第14話 悲劇は持たざるものにより生まれる

 その急報が伝えられたのは【銀河ユニオン歴】2年6月12日の事だった。

 リグルナイト連邦の首都恒星系方面で、超新星爆発とみられる爆発があり、周りの恒星系に甚大な被害が出てると報告があった。

 リグルナイト連邦の首都恒星系の恒星はまだ超新星爆発を起こすような星齢ではなく、不可解だった。

 タイミング的には我が国の先発隊が首都侵攻をはかり始めた時期というのはタイミングが良すぎる。

 この爆発で、ペルセウスⅣ級3隻が重大な損傷をうけて撤退。タルタロスⅢ級2隻に至っては損傷が激しすぎて放棄せざるをえなかったと報告が上がっている。

 戦争を始めて初の移動型戦闘コロニーの失陥だ。

 いくら頑丈でも移動型戦闘コロニーは超新星爆発に耐えれるような設計ではない。

 だが、すぐに準備した艦隊を送り込んだ。

 敵の目的はわが軍の艦隊を恒星系と引き換えに殲滅することだったのだろう。

 しかしながら、ペルセウス級やタルタロス級、それにそれらに艦載される艦船や兵器は標準化がされており、大量生産品だ。

 この程度の損失ではお話にならない。

 その後も散発的に、攻められたアッケンダール連盟の恒星系で超新星爆発が発生するという事が頻発した。

 しかし、わが軍は攻める勢いはおとさず、むしろ進行速度をあげて事にあたった。

 その結果、相手方の特殊研究用の宇宙船を拿捕することに成功する。

 事後調査の結果、この宇宙船には中性子を5つ増やしたヘリウム同位体とリチウム同位体が圧縮して大量に保管されており、それらを核融合の臨界にたっせられることで超新星爆発前の状況を作るという仕組みだった。

 当然のごとく、その際にはこの宇宙船も巻き込まれるというかむしろ恒星に突っ込んで超新星爆発を発生させる。

 日本軍がやった特攻隊と同じようなことを彼らアッケンダール連盟の特務機関はやっていた。

 確かに、この方法でわが軍に被害は与えれる。一時的に撤退はさせれるだろう。だが戦略的に見れば焼け石に水だ。なぜそれを理解できないのか理解に苦しむ。

 たしかに彼らは持たざる者だ。それも科学技術に関しては特に。

 原子核に中性子を付加させて同位体をつくるなんて研究なんてここの技術だと化石レベルの研究だ。

 ほかに手段がなかったのかもしれない。

 だが、人としてとってはいけない手段というものは無数に存在する。今回彼らは私たちの一時的な撤退と引き換えに恒星系全体の人口を皆殺しにした。250億の命を何のためらいもなく捨て駒にした。

 自分たちのシステムを保存ずるために私たちの足止めを優先したのだ。

 だが足止めは足止めでしかない。そんなことをするならダメ元で交渉すればよかっただろう。

 我が方の占領地では略奪などは一切起きていない。アンドロイドの大量投入で、治安はむしろいいくらいだ。

 衣食住も最低限だが与えられる。文化的な生活を送るのに必要な資材も与えられる。学校にも無償で通える。

 すくなくてもほかの国より最低限の生活のレベルは高いと自負している。


 私から見れば自分たちのちっぽけなプライドのために、国民を犠牲したとしか思えない。

 日本でも特攻隊を指示したのは海軍とされているが、実際は、東条の五狂とよばれた陸軍憲兵隊出身の将校たちによる精神論の末に開発を海軍が命じられて作っている。

 この東条英機とその一派は、とかく精神論を振りかざすことで有名だった。そのくせ、フィリピンを攻略した山下大将を解任して、自分たちが司令官に収まると、アメリカ軍に何の戦略も戦術もなく突撃を繰り返し、敗戦を重ね、しまいには、部下に自決しろといいはなって自分たちは日本本土に逃げ帰っている。

 精神論を振りかざすものはろくでもない利己主義者であるという典型的な例だろう。


 いかす理由があるシステムではない。押し付けにはなるだろうが、国民が自立できるならそれに越したことはない。

 私は徹底的なこの研究に関する人物の摘発を命令した。たぶん指示を出した人間は安全なところでぬくぬくと生活しているはずだ。



 それから三カ月後、この研究に携わった研究者やその家族、研究を指示した政府機関の人間や軍人、そしてその家族が、星系犯罪という罪で公開処刑にされた。

 科学的な知見はどれも見るモノがなかったのが研究者やその家族も連座した最大の理由だ。連座をさける口実がなかった。それよりも今後同様の研究が行われるのを抑止するほうが大切だった。



