第56話 おとーさんは?
日差しが差し込んでくる。鳥の鳴き声が朝を告げる。
まだ重たいまぶたを無理やり押し開けると、目の前にユーサーの顔があった。一瞬混乱したが、昨日は同じ布団で眠ったのだった。
まだユーサーは眠っているようだ。昨日はとても疲れただろうから、もう少し寝かせてあげよう。
さて1人で起きて朝食の用意をしようかと思ったのだが……
「……」
起きられない。ユーサーに強く抱きしめられている。無理やり起きることは可能だろうが、それだとユーサーを起こしてしまう。とはいえこのまま眠り続けても、今日の行動に支障が出る。
でもまぁ……今日くらいは寝坊してもいいだろうか。今日くらいは昼まで眠ってしまおうか。そんなことを悩んでいると、
「……ん……」眠たそうなユーサーの声が聞こえてきた。完全に寝ぼけた様子で目を開いて、「……おはようございましゅ……」
まったく舌が回ってないユーサーだった。かわいい。しゅ族になりそう。
「おはよう。まだ眠い? だったら、もう少し寝ててもいいよ」
「……うん……おとーさんは?」
「……」おとーさん? お父さん? 「……先に朝食を作ってるよ」
「うーん……」言葉の途中で、また夢の中に逆戻りしたようだった。「ホットケーキが……ホットケーキが襲ってくるよぅ……」
どんな夢を見ているのだろう。なんでホットケーキに襲われるのだろう。朝食はホットケーキが食べたいということだろうか。材料があれば作ってみようか。
というわけでユーサーの手を逃れさせてもらって、キッチンに立つ。冷蔵庫を見るとホットケーキの材料らしきものたちがあったので、ホットケーキを作り始める。作り方も袋に書いてあるタイプなので、なんとかなるだろう。
そうして食事の準備をしていると、
「おはようございます」目が覚めたらしいユーサーが朝のあいさつをしてくれた。「昨日は申し訳ございませんでした……迷惑をかけた挙げ句取り乱して……しかもわがままも聞いてもらって」
「まったく問題ないよ」もっと迷惑をかけてほしい。「それより、よく眠れた?」
「はい……なんだか、懐かしい夢を見ました」
「どんな夢?」
「えっと……父が私にホットケーキを作ってくれる夢です」だから寝言がホットケーキだったのか。「生前も……父は私にホットケーキを作ってくれました。なぜか父は私がホットケーキが好きだと勘違いしていて……」
……勘違い? え? 勘違いなの? 好きじゃないの?
「あ、いえ……大好物じゃないというだけで……好きではありますよ」良かった。気を使われた感じがするけれど。「とにかく……父の作るホットケーキは量が多いんです。本当に山のようにあって……食べきれなくて……それに幽霊がいる場所に住んでましたからね。ポルターガイストのようなものでホットケーキが大量に飛んできて……死にかけたことがあります」
本当にホットケーキに襲われていたらしい。だからあんな寝言になったのか。だから……ヤーのことをお父さんと呼んだのか。そのことに関しては、あんまり触れないほうがいいんだろうな。
「懐かしい匂いがしますね……」ヤーが作っているホットケーキの匂いだろう。「お父さんのホットケーキ美味しかったなぁ……」
じゃあ負ける訳にはいかない。ホットケーキだけは美味しく作れるようになろう。魔王に負けるのは、なんか嫌だ。特に理由もなく嫌だ。なんとなく魔王には負けたくない。ユーサー絡みならなおのことだ。
ということで気合いを入れてホットケーキを作っていく。魔王に負けてなるものかと、気合いだけはあった。
しかし、気合いでどうにかなるのなら料理人という職業は成立しない。結局、半分焦げたような不格好なホットケーキが出来上がった。
「父の作ってくれたホットケーキに似てます」
ということなので、引き分けということにしておこう。やっぱり気を使われてる感じだが、まぁ引き分けと言ったら引き分けだ。引き分けなのだ。味は美味しいはずだ。
というわけで一口食べるが……
「……うーん……」自分でも微妙な味だ。ザラザラしてるし……変に甘い。この間ユーサーに作ってもらったホットケーキとは段違いだ。「ごめん……これはちょっと失敗気味かな……」
「そうですか?」ユーサー本人はケロッとしている。「とても懐かしい味ですよ。不器用で愛が詰まっていて……とても美味しいです」
「……どうも……」
魔王め……なかなかやりおる。しかし次は負けんぞ。次は完璧なホットケーキを作ってユーサーを笑顔にしてみせる。地獄で見てろ。
ということでホットケーキを完食して、
「では……宣戦布告といきますか」
パソコンを取り出して、ユーサーがそう言った。どうやらやる気になってくれているようだ。
そうだ。さすがに宣戦布告しないといけない。やられっぱなしではいけない。勇者としても魔王の娘としても……大切な人を傷つけられたのだ。お返しはしないといけない。
そっちがコラボしたいっていうのなら、やってやるよ。サチュロスワークスさん。
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