第5話 バールデン共和国の終焉

 現在バールデン共和国首都星ネールのあるパワンドラ恒星系の付近をペルセウス級三十五隻の艦隊が通過している。

 ギデオン公爵領攻略艦隊の周りの様子を【ルエル】の執務室のフォログラフに表示しながら、私は執務を取っている。

 先ほどから連絡要求がひっきりなしに星海ネット経由で送られてくるが、レリアが自動音声で断りの言葉を返すように設定してしまっている。

 一度話せばきりがなくなるからというのがその理由だ。味方とは言え、無断で他者の領有する宙域を横断しているので、ひやひやしていたが、幸い攻撃を受けるようなことは今のところない。

 おそらく大統領のベルクが釈明に追われていることは予想に難くない。

 しかし、膿を出し切るには今回の強引な出兵は必要だ。

 ギデオン公爵領はパワンドラ恒星系の隣の隣の恒星系と割と近い。そろそろ、航行速度をあげて一気にギデオン公爵領をおとすのが計画の骨子だ。


 逃げられる可能性はある。恒星系ごと処分しちゃっていいのではなんて意見が幹部会議で聞かれたが、兵力のごり押しで十分だと踏んでいる。

 あちらのほうはほかの恒星系に艦隊を派遣したりしてるので、本拠がわりと手薄だ。

 いまごろあわてて、艦隊を終結させようと連絡を送っているだろうが、ここまでくれば遅いとしか言いようがない。


 その日のうちにギデオン公爵領に接する領宙へ到着した。包囲を完全にするため、艦隊をいくつもにわけているが、五つの恒星系からなるギデオン公爵領に23隻ものペルセウス級を派遣している。

 ペルセウス級一隻で恒星系五つを堕とすことも可能だ。

 どれだけ派遣してんだと言われかねない。


 次の日、侵攻準備が整ったので、ゴーサインをだした。

 恒星系外縁部を包囲しつつ攻める部隊と、直接居住惑星やコロニーを攻めれる部隊の二本立てだ。

 想定以上に敵の抵抗は激しいが、物量の差がものを言った。

 領星ギデオニスに次々と強襲降下艇が下りていく。地上からの対空攻撃は散発的だ。

 直接領星を攻められることを想定していなかったらしい。

 ギデオニスのある恒星系はギデオニアというが、居住惑星である第四惑星ギデオニス以外の惑星やその軌道のコロニーなども順調に占領していった。

 ステルス機能のある宇宙船で脱出しようとしていたギデオン公爵ヨイル・カラン・エメト・トールギス・ギデオンの捕縛に成功したと連絡がきたのはちょうど昼食時だった。

 すでに事を起こす前から、対応は決めている。残酷だが、一族郎党すべて連座させて処分だ。これが国民民主国家なら、連座させる意味はないのだろうが、バールデン共和国は貴族民主国家だ。貴族の血はそれだけで意味をもつ。

 禍根を絶つためには絶対的にこれが必要だ。本来なら、技術者や官僚やまとめ役の貴族を殺すと、統治ができなくなるが、こちらはそれをAIやアンドロイドで補える。住民さえいればいいのだ。

 取り調べに一週間ほどかかったが、その後、現地で公開処刑を行い、ギデオン公爵家の関係者は一族郎党根切りされた。



 統治のためのアンドロイドも組織化はすでにおわっており、【ルエル】の直轄地としての統治が開始された。

 それと同時に、防衛に割り振るペルセウス級5隻以外の18隻を周りの領へ派遣することとなった。

 周りの領はギデオン公爵家の寄り子の貴族で、ギデオン公爵派閥の幹部級ばかりだ。

 この段階で、バールデン共和国、大統領府からの連絡をつないだ。

 さすがにベルクは怒っている様子だった。

『ギデオン公爵家とその関係者をすべて公開処刑にしたそうだね?事前の取り決めとこれでは話が違うだろう?』

「失礼ながら、ギデオン公爵は、メッサリーナ同盟とつながりがあっただけでなく、他の国との密約を交わしていたことが明らかになったんだ。バールデン共和国を分割統治させようと、それらの国はギデオン公爵派を支援していた。具体的に言うと、聖サンドール教国と・・・・。」

