第13話 難民と難題
難民の受け入れ先についてすぐに会議を始めた。
「まず【ルエル】に収容するというのはなしでお願いします。」
さっそくレリアがぶっこんできた。
「それと新式の移動コロニーも出来れば避けたほうがよろしいかと。」
そうなってくると旧式の移動コロニーとなるが・・・いまてもとで大量に余っているのはペルセウス級の旧型であるⅠ級やⅡ級だ。
しかし、ペルセウス型は軍事要塞の側面が高い。
ロディが選択肢がないとぼやいた。
「・・・・・・まあこの際、旧式のペルセウス級でもいいじゃないの?収容人数はそれなりにあるんでしょう?一応移動型コロニーだし・・・。」
レイナの言葉にレリアが頷く。
「一艦あたり民間人は8万人は収容できます。」
「そうなると現地に20隻程度おくればなんとなかなるかな。」
二十隻ていどどうということはないし、余ってるのでもっと送ることも出来る。
「軍事コロニーに対する収容は一時的にすべきかと。長期にわたる生活は可能ですが、リスクが大きいと思います。
ただ・・・・現地に送るペルセウス級の旧型は100隻は送るべきです。」
100隻と聞いて皆が首を傾げたが、おぼろげながら自分にはわかった。難民の数はもっと増えるということだろう。
「難民を収容したペルセウス級を、未開拓区域に派遣し、そこで新たに居住コロニーを建造、開拓拠点にすることを提案します。現状では、生活はさせれても、その先の展望がありません。建造する居住コロニーに対する居住権は帰化したもののみとします。祖国への帰還を望むものは基本受け入れない方針でいきましょう。」
難民の帰化か、祖国への帰還かは難しい選択になる。
いま逃げてきている難民は祖国への帰還を望んでいるだろうが、時間が立てば徐々に帰化に傾く人間もでてくる。そうなってくると内部で帰還を強く望む派閥と、その場で生活する派閥、そして帰化を受け入れる派閥などに割れる。
難民に余裕がでてきたころに問題が噴出するだろう。いまは生きるのに必死で、生きれればとりあえずは環境をうけいれるだろう。
もちろん難民を見殺しにするつもりはない。だが、いわば新しい派閥が国の中に生まれるのと同じことになる。
カンセス州のダーマリア共和国との国境地帯にペルセウスの旧型150隻を派遣した。到着は二日後だ。
そして三日後の午後、難民の収容が始まった。
監視カメラの映像をみていると、1500m級の輸送艦や、なかには戦艦にのった避難民たちが、ペルセウス級の内部宇宙港で降ろされて、物珍しそうに通路のあちらこちらを眺めている様子が映っていた。
乗ってきた船自体はあちらこちらに損傷がある。明らかに攻撃を受けたと思しき破孔がある船も多い。
難民たちはペルセウス級の居住区域に案内され、家が与えられるというので驚いていた様子だ。
ペルセウス級のコロニー居住区の住宅は集合住宅はなく、一戸建てばかりだ。そのせいで2000kmを超える大きさにもかかわらず住民の許容人数が八万人と少ない。
もともと軍事的生産拠点として設計しており、そのために居住区をそれほど広くとってないのもある。
収容がおわると、戦艦を収容したペルセウス級タドリスから連絡があり、難民の代表者が交渉を望んでいるとの事だった。
ここへきて交渉ときたか。正直お礼だけでおわることを期待していたが、あまり楽しい話ではなさそうだ。
