勇者が再現してみた

第18話 鋼ノ拳

 動画内容を考えて動画を撮影する。動画内容を考えて動画を撮影する。動画内容を考えて動画を撮影する……それらを繰り返して、さらに1週間が経過。『勇者』として動画を投稿し始めて1週間である。


 その日の午前中。ユーサーがノートパソコンを眺めながら、


「なかなか順調ですね……」


 そして黒板に成果を書き出していく。


『最高再生回数5431再生』『チャンネル登録者数102人』


 ヤー1人だけのときだと、考えられない数字だった。4桁の再生回数なんて見たのは本当に久しぶりだった。


「……まさかこんなに早く再生回数が増えるとは……」

「もともと知名度はあるチャンネルでしたからね……内容さえしっかりしていれば、このくらいは行きますよ。これからも、増えていくと思います」


 逆に今までがすごすぎたのかもしれない。勇者の知名度を持ってしても300再生とは……どれだけひどい動画を投稿していたのだろう。


「再生回数だけじゃない……コメント数も増えております」

「ありがたいね」

「そうですね……さらに、今後の方針を左右しそうなコメントも投稿されておりますよ」

「?」


 首を傾げるヤーに、ユーサーが紙を差し出す。コメントが書かれた紙も最初は空白が多かったが、しだいに空白がうまるようになっていた。


 すべてのコメントに目を通してから、


「この……赤文字のやつ?」

「はい」

「えーっと……」ヤーはそのコメントを読み上げる。「『動画投稿お疲れ様です。勇者様は【鋼ノ拳はがねのけん】というゲームをご存知でしょうか。リアルな戦闘が売りのゲームなのですが、このゲームのキャラクターの戦い方は実戦的なのでしょうか? なにか戦いに関して無駄な動きをしているように思えてしまうのですが……もしよろしければ、勇者様の意見をお聞かせください』」


 つまりこれは……


「リクエストですね」ユーサーが言う。「しかも……これは大ヒントになりそうな予感ですね」

「大ヒント……?」

「はい。とりあえず依頼の内容を整理しましょう」ユーサーはまた黒板に文字を書きながら、「リクエストの内容をまとめると、こうです」


 黒板には『ゲームキャラクターの戦い方を、勇者様に評価してほしい』


「要約するとこういうことですね。それが今回は……鋼ノ拳はがねのけんというゲームについての依頼です」

「ふむ……格闘ゲームだよね。聞いたことあるよ」

「私もです。たしか鋼ノ拳はがねのけんは4まで発売されている人気シリーズのはずです。コンセプトは『リアルな格闘ゲーム』だったのですが……」

「ですが?」

「初期の鋼ノ拳はがねのけんは本当にリアルな戦闘がコアなゲーマーに受けたゲームだったのですが……最近はグラフィックの進化に伴い、リアルなのかどうか、賛否が分かれるようになりました」


 なるほど……ちょっとずつわかってきた。


「つまり……演出に偏りすぎているって批判があるんだね」

「そうですね……まぁゲームである以上、ある程度の誇張は許されるかと思いますが……コンセプトがリアルな格闘ゲームですからね……」


 リアルさが売りなのに、そのリアルさが失われているのではないかという質問。


「たしかに……」ユーサーは言う。「戦いについて意見を求めるなら、うってつけの相手ですね。勇者様は……戦いのスペシャリストですから。それも……極めて実戦的な戦いの」

「まぁ……そうだね」


 戦いに関しては自信がある。むしろ戦いにしか自信がない。


「頼もしいですね。ではさっそく……鋼ノ拳はがねのけんを購入しましょうか。かなり値が高いですが……まぁ必要経費だと思われます。PCスペックも足りているので……」

「そうだね……って、パソコンってゲームもできるの?」

「……最近の技術は一気に発達しましたからね……むしろパソコンにできないことを探すほうが難しいかと……」

「へぇ……」


 そんな便利なものだったのか。いよいよ10年前に良いパソコンを与えてくれた人に感謝である。

 

 とにかく……勇者の新たな動画の開始である。

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