第19話 私がいなくなったとき?

「できることなら……これは継続的なコンテンツにしていきたいですね」

「……継続的?」

「はい……シリーズにタイトルを付けるのなら……『勇者による格闘ゲームの技評価』でしょうか。採点基準は『実際の戦闘時にどれくらい使えるのか』です」

「なるほど……たしかに僕の……あ、いや、俺の得意分野かもしれない」


 ユーサーはヤーの一人称に一瞬引っかかったようだが、深くは追求せずに、


「そうですね……というより、勇者が世界で一番向いている分野かもしれません。『やはり勇者の技評価は的確』という視聴者のやはりも満たせる」

「そうだね」技の評価に関しては本当に自信がある。「実際の戦闘では……どの技に注意を払うのか、どの技ならある程度無視していいのか、どの技なら真似していいのか……一瞬で判断しないといけないからね」


 相手の技を過小評価すると、それは死につながる。過大評価しすぎても、これまた死につながる。他の技への注意が疎かになるからだ。


 というわけで……今回のことは本当に得意分野だ。問題なのは……


「問題は……俺にそのゲームがプレイできるのか、ということ」

「そうですね……最悪、ゲームプレイは私ということも考えましたが……テロップ等で『操作はアシスタントがやっている』とかを表示すればいい話ですが……」

「できることなら……俺自身がやったほうがいいよね」

「そうですね……やはり説得力が違ってきますからね」


 技の初速や、操作の感覚……それらはやはりプレイしないとわからない。ゲームについてコメントするならば、やはり自分がプレイしたほうがいい。


 さらに、ユーサーは言う。


「しかも……継続的なコンテンツにする予定ですからね。この企画の良いところは『他のゲームでもできる』ということです」

「技さえ登場すれば、評価をつけられるってことだね」

「そうです。鋼ノ拳はがねのけんのようにリアルさを売りにしていない場合は評価の基準を変える必要は出てくるでしょうが……概ね問題なくシリーズ化できそうです」

「そうだね」

「そうなったら……私がいなくなったときにヤーさんだけで続ける必要があります。なら、プレイヤーはヤーさんのほうがいいでしょう」


 聴き逃がせない単語が出てきた。


「私がいなくなったとき?」

「はい。私は……そこまで長居はできないでしょう。いつかいなくなります。その時は……ヤーさん1人でチャンネルを運営するのですよ」

「……」できるかなぁ……不安だし、それに、「努力はするけれど……できれば、いなくならないでほしいな」

「……善処しましょう」


 ユーサーは咳払いをして、話題を戻す。


「さて技評価コンテンツですが……ヤーさんならさらに……」

「なに?」

「いえ……少し考えがあるのですが……もう少しまとまってから判断しますね」

「ああ……うん」


 よくわからんが、ユーサーがそう言うなら今は深く聞かないでおこう。


 それからユーサーはパソコンをいろいろと操作して、


「購入完了です。今すぐプレイできる状態にしておきました」ユーサーは壁の時計を見て、「……そろそろ昼食にしましょうか。食べ終わったら、さっそく『勇者による技評価』の撮影を開始していきましょう」

「わかった。ちょっと、練習しておいたほうがいい?」

「……練習してうまい姿を見せるのもありですが……初見の反応も欲しいですね。ですので、プレイはまだお控えください」

「わかった。ありがとう」


 ということで、またユーサー制作の昼食タイムである。ユーサーの作る食事は本当に美味しいので、もはや一日の楽しみの一つになっている。


 本当になんで……ユーサーはここまでやってくれるのだろうか。謎だ。

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