第21話 時間停止能力?

 さてゲームを起動して、撮影スタート。機材の設置はすべてユーサーがやってくれるので、ヤーはプレイして技の解説をするだけである。ちなみに、さすがに家の中での撮影である。


「なにか喋ったほうがいい?」

「……おまかせします。技の解説さえしっかりとしていれば、あとはなんとかなりますので」

「わかった」


 ということなので、無言を選択。今の技量では喋ったところでカットだし、トークが上達するとも思えない。自分1人でチャンネルを運営することになったとしても、おそらく機械音声に頼ると思う。


 ディスプレイにはゲーム画面が映されている。なんとも美麗なグラフィックでのオープニングムービーだった。


 オープニングを見終えて、画面が止まる。

 

 そして、ヤーは言った。


「で……どうするの?」

「……え……?」ユーサーもさすがに驚いたようで、「……スタートボタンを、押してください」

「すたーとぼたん?」

「……コントローラー真ん中の……三角のやつです」

「あ……これね」スタートボタンというのをはじめて知った。「押したよ。それから教えてほしいんだけど……」

「なんでしょう」

「この画面に出てる文字はなんて読むの?」


 画面上には『START』『LOAD』『OPTION』『EXTRA』の項目が並んでいる。


「……」ユーサーはヤーを見てから、説明を続けた。「上からスタート、ロード、オプション、エクストラと書いてあります」

「なるほど。ありがとう」

「……礼はいいのですが……ヤーさん……前にゲーム実況をしようとしたとき、操作が難しくて断念したと言っていましたよね」

「うん」

「……まさか、前回も最初の画面で断念を? ゲームを開始すらできていない?」

「そうだね」他のゲームをやっても似たようなものだ。「ちょっとね……これらの言語が理解できなくて。音を聞けばわかるんだけど、読めない」

「……なるほど……たしかにこの国の公用語ではないですね……」普段ユーサーとヤーが会話している言語ではない。いわゆる外国語だ。「……本当にあなたは……戦うことしか知らないんですね……」


 自覚はある。外国語とは言え、子供でもわかるような初歩的なものだろうという推測は成り立つ。そうでなければ多くのゲーム画面に採用されていない。


 しかし、ヤーにはそれが読めない。そんな教育は、受けていない。


「その辺の言語の説明は後でします。今はスタートをお選びください」

「わかった」


 STARTを押して、いよいよゲームスタートである。


 ゲーム画面が変化する。今度は10くらい項目がある画面に到着した。それだけでめまいがしそうな情報量だが、なんとか処理しないといけない。


「……いろいろあるね……」

「そうですね。鋼ノ拳はがねのけんはキャラクターのカスタマイズが可能で……1つのアカウントで複数のセーブデータが作成できます。セーブデータによってキャラクターのカスタマイズを変え、友人同士で対戦、ということができます」

「へぇ……」よくわからないが。「じゃあ……なにを選べばいいの?」

「そうですね……ストーリーも骨太で面白いと評判なのですが……今回は技評価のみですからね。トレーニングモードに行きましょう。真ん中右の緑のやつです」

「わかった」


 ヤーはユーザーの指示のままに操作していく。さすがに十字キーくらいは操作できるので、トレーニングモードには容易にたどり着いた。


 そして、


「おお……」ヤーの目が輝く。「なんか……いっぱい出てきたよ?」

「そうですね。総勢キャラクターは48。一般的な格闘ゲームではかなり多いほうでしょう。まぁキャラクターを量産して、受けが良ければ続投。悪ければ降板、ということを繰り返していますからね。会社の方針なのでしょう」

「へぇ……」あんまり興味がない話だった。「それで……どのキャラクターを選べばいいの?」

「……悩みどころなんですが……」ユーサーはなにやらメモを取り出して、「事前に……動きがリアルじゃないと言われているキャラクターをいくつかピックアップしたんですが……」

「じゃあ……その中から選ぼうか」


 ヤーはユーサーから紙を受け取って眺める。そこには4人のキャラクターが掲載されていた。名前を見てもよくわからないので、とりあえず見た目で選ぶことにしよう。


「この……ヒゲのおじさんとか」

「リチュオル、というキャラクターですね」ユーサーは今度はパソコンを見て、「年齢43歳。巨漢の大男で、持っている大剣を力の限り振り回すパワータイプのキャラクター」


 パワータイプ……なるほど。たしかにはち切れそうな筋肉を持っている。さらになんとも重量のありそうな大剣を背負っていた。たぶん切るというより叩き潰すタイプの武器だと思う。


「ではそのキャラクターを選択してください」


 言われるままヤーはヒゲのおじさん、もといリチュオルを選択する。リチュオルが謎の外国語を喋って、今度は対戦相手となるキャラクターを選ぶ。ユーサーが言うには相手は誰でもいいらしいので、適当に選んでおいた。


 画面が暗転する。壊してしまったかと一瞬焦るが、すぐに画面が切り替わった。『ROUND1』と表示されて、なにやらゲームがスタートしたらしい。


「適当にボタンを押してみてください」


 言われて、ヤーはスタートボタンを押す。すると四角いポップアップが出てきて、ゲーム内の時間が止まってしまった。音楽もなくなって、キャラクターの動きも止まってしまった。


「なにこれ……時間停止能力?」

「……違います……スタートボタンとセレクトボタン……コントローラー真ん中のボタン以外でお願いします」

「……了解しました……」


 どうやらアホな間違いをしたらしい。なにをどう間違えたのかもわからないが……とりあえずスタートボタンはむやみに押して良いものじゃないらしい。


 ……ゲームって難しいな……ゲームが好きな人は、よくこんな複雑な操作ができるものだ。おそらく多くの努力を積み上げてきたのだろう。素直に称賛できる。


 ともあれ……前途多難な感じだが、とりあえずは技解説のスタートだ。

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