第3話 ハイザンス帝国との戦争

 レリアにつれられるまま、ブリッジへ私は向かった。幹部級クルーにはすでに招集をかけているそうだ。

 ブリッジに入ると席にも座らずレイナを除いたメッサー運輸の面々が難しそうな顔をしながら、大スクリーンに表示された敵艦艇を睨みつけていた。

 ローディが口を開く。

「・・・こいつはまいったね。コロニー運営開始以来のピンチじゃないか?」

 それにたいして私も答える。

「まあな。とりあえず、会議テーブルですわって相談だ。」

 ブリッジの後ろの方の高くなっている場所に参謀会議用のテーブルがあり、提督席からブリッジ全体が一望できる。

 レリアにまずはきく。

「向こうからの通信はあったか?」

「向こうからはこのコロニーの引き渡しと、戦争への協力要請がありました。論外です。」

 レリアの論外の言葉にその場が弛緩した。

 ジェフリーがくつくつわらっている。

「・・・・あの数を見て論外とはレリア嬢ちゃんもふくなぁ。で、だ実際のところ勝ち目はあるのか?」

 レリアが頷く。

「乱戦になると消耗戦になるので、遠隔攻撃でまずは相手を叩きます。こちらの汎用戦艦はおおよそ二千五百隻、汎用巡洋艦は五千予百隻、駆逐艦が一万五千隻、それに加えて、強襲艦隊が八千隻あります。あと打撃空母は千五百隻あります。数の上ではこちらがすでに上回っています。」

「それらを順次展開させていくわけか?」

 私の言葉にレリアは頷いた。

「すでに展開は開始しております。が・・・・私としては、久しぶりに本艦の要塞砲を使用することを提言します。」

 要塞砲と聞いて私は何とも言えない気分になった。

「・・・要塞砲は射程がながすぎやしないか?」

「敵後方の後詰の部隊もつぶせれば御の字です。」

 私が射程の長さを指摘したのは、この船の最大砲である口径5kmの要塞砲は電磁加速で光速を超えるプラズマを投射する、要は荷電粒子砲だ。光速を超えると、周りとの干渉性がやたらおちて打撃にならない場合が多いが・・・・この粒子砲は途中での熱崩落などで拡散度が馬鹿にならないのである。つまり、直撃しなくてもダメージを与える。

 そのため艦載機は砲撃時には出してない事が必要になる。撃墜とまではいかないが、電子機器を用いる場所に致命的なダメージがでる。光ネットワーク機器だとダメージは小さいが、それでもないわけではない。

 ECMAを起こす大砲なのだ。

 ゲームでこの大砲を設計したのはロマン砲主義者の友人だが、船体が大きいからと、砲までここまで大きくする必要があったのかといまさらながら思う。

 しかもすべて展開式の回転砲塔で、普段は装甲の下にかくれているが、展開すると回転砲塔が装甲が割れでてくる。しかも三連砲塔を二十三個この船には搭載されている。砲身もながく、プラズマ砲弾を安定化させる電磁コイルがその内部にはりめぐらされている。

