロイドの生産は続けており、兵員については問題はない。
宇宙条約機構に対しても証拠や情報の提出をおこなっているとの事だ。
バールデン共和国だけにチャンネルをもつのは危険だなと正直思う。
貴族というなら貴族の高貴なる務めがあり、他者から奪うだけでは高貴とは言い難い。それでは野蛮人と同じだ。
バールデン共和国の貴族の一部がたまたまそういうやり方をしているのだろうが、ほかの貴族がそこを追求しないのが気にかかる。
大方、浮遊民ごときがコロニーを所有するなど生意気だとか、そういう見下しの感情からそういう行動に移っているのだろうことは予想できる。
その日の夜、査察団を監視していたクーレリアとしてのレリアに起こされて、査察団への検視映像を見ることになった。
査察団はあちこちの建物を破損させてそこに何かを埋めこうもうとしたりしているが、それがうまくいっていない。
建物の構造材が強く、持ち込んだ機材ではなかなか切断できないらしい。
レリア曰くその様子をしばらく見た後、その該当査察団の人物たちを拘束し、尋問しているそうだ。
「こりゃ、査察団自体を拘束して、尋問する必要があるな。」
「指示があるのならすぐしますが?」
レリアの言葉にすぐにうなづく。
「やってくれ。」
よくライトノベルだとこういうところで主人公が日和って、まだ捕まえる必要はないとか、あるいはヒロインがいさめて、ぐだぐだになるのだが、現実、これを見たら処断せざるを得ないのが実際だ。
外交的に査察団を拘束するというのは場合によっては戦争行為になるが、こちらとしても別に戦争になっても構わないと思う。ここでぐだぐだ引きさがると内部に入り込まれて余計厄介なことになる。いくら平和主義の日本からきたとはいえ、ここまでされて黙っているほど私も温厚ではない。
翌日、クーレリアの指示でアンドロイドたちが査察団全員の拘束を行い、留置所に収監した。
そこで、尋問を徹底して行い、代表のウェルガリア・アーダ・トンペクトが、その寄り親のタンペルス伯爵家の指示で今回の事を行った事が明らかになった。
すぐさまその情報を宇宙条約機構に送り、宇宙紛争裁判所に提訴を行った。
それと同時に尋問の映像や自白情報をあちらこちらに拡散させて、情報の隠滅が行えないように二重三重の手を打った。
裁判にはクーレリアの作成した生体アンドロイド数体を原告として派遣した。
バールデン共和国内部ではかなり騒ぎになっていたそうだ。国家元首の大統領が動くことになり、貴族を管理する貴族院が開廷され、すぐにトンペクト男爵家は爵位をだっ爵、つまり剥奪され、閉門されたそうだ。その寄り親のタノペルス伯爵家とその派閥は強攻に抵抗をみせ、私設軍を蜂起までさせた。
バールデン共和国内部で内乱というわけだ。
一方、私たちのほうはその後割と平和に過ごしている。なんどか交易船が襲われる事態がはっせいしたそうだが、護衛につけている艦隊で相手を叩き潰したそうだ。
そんななか、割と近くといっても230光年離れていたコロニーである【ラナテ】から救難要請が届いた。
【ラナテ】はバールデン共和国の直轄コロニーで辺境域の中継コロニーとして運用されている。
うちのコロニーとは何度も行き来はしており、今度実験的に、【ラナテ】の人間に一般居住区に店を開いてもらうという計画がたっていた。
これは民間レベルでの話で、ラナテ行政庁とは特段のやり取りは行ってこなかったが、うちと商売上のつながりのある商社数社を経由しての救難依頼だった。
どうも【ラナテ】行政庁を取り仕切っているのはバインダール子爵家で、内乱を起こしているタンペルス伯爵家とは別の派閥なのだそうだ。
それでタンペルス伯爵家はうちの交易ルートを潰すために、【ラナテ】コロニーを接収しようと、脅しをかけてきたそうだ。
軍の派遣を匂わせており、このままでは辺境コロニーの命脈である通商が行えなくなると悲鳴のような文章が送られてきていた。
