第21話 二者択一
散々迷った末に、Γ勢力であるプリザンド星系帝国を狙うことにした。
合わせて四カ月の調査の結果、プリザンド星系帝国の大体の位置関係を把握した。
攻める理由は、この国がバービル銀河内で現在、対外進出を徹底して行い、占領国の国民を奴隷労働力にして、生産をおこなわせるという、植民地帝国主義政策を地でいっている国だからだ。
侵攻するにしても、大義名分が立てやすい。
それに、機動力はないが、砲の技術に関しては我が国に匹敵する。戦闘コロニー艦未満の船にはダメージがはいる。
この三か月間の間に、総旗艦の生産した増援だけでなく、本国からの増援部隊が次々と到着していた。
それに伴い、∑1星系改め、イスカンド星系は軍事拠点として整備されることになった。
採掘・採取用のコロニーはどうしようもないが、居住コロニーに関しては重武装のコロニーを運んできて、住民を強制移住させ、既存のコロニーは分解再資源化していっている。
強制移住に関しては、住民の反応は当然のごとく芳しくはないが、毎週の最低マイレージ食料や衣類の配布、住居に関する費用の減殺などで、懐柔はそこそこうまくいってる方だと思う。
生産拠点の整備もひと段落したこの日、要塞コロニー艦を中核とする、新造の大小合わせて三億隻の大艦隊がプリザンド星系帝国の前衛軍事星系バウマッツに向けてイスカンド星系を発進した。
計算では次元航行するので、三日後に逃亡した艦隊を追い越す予定である。姿は見せずスルーして現地を攻略する予定だ。
バウマッツ侵攻艦隊が現場に到着するまでの間の一週間に、イスカンド星系の星系知事を務めているベライオ・フェニック氏と、会談をすることになった。
フェニック氏は今年で58歳になる男性で、髪の毛は灰色と黒味がかった色で縞を造っている。耳は本当に短い毛が生えてるぐらいでピンと立っている。
現在イスカンド星系は我が国が直接AIによる軍政を敷いている。
フェニック氏は、どうにか軍政をから民政に移管してくれないか交渉に来た様子だ。
とはいってもこちらとしては軍政をやめるつもりはない。
無条件降伏してくれたので、無体な真似はしてないが、現地の政府機関から権力をはぎとり、AIによる統治にきりかえていっている最中だ。
フェニック氏は住民の民意で選ばれたという自負があるようだが、だからといって政治資格のない相手に政治のかじ取りは任せるつもりはない。
「・・・ですから、せめて都市行政だけでも民政に戻していただけませんか?」
「無理ですね。いま民政化をしたら一貫性が失われる。我々は我々のロードマップに従って、国の中へあなた方を組み込んでいく。
・・・・・・まあ、あなたの立場も理解しますよ。あなたが無条件降伏を選ばなければ犠牲者はもっと出ていた。しかし、これは国家百年の計です。
歪みを認めるわけにはいかないのですよ。・・・・第五惑星のガスプラント、そこの運営会社ペブロンからの献金額があなたは多いようですね。」
その言葉にフェニック氏は目を細めた。
「それがなにか?」
「まあ、最後まで聞いてください。そちらのエネルギー事情は、核融合発電所による発電などで営まれている。都市部のエネルギーをまかなっているのがそのペブロンの運営する発電会社。そこからあなたは突き上げをうけているというところでしょう。」
ふっとフェニック氏は息を吐く。
「そこまでご存知なら・・・・・。」
「しかしながら都市部自体を、我々の新造コロニー都市へに移住させている。そのうえコロニー都市ではエネルギーの対価は取らないか低価格になる。早い話がペブロンは会社運営が早晩行き詰まる。」
「ペブロンは大きな会社です。そこがつぶれれば・・・失業者が大量に出る。それもあなた方に恨みを持つ失業者が・・。」
