第16話 ルエル連邦の後継者

 イワンと酒場で探査船団の話で盛り上がった私だが、後継者を決めることについてはそう簡単にはいかなかった。

 娘の愛奈が後継者という方向性は家族会議できまったが、愛奈自身、自信がないと事あるごとに口にした。

 テリー老が見かねて、自分が後見人になるからやってみろと説得し、ようやく納得してくれたようすだった。


 探査船団には私とリエル、アイナ、ラパームが参加することが決まった。

 探査船団用の大型移動コロニー船はすでに建造がおわっていた。

 出発は一年後を目途とし、日下部愛奈を公式に大統領代行とすることで調整がおわった。


 国民政治学校を卒業した卒業生たちは政治試験を受け合格すれば、被選挙権を得る。

 卒業生が出るまで4年の期間があくが、その間に【銀河ユニオン】憲章の制定作業をすすめていた。この法律は【銀河ユニオン】の参加するすべての国家において、最上位におかれる法律だ。

 利害関係があるから、各部との調整に手間取ったが、50年後に、参加するすべての国の国家統合をおこなうことで決着がついた。

 そして初代【銀河ユニオン】大統領として愛奈が選出されることに決まった。

 国家統合よりさきにユニオンのほうの大統領などの機関設置が先だからだ。

 また、ユニオンの領土を州に区部し、その州の選挙で代表議員を選ぶユニオン最高議会の設置もきまった。

 民主化へ進むことに、旧ヘンリック連邦などの国民民主主義国家の領土だった地域の国民は歓迎ムードだが、王政国家や貴族共和制国家の住民たちには戸惑いが多い。

 すでに旧バールデン共和国の貴族たちは、王侯貴族達による政党である【青い血】の結党作業にはいっていた。

 あらかじめ、下準備しておいただけあって、動きが早い。

 その彼らをしても、民衆に政治をやらせるのが正しい事か確信を持てないでいる様子だ。

 国民政治学校はAIによって現在運用されている。教師も従業員も全部AIだ。というのも監査機関を整備する時間が足りなかったせいもあるし、結局人に任せると既得権益化するっことが分かったからだ。

 実質的に国家の最高意思決定は国家統合までの間は、幹部クルー会議が務める形はのこることになった。

 独裁がのこるとか、非難されそうだが、意外なことに貴族からの支持が多い。彼らにしてみても有象無象から政治家が出るより、それにたいする安全弁としての存在は必須だと考えているようだ。

 わたしとしてもだんだんと監査以外の機能は幹部クルー会議から外していく予定ではいる。ほかの幹部クルー達もそれに賛成していた。

 幹部クルー会議は実質テリー老が代表者となることが決まった。時機を見て愛奈に移譲してくそうだ。


 ところで家族のほうは、レリアとの息子で長男である幸雄は別の開拓船団に参加することになってる。どうも国に残るとしがらみが面倒だったらしい。幸雄は同じ船団の船団長の娘さんと結婚予定だ。これについては見合い結婚だ。

 レリアとレイナが業を煮やして幸雄に見合いを山ほどさせていたらしい。このままでは結婚できないと母親としてかなり危機感を抱いていたと報告をうけている。

 ラパームとの息子の智也は技術系の学校に進み、現在【ルエル】内の先端技術研究所で物理学博士として、研究員見習いをしている。政治は苦手だが口癖だ。

 血統的にはハイザンス帝国皇帝血統で由緒正しいのだが、

「いまさらハイザンスもないでしょ。付き合うのがバカバカしくって・・・。」

 要領がいいのか、大学時代の同窓生で知り合った一般人のセナ・ファウリーというお嬢さんと結婚する事が決まっている。


 子供たちの結婚が決まって親としてはほっとしたところだ。こちらにきて20年近くたつが、おそらく私たちは孫の顔を見ることはないだろう。

 探査開拓船団はほかの銀河にいってそこに入植することも目的としている。場合によっては別の文明との衝突もあり得る。

 なんにせよそうこうしているうちに、愛奈の【連邦】大統領代理の就任式と【銀河ユニオン】大統領就任式が開かれ、私は職責から解放された。

 終身大統領しての地位はのこるらしいが、どちらにせよお役御免だ。


 そして、この日、調査開拓船団の出航式典が開かれ、私は、同行する家族とともに8500万km級調査開拓船団旗艦【ヴァンス】に乗り込んだ。

 一応船団長は私という事になっているが、ほとんどの仕事はない。AIがやってくれるほか、船団会議には出席せず、オブザーバー的な参加となる。実質的な仕事は旗艦艦長のマイエル・フェルブスナーが務める。ちなにイワンは副船団長だ。イワンのほうは船団会議には参加するそうだ。

 今日は、出航後初めてという事もあり会議室に、顔を出した。

 私がはいると会議室の中の全員が席から立ちあがって敬礼をする。敬礼のしかたは日本式に近いが、基本的に手礼だけとしている。帽子をかぶっていても手礼だ。

 私も答礼を返し、席に向かって歩き、座る。

 円形の会議机で私の席は中央に近い場所に用意されていた。

 旗艦艦長のマイエルが声をあげる。

「全員そろったようだな。これより第一回調査移民船団会議を開く。まずは我々の航路の確認だ。」

 中央に配された巨大フォログラフに模式図が表示される。

「我々は六時間後、五次元跳躍でこの母なる銀河を飛び出し、銀河と銀河の間にある空白地帯A点へ跳躍する。そのご三日ごとに跳躍を繰り返し、船内時間一カ月後に目的地となる・・・天文学でいうバービル銀河の外縁に到着する予定だ。」