 したがって、それこそ惑星事つぶせる。そんなことはやらせるつもりはないが、やろうと思えばたいていのことはできる。

 ただ、この船をうごかしても銀河全体規模の政治からすると小さなものだろう。

 考え込んでいる私たちのところへ、レイナがやってきた。後ろには赤ん坊二人をいれたベビーベットのカートがついてきている。

「な~に深刻ぶってるんだか?」

「いやな、こういう兵器はつかうべきかまようんだよな。」

 ローディが私の心情を代弁してくれた。

「馬鹿なこと言ってないで、相手に最後通告して、やっちゃいなさいよ。この子たちの未来がかかってるのよ?日和ることは許されないわ!」

 さすがに母はつよしだ。レイナにそこまで言われれば、例え大量虐殺になろうとつかうしかない。

「戦争に死者はつきものです。そして主義主張は勝者にしか与えられない。」

「わかった。相手の要求を否定し、最後通告を行う。」

「音声を送る必要もないですね。電文で通告します。」

 それから相手からの罵詈騒言が送られてきたらしい。

『弱諸勢力がいきがりよって!緒戦の露とはらってやる!!』

 そう聞こえた。

 レリアの言葉がそのあとつづく。

「主砲展開終わりました。」

「撃ち方用意。第一目標中央部敵総旗艦。」

 それから皆を眺めてから皆が頷く。

「撃ち方はじめ!!」

 私の声とともに画面に白い射線がはいった。熱崩落したあとの粒子が様々な波長の光を崩落でさらにおこし電磁波の嵐をおこしている。

 オペレーターのアンドロイドが感情をこめないようにしつつ答えた。

「敵旗艦沈黙。消滅したものと考えられれます。」

「要塞砲に障害は?」

 私の報告要求にオペレーターが答える。

「一切異常はありません。」

 正面の大スクリーンのわきに要塞砲の過熱具合や膨張具合などを表示するグラフが現れたが、過熱も起きておらず、膨張もおきていなかった。

「連射はどの程度できる?」

 そのことばにレリアが答える。

「おおよそ五時間ほど連射が可能です。」

 すこし私は考えたが、ここは削れるだけ削った方がよいだろう。

「確認できる敵艦隊すいべてを要塞砲で削る。各要塞砲塔は連射モードで打ち方用意。標的は各自に任せる。敵艦隊を敵射程外から削れるだけ削れ。」

「アイアイ。」

 いまごろ相手の艦隊の指揮官たちは大混乱だろうな。

 そんなことを私は考えていた。

「戦争ってこんなものだっけ・・・・・。」

 そのエリーの言葉に私は首を振る。

「むしろはじまったばかりだよ。これからがむしろ戦争だ。攻め込まれて迎撃するだけでは被害が増えるだけ。必要なのは相手を攻め潰すことだ。レリア、侵攻部隊の用意はできるか?」

「現在全力展開をしていますから・・・相手を始末してからになると思います。移動戦闘コロニー二十五機の構築を開始しますね。」

「ああ・・・・頼む。」


 それから一時間ほどして、光子場レーダーや重力子レーダーにもほとんど反応がなくなると、展開していた艦隊を前進させた。

 打撃空母群からは艦載機が次から次へと射出される。散発的だが戦艦の主砲が火を吐く。

 相手の艦艇はあまり残っていなかったが、逃げ惑う暇を与えず、護衛戦闘機に守られた攻撃機がつぎつぎとデブリに変えていく。

 いきなり掃討戦となったが、この程度が帝国の総力であるはずがない。国土が広い分投入できる戦力は限られるだろうが、こちらに攻めてきた艦隊は前衛二万五千に後衛一万五千ほど。おそらく露払いの艦隊だ。

 かつてのバールデン独立戦争の際には帝国側が三十万隻を投入したという記録がある。

 それから考えるとまだまだ序の口だ。こちらは相手の補給拠点を陥落させ、相手の行軍能力を奪っていく必要がある。

 正直二十五機程度のパールレーン型移動要塞では足りないだろう。だが、これで私の腹も決まった。平和でいこうと考えていたが、降りかかる火の粉を払うにはなまっちょろいことはいってられない。

「レリア、新たな生産拠点の拡充計画を最優先で立ててくれ。そのかわりパールレーン型の生産は十機におとす。このバランスで占有宙域を拡大する。」

「多少の修正は必要そうですが・・・・・急がば回れですね。補給線の確保のためにも生産拠点の拡充は必要です。全面的に賛成します。」


 それから一週間後、こんどはバールデン共和国から連絡が入った。係争区域で帝国艦隊と交戦に入り、膠着状態に陥ったらしい。子爵のハインドからはパールレーン型戦闘コロニーの戦地への移動要請が来たが、あそこの場所を帝国に攻められるのはまずいので拒否し、代わりに要塞内に保有していたペルセウス級移動要塞を派遣することにした。この要塞は全長2000kmの巨大要塞で、基本的に860万kmもある【ルエル】からすれば艦載機みたいなもので、合計27隻搭載している。流線形の長い戦艦型の要塞だが内部型宇宙港もそなえており、基本的に後方で物資生産を行い、孤立しても補給線を支えるのを目的に設計されている。

 戦艦型になったのは設計者の友人の拘りらしかった。素直に空母型にしておけばよいものをとギルドマスターと二人で詰った覚えがある。

 そのこともあり単体での砲撃性能は群をぬいている。補給用ならそこまで砲撃できる必要はないだろというのはギルドマスターのセンリの言葉だ。この船が砲撃をするような事態になればそれはすでに戦略的に負け戦だ。