しかし、レリアがこちらで対応しておきますから、あとで報告はしますが、直に交渉を持たないようにと釘を刺してきた。
まあ、このレベルの国家なら、難民の代表といっても国家元首がわざわざ交渉を持つ必要性はないか。
しかし、難民の代表ね。脱出を主導した人物とみるべきか。
その日の夜、夕食のあとの報告会でレリアが難民の代表者との交渉についての経過報告をしてくれた。
一人の男性の姿がフォログラフに映し出される。難民の代表者イワン・カイ・フォグラムトという52歳の男性で、ダーマリア共和国宇宙軍大将らしい。役職は統合軍参謀本部参謀本部副本部長とかなり職責は高い。
彼の話によると、先日、隣国サナルガンド連邦軍と戦争中だったそうだ。では戦争に負けてかと思ったが、事情はそれより風雑だった。
同じく隣国で同盟国であったトリアナ王国軍の宇宙艦隊が前線の支援のためにダーマリア共和国の首都ネイトリア付近を航行中に突如、首都に攻撃を仕掛け、首都が占領され、それと呼応するようにサナルガンド連邦軍が多方面から攻めてきたそうだ。
軍事惑星にいた軍はほぼ無傷であったが、多方面の軍勢に敗戦を重ね、軍事惑星を頼ってきた民間人を保護していたが、補給線が維持できなくなり、統合軍参謀本部総参謀長であるジェレット・ラサ・ハイマン元帥の命で国外に脱出したそうだ。
そこまではまあ、事情を話されればある意味仕方ないなというかんじだ。問題はこの後だ。
「フォグラムト大将は、亡命政府を提供されたコロニー内に樹立することの許可、祖国奪還軍の編成をすることの許可、またそれの軍事的な援助、の三つを求められました。」
正直お話にならない。難民の受け入れは認めよう。住まいとなるコロニーの提供もしよう。食料や衣類の提供もしよう。だが軍事支援や亡命政府の樹立は頂けない。
そんなことを認めた瞬間に、ΔセクターやΘセクターの国家紛争に我が国が首を突っ込むことになる。
「・・・・正直いうが、我が国に利益がまったくない。ダーマリア共和国の独立を支援して何が得られる?ぶっちゃけいってしまうと隣国纏めて侵攻して併合したほうがまだ利益がある。」
テリー老が苦笑いをした。
「まあ、そうじゃろな。」
「支援したところで我が国のとなりに紛争地帯を造ることになるだけだ。それだと不幸の再生産にしかならない。」
レイナとローデイが半笑いの表情だ。ジェフは何かを考えている様子だ。ラパームは大きくなってきたおなかを撫でながら、戦争はいやですねと一言。
「・・・なにか侵攻の口実が欲しいところだね。」
ハインツは毎度のごとく過激な事を言う。
「戦争の始末が終わったばかりなのに次の戦争とか嫌だぞ。ほんとマジで。」
私の嫌そうな言葉にハインツはまあそうだよねと言葉を濁した。ジェフが笑いながら言った。
「まあ・・・・あれだ、戦争は避けれそうにないてやつだ。キョスケあきらめろ。」
なんてことをいってくれる。
ジェフは続ける。
「・・この際、ダーマリア共和国支援という名目で、敵方の国に侵攻すればいいだろう。とりあえずの目標は隣国サナルガンド連邦だ。」
「あそことは一応、交易関係があるんだが?」
「そんなもん無視だ無視。」
ハインツが余計な事を言う。
「それだけだと侵攻の名目が弱い。このさい難民たちをつかってむこうの大将閣下には、ダーマリア共和国の併合に調印してもらおう。」
あくどすぎると思うのは私だけだろうか?
