第15話 スマッシュ大五郎
午後の動画撮影を終えて、夕食を食べる。今日の夕食はオムライスだった。ユーサーが買い出しに行き始めてから、さらに料理が美味しくなった。食に興味がないヤーでも美味しいと感じるくらいの料理の腕だ。
動画編集もできるし……このユーサーはなんでここまで自分の手助けをしてくれるのだろうか。ユーサーの素性的に町に居づらいのはわかるけれど……
「さて……」ユーサーは食事中に、「そろそろ、動画が投稿されますね」
「え……ああ」時計を見ると、19時8分くらい。「予約投稿?」
「はい。一本目の動画をすでに予約してあります」
ヤーがボケーっとしているうちに、すでに予約投稿を済ませてくれていたらしい。ヤーは予定を立てて動くのが苦手なので、こうして管理してくれる人がいるとありがたい。今までの動画投稿は適当な時間にやっていた。
「食べ終わったら、反応を確認してみましょうか」
「確認するだけあるといいけどね」
「……最低限は反応が出てくると思いますけどね……勇者という知名度は抜群なのですから、有用な動画さえアップロードできれば」
「今まで俺が勇者の知名度をドブに捨てていたみたいな……って、実際にそうか」
「まぁ……そうですかね」
そうらしい。自覚はある。たしかに今まで、ヤーは勇者の知名度をドブに捨てていた。だからこそ勇者の肩書をもってしても300回も再生されない。
「少し気になっていたのですが……」ヤーが言う。「勇者の知名度があって……どうしてそんなに再生回数が少ないのでしょうか?」
「動画がひどいから、じゃないの?」
「私も最初はそう思っていましたが……」ユーサーはノートパソコンの画面をヤーに向けて、「もしそうなら、最初の投稿動画くらいは再生回数が伸びそうなものです。たしかに1200回と少し多めですが……勇者としては物足りない」
「……たしかに」一応勇者なのだから、名前だけで動画を再生してくれそうな人は、もう少しいそうだが……「なんでだろうね?」
「……なぜでしょうか……不思議です。チャンネル名から敬遠した人が多いのでしょうか?」
「かもしれないね」
かつて魔王を倒し世界を救い伝説となった最強無敵の伝説の勇者ちゃんねる2。今にして思えば、ひどいネーミングセンスだ。ヤー自身も、絶対にこのチャンネルは再生しない。
「……まぁ、今考えても仕方がないですね。今は動画の再生回数を注視しましょう」
「了解」
たしかに考えても答えは出ない。ならば、心の片隅にとどめておくだけにしよう。もう少し情報が集まれば、答えは明らかになるかもしれない。
ということで夕食を食べ終わって、時刻は19時30分。
「さて……では、見てみましょうか」少し緊張しているようにみえるユーサーだった。ノートパソコンの画面を覗き込んで。「……」
「どうだった?」
「……順調、といっても良いでしょうかね」
ユーサーはノートパソコンの画面をヤーに向ける。そこにはさきほど投稿してあった最初の動画……『勇者の護身術』が投稿されていた。
再生回数は……
「139……?」驚いて、声を上げる。「……え? 20分で?」
「はい」少しばかりホッとした様子のユーサーだ。「コメントも付いていますよ」
「1万ラミアくれるって?」
「そのコメントは忘れてください。あっても無視してください」ということは、そのコメントもあるらしい。「そして……コメントでなんとなくわかりましたよ。これからの、チャンネルの方針が」
「へぇ……」
なんともありがたいコメントを残してくれた視聴者らしかった。もしかしたら、最初のチャンネル登録者5人のうち1人かもしれない。
画面を覗き込んで、そのコメントを確認する。
『ようやく……ようやく知りたかった情報が……せっかく勇者様が動画を投稿していたのに、今までは謎の討伐動画ばかりで……俺が求めてたのはこんな情報です。勇者の護身術、参考にさせていただきます!』
「継続的に視聴してくれていた人、みたいですね」ユーサーは愛おしげに笑って、「勇者様のファン第一号、でしょうか」
「そうかもしれないね」動画投稿のファンとしては、第一号かもしれない。「名前は……『スマッシュ大五郎』さん」
売れない若手芸人みたいな名前してるな……まぁ、かつて魔王を倒し世界を救い伝説となった最強無敵の伝説の勇者ちゃんねる2よりは圧倒的にマシか。
しかし20分で100回再生か……これは、もしかしたら1000回とか行くかもしれない。最初の動画にしては上出来だろう。コメントもあるし。
「さて……」ユーサーはうなずいてから、「明日の朝……この動画のコメントやらを分析しましょう。今日のところは保留ということで……」
「わかったよ」
ということで、ついに動き始めた勇者のチャンネル。
これからどうなることやら……
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