第29話 勘違いしている
さらにコメントが表示されるので、ヤーは読み上げていく。どうやらさきほどの『動画編集って勇者様がしてるのかな?』というコメントに対する返信らしい。
「『動画編集は友達がやってくれてるって言ってたよ』『勇者様友達いたのか……』『この動画編集もセンスあるよね。ちょっとお硬い所あるけど……』」
そこまで読み上げて、ヤーはユーサーに言った。
「褒められてるね。なにか問題が?」
「……褒めていただけるのはありがたいのですが……」さらにユーザーは他のコメントを表示する。「こちらを……」
見せられたコメントには『友達さんのゲーム実況とか見てみたい』『ちょっとわかる。ゲーム詳しそうだし』『勇者様もだけど、友達さんは配信とかしないのかな?』というものが並んでいた。
「……なるほど……つまり『ユーサーにファンがついてる』わけだね」
「……そのようですね……」ユーサーは複雑そうに。「しかし……私はそんなにゲームが詳しいわけではないですし……」
それは知っている。ユーサーが動画編集でゲームを解説するときは、そのゲームを徹底的に調べ上げてから解説するのだ。最初から詳しいわけじゃない。勉強して詳しくなっているのだ。
それで……とにかくユーサーにゲーム実況や生配信をしてほしいという要望、リクエストが来ているようだ。
「やるの?」
「やりませんよ」即答された。「ゲームは苦手ですし……ですが、リクエストを完全に無視するのも良くないですね。しっかりとコメントを読んで誠実に対応しなければ……」
「つまり、穏便に断りたいわけだ」
「そうですね……」
「……そうなんだ……」ちょっと残念だ。「僕もユーサーさんの生配信見てみたいなぁ……」
「……」信じられない物を見るような表情された。「……本気で言ってます?」
「……割と本気だけど……」
「……」ユーサーは首を横に振って、「理解不能です……ヤーさんも視聴者さんも……私のことを勘違いしている」
「そうかなぁ……」
ヤーからすればユーサーのゲーム実況を視聴者が望む理由もわかる。ユーサーの動画編集は基本的にわかりやすくて、ところどころに笑えるところも仕込んである。見やすいしセンスも感じるし……少なくともヤーが実況するよりは面白くなると思う。
「コンテンツの1つとしては考えてみてもいいんじゃない?」
「……コンテンツ……」
「『ユーサーのゲーム実況』あるいは『生配信』」
「そんなの需要が……」
「あると思うよ。実際、コメントがあるし」
需要がないのならコメントだってない。見たい人がいるからコメントがあるのだ。
「ですが……ですが……」ここまで言葉に困るユーサーも珍しい。「……」
「もちろん無理強いはしないけれど……」
「いえ……」やる気にはなっているようだった。「もしも……私がそれを実行することで、ヤーさんの助けになるのであれば……」
「それはなる。というより……ユーサーさんの負担が大きくなりすぎると思うけれど」
「それは大丈夫ですよ。まだまだ体力的には余裕があります」ユーサーって、やっぱり人間じゃないよな。明らかに。「ですが……なにから手を付ければいいのか……」
「ふーむ……」
少し考える。
ユーサーのゲーム実況、あるいは生配信。勇者チャンネルの新たなコンテンツ候補。
それを成功させるために、どうしたら良いのか。
……やれることは、変わらないはずだ。
「ユーサーさんが教えてくれたことを……そのままやればいいんじゃないかな?」
「私の……」
「そう。『やはりに応える』と『まさかを見せる』……この2つを意識して、さらに得意なことと結びつける」
「……なるほど……」
ということで、ユーサーのゲーム実況……動画企画発案のスタートである。
……ちょっと、楽しみだ。
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