 聖サンドール教国の名前がでるとベルクはかなり狼狽した様子だった。

『そんな馬鹿な・・・・・・それでは外国の餌食になるだけだ・・・。』

 ギデオン公爵家は大統領制を廃して、王政を敷こうとしていた。しかも王家にギデオン公爵家が立つという計画で。そのためにほかの派閥の貴族領が侵略されようがお構いなしだ。

「ハイザンス帝国とバールデン共和国だけの話なら、国内問題で諸外国の干渉をはねのける理由にはなった。だがそこに宗教国家が関係してくると、事態は混迷するのはそちらもわかるだろう?」

 聖サンドール教国は一神教の国で、総大主教が国を統治している。ただサンドール教自体はほかの国家ではあまり信じられてはいない。

 それというのも、総大主教庁に信者は一定額以上の喜捨を収めなければ、信者としてのランクが維持されず、奴隷扱いされるスレイバー階級に落とされてしまうためだ。それだけでなく移動民や自由民を認めておらず、宇宙条約機構の宇宙条約も批准していない。

 信者をあおって、他の国を乗っ取るなんてことも過去にしでかしている、その関係もあり宇宙条約機構側の国家と敵対関係にある。

『・・・・宇宙条約への違約に等しい。』

「今回の紛争で宇宙条約機構が被った被害を考えれば、答えは必然だ。」

『我が国を始め、宇宙条約機構加盟国家の弱小国家ばかり狙われているということか。』

「宇宙条約機構加盟国家どうしの内紛で得をするのは、批准をしていない国家のほうだ。最近ではそれらの国で南華条約機構を結成する動きがある。そのための切り崩しともいえる。」

 南華条約機構はシャンロン共和国を中心として結成が呼びかけられている新たな宇宙条約同盟だ。

 軍事同盟といっていい。将来の国家統合も目指すとされている。シャンロン共和個はこの宇宙時代には割と珍しい共産主義国家ではあるが、内実は重商主義国家で貴族のかわりに共産党員が特権階級化したとみればいいだろう。

 物資は配給制をとってはいるが、それは国内の食物生産が少なく、生産物が重工業、特に軍事産業に割かれているからだ。

 シャンロンは以前は帝政国家だったが、帝室の失政により極端な物価高がおこり、それに対して市民が蜂起して、帝室を倒し、あらたな政府を作り上げた歴史がある。

 革命の後、粛清の嵐が吹き荒れて、かなり多くの知識階級や富豪階級のものが無実の罪で殺された。

 この粛清でシャンロンは国力の半分以上を失ったと言われている。そんなときに支援を名目にシャンロン各地を侵食したのが聖サンドール教国だ。革命自体も聖サンドール教国の仕込みっだったと言われている。


 このような経緯があるため、私としては関わりになりたくない国のワースト一位が聖サンドール教国だ。円盤型銀河を四つに分け、α、β、Θ、Δと時計周りにわけるとそのうちひとつのα領域にハイザンス帝国やバールデン共和国、メッサリーナ同盟国、そして大国であるヘンリック連邦などがある。αの国は自由主義陣営と俗に言われている。β区域に問題の聖サンドール教国とシャンロン共和国があるほかベル共和国、ラナトスク公国などがある。ΘとΔは割愛する。

 ベル共和国が聖サンドール教国によって属国化された国だ。以前の国名はベネツクス公国だ。

 β領域でラナトスク公国が宇宙条約批准国で、他が敵国という状況だ。

 この状況で宇宙条約批准国同士が相争うというのは、いくらなんでも出来すぎである。

 宇宙条約の盟主は大国ヘンリック連邦だ。

 こうなってくるといろいろと面倒な想像が出てくる。地球の歴史でもこういう状況のい

きつく先は世界大戦だ。

 集合離散をくりかしながら、二極に分裂する。そしてそれが先鋭化していく。

 銀河規模だとどのような戦争にになるのか想像もつかないが、あまり楽しい事にはならなさそうだ。いまだって地球上の戦争の何倍も大きな戦争を戦っているが、まだまだ恒星間国家レベルで、銀河レベルの戦争とは言い難い。

