第12話 宇宙旅行と銀河半分の新秩序

 ヘンリック連邦の滅亡とともに、この銀河のαセクター領域における戦争は、事実上の休戦状態になった。

 やはりヘンリック連邦の滅亡は、かなりショッキングだったらしい。現在我が国はαセクターの六割を領有している。

 それと同時に、我が国のαセクター領土とβセクターの領土に挟まれるようにしてあるαセクターの友好国とのさらなる融和を図っている。

 これらの国は前述したようにヘンリック連邦と南華条約機構との代理戦争において前線を果たしていた国家群である。

 軍事に生産を割り振っていたため食物生産が少なく、また、軍事物資と生活物資の両方をヘンリック連邦に依存した形にされていた。

 そのため国も国民も貧しく、質実剛健といえばいいが、内実は貧困にあえいでいたといっていい。

 それらの国の立て直しを我が国の支援で行っていた。

 こういう場合自立させないようにして併合するというのも手ではあったが、戦争時に我が国に賛同してくれた恩がある。無下には扱いたくないというのがルエル幹部クルー会議での結論だ。

 そのため生活物資生産のためのプラントや、その基礎となるマザーマシン製造のための精密機器などを支援として援助して、国の立て直しを大々的に支援してきた。

 それは戦争時も変わらず行ってきた。

 その成果が徐々にでてきている。ただ、一部の国で汚職があり、支援物資などを着服していた勢力がいたりで、完全に成功しているとはいえない面もある。

 そうした国家と友好を深める一方、αセクターの残りの2割を占める国家、旧宇宙条約機構所属国だが、この度正式に、宇宙条約機構の解散を宣言することとなった。

 その式典は我が国の領宙となっている旧ヘンリック連邦首都特別区の恒星オタワの都市タナスで行われることとなった。

 その式典に私は、旧ヘンリック連邦の代表代理扱いで出席することになり、今回、初めて我が国の総旗艦として建造した戦略航宙母艦ガリアに乗艦し、護衛艦艇を引き連れて初めての宇宙旅行をすることとなった。

 式典に出席するにあたり、子供たちを連れていくか迷ったが、経験を優先して二人とも連れていくことにした。公式訪問なので付き添いの夫人はリエルになった。

 レイナが面倒だからいきたくないとごねたのもある。

「だってさ、パーティとか面倒でしょ。腹の探り合いとか・・。会社関係のパーティですら面倒なのに国レベルとかもう考えたくないレベル。」

だそうだ。

 私としては留守には何かの際に総指揮をとれるレリアを置いていきたかったが、レリア曰く、バイオノイド体のほうが離れても【ルエル】のAIクーレリアとして指揮管理は行えるので問題はないとのことだった。

 なんだかんだで子供たちは7歳になる。私がこちらに来て七年たったわけだ。

 戦争に次ぐ戦争で、拡大政策をとり続けていた七年だったとしかいえない。

 もともとの行動理由は火の粉を払うことが目的の戦争だった。それが勢力拡大や国家拡大になり、今に至っている。

 国家的なリスクを解消するというのは難題だといまさらながら思う。

 子供たちは健やかに成長して、少々二人ともいたずらっ子の気質に育っている。

 子供たちの友人はルエルのクルーの子供に限られているが、それでもそれなりの関係を築いているらしかった。

 二人とも今回の旅行に目を輝かせていた。

「やった!!初めての旅行だ!!」

「うれしい!【ルエル】のお外に出るなんて初めてかも・・・・。」

 私としても旅行に心躍らせたいところだが、実際のところほとんどが公務で時間がとられている。各国の訪問者を歓迎する立場なので、自分は出てスピーチをするだけとはいかないのだ。

 各国代表者を招く歓迎パーティを開くし、条約の締結後にも締結を祝ってパーティを開かねばならない。私の小市民的な感覚から言えば無駄遣いに思えるが、こういったパーティは外交の場であり、また、友好を深めたりする重要な場になる。

 国家元首である以上、避けれないわけだ。

 たぶん挨拶とかでパーティに出ても飯は食えないだろう。そのあいだの食事はサンドイッチを用意していあると聞いている。

 まだ立食パーティで格式をおとしてあるからどうにかなってる部分もある。

 格式が最も高い席順が決まっているテーブルパーティだと、食事をしつつ、自分のテーブルのお客を会話などで接待しなければならない。



 都市タナスの銀河条約機構本部前の芝生の広場で、来賓以外に、一般市民の数多くの参加者の前でスピーチをすることになった。

「みなさん、こんにちは。【ルエル連邦】終身大統領のキョウスケ・クサカベです。私の名前は知っていても、私の顔を初めて見た方も多いでしょう。・・・・・私はこの七年間戦いい続けてきました。最初は独立コロニー【ルエル】の代表として、次にハイザンス帝国の皇帝として、そして今【ルエル連邦】の終身大統領としてここにいます。」

