第36話 よろしくお願い致しましゅ
そして夕食を食べ終わって、腹休め。それからユーサーは配信用のパソコンに座って、言った。
「ややややや……や、やっぱり……やめません? ほら……まだ掃除しないといけませんし明日の動画の予定も考えないといけませんし今日はなんだか天気悪いですし」
さっきの凛々しさはどこへ? 準備は万全だったのでは? あの威圧感はどこに消えたの? せっかくあいつに似てると思ってたのに……勘違いだったのだろうか?
「あああ……ああ、あと5分……」泣きそうな顔で、ユーサーはヤーに抱きつく。「い、いっしょにやりませんか……というか離れないで……隣りにいてよぉ……」
かわいい。なんだか庇護欲がそそられる。ついでに加虐心も募ってくるが……それは我慢しよう。
「えーっと……」慌てつつも、ユーサーは最終確認を済ませていく。もう7回目の最終確認だった。「ゲームよしソフトよし配信よしマイクよし……電波よし……大丈夫……大丈夫なはず……大丈夫? 大丈夫だよね……?」
「大丈夫だと思うけど……」これだけ確認してダメだったのなら、それはしょうがない。「とにかく……まぁ、ここまできたらやるしかないね」
「そうですね……途中で逃げたら、すいません」
「かまわないよ」逃げて良いといったのはヤーである。「その場合は……僕が引き継ごうかな」
一応配信は続けよう。不評ならやめよう。いや……最初から引き継ぎはしないほうがいいか? だってサブとは言えララ・ラララのチャンネルなのだし……
迷っているうちに、あと1分。ユーサーが面白いくらい慌てている。こうして慌てていると、まだまだ子供っぽいなと思ってしまう。人間の成長とは速度が違うだろうから年齢は不明だが……って、ユーサーって何歳なのだろう。大人びた言動だったから見た目より上だと思っていたが……こうして慌てているとただの少女にしか見えない。
そして大慌てしていたユーサーも、最終的には配信直前になって、
「……」またあの凛々しさを取り戻していた。「……やります」
「どうぞ」
そんな言葉を合図に、ララ・ラララ……初配信の開始である。
めちゃくちゃ不安だ。始まったから言うけれど、ヤーもめちゃくちゃ緊張している。
☆
配信スタート。配信ソフトを起動して、ゲーム画面が表示される。ヤーは他のデバイスでちゃんと動画が表示されているか確認する。
……大丈夫だ。しっかりと表示されている。準備はバッチリである。アバターも問題なく動いているようだ。
「えっと……」震える声だが、ユーサーが言う。「聞こえておりますでしょうか?」
聞こえている。ちゃんとヤーのデバイスからも声が聞こえた。しかしできることならコメント欄で返信が欲しい。そうじゃないと、ただの身内配信になってしまう。
しかし……今現在の視聴者は10人。メインチャンネルで宣伝したとは言え、謎の
その中でコメントしてくれる人がいるかどうか……もしもコメントがないようなら、それで進めないといけないのだが……
『スマッシュ大五郎:聞こえてるよー』
反応が返ってきて、ホッとする。
というかスマッシュ大五郎……? なんだか聞いたことがある名前のような……
「あ……いつも勇者様のメインチャンネルにコメントしてくださる方ですね。いつもありがとうございます」
そうか……スマッシュ大五郎ってその人か。たしか最初に勇者のチャンネルにコメントを投稿してくれた人もスマッシュ大五郎さんだったな。勝手に勇者の動画投稿のファン一号だと名付けた人だ。
ともあれ、返答をしてくれたのが嬉しい。
「で、では……さっそく配信を始めていきます。えーっと……初めてのことなので慣れないことも多く、不備があると思いますが……なにとぞ、よろしくお願い致しましゅ」
そんな王道の噛み方しなくても……あんなに滑舌練習してたのに……緊張とは面白いものだ。
『もっちー:ましゅ』
『スマッシュ大五郎:こちらこそ、よろしくお願い致しましゅ』
いきなりいじられてる。そりゃあんなおもしろい噛み方したらそうなる。堂々とばっちり、カッコいい声で噛んでるのが面白い。
「し、失礼いたしました……」顔が真っ赤なユーサーである。「とに、とにかく……よろしくお願いします……その今回やるゲームは事前の……事前の告知通り……その……」
『スマッシュ大五郎:ガチガチで草』
「す、すいません……」謝ってばっかりだな。「とりあえず……この、画面のゲーム……ブルーオーガを実況プレイしていきます」
そんなこんなで……ユーサーの初配信スタートである。
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