第38話 独立
「では……本日はここまでにします」しばらく配信を続けて、ユーサーは終了の宣言をする。「今日は……お集まりいただきありがとうございました。これからも、もしかしたら配信を続けるかもしれませんので……その時はよろしくお願いいたします」
『スマッシュ大五郎:こちらこそお願いしましゅ』
『もっちー:お疲れ様でしゅ』
『びりーば:楽しみでしゅ』
『カノッサ:いじられ過ぎWWW』
結局最後まで『ましゅ』をいじられてたな。まぁネタになってよかった。というかユーサーもツッコめばいいのに……スルーするから余計に面白い。
「ありがとうございました」ユーサーは最後にもう一度お礼を言ってから、配信を終了した。「ふぅ……」
それから、しばらくユーサーは背もたれに体重を預けて天井を見上げていた。相当な緊張感があったのだろう。その緊張感から開放されて、余韻に浸っているのだと思う。
「お疲れ様」ヤーは準備しておいたホットミルクを差し出して、「良かったよ。バッチリだったと思う」
「……ありがとうございます……」かなり疲れているようだったが、満足そうだ。「……緊張してあまり覚えていないんですが……」
「そうなんだ」そこまで緊張していたのか。「とりあえず僕の視点から見れば完璧だった。気になるなら、配信を見返してみたら?」
「嫌です……ですが……今後の改善のためには必要ですかね……」
どうやら改善してもう一度配信をする気はあるらしい。自分の録画を見るのはかなり恥ずかしいだろうけど……たしかに人気が出そうなコンテンツだし、続けてくれるとヤーとしてもありがたい。
だけれど……いや、だからこそ……
「ねぇユーサー……」
「なんでしょうか」
「……拒絶する意味じゃないことは理解してほしいんだけど……」前置きをしないと、ただの暴言になってしまう。「なんというか……独立する気はない?」
「……独立?」
「そう。僕のサブチャンネルじゃなくて……メインとして自分のチャンネルを運営していく。もう僕のことは手伝わなくていいから……自分一人でさ……」
「……」ヤーの言葉を聞いて、ユーサーの顔が暗くなる。「お邪魔、でしたか?」
「いや……そうじゃないんだ」そう思われるのは本意じゃない。「ユーサーがいてくれて、本当に助かってる。ユーサーがいなかったら僕は生きてすらいないかもしれない」
「大げさですよ」
「大げさじゃないよ」実際にお金も底をつきかけていて、稼ぐビジョンもなかった。それを助けてくれたのはユーサーである。「でもね……ユーサーは僕と違って、1人で生きていける人だと思う。自分のチャンネルを作って、自分で運営して……そのほうが儲かると思う。そっちのほうが楽だろうし、僕に合わせる必要もないし……」
「……」
「ここにいたら……ユーサーのことを縛り付けることになる。もっと上に行ける人なのに……」
それが、ヤーの本心。当然ヤーとしてはユーサーにいてほしいが、それはヤーのエゴ。ヤーのチャンネルを運営するために必要な人材で、一緒にいて心地よいということ。
ユーサー視点からすれば、ヤーといることにメリットはない。勇者の知名度を利用したいのなら、今から独立すればいい。デビューは勇者の知名度を持ってララ・ラララとしてデビューして、そこから独立したララ・ラララという
それがいい。それがユーサーのためだ。こんな場所にユーサーを縛り付ける訳にはいかない。
「……前にも言いましたが……私は勇者の知名度を利用しています。私にも私の目的とメリットがあって……」
「……まだ、本当のことは言ってくれない?」
「……」ユーサーはため息をついてから、うつむいて、「すいません……」
「……なら、いいよ」できれば話してほしい。無理にとは言わないが……「……ごめん……変なこと言って……」
「いえ……こちら側の隠し事が多いことは認めます。ですが……もう少しお付き合いください。勇者様と一緒にいることは、私にとってもメリットがあることなのです」
ユーサーのメリットとは、なんだろうか。それがわからない。知名度がほしいのなら、もう十分もらえたはずだ。これから独立したって問題はない。
なんでユーサーは……だってユーサーは……ユーサーを……
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