 まあ・・・防御が高いので継戦能力が高く、別のギルドからは不沈のハチの巣と嫌がられた覚えがある。延々と小型艦艇を生産して吐き出すことからの命名だ。

 アンドロイドの生産能力もありこの要塞一隻だすだけで恒星系を一個落すのには十分すぎる。

 しかし一隻だけをだすことにレリアは難色を示した。

「一隻だけだと不測の事態に対応できません。追加で三隻派遣することを提案します。」

 四隻もだすのかと正直思った。

「ペルセウス級は生産工程が確立されているので、補充はいくぶん楽です。【ルエル】内大型ドッグで生産すれば、外部生産のパールレーン型とあわせて月産十五隻は可能です。」

「要塞のがわだけつくってもいみないだろ?」

「搭載する艦艇を標準生産型に限定すれば、搭載する艦艇もあわせて生産してこの数です。搭乗するアンドロイドについても標準化作業を進めてますから・・・一か月以内に規定人数を生産できます。」

 全力生産をするということかと私は思った。

 艦船の大量生産は【ルエル】の得意とするところだが、二千キロメートル級のペルセウス級を大量生産となると、正直引く。

 そこまでするとなると銀河系を制覇するつもりなのかと思わなくもない。

 結局レリアに押されて私は生産計画を了承した。これにともない外貨用の生産物の一部が見直されたが、経済圏を維持する部分があり、休眠させていたペルセウス級をこれらの生産に充てることで解決を図った。

 よくよく考えてみると、搭載艦の多くを私はまだ塩漬けにしている。ギルド仲間のワンオフ艦はさすがにだすわけにはいかないが、というか癖が強いので私にはあつかえないが正しいが、標準化された艦艇については活用度をあげるべきかと考えた。

 しかしそうなると人手が足りないのでアンドロイドの生産計画を見直すことになる。

「だいじょうぶですよ。標準艦艇については順次稼働状態にしていくのは既定の路線です。生産計画にすでにそれは入ってます。」

 私はレリアには頭が上がらないなと再び思った。



 送り出した偵察艦隊から、帝国側の映像が傍受され中継されてきた。

 正面には黒いダブルボタンで肩章のついた軍服をきた男性がすわっていて、その両側にも制服の男性が立ってる。真ん中の男性は軍帽をかぶっていることからおそらく艦隊全体の提督、おそらく大提督にあたる人物だろう。

『ビグメルマルト中佐、ラグワンドの率いた艦隊が壊滅とはどううことか?』

 もう一つの映像には左膝をついて右手を胸に当て、左手を床に当てている黒い制服の男性が映っている。わきには制帽らしいものが床におかれている。

『文字通り粉砕されました。我々は起こしてはならない獅子を目覚めさせたのかもしれません。映像を送ります。』

 続いて【ルエル】の要塞砲が次々と帝国側の艦艇を消し飛ばしていく様子を移した映像が映し出された。

椅子に座ていた男性は目を見開いていた。

『元帥閣下、ご覧のように射程外から艦艇は消し飛ばされ・・その砲撃は一度だけでなく二時間も続けられました。そしてさらに通常艦艇と思われる艦艇による執拗な追撃が行われ、帝国の前線基地である恒星系バイマルシュタットは彼らにより占領されました。私がここにいるのはバイマルシュタットの有志によって駆逐艦をつかって逃がされたからです。ほかの艦艇はすべて破壊されるか接収されました。将兵も捕虜は取らずにほとんどが殺されています。』

『・・・まさか・・・。バールデンがこれほどの戦力を保持しているとは・・・・・・・。』

 元帥のその言葉に相手の士官は顔をあげた。

『恐れながら申し上げますが、我々を粉砕したのはバールデン共和国ではありません・・・・その手前にある巨大コロニーである独立コロニー【ルエル】によるものです。先ほどの映像でいくつもの巨大砲塔を向けていたのがコロニールエルそのものです。』

 元帥は目を見開いた。

『まさか我々が・・・一コロニー勢力程度に敗北したとは・・・。』

『さらに申し上げると、コロニー側は砲撃の前に艦載している艦艇を展開し・・・。』

 【ルエル】から艦載されている戦艦や空母の艦隊が出てくる様子の映像が表示された。

『その総数は三万隻を超えていました。戦闘コロニー・・・いや・・・巨大戦艦【ルエル】を戦力に加えるなら戦艦換算で二十万隻はひつようになるでしょう。これは必要な護衛空母や巡洋艦などの補助艦艇をぬいたかずでです。広いところで戦えば、要塞砲の餌食です。』

