第17話 流行に合わせられる武器

 ユーサーは黒板に『今後の方針』と大きな文字で書いた。


「方針と言っても……まぁ、現状の方針を貫くので大丈夫でしょう。視聴者が求めていたのは、やはり勇者の技術だった」

「そうみたいだね」


 コメントと、動画の再生数を見ていればわかる。この方針を続ければチャンネル登録者も増えて、再生数も増えるだろう。

 護身術やトレーニング……この方針でいい。


「ですが……なにか他の武器も欲しいですね……」

「……『まさかを見せる』ってやつ?」

「それでもいいです。もちろん、やはりのほうを継続してもいい。そしてできれば……流行に乗れると良いのですが……」ユーサーは首を振って、「あまり良い案も思い浮かばず……申し訳ない」

「謝ることはないよ」本当にそうである。「そもそも手伝ってくれてるだけでありがたいし……キミの手腕はよくわかったし」

「ありがとうございます」言葉だけではなく、しっかりと頭を下げてくれるユーサーだった。「ですが……案がないのは事実」

「じゃあ……一緒に考えようか。トレーニング系以外の……新たなコンテンツ」

「そうですね」


 それからユーサーはまた黒板に文字を書く。『今の流行とは?』『流行に合わせられる武器は?』という2つだった。


「現状の流行は何でしょうか」

「……廃れてないので言えば、やっぱりゲーム実況とかかな。それと……最近はパソコンとかの紹介も流行してる気がする」

「そうですね……概ね同意見です。そして……」

「パソコン紹介は無理だね」

「そうですね……知識的にも専門家の方にはおよびませんし……なにより購入資金がありません。実物も見ずに紹介しても、説得力が薄いでしょう」


 ヤーもそう思う。少なくとも、ヤーの武器ではない。


「じゃあ……ランキング系動画とか……?」

「一昔前に流行していましたね……なにかヤーさんはランキングできるものが?」

「魔物の強さランキングとか……」

「……ふむ……悪くないですね。しかし、単発になります。質問が来たらやりましょうか」

「魔物がどれくらい強かったか教えてくれ、ってコメントが来たらやるわけだね」

「そうですね……ちなみに、一位は誰ですか?」

「魔王」これは即答できる。「ちょっとレベルが違ったね。魔王として統治と統率をやりながらだから……戦闘だけに特化してたら、俺より強かったと思うよ」


 戦闘だけに特化した勇者と、それ以外のこともこなせた魔王。戦えば勇者が勝ったが、有能なのは魔王である。それは認めよう。


「なるほど……」魔王、という言葉を聞いて、ユーサーは一瞬目をそらした。「……それも『やはり魔王は強かった』という売りがありますね……なかなか良い題材かと」

「ありがとう」

「ですが……できることなら継続的なコンテンツがありがたい」

「何本も動画を投稿できるコンテンツってことだね。しかも、俺の強みを生かした動画」

「そういうことです。まぁあくまでも理想なので……他のことで時間を繋いでもいいんですけど……」

「そこまで時間はないからね」

「そうですね」


 とはいえ、いきなり良いアイデアなんかが出てくるわけがない。そう簡単にひらめきが訪れたら、天才なんていらないのである。


「……どうしても思いつかない場合は、コメントで募集しましょうか」

「どんな動画を投稿してほしいか聞くってこと?」

「そうですね……できることなら、その前に視聴者の求めているものを汲み取りたいものです」


 それから、しばらくユーサーとヤーは話し合いを続ける。今後の動画投稿や本日の撮影内容などを考えていく。


 そうこうしているうちに昼食を食べ、本日も動画撮影が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る