どうも、この世界というかバールデン共和国のコロニーには物質ジェネレーターが存在してないらしい。栽培や培養などの手法をとって作った食物材料を食物カートリッジにして、それを万能調理器で加工して食物にしている。
だから栽培・培養工場をもたないコロニーでは自給自足は不可能ということだ。
星海ネット用の中継器を利用した秘匿通信で私は向こうと連絡をとってもらうことにしつつ、アンドロイドを乗せた艦隊を編成して派遣することにした。
編成はクーレリアに任せたが、多方面に対応できるようにするため、打撃航宙母艦隊七隊を編成し、そのうち三隊を派遣するとのこと。
ずいぶん本気で戦争になるなと正直うんざりしたが、こういうところで力を見せないと、いつまでたっても我々の存在が一般に認知されず、理不尽な要求をされ続けることになる。
幹部クルーのことはもとより、いまは三百人規模の人間のクルーがこのコロニーの為に働いてくれている。その彼らを守るためにも決断を下す必要があった。
秘匿回線での通話がバインダール子爵当主と行われることになった。
「初めまして、私がルエルコロニーの代表であるキョウスケ・クサカベです。」
『お初にお目にかかる。ハインツ・イヴェント・ハインダールだ。今回、会談に応じて頂き感謝する。』
ハインツ・イヴェント・ハインダール子爵は眼鏡をかけた、やせぎすの男性だった。そばには執事らしい服装をした男性が立っている。
「さて今回の救難要請ですが、我が方としても商売上のお客であるあなた方が、このあいだうちで問題をおこした伯爵の派閥に取り込まれるのは避けたい。こちらとしては三個艦隊を派遣する予定でいます。」
その言葉にハインツは一瞬驚いた顔をして同時に酷く困った顔をした。
「三個艦隊ですか・・・・ずいぶん多い。しかし、我が方としてはありがたいのですが・・・その補給が・・。」
ハインツが何を気にしているかが分かった。軍隊は大食いだ。三個艦隊も送れば物資が枯渇するということを心配したのだろう。
「そのことですが、艦隊の物資はこちらで補給しますので、ご心配に及びません。あと駐留場所ですが、今回は必要ないですよ。」
ハインツはいぐかしげな表情だ。
『駐留場所が必要ないとは・・・・。』
「今回派遣する艦隊は十五年以上無補給で戦い続けれる艦隊です。詳細を送ります。」
そういってわいにいたレリアにうなづくと、本体のクーレリアから情報を向こうに送付したらしい。
『これは・・・・物質ジェネレーター付きの大型艦船があるのですか・・。』
「はい。」
『ははは・・・・私のコロニーより居住性がよさそうだ。』
それから今回の救難要請に応じる代わりの代償を求めることになった。困っているからと無償で応じるのはお互いの為にならない。特に貴族家とは無償であってはならないという不文律がある。
こちらから求めるような事は特にないが、今後の事も考え、付近にこちらの軍事ステーションの建築の許可と名目だが共和国内のおける後ろ盾になってもらうこと、そして報奨金として一億クレジットおくるということで決着した。
こちらの要求を満額でうけいれてもらったわけだが、こちらとしても相手に求めるものがなく、無理やりひねり出した感がある。軍事ステーションの開設についてもこちらの通商路を安定化するという目的の比重が重い。
さすがに軍事ステーションを開設することに関しては一瞬迷うそぶりがあったが執事に耳打ちされて頷いたあと了承を得た。
会談の後すぐに三個艦隊を進発させた。それと同時に、軍事ステーションの素材の詰め込みや、建造工作船の派遣も開始した。
軍事ステーションの建材については以前から生産はしていた。というかゲーム時代からの在庫がけっこうある。
【ルエル】サイズの移動コロニーを造るとなると物質ジェネレーターの生産時間の関係で五カ月はかかるが、それでもできないわけではない。
こんかい作成するコロニーも戦闘を意識して移動型の戦闘コロニーになる予定だ。