『閣下、ご決断を・・・。』

 元帥は部下のそのことばに右手を挙げて黙らせた。

『相手の進軍はとまっていないのか?』

『残念ながら・・・・・すでに第六ラインを越え、帝国領内に侵入を果たしております。』

『敵の目的はなんだと考える?コロニー都市なら補給がなければ戦えまい。』

『残念ながら継戦闘能力は非常に高いと考えられます。こちらに進軍してきている巨大戦艦五隻は各々が二千キロメートルを超え内部に工場を有しており、エネルギー生産や物資生産すら行っている様子です。この巨大戦艦を堕とさない限り・・・進軍は止まらないでしょう。』

 映像が切り替わりペルセウス級四番館カーティスが映っている。

 そこに元帥の耳元に声がかかった。

『・・・報告中に失礼します。ナイアト戦線において異常事態が発生した模様です。昨日まで戦線確保は出きていたのですが・・・・二千キロを超える超巨大戦艦が四隻現れ、我が方へ突入をはかり戦線が崩壊した模様です。』

『でかいだけなら堕とせばよかろう?』

『それがシールドフィールド形成能力が高く、艦載宇宙船の出入り口を攻撃するしかないのですが、出入りする際にシールドの範囲が広がり、内部構造物への攻撃が困難でした。展開型の出入り口なので隙があるかと思ったのですが・・・・・残念ながら・・。』

 そのことを聞いていた私は眉間を揉んだ。あの船は戦艦の形をしているけど強襲突撃艦ではないんだぞと言いたくなる。本来の目的は後方支援だ。

 レリアのほうをむくとレリアは、しれっと言った。

「防御力が高い為突撃展開用の艦船としての利用もできるようですね。チマチマ守っているだけなのは性に合わないと現地統括AIのスネアが申しておりました。」

 スネアと聞いてため息をついた。自分の相棒サキトのAIで猪突猛進をよくやるAIだったはずだ。性格設定のとくせいに猪突猛進をいれたサキトの意図はそのほうが楽しいからのひとことだった覚えがある。

 レリアになんで彼女を選んだんだと小一時間説教をしたくなったが、何にせよ味方が優勢というのは悪くない。

「・・・どうしてスネアを選んだ?標準型AIでも対応できただろう?」

「彼女の希望です。ご主人様がいないというのは彼女にはかなりこたえている様子です。彼女の本体は宇宙の超安定領域に移しましたから、仮に殺されてもすぐに復帰できます。」

 まさかすでに実現しているとは思わなかった。

「すでにあなたやレイナさん、他四名の情報体送信処理は終えています。昔の人なら神になったと思うのでしょうが・・・・こんなものも科学の延長線上のものごとでしかありません。私は人間でありAIでもある。境目は非常にあいまいです。」

「ぞっとしないなぁ。まあそれはともかく帝国は二方面作戦を余儀なくされたが・・・・どう出てくるかな?」

「通常なら外国の勢力を呼び込みますね。」

「この状況下でか?」

「はい。それ以外に帝国が存続できる可能性はありません。わたしなら、バールデン共和国の天頂方向にあるイエルギー王国を引っ張り込みます。帝国とは浅い関係ですが、イエルギー王国と我が国は国境紛争を抱えてます。背後を切り取り次第といえば喜んで飛び込んでくるでしょう。」

「・・・それをいままでしなかったのはバールデン共和国全体が過去にハイザンス帝国の領土であったことに拘りがあったからだな。」

 レリアは頷く。

「・・・しかし現状は逆侵攻をうけて国家存亡の危機です。しかも二方面からです。バールデン共和国の軍だけでも引かせることができれば・・・・全兵力をこちらに回せます。時間はかかりますが総兵力は四十二万隻程度になると。」

「となると、それに対する有効な手立ては・・・」

 この周辺銀河の宇宙図表示する。ルエルの占領地と領土は青、バールデン共和国が緑、ハイザンス帝国が赤、そのかの国は茶色だがイエルギー王国をピンクに色分けした。

「途中をすっ飛ばせば・・・ハイザンス帝国首都星系の包囲殲滅は三日で行えます。私としては後々の統治の事を考えるとこれがベストだと考えます。ペルセウス級を十五隻派遣してください。」

 レリアの言葉によるとこのまま総力戦で戦っても勝てるが、それだと占領地に残るのは荒地ばかりになりうまみがなくなる。人が居てこその国であり、領土であると。

 そして帝都を占領したらハイザンス帝国皇帝に帝位を禅譲してもらうというのがベストだとも言った。

 果たして禅譲などしれうるだろうか?

