第18話 会談
【銀河ユニオン歴】3月21日、ナーデシア連邦大統領と私との会談は、穏やかな雰囲気で始まった。
ショーン・マクフォルトはこちらの文明のレベルにしきりに驚いたことを述べていた。どうやら相手より優れたものが自分たちにはあるだろうと考えていたきらいがある。
特に政治制度については、随行員を含め、かなり突っ込んだやり取りがあった。もっとも向こうが水を向け、こちらに向こうが論破されるというのを繰り返している。
民主主義がいかに優れた制度か、弁論を随行員のひとり、カヤック・レンドルが力説したが、私の政治知識の無い者が政治をとることによるリスクとそれに人気取りによる弊害をつらつら指摘すると、黙ってしまった。
こちらも現在は一応は民主主義国家ではあるから、被選挙権を資格化し、万民に開かれた国民政治学校とそれの卒業後の政治試験により資格を取得する制度であることを説明すると、相手側は一瞬茫然とした様子だった。
「宇宙では時間が地上より重要です。判断を議会には任せれない案件が多い。軍事に関わる部分など最たるものです。即断即決が求められる部分がより惑星上の国家より増えているものと考えてください。」
彼らは、独裁権を持つ大統領が、失政をしたときのリスクをあげつらったが、それは議会政治でも同じことが言え、より人数が多いだけに腐敗が発生しやすいことを指摘すると、また黙ってしまった。
会談の様子は、公開で行われており、ナーデシアの報道機関三社ほども、その状況を録画していた。彼らの技術ではさすがに別の恒星系から中継をするわけにいかない。
一方、私たちのほうは、ナーデシア連邦内や制圧した国家の何万カ所かでスクリーンを設置して、この様子を中継していた。
彼らは自分たちの存在を売り込む場として会談を利用したかったようだが、やはり地上の文明レベルのイデオロギーや経済制度、政治思想は宇宙では通用しないなと思った。
よくSF小説などで、宇宙に出ても変わらないなどと主人公がうそぶく場面があるが、実際は、宇宙にでたら、あるいは恒星系以上の規模の国家では求められる政治制度の緻密さはかわってくるし、思想もより洗練される。
また逆に王政などが必要なるという主張をしているものもあるが、半分正解で半分間違いだ。制度を支えれる科学力があれば、民主主義国家のほうが国力は上げやすい。
国家規模にみあった技術力が求められるわけだ。こういうと地上とそこはかわらないじゃないかというひともいるだろうが・・・支えるにに必要な技術レベルはそれこそ天文学的数字の差よりもひどいものになる。別物といっていい。この辺は実体験がないとわかりづらいとは思う。
簡単なレセプションパーティを行って、ナーデシア連邦の大統領達は帰っていった。ほんのちょっと友達になれることを期待したが、価値観の隔たりが大きすぎた。
そのころ惑星ベナトリアの地上では、ナーデシア連邦のことを裏切り者とアジテーションをあげてデモ行進するトランキア都市部の市民の様子が放送されていた。会談の後、ニュースを傍受していてわたしは呆れるしかなかった。
裏切り者扱いしたところで、ベナトリア全土を我が国が併合するのは時間の問題だ。
この恒星系をベナトリア恒星系と呼ぶことが決定し、またベナトリア星系の惑星など各部で開拓作業が開始された。
ふと、各部の開拓の様子をプロモーションにしてくれるようにヴァンスのAIであるヴェルモに依頼した。
もちろん、地上の連中を先鋭化させるためのいたずらの類だ。
各国の放送局各局の電波ジャックをしてそのプロモーション映像を流してもらうことになった。電波ジャックとは、挑発するなら徹底的にするということだろう。ちなみにレリアの提案だ。
そして三日後、【ルエル連邦】探査開拓局の名前で、2時間のプロモーションムービィが朝昼晩の三回流されることとなった。ちなみに国際ベナトリア網の映像チャンネルSNSにもアップロードした。
予想通り、というかベナトリア連盟総会で、数カ国が、我が国の恒星系内の開発を、ベナント宇宙協約違反だのなんだのと非難声明を出していた。
そもそも別の星の存在に惑星上の条約を持ち出すとはいい神経していると思った。
ニュースでは、トランキア放送協会が、電波ジャックで生じた損害の賠償をトランキア司法審判会に提訴すると流していた。
人は自分が見たいものしか見えないとはよくいったものだといまさらながらに感じた。
レイナはそれをみて、提訴に参加する放送局の周波数を調べて、即日、電波妨害を行い、電波が受信できないようにした。衛星放送網に対しても、対象放送局だけ、放送できないように電波妨害を行わせた。
トランキアで電波妨害を免れたのは三局ぐらいだった。ラジオ局まで系列を放送できないようにレイナはしていた。そのうえ国際ベナトリア網上の対象放送局のサイトに対して情報攻撃を行い、オンデマンド上ですら映像を流せなくする徹底ぶりだ。
個人名義でSNSでそこの事に抗議する発言が見られたが、それに対してはレイナは放置していた。むしろそれらの情報が自然と拡散するように仕向けていた。
トランキア政府はこのことに対して、別の周波数を特例で無線封鎖された放送局に与えることを発表したが、即日その周波数はつかえなくなった。
これに伴い、広告代理店がそれらの民放から撤退することを表明。その発表とともに封鎖された民放各局の株価はストップ安を連日つけることとなった。
それらの民放は本社が新聞社であったため、それらの新聞で我が国の横暴を書き立てていたが、市民の反応はむしろ醒めていた様子だ。
それどころかトランキアの首都トランから脱出する市民が相次いだ。国外脱出をしている市民はまだ少数だが、その流れは加速し始めた。
返答期日は残り三日にせまっていた。
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