 かといってこちらから、相手の首魁の聖サンドール教国を中心とする管理主義国家三つを潰しに行くというのも何か違う気がする。第一、距離が離れすぎている。

 間にある恒星間国家を一個づつ攻略していくというのは現状、現実的ではないが、最悪を想定して準備をいまからしておく必要があるだろう。

 目の前の戦争は、正直私が指示しなくてもAI達がどうにかしてくれる。

 国家元首に求められる事は、ビジョンを示す事、方針を決定することだ。あと最終的な責任を請け負うこともか。


 いま【メッサー運輸】のレイリアのクルーは私とって一蓮托生の仲間だ。できる事ならだれ一人失いたくない。

 だが、このままいけば、犠牲を強いられることは、ハインツの件でも明らかだ。

 レリアが伝えたかったことがなんとなくわかる。いつその時が来てもいいように覚悟だけはしておけという事だろう。責任を果たし、そのうえで悲しむなり嘆くなりしろという意味だろう。


 今、私はビジョンを示すことが求められている。いままで惰性と状況で戦争をしてきたが、これでは流されるだけだ。

 ビジョンを示して、こちらからアクションを起こし、主導権を握らなければいけない。

 私の子供たちの為にも、道を切り開かなければならない。



 この月、子供たちが二歳の誕生日を迎えた。あれから二年とはずいぶん経った気がするが、戦争のほうはようやくギデオン公爵派の貴族の領の討伐が終わった。

 メッサリーナ同盟諸国は残るは二カ国だけだが、時間の問題だろう。

 ギデオン公爵派の貴族領の取り扱いについては強引だが、すべて皇帝直轄領とした。

 バールデン共和国の諸侯会議で、発表した時は騒ぎになるかと思ったが、ぎゃくに静かになってしまった。

 さすがにバールデン共和国の三割の宙域を占有するというのは行き過ぎかと思ったが、ほかの諸侯は顔色をうかがうばかりで、特に反発らしい反発もなかった。

 バールデン共和国のハイザンス帝国への併合は、向こう三年を目途に段階を踏んで、まずは大統領制の廃止からはじめるそうだ。

 ベルクはバラード公爵家に統合までの議長を依頼したが、バラード公爵のほうが固辞した。

 貴族社会のことだから、あらかじめ話し合いや下準備がなされた上での諸侯会議だったのだろう。


 予想はされていたが、一般市民の議会である民衆議会は大統領制廃止の決定に強く反発した。

 しかし、法律の上で諸侯会議のほうが優先されるため、再度の諸侯会議の議決により、法律的には拒否された形になった。

 首都の官庁街ではなんども大規模なデモが民衆議会代表者が主催して行われたが、だんだんと下火になりつつある。

 先鋭化して、過激な暴動になるかと正直ヒヤヒヤしていたが、意外と一般市民は冷静なようだ。

 あとから聞いたが、過激な行動に出ようとした活動家達を事前にAI達が捕縛したりして、市民との接触を断つようにしていたそうだ。

 捕縛した活動家たちはハイザンス帝国のほうの政治犯収容所に送ったそうだ。バールデンにおいておくと何をしでかすかわからないというのがその理由らしい。

 反政府活動が拡大しないのもあらかじめその準備をしていたからという落ちがついたかんじだ。



 政治教育について最近はよく考えさせられる。

 政治教育を受けてこなかった人物が人気で政治主導者になるとほとんどの場合、利権の我田引水政治になるか、苛烈な独裁政治の末の民衆弾圧になる。それ以外の例がほぼないに等しい。

 日本の政治では議員や首相は二世三世以外は官僚出身者だったりする場合がほとんどで、政治経験者や、その家での政治教育の場がある人が多い。

 よく政治の固定化だのなんだのいうが、そういう教育機会がえられないで政治家になった人は国を傾けた例にいとまがない。

 ここで私がハイザンス帝国の未来に示すとすれば、政治教育学校・・・・・・それも一般市民に門戸を開いて、そこをでたあとに資格試験をへてから・・政治家や官僚になれる仕組みをつくることだ。

