第20話 感謝の気持ちを忘れずに
昼食を食べ終わって、ヤーはデスクトップパソコンの前に座る。ヤーは普段使っていないが、ユーサーが動画編集のときに使っている。
パソコンにはコントローラーやマイク等が取り付けられていた。
「さて……」ユーサーは準備を終えて、「録画ソフトはインストールしておきました。フリーソフトですが高機能で高い人気を誇る……要するに良いものです」
「それが無料なんだ……ありがたいね」
「そうですね。感謝の気持ちを忘れずに、利益が出始めたら支援しましょうか」
「そうだね」その支援で機能が良くなるのなら、必要な出資だ。「それと……マイクも必要なの?」
トレーニング動画撮影のときには、勇者ヤーは一言もしゃべらないことになっていた。あとから編集で字幕を足すにとどまっていたのだ。
「場合によっては、そのまま勇者様の音声を使います」
「その計画はなくなると思うよ……」
「……その場合は、私が音声をもとに字幕をつけます。そのためにも勇者様の音声は必要ですよ」
「なるほど……」
あくまでも解説の内容は、ヤーが考えなければならないということか。これは頑張らなければ。今までは型を披露するだけだったから、ある程度は楽だったのだが。
「それから……今回はゲーム実況に近いコンテンツになります。トレーニング系動画の場合はうるさすぎるのもどうかと考えて字幕だけだったのですが……」
「……ほう……」
「今回は機械音声でもつけてみようかと思っているのですが……よろしいですか?」
「……」全部ユーサーに任せるのは簡単だ。だけれど、「機械音声って……どんなメリットがあるの?」
ユーサーはいつかいなくなると言う。もちろん引き止めたいけれど、それがユーサーの意思なら止めはしない。ならば……自分自身も勉強をしなければ。
「そうですね……『肉声』『機械音声』『字幕のみ』に分けて説明します」
「お願いします」
「はい。まず肉声ですが……自分の声をマイクに吹き込んで動画を撮影するパターンです。メリットとしては音声を直接取るので、あとから音を付ける必要がない。動画時間とセリフの分量を配分しやすい、ということですかね」
「配分?」
「はい。たとえばゲーム実況で……喋りたい言葉があるのに、プレイ動画の時間と噛み合わない、ということが少なくなります。喋っている間、プレイを引き伸ばしたりもできますからね。逆に後付の場合はそれも難しい」
「なるほど……ボスについて説明したいのに、5秒くらいで秒殺しちゃったら説明ができないわけだね」
「極端な例ですが、そのとおりです。まぁ、肉声でも機械でも、なんとかなりますけどね。要は投稿者の技量次第です」
セリフや語彙力、アドリブ力等でごまかせる範囲ではある。
「次に機械音声ですが……メリットは噛んだりは絶対にしない。確実に聞き取りやすくて、音量や速度も自由自在、ということですかね」
「たしかに噛んだりはしないね」
機械音声なのだから。たまにタイピングミスとかでよくわからないことを言ったりするけれど。
「そうですね。さらにあとからセリフを考えるので、即興で喋るよりはわかりやすく、まとめて言葉をつけることができます。失言等も……少なくなるかもしれません」
しっかり考えた上で失言、ということもあるだろうけど。
「そして機械音声のデメリットですが……これはとにかく編集に時間がかかります。イントネーションや速度……リアクション……立ち絵等もこだわりだしたら時間がいくらあってもたりません。どこを妥協して、どこに個性を出していくのか……非常に難しいです」
動画編集も大変なんだなぁ、と他人事のように思う。しかし他人事ではいけない。いつかは自分でやることになるかもしれないのだ。頑張らなければ。
「最後は無音……あるいは字幕のみですね。これはシンプルに……静かであることがメリットですかね。家族で見たり、純粋にトレーニングのみに集中したい、という場合に有効かもしれません」
「なるほど……どれがいい、というわけじゃなくて、それぞれメリットとデメリットがあるんだね」
「そういうことですね。投稿者の属性や視聴者の求めているものにもよりますが……いろいろと使い分けてみるのが良いと思います」
しっかりとそれぞれの特性を理解していることが重要なのだろう。なんとなくわかった。
それにしてもユーサーはしっかりものだ。質問すれば大抵は答えが返ってくるし、その場ではわからなくても調べてきて教えてくれる。なんとも頼りになる存在が仲間になってくれたものだ。
「他に質問がなければ、始めていきましょうか」
ということで……新シリーズ『勇者による技解説』スタートである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。