「禅譲がなければ、帝位継承順位があろうとなかろうと帝室の血が流れている人間すべてを根切りするだけです。その場合占領に時間はかかりますが、確実に勢力を伸ばしていく。ただそれだけです。」

 貴族制度のある国では、貴族とは知識階級であり、なおかつ政治と産業の担い手である。したがって帝国を占領した場合、なるべく貴族を生かす必要がある。そのうえで義務教育などを一般市民に広めて、貴族の独占していた教育というものを開放し、政治と産業の担い手を貴族以外にも広めていく手順が必要だ。そのなかで反抗的な貴族は一族根切りという対応を取らざるを得ない。

 生かしておけば将来の禍根になるからだ。殺すなら徹底し、殺さないなら寛容にという両極端なやり方をする必要がある。

 うちのアンドロイド軍が進軍し制圧した恒星系は十を超えた。そろそろ補給の限界点だ。追加のペルセウス級を派遣する必要がある。

 航路の重要拠点には直系6500kmの球形防衛要塞シームルグ級を構築中だ。

 この要塞は移動はできないが、防衛能力が高く、艦隊を駐留させるのに適している要塞だ。

 もっと大きな要塞もできるが・・・いまはとにかく一定上の規模であれば数がほしいのである。


 そして、三日後、ハイザンス帝国帝都ルクサンド制圧作戦が発令された。強襲突撃艦を前面に配置して、敵防衛網を食い破り、進軍していく様子がブリッジの大スクリーンに映し出されていた。まさかとおもったが、相手のレーザーやら実弾兵器やらはペルセウス級のシールドをまったくやぶることができないでいる。

 このために準備した十五隻のペルセウス級は、敵の攻撃をものともせずに敵陣をとっぱしていっている。

 随伴艦隊に被害はでているが、予想より軽微だ。相手が何が何でもペルセウス級を堕とそうとやっきになっているのがわかる。だが無補給で二百年以上航行できる移動生産拠点であるペルセウス級十五隻にはまったくあいてにはなっていない。

 いくつかの恒星系を過ぎて帝国側は兵力の再編成に着手したようだが・・・・前線の戦力は帝都決戦には間に合わないだろうというのがクーレリアの出した算出結果だ。

 業を煮やしたのか、帝国側は手を変え品をかえ、新型兵器を次々と投入してくるが、被害が出るのは小型艦艇のみだ。しかもその搭乗員はコピーAIをのせたアンドロイドで、意思決定は宇宙情報システム経由なので、その素材がむだになったくらいだ。

 そして一カ月後、帝都遠征艦隊はハイザンス帝国首都星系ルクサンドを完全包囲し、その刃をついに剥いた。

 次々とペルセウス級から宇宙船が吐き出されていく。帝星ルクレリア防衛用の衛星砲がいくつも配備されていた。その砲撃で次々と強襲降下艦が撃墜されていくが、それにきりはなかった。

 全方位から生産された艦艇が次々と進発されていく。

 ある意味悪夢だろう。そのうち要塞砲のほうが砲身過熱や、プラズマ炉に異常をきたして沈黙していく。


 その様子をスクリーンで眺めながら、不意に懐かしい光景だと思ってしまった。あれはゲームの中のはなしで現実ではないが、同じような光景を見たことが何度もあった。

 やはり戦争は準備に八割というのは間違いない。

 こちらが優位なのもイレギュラーがあまりおこらないのも入念に準備した結果だ。


 結局ラグサンドラ皇帝宮殿に突入したときには皇帝ビールム十二世は自害しており、脱出しようとした皇子たちはすべて殺されることとなった。

 残ったのは十三歳の皇女だった。

 残っていたのが十三歳の皇女と聞いてなんとなく嫌な予感がした。私は戸籍の上では十七歳だ。四歳差の結婚はこの世界では割とよくある。そして敗残国の姫をめとるのは勝利国の君主である。

