第30話 無言で踏み潰してたし

「で、では……」ユーサーも自分の事なので、少し歯切れが悪かった。「では……私の……ゲーム実況……? の……」

「……」

「……」

「……」しばしの沈黙。そしてヤーが提案する。「……僕が進行しようか?」

「……すいません……お願いします……」


 ということなので、珍しくヤーが黒板の前に立つ。そしてユーサーが生徒のように対面に座った。小さい体もあって可愛らしい。


「うぅ……」ユーサーは泣きそうな顔で、「人には偉そうに語っておいて自分のことになると、この体たらく……情けない……」

「いや……しょうがないよ」いきなりゲーム実況をやれなんて言われたら、誰だって動揺する。「それに……今までユーサーさんに助けてもらってたからね。今度は僕が助ける番だよ」

「……ありがとうございます……」


 毎回思うが、照れた顔がかわいい。しかし見とれている場合ではない。


「とりあえず……」見様見真似でヤーは黒板を使って話を勧めていく。「まず……そうだね。『ユーサーのやはり』から見つけていこうか」

「やはり……といっても、視聴者様は私のことを何も知らないのでは?」

「……たしかに……動画編集を見て、勝手に視聴者が思ってるユーサーさんの人物像、でしかないね」


 それは勝手な思い込みで、当たる見込みのない予想だ。理想を投影する行為だ。理想だからこそ憧れ、その理想を超えることは難しい。


 ユーサーのやはり……それはなんだろう。


「とりあえず……コメントをまとめてみようか」

「なるほど……コメントから『視聴者が私に何を求めているのか』を探り出すわけですね」

「そうなるね」


 ということで、ユーサーに関連するコメントを抜き出していく。その作業だけでそこそこ時間がかかってしまって、視聴者がユーサーのことを求めているのがよくわかった。できれば勇者のことも求めてほしいが……まぁしょうがない。


 そしてある程度のコメントをまとめ終わって、ヤーは黒板にそのコメントを書き出していく。文字を書くのは苦手だが、頑張らなければ。


 動画編集をしているのは『友達』だと言っているので、その友達というのがユーサーを表している言葉である。最初ユーサーはアシスタントだと主張していたが、なんだか上下関係ができそうで嫌だった。だから友達ということにさせてもらったのだ。


『友達さん、なんか真面目でクールそう。字幕からにじみ出てるよね』

『編集さん割と天然? ちょっとした凡ミスはあるよね』

『編集してる人も勇者様みたいに強いのかな?』

『友達さんはそもそも男性? 女性?』

『勝手に女性だと思ってたけど……勇者様の彼女かな?』

『勇者様とはどんな関係なんだろうね』


 割と多かった。友達……ユーサーに触れているコメントはこれ以外にも多々あった。しかし情報に繋がりそうなをまとめると、こんな感じだ。


「ふむ……」自分で書き出したコメントを見て、ヤーは考える。「『クールで真面目だけど、ちょっと天然』……これがユーサーのイメージなのかな?」

「……かなり間違ったイメージを持たれていますね」だいたい当たっていると思うが。「クールで真面目……? いったい私のどこが……」

「……当たってると思うけれど……」クールで真面目だろうに。「それで……性別はまだバレてないみたいだね」

「そうですね……別に隠してはいませんが……肉声実況をするならバレますかね」


 どうだろうか。割とユーサーは中性的な声質なので、若い男性とごまかせる可能性はあるかもしれない。まぁそこまで性別を隠すメリットはないか。


「それと……念の為に言っておきますが、顔出しはできません。いろいろと事情がありますので」

「わかった」もとから顔出しをさせようとは思っていない。「じゃあ……次だね。僕の思うユーサーさんの強みを話させてもらう」

「お願いします」

「うん。事前情報のリサーチ力と、計画力。そして冷静であること」

「……そんなこと……」否定しかけて、ユーサーは踏みとどまる。「……否定してばかりでは話が進みませんね。続けてください」


 やっぱり冷静な人だ。


「ありがとう。事前情報のリサーチ力は……まぁゲームのコマンドとかキャラクターの設定とか……裏技とか攻略法とか……いろいろ教えてくれるよね。あれは最初から知ってた情報、ってわけじゃないはず」

「そうですね……いろいろと調べているつもりです」

「そうだね。それで、そのリサーチをもとに動画時間や内容を決めて実行する計画力……その2つにはいつも助けられている」

「……どうも……」今日は照れることが多いユーサーだった。かわいい。「最後の、冷静というのは?」

「そうだね……なんというか……絶対に声を大きくしたり、悲鳴を出したりしないよね。この前も調理中にゴキブリが出たけど……無言で踏み潰してたし」

「……見てたんですか?」

「……たまたま……」

「……一応、その後に手は洗いましたし、キッチンの掃除もしました」


 別にキッチンの衛生状態を気にかけたわけじゃないけれど。やっぱり真面目だなユーサーは。


 とにかく……ヤーの思うユーサーの強みはこの3つだ。


「『リサーチ力』『計画力』『冷静さ』この3つが、ユーサーさんの強みだと思う」

「……なるほど……」ユーサーはうなずいてから、「受け入れましょう。客観的な意見、ですからね」

「……」自分は客観的な意見を言えているだろうか。気をつけよう。「とにかく……その3つの強みを活かして、さらに流行に乗る方法を考える」


 ジャンルはゲーム実況。その中で、ユーサーの魅力を全面に押し出す方法を考えなければならない。

 実はすでに、アイデアはあったりする。

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