第22話 ウェーブアタック

 ヤーの後ろで、ユーサーが解説を続ける。


「リアルじゃないと批判されている技は……必殺技の1つ……ウェーブアタックというものらしいです」

「ウェーブアタック……どうやったら使えるの?」

「下、右、右下、後ろ、斜め後ろ、下、のあとにマルボタンですです」

「……ごめん……あと50回くらい言ってもらってもいいかな……」

「言葉ではわからないと思うので……」ユーサーはまた紙を取り出して。「技コマンド表です」

「なにからなにまで……ありがとう」もう頭が上がらない。「えーっと……ウェーブアタック」


 コマンドを確認する。どうやらこの順番で押せば必殺技が発動するらしい。マルボタン……というのは右側にある赤いマルだろう。


「えーっと……」ゆっくりと確認しながら、コマンドを入力する。しかし、「……出てない、よね?」


 ちょっとキャラクターが動いたあとに、大剣を繰り出しただけである。必殺技っぽくない。


「もっと早く……入力してください」

「は、早く……?」

「そうです。成功すると派手なエフェクトが発生するので……すぐにわかると思います」


 そう言われて、何度かコマンドを入力する。失敗しても諦めず、何度も何度もチャレンジする。


 そして52回目の挑戦を終えて、


「……難しい……」ヤーは一度コントローラーを置いて、「……ゲームをやっている人たちは、これを毎回やってるの?」

「そうですね……慣れたらほぼ100%の確率で技が発動するでしょうね」

「……嘘でしょ……」成功する気がしない。努力して行きつける気がしない。「すごすぎるでしょ……魔王倒すより大変だよ……」

「もっと自分の偉業に自信を持ってください」そんなこと言われても……「しかし……困りましたね。技が出ないことには……私もゲームの類はやったことがないですし……」

 


 ゲームの類はやったことがない……なのにヤーに対してゲームの指示ができるということは……おそらく事前に、相当な勉強をしてきたのだろう。ありがたいことだ。やはりユーサーにはいなくなってほしくない。

 それからユーサーはブツブツと独り言を言う。


「プレイ動画……それも選択肢ですが……ううむ……説得力と継続性を考えると……」

「……もうちょっと頑張ってみるよ」

「ありがとうございます」


 お礼はいらない。こっちがお礼を言わないといけない状態だ。技の1つや2つ出さないと、ユーサーに申し訳がない。勇者の名折れだ。


 何度も諦めずにコマンドを入力する。少しずつ慣れてきて、入力速度が上がってきた。そしていよいよ指が痛くなってきた瞬間だった、


「あ……」なにか奇声を発して、リチュオルが大剣を振るった。派手なエフェクトとともに相手がふっとばされるのが見えた。「……成功?」

「はい」ユーサーが笑顔で、「大成功です。お疲れ様でした」

「ああ……よかった……」これでなんとかユーサーに顔向けできる。「ありがとう……」


 とはいえ……疲れた。100回を越えたあたりから試行回数を数えていなかったが……おそらく200回は超えていただろう。いくらなんでも不器用すぎる。ユーサーの反応を見る限り、ここまで苦戦するようなものじゃないだろうに……


「ともあれ……撮影は終了しました。他の技の収録もしたかったのですが……今からでは辛いでしょう」

「大丈夫」体力には自信があるし、この程度でへこたれていられない。「他の技もやるよ」

「ですが……」

「大丈夫だよ」ユーサーの頑張りに応えなければ。「さっきのコマンドを、他のキャラクターでもやればいいんでしょ? それくらいなら……」

「ヤーさん……」ユーサーは首を振って、「コマンドは……キャラクターによって異なります……」

「え……?」


 やっぱり他の技はやめよう、なんてことは今さら言い出せないヤーであった。

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