 そこまで口にしてから私は深呼吸をする。

「現在、我が国が独裁制をとっていることに、疑問を持っている市民の方々は多いとは思います。しかしながら残念なことに、現在の【ルエル連邦】は市民参政権を認めるには未熟で、認めてしまえばすぐに滅んでしまうほど脆いのです。その脆い理由は一般国民のインテリゲンチャが、育っていない事が第一、そして制度的に無条件で被選挙権を与える事が宇宙における統治において無理があること・・・これについてはいずれは国民すべてに開かれた無償で政治教育が受けられる国民政治学校を開き、そこを卒業した学生に試験をうけてもらって被選挙権を得る形にするつもりでいます。しかし、道は長い。おそらく私の代でそれを実現することは不可能でしょう。ですが、私は民主政治を否定はしていません。問題は精度的に銀河規模の国家に相応しいものを作るのに時間がかかる事です。」

 そしてまた息を継ぐ。

「今、ここで銀河条約が終わり、そしてまた、銀河ユニオン条約が始まります。これが新たな民主主義の始まりとなることを私は願っています。」

 演説を終えると、最初はまばらだった拍手が、徐々に大きくなっていった。


 その日、【ルエル連邦】歴改め【銀河ユニオン歴】元年、8月5日、銀河条約機構の解散が参加国すべての参道の元調印された。そして銀河ユニオンがαセクターとβセクターのすべての国が参加する形で拡大された。

 この銀河ユニオンは将来的な国家統合を目標とする銀河ユニオン条約で成立された組織である。

 本部は【ルエル】コロニーに置かれた。


 演説とパーティの次の日の午前中、どうにか時間を見繕って、子供たちとリエルと連れ立って、タナスの市街に出かけた。・・・・・まあお忍びとはいかず、私たちが移動する範囲は住民以外封鎖されることとなってしまったが・・・・・。

 警備のアンドロイドが一般人のふりをして歩いていたり、グラカー(反重力車)を運転してたりする。

 なんだかなぁと思うが、銀河規模の国家の国家元首一家の警備となればこうならざるを得ない。

 子供たちは初めての街に、私やレリアの手を引っ張っていく。お金がいくらこの街歩きにかかっているか考えたくはない。

 幸雄は図鑑を欲しがり、愛奈は洋服を欲しがった。図鑑のほうは一冊だけ買い与え、洋服のほうも予算を考え一着だけ買ってやった。

 いくらお金があるからとなんでも買い与えてしまうとこの子たちのためにならない。経済観念を身に着けるのにその辺はバランスが要求される。お金より優先すべき事柄が要人の子息や子女には往々にしてあったりするが、そういう場面は、家計ですませるにしても、家の中でも公ぎみの予算で対応することにしている。

 そのほかに国家行事などは公費で賄うが、家計とは分離する方向で進めている。ただ法律的にその辺は縛るつもりはない。法律で縛ると柔軟性がなくなって、対応しなければならない事に対応できないことになるからだ。あくまで家の中の決まり事ですませる。

 法律でしばると、今回の街歩きの警備の予算を私費で払う必要が出てくる。現在の私に払えないわけではないが、公務員の給与の取り扱いや公務員の立場などで法律的矛盾点が生じてしまう。

 財政規律とはいうが法律でがんじがらめにしてしまうと制度疲労を起こしやすい。


 家族で街歩きをして、カフェテリアに寄った。

 子供たちは二人ともクリームソーダを欲しがり、私とレリアはコーヒーを頼んだ。個人的に好きなミルクレープがあったが、今回はやめておいた。

 しばらくのんびりしていると、警護の責任者のアンドロイドがやってきて、一礼してから伝えてきた。

「カフェテリアでお過ごしされてるお姿を取材したいそうですが、よろしいですか?」

 レリアが頷く。子供たち二人に写真を撮られるけどいいか聞くと、べつにいーよお仕事でしょの一言。

 五分ほどしてやってきたテレビ局のクルーはしばらく私たちがカフェでくつろいでいる様子をカメラに収めると自分たちもカフェの片隅に機材を下して一息つき始めた。

 二人のテレビ局の報道記者らしき男性がちかよってくる。一度目の前で身体検査をされてから、一礼してから、取材させてもらってもいいですかと聞いてきた。

 これも仕事だろうと思いかまわないと答えた。ここにアンドロイドが通している以上、必要性があると認めた合理的な理由があるはずだ。

「それではまず、現在独裁を行っておられるのに民主主義を将来敷かれるおつもりであるという昨日の演説について伺います。まず本当に民主主義を敷くつもりはあるのですか?」

 それにたいして私はあると答えた。

「その理由はなんですか?」

「まず、独裁というが、ひとりでなんでも決めれると思っている人が多いだろう。」

 記者は頷いた。

「しかし、物理的な時間は有限だ。一人が決めれる数には限界がある。考える時間も必要だしな。そのあたりが独裁の限界点だと思う。考える時間が削られるともいえる。沈思実行するには役割分担が必要だ。だが問題点は役割分担をしたとたんに派閥が生まれることだ。分担すればするほど有機的な整合性が失われていく。必要なのは有機的な整合性を維持しつつ、的確な政治を行えるか否かだ。ここで民意と答えないのは、民意を優先すると容易く衆愚に陥るからだ。民主主義の政治家は時には民衆と民意に反対することすら求められるということだ。」

