第57話 楽しみにしています

『勇者です。サチュロスワークスさんの予定が合えば、コラボしませんか。全員叩きのめしてさしあげますので、最大の兵力と武力を揃えておいてください』


 という丁寧なメールを送って、返信を待つ。返信がなくても、断られても殴り込み……じゃなくてコラボには行くつもりだが、一応返信が欲しい。


 30分して、返答が返ってきた。


『殺しちゃうけどいい?』


 なんとも強気な人たちだ。こちらのメンバーが勇者と魔王の娘と知っていてこの強気……なにか策でもあるのだろうか。それとも、相手の実力も見極められないただのアホなのだろうか。


 とにかく、


『楽しみにしています』


 と返しておいた。実際に勇者を超える実力を持っているのなら楽しみだ。殺されるのならそれも悪くない。無理だろうけど。 


 そう……これから投稿する動画はサチュロスワークスとのコラボ動画だ。いいようにやられているから、こちらからもやり返さなければならない。そうしないとケジメがつかない。納得もできない。というより、ムカつく。だからやり返す。その後のことは、その後考える。


「なにか準備が必要でしょうか」

「一応動画だけは撮っておいて。だから、そのためのカメラかな」八つ当たり動画を投稿するために。「戦力的に助太刀はいらないと思うけど……」

「私もちょっとやらせてください。腹が立っているので」

「了解」


 ということなのでユーサーの参戦も確定した。ヤーが4人、ユーサーが2人という内訳に決まった。もちろん戦力的にはどちらかが全員を倒してもいいのだが、お互いに暴れたい気分なので2人で行く。


 そしてサチュロスワークスとの連絡を何度か繰り返し、コラボの日が決定する。なんとも即断即決な集団らしく、今日の昼にはコラボができるということだ。一日でも早く仕返しがしたかったから、ありがたいことである。


「さて……準備はできた?」

「はい」一応お面を被って顔を隠しているユーサーだった。もう顔出しされたけど、まぁ念のためだろう。逆に目立ちそうだが。「ヤーさんは……素手でいいんですか?」

「問題ないよ」武器なんか使ったら殺してしまいそうで怖い。「それにしても……ちょっと楽しみだね。サチュロスワークスってのは強い人たちの集まりなんでしょ?」

「世間的にはそうなっていますね。井の中の蛙、ということわざの例として、辞書に載せたいくらいです」


 井の中の蛙。サチュロスワークスのような人たち。辞書にグループ名を出すのはどうかと思うが、まぁ例文としてはわかりやすい。


 というわけで、出発。コラボ場所はサチュロスワークスの家らしい。わざわざ家の場所を教えてくれたので、調べる手間が省けた。まぁ教えてくれなかったら調べて殴り込むだけなのだが。


 久しぶりに町に降りた。山を下ってだんだんと人が多い場所に出た。

 

 なんだか注目されている気がする。それは勇者が久しぶりに町に来たからか、炎上していることがバレているのか……あるいはユーサーのお面が浮いているのか。たぶんお面のせいだとは思う。でも、言わない。


 なんとなく新鮮な景色に見えた。別にはじめて通る道じゃないのだが……いや、ユーサーと一緒に町を歩くのははじめてか。


 ただ歩いているだけでも退屈なので、


「ねぇユーサーさん」

「なんでしょう」

「終わったらさ……観光でもしていく? 別に観光地ってわけじゃないけど……町をのんびり歩くなんて、はじめてでしょ」

「……言われてみればそうですね……では、さっさと終わらせて、どこかに行きますか」

「そうしよう」


 魔王の娘を敬遠するお店もあるだろうが……まぁ関係ない。ビビられたらその時だ。なんにせよ、塞ぎ込んでいたユーサーがこうして明るくなってくれたのが嬉しい。今までだったら断られていたであろう提案だ。少しくらい心を許してくれたのだろうか。


 しかし……いったいどこを案内すればいいのだろう。町に詳しくないのはヤーも一緒だ。適当に詳しいふりをしてごまかす……いや、素直に言えばいい。どこに行ってもいい。ユーサーと一緒なら問題ない。


 そんなこんなで町を歩いて、


「ここかな……?」


 とある家の前にたどり着いた。


 サチュロスワークスの人たちが住んでいる家である。

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