 どう断ろうか考えたが、政治的に無理がありすぎる。【ルエル】の事を考えれば、いたいけな少女を娶ることになるだろう。

 やはりというか二週間足らずの間に、帝国の国教であるカナレル教の帝都ルクサンドラ大聖堂の司教が皇帝即位の為の杯や冠、指輪など小道具ともに【ルエル】に送られてきて、それだけではすまず、唯一の生き残ったラパーム皇女とまずは結婚式を、なぜか【ルエル】にある大聖堂でひらくことになった。

 来賓として招待されたのはバールデン共和国のハインダール侯爵派とバラード公爵派の伯爵以上の高位貴族、あとは占領地で生き残っていて協力的だった帝国貴族達だ。

 大聖堂での結婚式は近いの接吻まで滞りなく終わった。そのあと三日三晩披露宴がありヘトヘトだったが、まだ続きがあり、今度は私の帝位継承と帝位戴冠の儀式だ。ほかにも三つほど儀式があり、儀式詰めで一カ月はかかった。

 私が新たな結婚と皇帝位についたが、当然のごとくそれに賛同など望めるべくもない。

 だが、【ルエル】の占領地は安定しており、少しづつだが帝国内にその版図をひろけつつあった。

 その後レイナの願いで私とレリア、レイナの結婚式を帝国から来たバルセルク司教に依頼して開いてもらった。みうちのごくごく小さな結婚式だったが、二人に喜んでもらえてよかった。

 帝国の領土は戦前の時点二百二十六あり、そのうちの四十六が直接【ルエル】が占領を行い皇帝家の直轄地というあつかいになっている。あとの百八十のうち八十四が腹の中でなにをかんがえているかはわからないがこちらに恭順を示し、あとの九十六が無視か、反抗をしている。反抗勢力の旗頭はドレンド公爵家と、それに対抗したミッテラス侯爵家だ。ドレンド公爵家は帝室の分家にあたり、またミッテラス侯爵家は先代に皇帝家の第四王女が降嫁しており、当代は死んだ皇帝と従兄弟の関係にあった。

 どちらも後継を名乗る資格はあるわけだ。

 だが、それがわかるとすぐにペルセウス級より大きなタルタロス級要塞艦を派遣することになった。タルタロス級要塞艦は、100kmの小型の要塞艦を複数搭載しており、同時に展開できる艦隊数は百二十個艦隊を超える。

 結果がでるまでいましばらく時間がかかるが、その間、皆に休暇を取れと言われたので、総指揮はレリアにまかせて、ラパームにどうにかお茶会をひらくことを了承させ、二人だけのお茶会でラパームの本音を聞いてみた。

 ラパームは母親が身分の低い女性だったため、宮殿での扱いは決して良くはなく、離宮を与えられてそこで過ごしていたそうだ。母親のことは誰に聞いても教えてもらえず、ずっと孤独になりながら過ごしていたそうだ。

 せめて父親に認められようと勉強やダンスに力を入れていたが、父親は離宮を与えたあと結局一回も離宮を訪れず、寂しい思いをしていたそうだ。

 結婚に同意したのも、これで一人ではなくなるとおもたからだが、夫の私はたまに会いに来るが、それほど頻繁ではなく、それゆえに非常にさみしい思いをしていたそうだ。

 私が仕事にかまけていたことをまざまざと見せつけられた気がする。必要なこととはいえ、家族生活を疎かにしていたことを反省した。

 そしてラパームと毎日顔を出し合う約束をした。あとラパームも何か仕事をしてみたいそうだが、さすがに十三歳の少女に仕事を割り振るのは気が引ける。

 どうしようか考えて、苦肉の策に毎日執務室とブリッジにつれていくことにした。

 仕事の邪魔になるかもしれないが、実際にどんな仕事をしているか見せる必要がある。それを眺めていてつまらないな仕方ないが、物は試しだ。

 それから数日レリアやレイナと一緒にラパームと商業区に出かけたり、仕事を見せたりして過ごした。

 もちろん朝夕は幸雄と愛奈を抱き上げたりあやすのを忘れてはいない。最近二人は立てるようになり、トイレットトレーニングの最中らしい。

 レリアの勧めで、乳幼児用音感教育をうけさせたり、カラー積み木などを与えて空間把握能力を鍛えたりできるようにしたりもした。レリアは仕事で体があかない事が多いので、レイナが二人を見ていることが多く、幸雄にレイナがママと呼ばれているのを見てレリアがめずらしく落ち込んでいたりした。