どら焼きを大きくしたような外観の内部宇宙港型のステーションとなるはずだ。
桟橋を外に並べてそことエアチューブを伸ばして出入りするのを外部宇宙港型、それに対して内部宇宙港型は船の出入りするハッチがあり、そこから中に入ったところに港の設備を持つ。
移動型だとどうしても外部宇宙港型だと慣性の制御が面倒になる。だから今回も内部宇宙港型になるわけだ。
【ルエル】は外観からしてすでに流線形の宇宙船を大きくしたような形をしている。それと比べると、今回建造する軍事ステーションは見た目は固定型の宇宙コロニーに近いだろう。
三日後、予定通り、三個艦隊は【ラナテ】コロニーに到着した。すぐにその宙域での警戒行動に入った。
それから数日後、軍事ステーションの建造が、ラナテからほど近い宙域で始まった。建材はできており、組み立てるだけなのだが、それでも一カ月はかかる見込みだ。
移動要塞なのにわざわざ【ラナテ】のそばで建造するのは相手への牽制のためだ。それと万が一攻撃されても、代わりの建材は山ほどある。
かかってくるならかかってこいという体制だ。
最近、バールデン共和国のニュース番組を見ながら執務をしていることが多い。ニュースチャンネルも政府かあるいは外部勢力のバイアスがかかっていることが多いが、それでも状況を聞き流しながら得られるというのは大きい。
バールデン共栄放送をその日聞き流していたが、聞き捨てならない情報が流れてきた。
『ラナテコロニーに対するルテル独立コロニー軍の駐留は、我が国への侵略と断じるとパンコーワ男爵の提起で貴族院議会で議論が始まった模様です。貴族議会ではどのような反応なのでしょうか?コワールさん、現地からお伝え願えます。』
『はい。貴族院議会前のコワールです。パンコーワ男爵はこの間独立系コロニーを横領していたタノペルス伯爵の派閥イエローローズの寄り子貴族で、これは横領を不正と断じられることに対するカウンターだと考えられております。』
『仮に不当だと断じられた場合、どのような対処になるのでしょうか?』
『はい。まずは【ルエル】コロニー側への撤退要求、そして駐留に対する補償を求めるといった形になるでしょう。』
『しかしながら当事者の【ラナテ】コロニー執政官のハインダール子爵は、タノペルス伯爵に軍事侵攻をすると恐喝をされ、【ルエル】コロニーに救援を依頼したと主張しているそうですが、この点については如何ですか?』
『独立コロニーとはいえ【ルエル】コロニーはバールデン共和国に籍があるコロニーです。そこへの救援要請が外観誘致に該当するか否かの判断によると思います。また補償を求める文言については現実的ではありません。我が国の執政官の要請に従っただけでなんら損害を与えてないというのが大勢の貴族家の見解の様です。問題となるは現在建造中の【ルエル】所属の軍事ステーションの取り扱いでしょう。これを侵略と断じるなら・・・問題は先鋭化すると考えられます。』
『ありがとうございました。』
ニュースをみていて面倒なことになったなと思った。
秘匿通信ですぐにハインツから連絡が来る。
『事がおおごとになってしまった。迷惑をかける。』
「それはよいのですが、そちらとしてはどのような方針ですか?」
『そちらの軍を引けば、向こうは正当政府軍を名乗る軍勢をこのコロニーに送り込んで、我が家のものはとらえられ見せしめに殺されるだけだ。向こうはこちらに現状では勝てないとふんでいるのだろうな。まあ・・・・・あれだけの艦隊を持っている勢力なんぞこの近辺の星間国家にもすくないと思う。だから今後も駐留をお願いする。私が依頼したことは宇宙条約機構の法務部に送付して法的拘束力を持たせてある。奴らが国内問題だなんだといってもどうしようもないさ。ただ、一度ひと当てして相手を削る必要がある。ここの防御だけなら二個艦隊あれば十分のはずだ。それなのに君は打撃艦隊を三個、偵察艦隊を七個も送ってきている。』