 そして【ルエル連邦歴】2年11月3日、この日、ベールゼン血盟から正式な同盟打診があった。

 アッケダール同盟の手段を択ばない防衛策は、各地から非難をうけることになり、アッケンダール同盟から離脱する国家や勢力も出てきた。

 そんな中、新たな動きが出てきた。アッケンダール同盟から離脱した国家地域とシグルナイト民主連合が主体となり、イワントキヤ大同盟の設立が呼びかけられレ始めた。

 イワントキヤ大同盟は、その主義主張を【ルエル連邦】からの侵略から宙域を守るためということを第一義に定めている。

 そのため我が国を徹底的に敵視し、我が国との交易の禁止なども盛り込まれている。

 まあ、でかい敵が現れたから、力を合わせようというお題目はわからなくもない。

 最終的に653の国と地域が参加する大同盟が【ルエル連邦歴】3年1月15日、ボーラー共和国の首都星の都市イワントキヤで成立した。

 それに伴い、指揮系統の統一作業を大同盟はやり始めた。

 イワントキヤ大同盟は各国の供出金から、大同盟軍を組織し、その下に各国軍がいるという形にした。

 そして彼らが最初に標的としたのは、奪われた宙域ではなく、【銀河ユニオン】所属国でも我が国の部隊駐留を断っていた旧宇宙条約機構所属国のリンネ共和国だ。


 リンネ共和国から悲鳴のような救援要請が【ルエル】に来たのは3月にはいってからだった。

 すでに三分の一の領宙が占拠され、首都星リンネダ-ルもたびたび攻撃にさらされているそうだ。

 すぐに緊急出動としてペルセウスⅣ級を2400隻派遣した。戦力的には100万隻規模だ。

 リンネ共和国には要塞の配置を求め、さすがにリンネ共和国側もそれを認めた。

 ここでごねられたら最悪だった。リンネ共和国の失陥も視野に入れなければならなかった。


 【銀河ユニオン】条約には参加国の拘束段階がある。第一参加国には【ルエル連邦】の要塞や艦船の駐留を義務付ける。その代わり技術支援・物資支援を手厚くしている。

 第二参加国は要塞や艦船の駐留を義務付けず、そのかわり技術支援などは最低限だ。ただし、軍の通行権だけは義務付けられている。

 第三参加国は要塞や艦船の駐留も軍の通行権もなく、総会への参加だけを認めるというオブザーバー的な存在だ。


 今回のリンネ共和国は最後まで粘っていた国家だけあって第三参加国であり、同盟相手というより、その他にちかい相手だった。

 なぜこのような参加国をつくったのかといえば、将来の国家統合を図るのに、これらの国も囲い込む必要性があったからだ。仲間はずれにはしないよという【ルエル連邦】の意図を示すためでもあった。

 現在、旧ヘンリック連邦との戦争前から同盟国だった国は第一参加国、旧ヘンリック連邦と新生ヘンリック連邦との戦争の間に組んだ相手は第二参加国、宇宙条約解消後に参加した国が第三参加国であることが多い。例外はもちろんある。

 宇宙条約解消後に参加したベッサリーナ連邦などは第一参加国となっている。今回のリンネ共和国の隣国だ。

 ベッサリーナ連邦はΔセクターに面しており、紛争に巻き込まれるのをひどく嫌っていた。そのうえ戦争で疲弊し、国力の回復に我が国の援助が必要だった側面もある。

 一方のリンネ共和国はそれなりの国力があり、最後まで我が国に抵抗していた国であるとどうじに、国家的な支出をしておらず、戦力、国力とも温存したままの国だった。

 だがリンネ共和国の戦力は我が国の戦力から比べるとかなり時代遅れであり、まともに戦争にもならないと評されていた。

 そしてそこがΔセクターの国々に弱点としてうつり、付け狙われる原因となったわけだ。

 ほかにも似たような国がある。早急に連絡を行い、緊急【銀河ユニオン】総会を開く必要がある。


 リンネ共和国のイワントキヤ大同盟の部隊は我が軍が救援に駆け付けると、すぐに撤退に入った。

 しかし、リンネ共和国のインフラや生活基盤は酷いことになっていた。

 そのおまけに、住民の一部をイワントキヤ大同盟は連れ去ったというのだ。

 これは逆侵攻への誘いであると同時に、長期的には、リンネ人の工作員を確保するという目的であることが容易に予想できた。

 【銀河ユニオン歴】3年5月10日、かねてから招集していた【銀河ユニオン】総会は【ルエル】の第六国際会議場で開かれた。

 会議の冒頭、我が国の代表団は、イワントキヤ大同盟による住民連れ去りやインフラへの徹底破壊に非難を表明。そのあとに各国の安全のために我が軍の駐留を認めるように求めた。