 反抗的だった残りの貴族領をこの日完全に制圧した。これで、ようやく落ち着いて内政のターンかと思ったら、ギデオン公爵派が完全に武装蜂起し、バールデン共和国内が完全に内乱に突入した。

 そんななかハインダール子爵家のハインツ子爵が、ハインマール公爵とバラード公爵の派閥が合弁したのを機に【ルエル】との仲介を頼まれたというのだ。

 仲介内容をきくと、軍事支援とその見返りに、ハイザンス帝国への復帰、つまり【ルエル】への恭順だ。

 いくらなんでも売国行為なのではと私は思い、そのことを指摘すると。

『貴族ってやつは強いやつに群がる習性があるんだよ。この間の一件で私も借りた船であちこちあばれまわったからな・・。』

 あばれまわったってハインツは何をしたんだ?

『なに、侵攻してくる帝国軍を殲滅し、それと迎合しようとしたギデオン派閥の貴族を締め上げて、その背後のメッサリーナ同盟に逆侵攻しただけさ。』

 わたしは思わず眉間を揉んだ。それはやりすぎだ。相手の補給拠点をつぶすくらいで撤退しておけば、ギデオン公爵派もまだ一か八かの賭けに出るほど追い詰められなかったはずだ。

『ペルセウス級の補給能力はすごいね。完全に孤立しても軍をそのばで再建できちゃうんだから。』

 そういう目的の船だ。死のハチの巣の二つ名はだてじゃない。

『わたしとしてはそっちに合流するのは大賛成なんだけどさ。なにせ借りが大きすぎて、かえすあてがなくて困ってる。』

「昔のさやに納まる・・・・で済めばましかなぁ・・。」

『そりゃ無理だ。周りの国はかなり警戒しちゃってる。おまけに帝国の崩壊で宇宙条約機構が有名無実化している。散々仲介をこちらから頼んだのに、一切成果がなかったからね。次は、メッサリーナ同盟の攻略を終えればおそらく山を越えると思うよ。』

「しかしなぁ・・・・」

『すぐに船を返せって言うならかえすけどさ・・・いま僕のいる恒星系の補給はペルセウス級八番艦のノエリアに頼りっぱなしだ。』

「そんなことだろうとは予測はしてましたよ。」

『そうだろうねぇ。』

「引き上げるにしても製造プラントをこうちくしてからでないとダメですね。それにそこはまだ敵地ですよね?」

『その通りだ。バールデン共和国の国境域からおおよそ五百二十光年の場所だね。』

 主力がバールデン共和国の本土から十分に離れてから、ギデオン公爵派は決起したとみていい。

 留守の間の火事泥棒ねらいだ。

『ふつうだったらここで補給が途絶えて困るところだけど・・・・ペルセウス級のおかげでそうなっていない。』

 相手の思惑は撤退してきたところで挟撃して撃滅するというのが計画だろう。だから逆に侵攻を続けられると、メッサリーナ同盟は詰む。

 背後で動き回っている連中を潰してほしいというのがバールデン共和国の大多数の貴族の思惑。逆侵攻をしたことで、貴族達にも戦争で恩賞にありつける可能性がでてきたといったところだろう。

 すでに何度かハインダール子爵領に侵入しようとした艦隊をハインダール警備保障の艦艇が壊滅させている。

 メゾン・プライム・コロニー方面でも争いがあったようだが、そちらもこちらの派遣した護衛艦隊が蹴散らしている。

 これは仕方がないなと思った。状況を落ち着かせるためには一度徹底的に膿を出した方がいい。

 幸い戦力の生産は続けており、ペルセウス級が七十五隻できている。

 搭載艦隊の数もそろっており、バールデン共和国の正式な許可が下り次第、艦隊を大々的に派遣しよう。

 帝国との戦争が終わったが、次の戦いがはじまってしまっていた、とテーマが流れるところだろう。私の心の平安はいつくるのだろうか・・・・・・。

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