「それは・・・」

「現実に必要とされるのは国民を飢えさせない事、住居を与える事、衣類を得られる環境にすることだ。それらがそろって初めて政治について考える余裕が国民に生まれる。人気取りと実際の政治的施策は別物だ。人気をとるには単純明快でわかりやすい施策を示せばよい。よいか悪いかなんて二の次だ。では実際に良い施策となるとどうなるかといえば、バランスをとる必要性などから複雑怪奇なわかりにくい施策となる。しかしこれでは国民はついてこない。民主主義ではこの部分で矛盾を生じる。それを矛盾が生じないように制度的につくる必要があるということだ。」

「国民の為に、国民に反対する政治が必要ということですか・・。」

「まさしくその通り。」

「では共和制については如何お考えですか?」

 現在の私には答えにくい話題を振ってきたなと思った。

「国内に貴族領を我が国は抱えている。それは否定しようがない。」

 貴族を否定すれば彼らの支持を失う。それは国家運営上の損失だ。しかし、将来的には貴族制度は解体するか、別枠で認めつつも貴族領以外では権限を縮小する形あたりになるだろう。

 これについては貴族だったハインツのほうが過激なこと言っていた。

「将来の貴族制度解体を示して、反対すればおとりつぶしにしちゃえばいい。家に政治教育を任せる時代はそろそろ限界だ。国の制度としてしっかりと政治教育を行う制度にするべきだ。だいたいさ、貴族は役割分担を固定化しすぎるんだ。うちみたいな子爵家や男爵家、準男爵家、騎士爵家などが、実際に戦争を戦い、それ以上の上位貴族が全体を采配する。それぞれの家が身分に応じた教育を行う・・・が実際その教育の程度はピンキリさ。領民を守るから貴族は戦うのと治めるのが仕事とされてるが、世代を経ると上位貴族も下位貴族も三割は腐敗して本来の仕事をしなくなる。しようとても、周りの腐敗貴族に抑えられて没落する。腐敗の率が高すぎるんだ。」

 記者の問いに温めていた制度について説明する。

「貴族領は貴族領として残すが、諸侯会議という別の議会を形成する。その一方で直轄領については・・この旧ヘンリック連邦の領土みたいな場所は、共和制で運営する。そして民衆議会を将来は作り、諸侯会議は拒否権を持つが、最終的には三度の議決で民衆議会の議案が優先される形とする予定でいる。ようは衆愚を抑えるのに諸侯会議がストッパーになるわけだ。」

 まあ明確でないし、過渡期のやり方だが、もちろん最終的には貴族領も廃止し、共和制をしくつもりではある。しかし、わたしの代でそこまではいきつけないから明言はしない。後継者が別の道を選ぶ可能性もあるからだ。

 記者から私生活についてニ、三質問されたが、食事が万能調理器での合成食料だと聞いてかなり驚いていた様子だった。

 居住型惑星ならともかく、農産畜産製品を得るのもコロニーでは楽ではない。合成と言っても、うちの機械でつくる食事は栄養素的に天然物より優れているし、味も悪くない。

 趣味と聞かれて、子供たちと余暇を過ごすことだと答えておいた。

 ほかに趣味といえるのは新型艦船の設計とかだが、こちらは仕事の比重が重いし、評価が微妙になりそうだったので言わなかった。

 取材を終えると一礼して記者たちはカフェのほかのクルーと合流して注文を取り始めた。


 私たちはカフェのあと街の史跡を二つほどまわってからホテルに戻り、翌日すぐにガリアに乗船して帰宅の途に就いた。


 ガリアの自室で地方局のニュースを見ていたが、コメンテイターの反応は様々だ。

 民主主義を目指すことに希望が持てるという人物から、独裁政治を正当化する詭弁だと述べる者から両極端だ。


 三日後【ルエル】に到着すると、子供たちを寝かせてから、さっそく大人は集まって幹部会議だ。

 留守の間特に異変はおこらなかったらしい。

 何も起きなければそれで安心だが、何かが必ず起こるというのはお約束だ。


 私たちが会議しているときに一報がはいった。

「難民を乗せた船団が我が国への亡命を求めてカンセス州に当到着した模様です。」

 レリアのその言葉に弛緩していた空気が吹き飛んだ。

「乗っているのはダーマリア共和国の避難民の模様です。船の数は二万隻を超えております。中には1500m級と、ヘンリック連邦の超弩級戦艦と同じクラスの移民船も多数含まれます。現在調査中ですが、早急に対処をはかる必要があります。」

【銀河ユニオン歴】元年、8月10日の夜の事だった。

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