第37話 ましゅ
配信が始まって逃げ場がなくなったからか、すこしユーサーは落ち着いてきたようだった。まだ声は震えているけれど、しっかりと喋れている。
「今回プレイするブルーオーガは……もはや説明不要ですかね。大人気フリーホラーゲームです……その、ブルーオーガと呼ばれる怪物が追いかけてくるので、逃げながら館内を探索、脱出を目指します」
『スマッシュ大五郎:昔プレイしたことがありましゅ』
まだ『ましゅ』をいじられてる。これは一生いじられるやつな気がする。
……まぁいじってくれたほうが気分的にはマシかもしれない。笑い話になるのなら、ありがたいこともあるだろう。
「最初に言いますが……私もすでにプレイをしたことがあります。攻略情報等も調べてきたので……できる限りサクサクと、冷静なプレイを心がけさせていただきます」
『スマッシュ大五郎:結構怖いゲームだけど大丈夫?』
「結構怖いゲームだけど大丈夫……ですか。おそらく大丈夫です……その、私は感情表現が苦手でして……あんまり大声は出ません。大きなリアクションを期待している方は、おそらく合わないかと……」
『スマッシュ大五郎:大丈夫でしゅ』
まだいじられてる。しかも『ましゅ』じゃなくて『でしゅ』という亜種が誕生してしまった……でしゅ、だの、ましゅだの亜種だの……紛らわしいな。
『スマッシュ大五郎:なんか連投みたいになっちゃってるけど大丈夫かな?』
「連投……あ……そうですね。今は大丈夫ではないでしょうか。もしもコメントしてくださる方が増えた場合は、ご配慮ください」
『スマッシュ大五郎:了解しゅました』
すげーいじってくる。ユーサーの『ましゅ』をずっといじってくる。そしてユーサーもそれに触れない。なんかカオスな状況になってきた。
「それではスタートします。どうかよろしくお願いします」丁寧に挨拶をしてから、ユーサーはゲームを開始する。「主人公一行が、謎の館に肝試しに現れます。そうしているうちに館の玄関の扉が開かなくなり、脱出できなくなって――」
順調に進んでいる。これは、もうヤーの助けはいらないだろう。そもそも助けなんていらないのだ。ユーサーはオロオロしつつも、最後には覚悟を決めてやってくれると思っていた。ヤーの励ましなんて、本来はいらなかったのだ。
そのことが、ちょっとだけ寂しい。少しだけユーサーのことを助けてあげられるかもしれないと思ったが、そんなこともなかったらしい。
たまに思う。そして、それは最近顕著にヤーの頭に現れるようになった。
ユーサーは、自分のところにいないほうが成功できるのではないか。ユーサーが個人で配信をしていったほうが伸びるのではないか。自分はユーサーの足を引っ張っているだけなのではないか。そんなことを、最近は考えるようになった。
だってユーサーは賢いし、かわいいし、度胸だってある。今だって、
「ここはアイテムが必要なんですが……初見では気づきにくいところにありますよね。一応ヒントはあるのですが、そのヒントそのものが見つけにくいところにありまして……」
こんな感じで、もう配信に慣れている。最初の頃の緊張感はかなり薄れてきたようで、スムーズに配信を進行している。アバターも問題なく動いているし、さらに、
『もっちー:ララさん普通にうまいじゃん』
『スマッシュ大五郎:全然ビビらない……だと……?』
『カノッサ:スルーされ続けるブルーオーガくんがかわいそうになってきた……』
あんまりユーサーがスムーズにゲームを進めるから、敵となるキャラクターが同情されているような状態だ。それくらユーサーのプレイはサクサクプレイである。
これもユーサーの練習の成果だ。何度もやり直して練習していたからな。本番で成功させるあたり、勝負強い。
ユーサーはゲームが苦手だと言っていたが……それは、今までゲームに触れてこなかっただけなのだろう。やってみれば、おそらくユーサーは器用にこなす。ヤーとは成長性が違いすぎる。
全盛期を過ぎた男と、これから成長する少女。
……
やっぱり……ユーサーの居場所はここではないと思う。
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