第16話 もしかして本物?
翌日。いつものように美味しいユーサーの朝食を頂いてから、黒板の前に移動する。
「さて……先日の動画投稿、お疲れ様でした」
「いえいえ……ユーサーさんこそ、おつかれ」
「ありがとうございます」ユーサーは頭を下げてから、「それでは先日の結果からまとめさせていただきますね」
ユーサーは黒板に文字を書いていく。『再生回数 798』『コメント数 3(2)』『新規チャンネル登録者 3』
「おお……」その数字を見て、ヤーは感嘆の声をあげる。「すごい……」
「そうですね。初日にしては頑張っています。再生数は……まぁかつて魔王を倒し世界を救い伝説となった最強無敵の伝説の勇者ちゃんねる2の動画というだけで最初から再生しない人もいるでしょうからね……もう少ししたら、さらに増えてくるかと」
このチャンネルの動画は再生するに当たらない、と思われているらしい。名前は変えたのだけれど、やはり前回のチャンネル名のイメージはデカいのだろう。
それはともかく、
「コメント数……3個なの? 2個なの?」
「実質2つです」
「ああ……1万ラミアのやつ?」
「そうですね……やはり勇者の知名度にあやかって荒らしコメントも現れるのですね……本来はもっと大手の動画に現れるのですが……」
下手に知名度があるから、荒らしだけが来た。そして荒らしだけが残った、ということか。なんとも面白い状況になっているらしい。
「残ったコメント……仮に有効コメントと名付けましょう。1つは昨日も見たものです」
そう言って、ユーサーはA4の用紙を取り出した。そこに書かれていたのは、
「これは……動画のコメント?」
「そうです。まだ2つなので空白が多いですが……これからしばらくはコメントを用紙にまとめるつもりです」
ありがたいことだった。まだヤーはパソコンが使いこなせていないので、こうして配慮してくれるのはありがたい。頑張ってパソコンも勉強しよう。
さて……用紙に書かれているコメントを確認していく。
『ようやく……ようやく知りたかった情報が……せっかく勇者様が動画を投稿していたのに、今までは謎の討伐動画ばかりで……俺が求めてたのはこんな情報です。勇者の護身術、参考にさせていただきます!』
これは昨日も見たコメント。肯定的なコメントだろう。
それから……
『今まで偽物だと思ってたけど……もしかして本物?』
「偽物……?」思わず声に出してしまった。「偽物って……?」
「……主語がないので推測になりますが……おそらく『このチャンネルの勇者は偽物』だと思われていたのでしょう」
「えぇ……?」
「迂闊でしたね……」ユーサーはため息をついて、「考えてみれば……勇者の顔を知っているのはそこまで多くない。あなたは前線で戦い続けていましたからね。そんな伝説の勇者がいきなり動画投稿? しかもチャンネル名はかつて魔王を倒し世界を救い伝説となった最強無敵の伝説の勇者ちゃんねる2? 偽物だと思われていても仕方がない……」
言われてみればそのとおりだった。さらに投稿動画は弱い魔物の討伐。勇者じゃなくてもできる内容の動画だ。
偽物の勇者だと思われていた……だから……
「だから最初から再生回数が少なかったんだね……」ようやく理由がわかった。「そりゃ偽物の動画は……再生されないか」
「そうですね……そして本物だと思ってくれた人も、しだいに離脱していった。だから、今の状況がある」
「なるほど……」
少しずつ現状がわかってきた。解決方法はわからないけれど……まぁなにもわかっていないよりは圧倒的にマシだ。
「まぁ……勇者が本物だというのは、おそらくしばらくすれば信じてもらえるでしょう。技量や技を見ていればわかる。仮に偽物だと思われていたとしても、有用な情報を提供するチャンネルなら問題はない」
たしかにそうかもしれない。チャンネルの主が勇者だろうが偽勇者だろうが、はっきり言って視聴者からすれば関係がない。要するに見たい動画が見られたらそれでいいのだ。
「では……分析と今後の方針について考えていきましょう」
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