 しかし、人が集まれば反対勢力が生まれるのが常で、今回の戦争そのものが我が国の責任だと、バイルダール王国の代表ケイン・マシャレが気炎をあげた。

 数人それに賛同する代表もいたが、戦争の責任云々の前に国を防衛することが優先ではないかというベルーガ共和国代表パン・ヤンクアットの言葉でその場の雰囲気が収まった。

 ベルーガ共和国は我が国が手厚く支援しているヘンリック連邦との戦争前からの同盟国だ。

「そもそも戦争の責任を追及する為に開かれた会議ではない。戦争の被害を同盟国に齎さない為に開かれた会議であることに留意頂きたい。」

 第一参加国に現在の第二参加国を格上げすること、第三参加国を第二参加国に格上げする案を我が国の代表団が提出した。

 これに対して反対意見はニ、三人出たが、大筋で認めるという形に落ち着いた。

 会議終わって私はほっと息を吐いた。

 これでどうにか、防衛体制の穴は埋められる。


 一方で、住民を連れ去った大同盟の艦船に対する追跡を偵察艦隊を主軸とする、ペルセウスⅣ級35隻を含む100万隻の艦隊を差し向けた。

 予想通り、敵部隊は無人恒星系に住民の乗ったと思しき輸送艦をおいておき、その恒星系の恒星を超新星爆発させて艦隊を壊滅させる策に出ようとした。

 偵察艦隊が主軸だったこともあり、事前に情報を得ていたので、超新星爆発は事前に防がれ、住民のうち2万人ほどは救助することに成功した。

 しかし、それとは別個に子供たちをイワントキヤ大同盟は親と引き離して連れ去っており、さらなる調査が必要だった。

 イワントキヤ大同盟の非道行為はさかんに喧伝されて白日のもとととなる。

 しかし、彼らはそれをデマゴーグだと一蹴し、その間に何度か【銀河ユニオン】の参加国へ侵攻をしかけてきた。

 しかし残念ながら我が国の要塞コロニー艦が出張っており、敵艦隊はことごとく壊滅させられて、帰還した船もほとんどなかった。


 一方侵攻部隊は次々っと相手国を陥落させていく。

 そんな中、血盟諸国との話し合いがもたれ、血盟諸国に対する物資援助の見返りに、我が軍の通行権を限定的に許可する形で話し合いはまとまった。

 この結果、侵攻計画は修正され、直接的に相手国へ攻め込む手段を我が国は得ることとなった。

 会議でぽつりとローディが言ったことが印象的だった。

「これでこのイエール銀河の統一に王手だな。」

 自分から統一を求めて、戦争をした覚えはないが、火の粉を払っているだけで銀河統一へ向かうとは皮肉だなと思う。

「銀河間の移動についての技術開発をしなければなりませんね。現在の次元航行システムを抜本的に、長距離移動が可能なシステムにしないといけません。」

 レリアの言によれば、さらなる拡大の意思を示さなければ、国家はいずれ腐敗し、分裂するだけだろうとのことだった。前に進むビジョンを示して実現するということが指導者には求められるということだった。


 正直、自分がどこへ向かうか疑問もある。しかし、立ち止まる時期は過ぎた。

 アッケンダール連盟とイワントキヤ大同盟を攻め滅ぼす手段を考えなければならない。

 自分の子供たちの世代に、悲劇をもたらさないように、制度設計などは慎重に行なわなくてはならない。

 実質AIによって運営されている我が国だが、それだけに弱点は存在する。それは【ルエル】の事だ。

 すべてのAIに司令権をもつクーレリアが被害を受ければ指揮系統に混乱が生じる。命令権はもっていても生身の私ではすべての処理はできない。現状クーレリアありきなのだ。

 クーレリアのほうは自己改造しつつも巨大戦闘コロニー【ルエル】の改修を考えている様子だが、大きくすべきか、このままにすべきは迷うところだ。

 860万km級という大きさは一般惑星の大きさを越えている。

 しかし、それで首都機能としては十分かといわれるとそうではないと言える。

 移動能力があるとはいえ、銀河の中心都市コロニーとしては規模が足りない。ダイソン球型要塞のほうがはるかに巨大だ。

 私は【ルエル】の改修計画を幹部クルーを集めて、話し合いを始めることに決めた。

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