第47話 チェイン人民共和国制圧戦⑤

 【銀河ユニオン歴】20年12月2日、この日我が軍がチェイン人民共和国首都星系ペイジン周辺に到達した。

 306基のクロノス級要塞を配置し、宙域封鎖を行った。

 官用船だろうが民間船だろうが、チェイン寺院民共和国の船はすべて撃沈させた。


 惑星ペイジンにある同じ名前の首都は、複雑怪奇な地下要塞になっており、普通に制圧するには骨が折れる地下要塞都市だ。シャンペーよりはその規模が小さいのが救いどころだろうか。

 しかし、我々は、星系事、ブラックホールで処理することを決めていた。

 それというのも、次々とチェイン人民共和国によるテロなどの証拠や情報が集まっており、チェイン人が人工人種で、兵器として作られたことを確定させてしまったからだ。

 これが共生できる類の遺伝子改変ならよかったのだが、内情は以前述べた通り酷いものだ。

 ほかの人種を計画的に滅亡させていく。そういう兵器だ。

 共生のしようがない。

 チェイン共産党指導部であるチェイン共産党政治局のトップである書記長は、しきりに我々が兵器であるなどデマゴーグであり、フェイクニュースだと連日メディアで訴えていたが、確定的な証拠が出そろって、それらを我が国は我々の関係する銀河すべてに拡散させていた。



 首都星を消滅させれば、組織的な行動はとりにくくなるだろうが、チェインブリッジという在外チェイン人のネットワークがある。

 おそらく、今度はそことの争いになる。

 我が国内部はほぼ取り締まりは完了したが、同盟国の内部にはまだまだたくさんのチェイン人がいる。これらも取り締まらなければ、いずれまた国なり組織なりを拡大させて、ほかの人類を滅亡させようと動き出すだろう。


 相手が人であるというのが非常に難しい。しかもその表層人格にはまったく罪がない。背後でバックグランウンドで存在する人格が問題だからだ。

 遺伝子の入れ替えなどの方法はあるにはあるが、現状の技術では完全に入れ替えるのにひとりひとりの遺伝子にあった改変が必要で、少人数ならともかく、大人数を作り替えるのは現実的ではない。

 組み換え作業も確定的でなく、兵器の因子が対象者の体内に残ればそれだけで問題になる。

 そのうえで、この遺伝子改変を行った存在なり勢力への対処も必要になる。

 チェイン人の存在は二重三重に宇宙の危機であるわけだ。


「縮退砲定位置につきました。」

 オペレーターのセリフを戦闘指揮所で聞いて、私は撃てと命じた。

 画面をみていると白く輝く縮退砲弾が恒星系のすべての惑星と小惑星に打ち込まれた。

 各々の場所で空間圧縮が始まり、ブラックホールが同時発生した。それらが互いにひきつけあい、一つになり、圧縮されながら、γ線、X線のパルサーを発生させ、急速にその体積を減らしていき、蒸発が終わると、後には何も残っていなかった。


 中性子の欠片すら残さず、標的の原子を崩壊させるのが今回使用した縮退砲弾だ。

 あまり使いたくない兵器だが、今回のようなケースでは使わざるを得ない。


 今後、チェイン人やそれと同等の兵器が存在すれば使う機会がふえるかもしれない。

 それでも我々の未来のためには私はまた使うことを命じるだろう。

 ローデシア連邦がペイジンの消滅を確認後、向こうの宙域からチェイン人民共和国領へ攻め入ったという報告が来た。

 火事場泥棒とは恐れ入る。

 チェイン人の保護を名目に戦争を開始したとの事だが、困ったことだ。

 なかなか戦争は終わらないらしい。

 私は会議室に移動しながら、明日の予定を組んでいた。


 ふと以前読んだブリザンスの巌窟王の資料が気になった。

「あれの公判は一方的な警察の提出資料で結審し、収監先の第六刑務所で服役中に事故で著者は亡くなってますね。」

 レリアの言葉に唖然とした。

 レリアによると、取り調べの中で、調書に拇印を押すときに、調書に張る拇印保護用シールを張るように見せかけて、指紋採取用のシールを張って、それをはがし、それに霧吹きなどでインクを吹き付けるか、アルミ粉末あるいは樹脂などを付着させて、朱肉をつかって、一回きりだが、簡易の拇印偽造ハンコにできるそうだ。

 それ以外にも、拇印のゴム製ハンコまで作られた形跡があり、まったく警察の調書に信頼性がなかった。

 実際に被疑者だった著者が拇印をおしたのは二組の調書だけで、それ以外は偽造されたものだったようだ。

「公判で逆転の目があるとすれば、調書の信頼性がないことを、それらの事とともに主張する必要があったと思います。もっとも警察側も馬鹿ではないですから、証拠隠滅くらいはやってそうですね。」

 それに加えて、強制猥褻などの嫌疑自体に無理筋があるそうだ。過去に付き合ってた女性であることや、被告が一貫して嫌疑を否定していることに加えて、原告側が取り調べ中に証言を二転三転させるという事をやっていて、被疑者を有罪にしたい警察署内の人物達もそれを調書にするのに苦労したらしい。

「問題なのは最大の証人とされた人物が、そもそも借金を理由に、その返済や謝礼金などと引き換えにモリエール家の代理人と取引をしていたということです。あからさまな冤罪事件ですね。」

 それに加えて刑務所内で刑務官なども買収されており、ほぼ確実に刑務所内での殺人であったということだ。

「モリアール家はやりすぎました。チェイン人民共和国との関係もありますが、たしかに一般から見ると傲慢にみえますね。」

 モリアール家がモリエール家を残すために努力していたことは違いないが、あまりに周りを犠牲にしすぎた。

 我が国の侵攻時の混乱で、住民の暴動で標的にされるのも頷ける内容だ。

「救いがないな・・・。」

「まったくです。」

 私はコーヒーを飲みつつ、組織腐敗を防ぐ方法に思いをはせた。

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