第33話 ららららら

 さて……なにはともあれアバターは完成している。アバターを動かすトラッキングソフトも買えばあるだろう。カメラだってマイクだってゲームだってある。


「逃げ場がない……」ユーサーは呆然と、「……突き詰めていけば実現不可能になると思っていたのに……うぅ……」


 そんなことを思っていたらしい。しかし、世の中やればできるものである。大人になってしまえば、大抵のことは自分でできてしまう。だからこそ、逃げ場がないのだが。


「じゃあ……どんなホラーゲームを実況する?」

「ほ、ホントにやるんですか……?」

「……嫌ならやらなくてもいいんだけど……」

「嫌で……いや、うぅん……」変な唸り声だった。「……それで少しでもお金が入ってくるのなら……少しでもヤーさんの助けになるのなら……やります」

「……む、無理しないで……」

「大丈夫です……もう私に失うものはないはず……」


 そんな悲痛な覚悟でやらなくてもいいのに……もっと軽い気持ちでやればいいのに。やってみて違ったらやめればいいや、くらいの気持ちでいいのに。


 炎上とかしない限りなら、とりあえずやってもいいと思う。


「で……では……なんのゲームをやりましょうか」

「そうだね……今話題のやつかな。それでいて、短めのやつがいいと思う」

「そうですね……いきなり長期の配信は厳しいですから……短編を」

「となると……フリーホラーゲームかな?」

「そうですね……そして有名、かつ攻略方法が確立されているもの……」

「じゃあ……ブルーオーガ?」

「そうですね……同じことを考えていました」


 ブルーオーガ。かなり前にリリースされたフリーホラーゲーム。突然現れる青色のオーガから逃げて、謎を探索するゲームである。RTAとかも行われていたはずだ。


 そこまで長くないし、知名度もある。名作とされているゲームなので攻略情報も多数。それに突然現れるバケモノに冷静に対処するユーサー、という冷静さを前面に押し出せる作品でもある。


 最初の配信にはうってつけのものだろう。


「では……配信ゲームはブルーオーガ……せっかくですし、サブチャンネルを作りましょうか。私の配信や実況は、そこに置きます。不評ならサブチャンネルごと削除しましょう」

「あぁ……まぁ、そうなるのかな」残しておいてほしいけれど。「じゃあ……もう決めるところは決めたかな?」


 ゲームも投稿場所も決まった。あとは撮影するだけだとヤーが思っていると、


「いえ……まだ名前が決まっていません」

「名前?」

「いつまでも『勇者の友達』では呼びづらいですし……場合によっては私以外の人物を指す場合もあります」


 ヤーに友達が新しくできれば、の話だが。


「ユーサー、で良いんじゃないの?」

「本名は嫌ですね……」本名ではないだろうに。「それに……Vtuberブイチューバーっぽくないですね」

「ああ……まぁたしかに」


 結構独特な名前をしているVtuberブイチューバーが多い。それも名前を見るだけで、なんとなくその人物のイメージができるような名前。


 ユーサーのイメージ……それを表現するとなると、ちょっと硬い感じが良いかもしれない。硬いんだけどどこか柔らかい部分もある……


「わかりやすく、覚えやすいものがいいですよね」それから、ユーサーが提案する。「ららららら」

「……?」


 なんの呪文だろう。


「名前ですよ。ララ・ラララでいいんじゃないですか?」


 ラ、がゲシュタルト崩壊しそうだ。


「……たしかに覚えやすいけど……」

 

 ララ……ララさん。呼びやすいし覚えやすいし……インパクトがあるし。たしかに面白いかもしれない。


 というか……ユーサーのネーミングセンスかわいいな……もっといかつい名前が出てくると思っていた。濁音だらけのやつが出てくると思っていた。


 とにかく……Vtuberブイチューバーララ・ラララ、始動である。

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