「ご心配はわかりますよ。ですが、うちの国では労働は義務ではありません。もちろん勤労は尊ぶべき美徳ですが・・。生活するだけならマイレージで生活できる。はたらなくても衣食住すべてと、ほんのちょっとの趣味のお金すら給付される。」
「それは堕落ではないのですか?」
「堕落ではないですね。人はより価値の高い創造的勤労に従事することができる。無償で学習の機会も与えられれます。あなたがた高い意識で仕事をしてきたエリートには勝者として君臨する権利があると思い込んでいる人が多い。ですが、そういう考えは我が国では不要ですし、むしろ有害ですらある。」
「そういった形で敗者復活を容易にしているから・・・・・生産活動が効率化し、より経済が発達するというわけですか・・・。」
「労働人口の割合はマイレージ制度を敷いてから下がりましたが、それでも一割もさがってません。案外暇になると働きたくなる、あるいは学習したくなるのが人間だということです。」
私はコップの水を飲む。
「話が外れましたが、ペブロン社を救いたいなら・・・案がないわけではない。ペブロン社の株式を我が国が買い上げましょう。そのうえで上場廃止にして国営企業にするんです。エネルギー関連を民間企業に任せっきりというのはリスクが大きいですからね。腐敗の温床にもなりやすい。」
「そのような予算があるのですか?」
「予算圧縮のために、マイレージ制度の発表が行われてから、株式の買い付けを行うでしょう。事前に情報がもれて株価が上がれば、国営化は見送るしかなくなりますけどね。」
フェレック氏はその言葉に苦い顔をする。
「強制的に株式を徴収するという方法もありますが・・・経済的な損害が馬鹿にできないのでできれば取りたくない手法ですね。」
「・・・・ペブロンに示せば、公開買い付けの前にインサイダー取引をする人間が必ず出る。」
「インサイダー取引は我が国では違法ではありませんがね。情報を得てたのに生かせないというのは著しく公平性を損ないますからね。」
「ペブロンの会長に話してみます。」
私は頷いた。
その後はお開きになり、フェレック氏はこちらの標準戦艦に乗ってイスカンド星系へ帰っていった。
【銀河ユニオン歴】19年6月25日、この日イスカンド星系におけるマイレージ制度の発表が行われ、エネルギー関連企業の株価は軒並み続落した。
その間にレリアの管轄する経済AIはそれらの株式の空売りをしかけて、さらに値段を続落させた。三日後の6月28日、エネルギー関連株を我が国が評価額より少し高い値段で買い取りを開始。最初は非公開買い付けで行い、一週間後には公開買い付けにした。過半数の株式を取得したので、臨時株主総会を開き、経営陣への経営権の行使を行った。具体的には株式の上場廃止とエネルギー関連企業の国営化だ。
経営陣にはそれなりの退職金を支払ったが、これがよくなかったのか、経営陣は裏切りもの扱いを受けて、関係各所から非難の的にされている。
しかし、これによりガス惑星のエネルギー生産施設の雇用は確保された。うちのやり方だとエネルギーは国が一元管理している。エネルギー省傘下のエネルギー公社が運営をしている。
通貨がエネルギーカートリッジの価値で補完されるエネルギー兌換通貨であることも影響が大きい。
貴金属は宇宙では普遍の価値はない。偏りがあるが、金や銀が鉄より安い恒星系もある。貴金属兌換制だと、通貨の価値が保証できないのだ。
ましてや今みたいに原子合成技術が発展すると、金の価値はほとんどなくなってしまう。それよりもエネルギー材料のほうが価値があり、また普遍的な安定性があるのだ。
株式公開買い付けの前後から我が国の通貨エアルに徐々に切り替えをおこなっていっている。株式の買い付けもエアルで行わせることを法律で規定した。
そのため若干インフレぎみだったが、エアルの通貨価値が高い為、それが抑制されたかんじだ。
