第32話 アバモ

「ぶ……」どうやらユーサーにとって想定外の提案だったらしい。「Vtuberブイチューバー……?」

「そうそう。あの……アバターを画面に映すやつ」我ながら適当な説明だが、Vtuberブイチューバーという概念をそこまで詳しく説明することもないだろう。「それなら顔出しもしなくて済むし……結構流行してるでしょ?」

「……まぁ……たしかに」


 Vtuberブイチューバーの人たちが面白い、あるいはかわいいリアクションをするホラーゲーム配信。それはやはり人気がある。高いトークスキルとプレイスキルで視聴者を魅せることができる。


 しかしユーサーにはトークスキルはそこまでない。ならば……


「まさか、が見せれるんじゃない?」

「……? Vtuberブイチューバーのまさか、ですか?」

「そうだね。基本的には……テンション高い人が多いと思うんだけど……大きなリアクションをするVtuberブイチューバーの人が多い印象」

「そうですね……もちろん落ち着いたタイプの方もいらっしゃいますが……少数派でしょうか」

「そう思う」少なくともヤーの認識では、そうなっている。「だから……『まさかここまで冷静で落ち着いたVtuberブイチューバーがいるとは』というまさかを見せられる」

「……なるほど……私の冷静さが、Vtuberブイチューバーのギャップにつながると……」それからユーサーは、「え……じゃあ、私……生配信するんですか?」

「……別に生じゃなくてもいいと思うけど……」言われてみれば……「Vtuberブイチューバーは生配信が多いかな?」


 そんなイメージがある。当然配信じゃない場合もあるのだろうが……


「たしかに生配信がいいかもね。動画撮影だと編集に時間かかるし……」

「……配信も準備に時間がかかりますが……」

「それはそうだけど……」

「そもそも……アバターはどう準備するんですか?」

「……えーっと……魔王討伐の報酬でもらってたから……」

「それ……便利な言葉ですね……なぜ魔王討伐の報酬にVtuberブイチューバーのアバターを……」

「10年後に役に立つからって……」

「その人は預言者か何かですか?」

「そうだよ? 国で一番の預言者の言葉をもとに、僕への褒美を考えてくれたらしい」

「……なるほど……」


 だから的確なのである。家も電波もパソコンもVtuberブイチューバーのアバターも、全部預言者の予言の通り未来で役に立つものだった。なんという凄腕の預言者だ。さすがは国で一番の預言者。


 さらに……10年後も使えるレベルのクオリティ……というより、ファイル形式が今も使える形式なのがおかしい。ソフトによって作り方は違うはずなのに……


 ……いつかあの預言者にお礼を言いにいかないといけないな……あまりにもお世話になっている。当時はありがたさがよくわかっていなかったが、今となってはよくわかる。あの人の予言は本物だ。


「ちなみに……どんなアバターなんですか?」

「えーっと……ちょっとまってね」古いデータなので、どこにやったかわからない。しばらくファイルを検索して、「あった。これ」


 表示したアバターをユーサーに見せる。するとユーサーが渋い顔をして、


「……なぜ私がローブをかぶっていることまで予言しているのでしょう……」

 

 言われてみれば、アバターはローブを深くかぶっている。ユーサーと一緒だ。


「国で一番の預言者だからね」

「……ネタにされるウェブ小説くらいご都合主義で進んでいきますね……勇者の報酬なら納得できる……いや、できない」


 納得できなかろうが、あるものはあるのだ。預言者に感謝である。そしてウェブ小説のたとえはよくわからない。


「とにかく……これは動くんですか?」

「……えーっとね……『アバモ』っていうソフトで動くみたい」

「アバモ……アバターモーションですね」そのソフト名を聞いて、いよいよユーサーはドン引きしていた。「……3年前にリリースされたソフトなんですが……」


 アバターを渡されたのは10年前である。


 ……


 あの預言者……スゲェ。

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