「支援を打ち切られたくなかったら、併合に調印しろと迫るのさ。いま安心して生活しはじめた難民たちにとってこれはきつい言葉になるだろうが・・。追い出されたくなかったら調印しろというわけさ。」
確かに、侵攻の大義名分は立つ。併合地の奪還や、ダーマリア共和国の敵対国家への侵攻を行うには都合がいい。
しかし、感情的には受け入れがたい。
私が難しい顔をしていると、レイナが追撃の一言いう。
「キョスケさぁ、ダーマリアには縁もゆかりもないでしょ。私たちは。」
戦線を拡大させないために私は徹底してΔセクターやΘセクターの国家とは不干渉を貫いてきた。
「正直、難民を支援することにたいする利を得たいのよね。私たちは生産すればするほど豊かになる技術はもってるけど・・・対外的には、利を取らずに支援するというのはまずいのよ。一度認めれば、他の国やほかの勢力が付け入れる隙だと判断する。そんなものの相手をするくらいなら悪評を得たほうがまだましというもの。」
それまで黙っていたレリアがまとめるように言う。
「それではダーマリア難民団には難民支援の代償としてダーマリア共和国の併合をするように交渉し、亡命政府樹立や、軍の編成は一切認めない方針でよろしいですね?」
ラパームの顔に視線をわたしがむけると、小さく首を振る。やるだけ無駄ということだろう。
そして、幹部クルー会議でΔセクターやΘセクターへ侵攻軍をむけることが決定された。
予想通り、難民団を率いてきた軍人達は強攻に抵抗した。私としてはここまできた以上腹はくくったが、こちら側の二乗としては難民団が粘ろうが構わないという立場だ。
そうこうしているうちに第二、第三の難民団や個別の難民がやってくることになる。
ダーマリア共和国軍は劣勢に立たされており、状況は悪化していく一方のようだ。
我が国としても偵察艦隊をいくつも派遣し、ダーマリア各地の状況を偵察していた。
レリアが何かしたのだろう。一般難民からの突き上げを、難民団の代表者の軍人たちが受けるようになる。
私のほうは、侵攻に向けた軍の編成や新式要塞コロニーの設計に忙しい。
そして、三カ月がたって、ダーマリアの軍事の中心惑星ニードレンが陥落したのが伝わて来た頃、亡命難民団の代表を務める軍人たちがついに折れた。
【銀河ユニオン歴】2年、2月3日、【ルエル】の第五国際会議場で、ダーマリアの併合式典が開かれた。
会場で私は五枚ほどの契約書に署名し、むこうの代表団の三名も同じように署名した。
これによりダーマリア共和国は正式に消滅し、ダーマリア共和国の領宙は我が国の領宙となった。実際は相手方の国に八割
方占領されているが、取り戻すのは、造作もない。
そして、その翌日、2月4日、ダーマリア共和国を攻めていたアッケンダー同盟諸国に対して、正式に【ルエル連邦】として宣戦布告を通知した。
アッケンダー同盟はΔセクターとΘセクター合わせて221の地域・勢力の集合体だ。銀河の半分の五分の一くらいの勢力だ。盟主はおらず、リグルナイト連邦が現在代表として議長国をつとめている。
そのほかにもベールゼン血盟とシグナルト民主連合という二つの大きな国の同盟組織がある。
ベールゼン血盟は、伽閥を主体とした君主制あるいは貴族共和制国家の集合で、盟主はグランタニア帝国。
シグルナイト民主連合は国民民主国家の連合だ。一部立憲君主制の国家もあるが、基本的に共和制の国ばかりで、ダーマリア共和国はここに属していた。三つの勢力の中で一番劣勢の国家群だ。
宣戦布告と同時にわが軍の侵攻軍が8っつ艦隊に分かれて、それぞれの国へ侵攻を開始する。
一個の艦隊あたりの動員数は5000km戦略航宙母艦型要塞グリドニア級33隻にペルセウスⅣ級が4万5千隻、タルタロスⅢ級が2万3千隻、一班艦船などが合わせて1235万隻になる。
八つの艦隊あわせて合計動員船籍数およそ1億隻となる。
物量にものを言わせる大艦隊だ。普通、ライトノベルなどだと間違いなく悪役側の布陣だなと私は思う。
ダーマリアへ向かった奪還艦隊の第一侵攻部隊はメセナが指揮をしていたが、一カ月もしないうちにダーマリア全宙域を制圧。そのまま、部隊を分けてサナルガンド連邦とトリアナ王国、それにベッゼハウアー帝国へ侵攻。
一方、後方からはダーマリアに追加のニグレット級750万km移動球体コロニーを派遣。全土で生産拠点を構築を開始した。ニグレット級は新たに標準化を目指している、生産と防御に特化した移動コロニーだ。【ルエル】の860万kmに迫る大きさだ。
生産・流通拠点の整備用といえばいいか。