「まあ、そうですね。念のためというかメゾン・プラム・コロニーの状況がきにかかるものですからね。」
『あそこのバウスマン侯爵はうちの寄り親だよ。今度機会があれば紹介しよう。』
「ありがとうございます。」
『問題は大統領府がどううごくかだ。現在の貴族の叙爵や昇爵、降爵、脱爵などは大統領にだけ権限がある。大統領はギデアン公爵家とハインマール公爵家、バラード公爵の三家の持ち回りだが、現在の大統領はハインマール公爵で、ギデアン公爵がタノペルス伯爵の寄り親で権威主義的な考え方をされていて次の大統領を狙っている。バラード公爵は権威主義ではないが、重商主義で、敗者に厳しいお考えの方だ。ハインマール公爵はそのお二方と比べると一般人に対して穏健で、弱者が自立できるようにする運動にも積極的だ。』
「選出は貴族の選挙で?」
『いや、今は市民全体での選挙で選出することになっている。だから勝てるのはハインマール公爵かバラード公爵で、民衆に不人気なギデアン公爵はここのところ選挙で五連敗を続けている。』
「市民が代表にはなれないのですか?」
『市民の多くは政治教育をまともに受けれる環境にない。当然出てきてもまともに政治理念を語ることも出来ない。ぽっとでてくる市民はいるにはいるが・・・大統領選に落選して市民議会議員になるのがおちだ。まともに政治教育をうけていない人間がトップにたつことをだれも望まんよ。』
変則的な民主主義だと私には思えた。確かに政治家になる人間には政治教育が必須だ。地球で言えばマキャベリの君主論くらいは読んでないとお話にならない。一方で孫呉の兵法書は有名だが内政としては失敗する方向に動くことになるのでお勧めはできない。
敵を倒すという一点においてのみ有効であり軍学書としての価値はあっても政治書としては価値がない。
孫呉の兵法書を読むなら、なぜその行為をすると政治的に死ぬことになるか、政治システムがダメになるかを考えながら読むとよいだろう。
こう考えてみると地球の民主主義も歪だ。国民すべての選挙で政治家が選ばれるまではいが、候補者が政治的知識がなければ失政しか生まない。
今の私は政治的知識はあるだろうか?正直コロニーの代表者としては政治的な知識が必要だと思う。クーレリアに頼んで、政治の教科書なども編纂してもらって勉強しなければならない。
それから、しばらくバールデン共和国内は混乱が続いていたがこの日、貴族院議会で投票結果が公開された。それとともに処分が決められた。
貴族院議会での決定は、ハインダール子爵家の主張を認めるというものだった。
外患誘致だとハインダール子爵家を攻撃していたギデアン公爵の一派は、一部武装蜂起していたことの責をとらされ、貴族院への登院制限と罰金の支払い、私設軍の縮小を命じられた。
私からするとずいぶん手ぬるい罰則だなと思ったが、これ以上の罰則を与えるとギデアン派の貴族が本格的に武装蜂起し、内乱にはいると考えられたためらしい。
一応、軍事ステーションの建設とうちの軍のハインダール子爵領での駐留は認められた。法律的には傭兵を雇ったとみなすということだった。
そのため【ルエル】の勢力を民間軍事会社として申請する必要が出てきた。民間軍事会社はその軍事力に応じて税金を払わなくてはいけないし、保有兵器についても制限があるらしい。
ただ、貸出をうけている戦力についてはその範囲に含めないという民間軍事会社法の文言があり、また貸しの軍事力についてはその制限を受けないらしい。うちが必要なのは建設がそろそろ終わる軍事ステーションの民間軍事会社としての申請と、戦力の算定だ。駐留艦隊についてはこちらのステーションと交代制にすることで法律の穴をつかうことにした。
ハインダール子爵は今時、戦力の制限なんぞ守っている民間軍事会社なぞいないから無視していいといっていたが、何事も念を入れてだ。