 一気に跳躍すればいいだろうと思うだろう。だが宇宙には流れが存在し、それを宇宙潮流という。微細な粒子の流れだが、一定の銀河をこえるとそれが不規則になり、そして次の銀河に近づくと、その銀河の自転方向に宇宙潮流は変わる。

 銀河内に到達するのに、相対速度をあわせるのにこの宇宙潮流の流れに合わせる必要がある。そうでなければ、銀河内の流れと相対速度が付きすぎて、小惑星や惑星、はたまた恒星などに衝突する危険性が高いのだ。

 そして銀河自体もより大きな重力地点を中心に公転している。

 そのとき近い銀河でも、永久にちかいわけではないのだ。公転軌道面のこともあるし、別の重力地点を起点に回っている場合もある。

 それらの要素が絡むため、宇宙の移動はそれほど自由には行えない。



 一カ月の間、観測結果を検討したり、それなりに毎日やることがあった。そして【銀河ユニオン歴】18年10月2日、ついに我々の船団はバービル銀河の恒星系の一つにたどり着いた。


 恒星系は残念ながら居住型惑星はないようだったが、最初の拠点を構築するのに適した場所があり、ここに大型宇宙コロニーを構築することに決まった。

 この恒星系の事を記念してクサカベ星系と名付けられることになった。

 私としては旗艦艦長の名字のフェルブスナーでもいいのではないかと思ったが、艦長曰く、恥ずかしいから嫌だとの事だ。イワンの奴にも断られた。

 ここを拠点に定め、旗艦に艦載してきた恒星系調査船型移動コロニーである3500km級イカロス型を発進させ、3054艦をそれぞれ別の恒星系へ派遣した。

 イカロス型はペルセウス型の調査船仕様にしたような船だ。防御能力は落さず、砲撃能力を下げてかわりに、情報処理能力や通信能力をあげている。形状は流線形の戦艦型だ。

 単体での継戦能力はペルセウス型を超えるだろう。

 総旗艦ヴァンスはこのクサナギ星系の最外縁部を公転する軌道に乗せた。この場所から恒星上の拠点コロニーが完成するまで、司令塔の役割を果たす。

 調査船団は外縁部周回を目指す2グループと銀河中心部を目指す1グループ、周辺恒星系をしらみつぶしに調査するグループから構成されている。

 先進的な文明を見つけた場合は、交渉を持ち、惑星上だけの文明を見つけた場合は、交渉しつつも、保護領にする予定でいる。

 調査は始まったばかりだが、できれば友好関係を結べる文明を見つけたいものだ。



 このところレイナは夜時間になると愛奈と遠距離通信で会話していることが増えてきた。

 愛奈も大統領を務めるようになって雰囲気的に凄みと貫禄がついてきていたが、いかんせん経験が足りず、政策の方向性について思い悩んでいる様子だった。

 私も時々、レイナに呼ばれて愛奈の相談に乗っているが、毎度のごとく、仕事を押し付けて調査船団に参加したことを詰られる。

『アラフォーのくせして、すでに老後とかどういう神経なの?』

 とまあ毎回言われる。

「まあ、そういうなよ。」

『んで、なにか目新しいものは見つかったの?』

「文明については一個だけ発見した。惑星上文明で、ロケット推進で人工衛星を打ち上げるぐらいの文明だね。まだ宇宙艦隊を編成するレベルには達してない。」

『接触は?』

「いまスパイロボットで言語を収集し、現地の言語を解析しているところだ。それが済み次第接触を図ろうかと考えている。」

『秘密裡?』

「それがいいんだろうけど・・・・ここは艦隊を衛星軌道上に送り込むという話だ。」

『すがすがしいまでの砲艦外交ね?』

「俺がきめたわけじゃない。会議の決定だ。」

『人種的には?』

「ホモサピエンスに近いな。哺乳類型の文明だ。」

『まえからきになってたんだけど・・・・・うちの銀河もホモサピエンスや、せいぜいちがってもホモエレクトスぐらいの系統よね。』

「そう・・・・それが不思議でははある。まあ最も爬虫類型の人類がいても形状は人の形状になるだろうな。」

『種の収斂理論ね。』

「そういうこと。案外、ホモサピエンス型と考えている人種の中にもそういった血筋が紛れ込んでる可能性はある。」

『遺伝的に交配できれば・・・だけどね。』

「近縁種でも雑種が生まれるにはそれなりの近さがいるだったか・・・。」

『ロバとラクダを交配させると生殖ができないラバがうまれるというやつ。』

「交配の遺伝子的制約の部分の研究が行われているけど・・・・・どうも交配制限は不自然な点が多いそうだ。」

『だれかが意図的に交配を制限する為に外部的に導入した形跡があるというやつね。』

「そう。我々には制限されている人類が多いが・・・別の銀河の人類がそうであるとは限らない。今回の調査の目的の一つだね。」

 そんな雑談を愛奈をしつつ、時々、政治の話をしたりするのがこのところの日常だ。

 例の惑星の言語の解析はまだすこし時間がかかりそうだ。かなり自由度が高い言語が多いようで、英語型と日本語型の合作みたいな言語がいくつもみつかっている。

 連れてきている言語学者たちは毎日討論している。

 解析のほうはAIがやっているから彼らはその評価をするぐらいだが、接触を砲艦外交にするにしても、ドンパチは避けたいのが本音だ。

 そんなこんなで数日が過ぎていった。

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