この要塞は残念ながら巨大すぎて、宇宙空間に建造筐体をつくってそこで製造している。現在大量生産を目指しているコロニーだ。防衛用の兵器はあるが、直接前には出れないタイプのコロニーだ。
標準化作業が終わり次第、各地のダイソン球型要塞での生産を進める予定だ。
レリアによると現在【銀河ユニオン】の参加国から、戦争参加についてしきりに聞かれるそうだ。
我が国としては同盟国に参加されると後始末が大変になるという理由で、参戦を見送るようにはいってある。
それより面倒なのが、同盟国に敵方の国家が攻めてきた場合だ。同盟国を守るには十分な艦隊は用意してあるが、どんな問題が起こるかわからない。
あと、アッケンダー同盟と、シグルナイト民主連合に接触があると我が国の諜報機関の一つであるバールデン情報局から報告があった。バールデン情報局はその名の通り、旧バールデン共和国の情報局を母体に拡大させて作った情報機関だ。
シグルナイト民主連合は、ダーマリア共和国の併合を敵対行為として認識しているらしいことは聞いていた。だが、ダーマリアの危機に、ダーマリアへ支援を行ったという情報は一切ない。
これはシグルナイト民主連合とアッケンダール同盟の合同の為の人身御供にダーマリア共和国はだされたのではという疑惑が出てきた。
しかし、それにしては動きが鈍い。
まあ、合同されとしても兵力差は歴然だ。我が国の優位は揺るがない。
一応確認してみるかと、イワン・カイ・フォグラムト元大将に連絡してみた。
『なんですか?いきなり、電話かと思えば、うちの国を脅し取った大統領閣下じゃないですか?』
イワンは思いっきり嫌味を言ってきた。私個人は反対の立場だったが、いまさらそれを言っても始まらない。
「聞きたいことがあってね。シグルナイト民主連合の内部でダーマリア共和国の立場はどのようなものだったかを伺いたくてね。」
イワンは白髪の目立つ髪の毛を撫でながら口をひらく。
『藪から棒に・・・といいたいところですが、シグルナイト民主連合の中は大体五つ位に割れてましてね・・・・。今回我が祖国を攻めてきたトリアナ王国とは、別の派閥というわけではなかったのですがね。』
それを聞いて不思議に思った。それならなぜトリアナ王国はダーマリアを攻めるような事をしたのだろう?
『ただし・・・・トリアナ王国は王国なだけあって、血盟と諸国と貿易関係がありました。』
「それにしちゃ・・・・ほかの民主連合諸国は冷たくないかね?ダーマリアが攻められているにも関わらず、軍事支援などを行った形跡が一切ない。連合所属するもうひとつの隣国であるナサルニア共和国あたりから支援があってしかるべきでしょう?」
『あ~その点は私も不可解でした。支援要請になしのつぶてでしてね。巻き込まれたくなかったとしても、支援の表明位はだしてくれていいくらいの相手でしたからね。』
ここまで話して、手元の情報を整理すると、三つの同盟内においても対立関係があり、それが、隣国間で密約を交わしている雰囲気だ。
『我が国は別に主戦派からは離れていた国です。交渉を主にして、緊張緩和をするべきだと主張していました。』
そうなってくると戦争をしたっていた主戦派から睨まれていたということだろう。国力バランスについてレリアから資料が回ってきた。
ダーマリア共和国の周辺の国家は基本的に国力が低い。それをダーマリアを堕とすことで領宙を得て、効力をあげようとしたきらいがあると推論書かれていた。
「こういう資料があるんだが?」
向こうにそれを見せると、イワンは考え込んでいる。
『・・・・これがこうなって、ミサリアがなくなるだろう・・そうすると・・・。』
「見えてくるものはあるかな?」
『これ・・・うちのまわりの国全部グルだな・・・・。国の数を減らして大同盟を組むっていうのはシグルナイト民主連合の主戦派のガーナリア共和国の主張で、それに賛同している国が50ほどあったはずだ。外交派のうちとは相いれない連中だな。おそらくだが、血盟が先に参戦してくる可能性が高い。トリアナ王国の周りは敵国ばかりだが、血盟の国家が3ある。アッケンダール連盟のほうは1だな。』
「なるほど・・・・。」
その日は夜遅くまでイワンと情報交換をする羽目になった。
レリアに依頼して、メセナの第一侵攻艦隊を補強するように伝えた。理由を説明すると、血盟が参戦してくるなら、さらに攻撃範囲に自由度がうまれますね、とかかってこいといわんばかりの反応だった。
ただ血盟はうちの【銀河ユニオン】と国交がある国が多い。
難しいかじ取りをしなければならなくなるだろことに私は頭を悩ませていた。
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