このあたりの経済調整は神経をつかうが、AI達が演算しておこなてくれているので私はほとんど触っていない。
【銀河ユニオン歴】19年6月27日、この日プリザンド星系帝国の軍事星系であるバウマッツ星系をわが軍が掌握し、本格的なバービル銀河への侵攻が始まった。
ブリザンド星系帝国はの人種は雑多だが、最上位に置かれているのはベードン氏族と呼ばれる爬虫類型人類だ。この人類はなんとほかの人類との交配が可能なのだそうだ。
爬虫類型といっても肌が青白いわけではなく、肌色をしている。一見すると我々と区別がつかない。
犬歯の生え方が我々と異なるぐらいで、それほど差がない。
ベードン氏族はブリザンド星系帝国の人口に占めるパーセントは1%もなく、それでいながら政治特権階級の8割を占めている。
完全なピラミッド型の社会を形成しており、上意下達が徹底された社会のようだ。
他は哺乳類型が人口の5割以上占めているが、その哺乳類型も進化元が異なり、それぞれの氏族に分かれているとの事だった。
ちないみに敗残艦隊はバウマッツに到着した時点で、降伏し、武装解除された。
処罰を与えたのは貴族階級の者たちだけで、そのほかの人々には我が国の行政制度に組み込み、また経済的な施策も行われた。
ブリザンド星系帝国は悪い意味で封建社会になっており、皇帝家も選帝侯7家から選帝侯会議で選ばれる仕組みだ。元老院がそれを追認したうえで皇帝に登極する。
もともとは元老院の選出によって皇帝が選ばれていたことがわかる制度だ。元老院が形骸化し、ベードン氏族の名誉職になっているようだ。
そのため、制度的には非常に前近代的だ。国民の自由旅行権も認めていない。旅行権を持つにはラニクスという階級になる必要があり、現状だとお金でその地位は買える。
国税として人頭税が敷かれており、これが経済発展を押さえつける原因になっている。何の生産もないところに税をかけている。人頭税が領地ごとの地方税だった地球の中世よりなお酷い。
バウマッツ攻略後、すぐに星系内を我が国基準の要塞に作り替える作業が始まった。
バウマッツ星系の第七惑星の衛星軌道にある軍事要塞レンゲルには要塞砲が設置されていた。調査段階だが、収束度はそれほどなく、広範囲にECMAを発生させることに主眼がおかれているのではないかというのがクラフトAI達の判断だ。
レンゲルも運んできたカイルス級固定要塞と交換させ、その素材は分解されて資源化された。
この間二週間ほどだが、敵からの攻撃はなかった。
先に送りこんでいる偵察艦隊からの連絡によれば、バウマッツ陥落の報は向こうに届いているらしく、このさきの交通の要衝である中核星系レーゲンで、艦隊を編成し、奪還に向かわせるつもりらしい。
わざわざ編成を待ってやる必要もなく、こちらから仕掛けることにした。
周りの恒星系を堕とすことを考え、AIメセナの乗船する、ガリア型戦略航宙母艦2番艦レイトロワを1隻、ペルセウスⅤ型移動戦闘コロニー艦4800隻、タルタロスⅣ型移動戦闘コロニー艦2780隻、そのほか約四億五千万隻の大艦隊を送ることになった。
会戦は三日後を予定している。
【銀河ユニオン歴】7月10日、レーゲン星系への攻撃は、到着するなり、激しい砲撃で開始された。
民間船だろうがお構いなしに遠距離砲撃が加えられる。
星系外縁部に置かれた敵の要塞の主砲砲撃で、こちらのペルセウス級の一隻が大破した。
やはり油断できない相手だ。その外縁部の要塞は8個あったが、強襲移乗艦や強襲降下艇により3っつが占領。1つが制圧中だ。
相手の要塞砲はチャージ時間と冷却時間が必要な砲で、連射はできないようだ。だが、こちらの要塞艦を狙い撃ちにしてくる。
強襲戦艦一隻が砲撃の盾になったが、シールドが持たず撃沈。要塞砲に耐えれる艦船はいないことが判明した。
遠距離砲撃で、残りの相手要塞はほぼ破壊された。