 民主主義に拘りがあるわけではないが、貴族政治も腐敗とは無縁とは言い難い。教育が各貴族家にゆだねられている以上、国としての方針が打ち出しにくいのだ。

 貴族は家の腐敗や没落イコール政治的腐敗につながる。システム的に不安定だ。

 かといって無資格を相手に被選挙権をあたえて政治家にしてしまうのはもっと不味い。

 同時に政治教育学校の教員も監査をきちんと行う形にしないとそこ自体が腐敗すれば意味がない。

 そういった仕組みを整える必要がある。



 ハイザンス帝国歴580年3月2日、ついにバールデン共和国の大統領制が廃止され、形式的にだがハイザンス帝国との再統合が行われた。

 その五日後、メッサリーナ同盟諸国の残りの二国、フェノミル王国とタナルス公国が無条件降伏をハイザンス帝国に申し入れて、承認された。

 そしてその二か月後のハイザンス帝国歴580年5月5日、ハイザンス帝国・皇帝府からメッサリーナ同盟諸国の自国への併合が発表される。

 この発表にあたって、ヘンリック連邦から、懸念の発表が翌日あったが、こちらとしては敵国は平らげていく過程でこうなったとしか言いようがない。

 いまさら和平の仲介をなどと名乗り出られても併合作業の邪魔でしかない。

 幹部会議での決定でもヘンリック連邦のなさりように怒りの声がほかのメンバーからあがった。そのうえ貿易協定の見直しなどという経済的な圧力をかけてきたので、正直、これが大国のやり方かと呆れてしまった。

「貿易協定云々いうなら、ブロック経済圏をつくるまでのはなしです。幸い、ハイザンス帝国の本国側は貿易額がすくなく、悪影響は抑えれます。問題は旧バールデン共和国側ですが、こちらは物資の供給が我々の直轄領を中心にはじまっており、貿易額は縮小傾向にあります。まったく経済的損害が出ないというわけではありませんが、今回の協定についてはこちらの主張を通します。」

 レリアの言葉に私自身も頷いたが、ジェフが思わずつぶやいた。

「国がでっかくなってきたらさっそくモグラたたきかか杭打ちか・・・・。」

 その言葉が印象的だった。

 テリー老がため息交じりに口を開く。

「宇宙条約機構内におけるこちらの発言権を小さくしようという思惑じゃろ。レリアの嬢ちゃん、今回の戦争における聖サンドール教国の関与の証拠はあがておるんじゃろ?」

「はい。すでにその経緯や証拠についての宇宙条約諸国全てに送付済みです。」

「・・・となると、すぐに南華条約機構諸国と戦争にしたくないというのがヘンリック連邦の意図かもしれぬの。」

「それはそれで酷い扱いだな。まるで人身御供じゃないか。」

 ロディに思わず言った。

 結局政争ないし、新たな戦争は避けれないということだろう。

「ヘンリック連邦との国境に要塞を複数構築しましょう。」

 過激なことをいうのはいつもレイナな気がする。まともに軍事力でも喧嘩を売ることになるのではないかと思う。

「可能か不可能かをいえば可能です。ロールアウトしたペルセウス級を改装したペルセウスⅡ級を中心に配置しましょう。」

 ペルセウスⅡ級移動要塞は戦艦型を踏襲しつつ、次元縮退炉を新型に換装し、長距離砲撃能力を加えた。これにより攻撃的な補給要塞となっている。どこが補給要塞だという突っ込みはなしにしてほしいところだが、実際防御面も強化されるだけでなく内部プラントの生産能力も上がっている。そのため全長が2000kmから2570kmに延長されている。

 惑星規模の要塞がさらに大きくなったわけだ。搭載できるというより生産できる艦隊の数は当然のごとく増えており、50km級打撃空母の生産数からしておかしい・・・・・日産500隻とかである。別にそれだけを生産するわけでなく、艦隊全体を生産してこの数だ。つまり打撃艦隊が一日に200~500艦隊生産されるのだ。

 死のハチの巣二世はどこにむかうのだろうか。


 要塞の配備は一週間ほどで完了した。航行速度を隠さず、全速力で現場に向かったそうだ。

 それから一カ月ほどして、ヘンリック連邦の特使とやらが、【ルエル】に入港を求めてきた。

 正直あいてにするのもバカバカしいが、一応の同盟国だ。追い返すわけにいかない。

 第九宇宙港に特使の乗る1200m級の戦艦とやらを入港させた。あちらさんの技術ではかなり背伸びした全長の船だが、こちらの標準船の1000分の一以下というのがまた妙な感じだ。

