第42話 悪法か良法か
【銀河ユニオン歴】10月27日、この日、宇宙のホロコーストと呼ばれる、兵器型人種駆除法が、イエール銀河、バビール銀河、テノシオス銀河の【銀河ユニオン】加盟国で発布並びに施行が同時に行われた。
これは他の人類に兵器として作られた、惑星の文明を破壊するように無意識下で思考が誘導される記憶遺伝子を持つ人類に対しての取り締まりの法律だった。
これが発布された理由は、宇宙の人類文明圏の保護および維持発展のためだ。
放置しておくと他の人類を次々と滅ぼしていく蝗のようなこの兵器人種の集団行動が危険視された結果だ。
もちろん作られた彼らに罪はない。しかし、放置する、あるいは制御下において人権を与えるにはあまりに問題が大きすぎた。
専門部署である人類型兵器取り締まり省が【銀河ユニオン】本部に法律の施行とともに設置され、その指揮下にAIの取り締まり部隊がおかれることとなった。
それに先立ち、遺伝子検査が【銀河ユニオン】の全土で行われた。
やはり最も摘発数が多かったのは旧ブリザンド星系帝国内においてだった。
このあるいみ人権無視な法律について、政府から、遺伝子情報の内容についての詳細な説明などが、スペースネット上の政府情報発信局から繰り返し放送された。民放にも協力を仰ぎ、ニュースなどで説明をしてもらう念の入れようだ。
この兵器人種とその遺伝子のことを遺伝子の災いであることから、血禍と呼称することが正式に決まった。
血禍は、ロジック的に無意識下でまわりの人類を如何効率的に殺すか常に演算している。無意識下であるため、本人の人格に行動をさせる時点まで表面化しにくいといういやらしさだ。
そして一定時間以上、周りが血禍の遺伝子ばかりになると、お互いにありとあらゆる手をつかって殺しあう。
血禍には自滅ライブラリとよばれる圧縮された、自発的テロを起こすのに必要な兵器の設計や製造補法、ならびに利用法の情報を保存している記憶遺伝子領域がある。
遺伝記憶は脳内の神経細胞が形成された時点で解凍されて展開される。メッセンジャーRNAなどの変化のあるこの機構は複雑だが、現在の地球であっても綿密に調べれば理解することは可能なはずだ。
問題なのはこのライブラリに三重水素をレーザーで核融合させる技術の記述があり、またそれを利用した携帯型レーザー核融合爆弾の製造法についてまで記述されている。
記述のメインはバイオ兵器の類だ。人の手で作れる免疫不全ヴィールスの何種類かもここに記述されてる。
私も遺伝子解析の結果が出た時、思わず馬鹿なと言い放った。どこのどいつか、古代人かしらないが、とんでもない代物を作ってくれたものだと思う。
ゲリラ戦の方法論もここに記述されている。
核テロを伴った無差別ゲリラ戦を仕掛けられるというのは悪夢以外の何物でもないだろう。
血禍が収監されて処分を開始すると、我が国国内でも、一部の人権保護団体が、血禍に対して人類としての尊厳と人権を認めるべきだと運動を展開したりした。
もちろん我々政府としては無視の一言だ。
銀河や宇宙全体の安全保障問題だからだ。
血禍はライブラリの記述の兵器などは作れる。一方でそれ以外の技術開発は行えない。本来開発に必要な演算部分が破壊活動の方法論などの遺伝記憶で占められているせいだ。
彼らが基礎科学を無視して実用技術を他から奪えばいいと考えているのも、遺伝記憶によるバックグラウンドの人格の影響が大きい。
製作者の趣味らしいが、彼らは完璧なポーカーフェイスができないタイミングが必ずある。そして相手を嘲笑する。これもロジックに組まれた仕組みでしかない。
のちに【血の海の行進】とこの法による取り締まりは呼ばれることとなる。
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