第10話 宇宙条約機構加盟国の動向

 ヘンリック連邦の首都ザンクトを陥落せしめたが、ヘンリック連邦は州により行政区分が分かれており、一つの州に三つくらい恒星系があるのがざらである。州の数は63あり、204の恒星系からなる。

 そのうち陥落済みの州は37と首都特別区域の合計38であり、あと25の州が健在で、ヘンリック連邦には州単位の州軍が連邦軍とは別枠で存在している。

 現在連邦軍は首都特別区が陥落したおかげで機能不全に陥っており、州単位での抵抗や州どうしの同盟で、我が国の侵攻を抑えこもうと躍起になっている。


 戦力的にはまだ余裕はあるが、首都攻略部隊の数だけで全土制圧をはかるとなると時間がかかることになりそうだった。

 ヘンリック連邦の州ひとつで小さな恒星間国家より大きいのだ。


 レリアから伝え聞いたたところによるとハザン州の州知事アロワルド・ベルフォードの呼びかけで、新ヘンリック連邦政府樹立の動きがあるらしい。

 ハザン州は国境に近い恒星系五つからなる大きな州で、交易と工業と観光の三本立てて繫栄している州だ。

 この州の州都オワナに新たなヘンリック連邦の首都にして、そこで残存勢力を糾合しようとしているらしい。

 一方の連邦軍の本隊は、いまだに我が国との中間にあるサナツクス共和国で一進一退の戦争を続けている。

 最初の目的のヘンリック連邦首都陥落までの足止めは成功したので、レリアによると大攻勢をかけるそうだ。


 ヘンリック連邦の首都特別区を堕とした後、外回りから首都を目指した戦略航宙母艦ルーネルの率いる隊は、支配地域の支配権の確立に重点を置き、メセナのコピーAIであるラノルが指揮を執っている。一方もう一方はAIのメセナ直々に戦略航宙母艦ネーデルを指揮して、周りの州から順番に制圧をかけている。

 この二人のAIのおかげで半数以上の州を堕とせたといっていい。


 【ルエル】連邦歴2年8月12日、新生ヘンリック連邦が、ハザン州とそのまわりの5州、それに加えて隣国メッサリナ共和国を加える形で成立した。

 これに伴い、新政府に入らなかった州から、条件降伏申請が届くようになった。外交官のAIとバイオノイドを現地で生産させ、対応に当たっている。

 基本的にどの州も責任者の免責を求めてくる場合がほとんどだ。

 対応としては段階的に【ルエル連邦】標準の精度に変えていく方針で決まった。

 降伏を受け入れた州のなかには州内に本部ある財閥が、旧南華条約機構加盟国内で非人道兵器の開発を行っていたケースが散見された。

 それらに対しては厳正に対処し、財閥の解体を3件も行う羽目になったとラノルから報告があった。

 研究内容は細菌・ウィルス兵器から人間を兵器化して相手国を滅ぼすようにプログラムするような兵器まで・・・・人体実験が平気で行われていた。

 レリアにいわせると最低限の生命プログラムだけをインストールしたバイオノイドを製造してそれで実験すればここまで非人道的な事はしなくてもよかっただろうとの事だ。

 バイオノイドを使うことについてもいろいろ倫理的な問題があると常々私は思ているが、人体実験がどうしても必要なら、自我を植え付けないバイオノイドで実験したほうが確かにいいと思う。

 そもそもの問題として、シミュレーションだけで十分な結果がうちの国では得られる。臨床試験は最後の最後だけだし、それも同意を得てから行っている。


 

 【ルエル】連邦歴2年8月24日になると新生宇宙条約機構軍構想を新生ヘンリック連邦は発表した。

 これには我が国の友好個も対象に含まれており、宇宙条約への批准を求める発表が行われた。

 おおかた水面下で接触を図っていたのだろう。しかし、銀河ユニオン加盟国に離脱者は出なかった。理由としては我が国が勝ち続けていること、必要な物資は我が国が用意し、適正価格で安定供給していることの二つだろう。

 南華条約諸国と前線にされていた国が多く、軍備にばかりお金が取られ、生活物資が万年不足気味で物価が高めにされていた。

 これはヘンリック連邦が自国のダウングレードした兵器を売るための相手としてそれらの国を利用しており、生活物資もぎりぎりしか生産できないように安く大量に食料も売りつけていたようだ。