 第九宇宙港の隔離ドックに戦艦を収容した。仮に中で超新星爆発を起こされても耐えれる設計のドックだ。


 向こうの特使は随行員を含めて二百五十二名でやってきた。

 宇宙港にはそういうお客相手のホテルも用意されており、全員そのホテルに放り込んだ。どうせ動き回って盗聴器や盗撮カメラをせっちするつもりだろうことが予想できたからなおさらだ。

 こういう場所のお客用のホテルはプレハブ工法のようなパーツでできており、ダメならいっきに素材に戻して一日もかからず新造できるものだ。

 まあ、船を降りた時にデジタル変調をかけた広帯域の電磁波を高出力で一瞬だけ発生させたから、その手の器具は壊れているだろうことが予想できる。防爆仕様のやつは流石に壊せないが、部屋に設置できるようなものは大体壊れてるはずだ。

 代表者はピーター・グルーネ通商代表部二級審査官を名のった。

 審査官ってそっりゃどういう役職だと正直思った。これが交渉官とかならまだわからなくもないが、こちらにお前らごときに審査される筋合いはないといいたい。

 レリアから今回は顔を出さないようにと念押しされていた。

 私としても面倒ごとだ。顔を出すつもりはない。


 例にごとく、こちらは向こうの内部会議の様子は盗聴し放題だ。

 この日の執務の合間に連中の会話を覗いてみた。

『・・・代表、まずいですよ。あちらのほうが技術が明らかに上です。我々の最新鋭の戦艦がそこらの彼らのいう巡洋艦よりも小さいです。戦艦級にいたっては標準生産されてるものですら50kmを越えています。我々の五十倍です。』

 神経質そうな代表がうんざりした顔で言った。

『・・・・以前に受けていた情報と齟齬が大きすぎる。船がでかいのがわかるが性能はどうなんだ?』

『速度も我々を越えていると思います。次元航行ができる船ばかりのようです。』

『次元航行船の研究はわが国でも始まったばかりだ・・・・そんな馬鹿な・・・。』

 技官たちがつかれた様子で口を開く。

『戦争記録を見ましたが、正面からやると、我が国に派遣されている要塞艦というのでしたっけ?それのペルセウス級ひとつだけで我が方の二百個艦隊と同等です。すでにこの時点で物量で負けてます。』

『最新鋭戦艦出行けば、相手は黙るだろうとかゲール宇宙軍大将は言っておられましたが、お話になりません。黙らされたのは私たちのほうです。』

『・・・通商部の交渉のほうは?』

『代表、残念ながら相手はあちらの主張を一切下げません。協定を破棄したいのなら破棄しろと言わんばかりです。』

『・・・・まともに交渉も出来ない相手か・・・・ここは技術的なお土産をいただきたいところだが・・・・。』

『無理ですね。重力縮退炉の輸出まで止められそうです。あれをとめられたらうちのほうの造船業はひあがりますよ?領宙がこのあいだの戦争で得た分を合わせてもこちらの十分の一程度だとしても、産業レベルでの期待値を加味すると国力差は相手のほうが倍以上上です。』

 盗撮映像を眺めながら、向こうの人間は優秀だなと思った。素直に状況分析ができている。

 これが貴族社会だと、武威や体面やら面子がものを言って、まともに分析できない。

 民主制国家を恒星規模で維持しているということに畏敬の念はもつ。だが、彼らがやっていることをは礼儀を無視したハイエナ行為だ。

 こちらが妥協する理由にはならない。

 この状況をみて、ああ、日本がアメリカにバッシングされても対抗措置が取れなかったのは軍事力を持たなかったことが原因だろうなと感じた。

 実際は内部の外国勢力のロビーによる誘導で日本たたきがおきていたようだが、どちらにせよ軍事力があればはねのけれたかもしれない。半導体協定しかり、官業民営化圧力しかりだ。


 しかし、これ同盟国と戦争になったらどうするんだ?向こうは面子を潰されたことになるだろう。戦争になりかけてないか?私は不安に襲われるのだった。

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