あらたにバールデン共和国籍でつくる民間軍事会社【ハインダール警備保障】は独自の軍事ステーションを本部とし、警備艦艇を保有するだけで、艦隊そのものは独立系コロニー【ルエル】との契約で貸し出しを受けているという形にした。
実質【ルエル】の下部組織として【ハインダール警備保障】は運営されることになるが、代表者は面倒なのでハインダール子爵にやってもらうことにした。
逆に言えば一蓮托生に巻き込んだわけだ。子爵は困惑顔だった。
『お前さん方、仕事の丸投げではないのか?まあルエルの優れた艦船を動かす権利を得られたとでも思っておくよ。』
暇をみつけて【ルエル】にもきてもらうことになった。
ただ子爵は駐留艦隊の旗艦である打撃型航宙母艦の視察を行ったとき、首を傾げていた。
「君たちから提供されている船がまさかこのようなものとは思っていなかったよ。うちの国は弱小国だが、宇宙では大きな船を建造できるほど技術力の難易度が指数的に上がると言われている。君たちとうちの国の技術格差はかなりある・・・・とみていいだろうね。」
この視察には私も参加していた。
打撃空母については汎用打撃空母だったのだが、その施設の洗練された形に子爵はずいぶん関心した様子だった。そのうえでつけくわえた。
「名目上の責任者にはなったが、これを運用するのは我が家では無理だ。設計思想がバールデン共和国のものではないし、運用の組織の形も違う。頑張って覚えて、多少は指揮をとれるようにはするがね。」
私としても指揮運用のほとんどはアンドロイドまかせだ。正確には指揮空母の搭載戦略AIや戦術AIに任せている。
人間に比べて裏切る可能性が低いのも彼らを頼る最大の理由だ。もちろん情報ジャックでAIを改ざんされる可能性はあるが、三重システムどころか五重以上の多量化システムで外部からの操作を受け付けないようにAIのメインサーバーは作られている。光コンピューターなのでそのモジュールを取り出してなんてこともできなくもないが・・・・それをやろうとしても厳重な警備にみつかり不可能だ。
AIの基礎命令は私を最上位においてクーレリアを次席にしてあとはほかのAIツリーの上下関係が構築されている。
したがって私が素っ頓狂な指示出しをしない限り、問題は起きない。まあ、素っ頓狂な指示出しをしてもAIがそれを修正はしてくれる。
ほかのクルー達は基礎命令で私が指示に従ってくれと命令を出しているから従っているという形だ。すべてを統括するクーレリアがいる限りこの体制はそうそう崩せないだろう。
そのうえクーレリアは宇宙空間の動かすのに高いエネルギーがいる安定度の非常に高いところにサーバーシステムを構築し、頭脳部分をそちらへ移動させる計画を進めている。
これが実現すればAIのみならず人も滅びから解放されるだろうというのがクーレリアの言だ。
実際どこまで実現するかわからないが、こういうセキュリティには念には念を入れて対応する必要がある。
それからしばらくたって、レリアがまず産気づいて、男児を出産した。名前は幸雄とした。こちらでいえばユキオ・クサカベだ。
その二週間後、レイナが女児を出産した。名前は愛奈とすることがレイナとの相談で決まった。
日本風でもあり、バールデン共和国風にも聞こえる名前であるというのがその理由だ。
レイナによると現在【ルエル】の交易部門になっている【メッサー運輸】を将来継がせたいそうだ。
それから三カ月は睡眠不足との闘いだった。三時間ごとに哺乳とオシメの取り換えなどを夫婦交代で行い、そのあいまに睡眠をとりつつ、仕事もおこなったりもした。
レリア曰く、生体アンドロイドで代行をそこそこおこなっても子供たちに愛情は育つとのことだったが、レイナも私に賛同したためこのような過酷な日々となった。
幸い宇宙が安定していたことがせめてもの救いだ。
愛奈の将来はレイナが決めてしまっているが、私としては子供たちが自分でやりたいことを見つけて進んでいけば別に構わないと考えていた。