 ここまで食い物にされながらも、国を守るのに仕方なく従っていたが、現在南華条約諸国は滅び去り、そちらに対する戦争の必要性はなくなった。

 そのうえで食料などの生活物資を生産できるプラントを多数我が国が援助し、生活レベルがようやく上向いてきた国ばかりだ。

 それらの国に隣接している宇宙条約機構国は、それらの前線の国へ商品を運び込むことでマージンを得て栄えていた。

 しかし、それが成り立たなくなり、現在社会不安が続出して、戦争を継続できる状況ではなくなってきている。

 それらの隣接していた国々の中にも銀河ユニオンに参加を打診してきている国が増えてきた。

 現在それらの国の審査中だ。

 野放図にいれてもいいことはないからだ。貿易で財を成してきた国ばかりなので、工業プラントや食物プラントの援助は必要になるだろう。

 

 二極化はしているが、現状はこちらが優勢だと言えるだろう。


 それから五カ月が過ぎた。【ルエル】連邦歴3年2月3日。この日、ついに新生ヘンリック連邦とわが軍が散発的にだが初めて衝突した。

 具初的にこちらの偵察艦隊と相手との間に戦端が開いたらしい。

 戦闘結果はこちらの圧勝だった。こちらの被害は艦載機の偵察機5機の損失のみで、相手は戦艦5、航宙母艦2、巡洋艦8、駆逐艦23、艦載機多数の損失を出した。

 主力打撃艦隊が偵察艦隊に負けるってどういうことだと言いたくなる。

 当初、偵察艦隊の指揮AIは、発見された時点で撤退をするつもりだったが、急遽指令してきたAIメセナの命令で迎撃を行うことになったそうだ。


 なんだかうちの艦種の適正な運用を求めたいと切実に思った。確かに強硬偵察に耐えれるように偵察艦隊は構成されている。だが、基本は戦わない事が前提だろう。この間のペルセウスしかり、今回の偵察艦隊しかりだ。

 なんだか仲間が残したAI達が脳筋思考に陥ってるきがするこの頃だ。冷静がうりのメセナがそんな指令をだすんだから、何か理由があったのだろうけど・・・・・どういう理由なんだか・・・。

 そしてあとでレリア経由で質したところ、付近に要塞を構築中で、それが攻撃されると侵攻計画に支障が出る為、攻撃をさせた。あくまで撤退させるのが目標だったが、相手の艦隊があまりにもろく、結果的に壊滅させてしまったとのことだった。

 あとこの戦闘で100m級の重攻撃機ばかりおとされたので、迎撃用のもっと小型でそこそこ防備があり、スピードが出る軽戦闘機の開発が必要だと申請を出された。


 軽戦闘機ときたか・・。まあ実際迎撃を行うには70m級の重戦闘機ではいろいろ問題があるだろう。25m程度まで小さくした、地球でもあるような戦闘機が必要だろう。

 いままでエネルギーリアクターの出力に任せてシールドをはらせて押し切る方法をしてたが、被弾しない方向で、ドッグファイトを制せるような戦闘機の開発が必要だろう。

 そうなってくると兵器の小型化が必要な場面が増えてくる。

 ラグナ班AIにまかせるというのはなしだな。どうせチャージ砲とか載せたがりそうだ。となるとキール班のAIに頼まなくてはいけない。あいつらはあいつらで癖がつよいからやりづらいんだよなぁ。


 数日後、キール班のAIのリーダーであるドェルグから連絡があった。

『司令のたのんでた小型迎撃戦闘機の案がまとまったぜ。どうにかリアクターを小型化するのに苦労した。』

「リアクターは何のせるんだ?」

『八次元縮退炉だ。なかなかじゃじゃ馬で苦労したぜ。』

 それって最新鋭の縮退炉だろ・・・・・そんなものを小型機につめるのかと言いたくなった。

『以前からせっつかれて小型化は進めていた。さすがに10次元縮退炉は無理だったが・・・八次元なら無理なく載せれる。常時出力は56京ペセタGジュールを超えるから、シールド能力は高いし、小型化した収束荷電粒子銃を載せれてるぞ。』

「よくやってくれた。・・・とりあえず標準化の作業も頼む。いまだとワンオフの試作機だろ?」

『ああ・・・・標準化の作業は続ける。三か月はかからんだろう。あと縮退炉に機体が損傷してパイロットが脱出した場合、自壊する仕組みをいれておいた。なんだかんだで艦載機はぽこぽこおちるからな。』

「そうだね。リバースエンジニアリングされる可能性は否定できない。」

 先の事までよくドゥエル達は考えてくれてるようだ。

 小型化が進めば偽装なども行いやすくなる。

 現在の我々の船はこの銀河の文明において大きすぎるのだ。益体もないことを考えながら、その日は終わった。

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