この星系は居住型惑星があり、そのまわりに円環型の巨大要塞都市がある。そこが経済の中心になっている様子だ。
居住型惑星と円環要塞については、強襲降下艇の大量投入により、力業で制圧。
集結していた艦艇の八割は撃沈。
戦闘中にすでに外縁部へこちら側の固定要塞が次々と到着。この星系を拠点化していった。
「先制攻撃をしても、ペルセウス級45隻の失陥はでかいな。」
私の言葉にレリアが頷く。
「防御しつつ生産を続けるという戦術がとれませんね。」
『そういうときはわしよりラグナに相談したほうがいいかもな。』
クラフターAIのドゥーエルの言葉に迷う。ラグナはすがすがしいまでの大艦巨砲主義だ。軌道戦と持久戦を主軸にしてきた我が国の軍事方針とは異なる。
「まあ・・・・・新しい砲の開発は続けていたはずだから・・・なにかいい案をだしてくれるかもしれないな。」
ラグナに遠距離通話をつなげ、先日の戦闘についての所感を聞くと、
『・・・火力がたりてませんね。遠距離火力が特に。最近は荷電粒子砲の収束の研究ばっかりやっていましたけど・・・案がないわけではありません。ペルセウス級にその巨体に見合った砲を装備させた戦闘型ペルセウス級をつくるべきでしょう。以前の5km口径砲では飛距離が足りてませんが・・・。収束度と後背励起機能の実現により、10km口径砲で理論的射程距離は40光年を超えることに成功しました。まあ・・・・・観測手段がないので、敵の星系をまとめて薙ぎ払うくらいしか射程距離を生かす方法はありませんがね。』
「連射速度と射撃時間は?」
『だいたい毎秒5発で三時間可能です。あと継続射線射撃では30分ほどかのうです。いわゆるゲロビームとかいうやつですね。』
私はすぐに砲撃仕様改修ペルセウス型仮称タナトス型の設計に入った。今回は生産設備も縮小する。長距離砲撃戦と防御性能を中心とした完全な戦闘艦仕様の戦闘移動コロニー艦にする。
タナトス型は全長4500km、主砲新型荷電粒子砲10km口径三連砲タレット5基。アルファンドラ型12次元縮退炉五基、複合単原子装甲八層、浮遊防空タレットなどが18万基。生産施設は基本的に自己完結型とし、生産ドッグは減るが、標準型戦艦などの生産施設兼艦載施設ドッグも保持する。接近された場合の基本は小型艦載機による防空戦闘を主軸とする。
ドッグの数がへり、内部宇宙港の出入り口も減らしたので、母艦能力はかなり下がったが、防御シールドの性能は5倍以上に上がった。
いわば防宙艦か強襲突撃艦の移動戦闘コロニー版だ。前線の壁としても使えるだろう。
細部のチェックをレリアにしてもらい、本国とこちらの設備で一カ月後に生産を開始する予定だ。
おそらく次の戦いには間に合わないだろうが、これで被害を減らせると思いたい。
その後、レーゲンを堕とした後、我が軍は四つの艦隊に分けて、プリザンド星系帝国の恒星系を堕としていった。
プリザンド星系帝国は、貴族軍などを首都星系プリザンドに集結をはかり、体制の立て直しにやっきになっているようだ。
その様子を偵察艦隊が捉えて映像を送ってきていた。
敵方に半径8000km級の巨大球形移動要塞らしきものが確認される。あれはまずそうな予感がする。
むこうの技術の設計思想なら、大口径長射程広範囲を地で行く砲をもっているはずだ。
実際にもっているかはわからないが、あると仮定して行動したほうがよさそうだ。
最悪派遣艦隊の壊滅もありえる。
しかし手持ちがない。戦略的には向こうが要塞を持ち出してきたら撤退するというのも手だ。
その後の情報収集で、あの要塞をケーニヒス要塞というらしいことが判明した。
主砲に神々の怒りという名前のものがあり、一撃で惑星を破壊する能力があるらしい。
なかなか厄介なことになりそうだった。
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