最近【ルエル】によく訪問してくるハインダール子爵のハインツにいわせると、それは貴族的ではないし、このコロニーの将来を考えるならあまりよくないということらしかった。
貴族はよく自由気ままに生きているように思われるが、実際は生まれた時から将来が決められており、そのレールを外れることを一切許されない。場合によってはレールを少しでも外れれば親に殺される貴族の子息もいたりするらしい。
高い教育を施され、高い教養知識を得て、そのうえで貴族としての心構えも身につけさせられる。友人として付き合うあいてすらも派閥の論理で決められており決して自由にはならないそうだ。
私が驚いたのは普段着はともかく、礼装や正装で身に着ける服装が貴族の階級ごとに決まっており、色も指定されているということだ。
身分の低い貴族は茶色系の服装を選ばされる。そして貴族の色とされる青を身に着けられるのは王族かその親類である公爵家のものに限られるらしい。そのなかでも身分立場で飾り紐の数や縛り方、束帯の締め方、その色の色合いの深さなども決められているそうだ。
青の次に高貴とされる青緑は侯爵家、緑は伯爵家、黄緑は子爵家、男爵家は黄色ないし茶色。マントの色で赤をまとえるのは伯爵以上とされている。赤いマントは平民を盾にする意味がある。だから貴族の禁色である青いマントは王族にしかみとめられない。
なぜ赤や茶色が身分が下がるほど用いられるかというと、それは平民の血の色とされるからだ。また茶色は土の色であり、貴族的には汚らわしい色とされる。
そのいろを身につけさせられている男爵の立場の低さを感じさせられる話だ。それ以下の準男爵や騎士爵なども相応にひくいとされる色を身につかさせられる。
そのことをハインダール子爵から聞いた私は貴族をやるのも面倒ごとが多いのだなと思わず息を吐いた。
禁色の色の扱いも時代と国によりまちまちだが、バールデン共和国とバールデン共和国が独立したハイザンス帝国ではほとんど変わらないだろうということだ。
ちなみに帝国とバールデン共和国は犬猿の仲だそうだ。
帝国においてバールデン共和国は敵国と相対している辺境域の領域であり、国境線をまもるためにかなり負担を強いてきていた歴史があるそうだ。そのため逆に独立を支援した国境線側の国家であるベネラード王国とは友好関係にあるそうだ。
それ以外にも連邦制の国民国家のルートリア連邦と帝国は国境線をめぐって対立しており、その関係でバールデン共和国と友好関係があるらしい。
ベネラート王国としてはハイザンス帝国との国境の緩衝地帯となる場所に友好国家のバールデン共和国を成立させることで、自国の盾として、また経済的植民地として利用する意図があったことが透けて見える。
このあいだの内乱騒ぎの際には、ハイザンス帝国が国境線に軍を派遣してきており、それとギデアン公爵派が呼応するような動きを見せたことが軽い刑罰で事を収めた要因らしかった。
【ルエル】の宙域は一応ハイザンス帝国側に位置するが、中継惑星がなく、帝国でもさらに辺境域とされているため、空白地帯となっているそうだ。帝国以外もノーレタス通商という国があり、そことの国境線でもあるらしい。
いずれにしても我が子には無事育って、できることなら幸せに天寿を全うしてほしいと願うばかりだ。
この日、私はレリアと久しぶりに一夜を共に過ごし、やや疲労感があるなか、朝食をとって、我が子ををあやしてから、執務室へ向かった。
のんびりと申請書のテンプレートの画面を確認し、可、不可をサインしていると、呼び出しブザーもなしにレリアがドアを開いた。
「レーダーに大多数の艦船の反応を関知しました。偵察艦隊による偵察結果を待っていますが、相手の船にマークされた国旗からハイザンス帝国の艦隊です。敵の総数およそ二万五千隻です。」
我が独立勢力である【ルエル】とハイザンス帝国との闘いがこうして始まった。
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