コラボ
第39話 しゅ族
なぜユーサーは自分にここまで尽くしてくれるのか。その謎が解けないまま日常を過ごす。
ユーサーの初配信から3ヶ月が経過。その間も1週間に一度ユーサーによる配信は行われていた。少しずつ人気も伸び始めて、順調にチャンネル登録者も再生数も増え始めた。しっかりと収益化できるようになり、さらに投げ銭も飛んでくるようになった。
そしてメインチャンネルも……
「順調ですね」ユーサーは黒板に成果を書き出して、「すごい伸び率です……勇者の知名度と動画の質……これらが噛み合っていますね」
『最高再生数 375万回』『チャンネル登録者数 38万7293人』
「375万回もあったんだ……」
「そうですね……SNSで話題になったようです。『技再現シリーズ』の1つです」
やはり人気コンテンツらしい。たしかに勇者にしかできないこともあるし、今にして思えば良いコンテンツだ。
「話題といえば……サブチャンネルも人気だね」
「ありがたいことです」ユーサーは照れくさそうに。「調べた結果……まとめサイトで取り上げられたようですね」
「そうみたいだね。記事を見たよ」
たしか見出しが『ララ・ラララって何者? 勇者の彼女? 年齢は?』という感じのやつ。完全に推測ばかりの記事だが……まぁ話題になったことに違いはない。
他にも
「えーっと……『ララ・ラララは勇者チャンネルのサブチャンネルとしてデビュー。現在チャンネル登録者数は5万人ほど。高いプレイスキルと落ち着いた語り口調で「安心して見れる」と評判のチャンネル。彼女のファンは通称で「しゅ族」と呼ばれ、配信第一回で「よろしくお願い致しましゅ」と噛んだことに由来している』」
まだいじられてる。もうずっといじられるんだろうな『ましゅ』ってのが。なんなら初見さんがララ・ラララのことを『ましゅ』って名前だと勘違いしてることすらある。もうましゅのほうが親しみやすくていいんじゃないかな……
「……ちょっと恥ずかしいですが……親しみやすいと思ってもらえたようで……ありがたいことです」
その通りらしい。ユーサーは基本的に真面目で、だからこそ少し距離感が詰めづらい感じがある。それを最初の緊張と噛みによって緩和した。真面目だけど天然、というララ・ラララのキャラクターが確立された感じだったのだ。
失敗は成功のもと、怪我の功名なんて言うけれど……まさにそんな感じだな。失敗によって人気が出た様子だった。
「メインもサブも……順調ですね」ユーサーは満足そうに、「この調子で行けば……100万人の大人気チャンネルも夢じゃないかもしれません」
そうかもしれない。3ヶ月そこらで40万人近い登録者になったのだから、夢を見てしまう。そのためには新規視聴者を獲得するために、さらにコンテンツを広げていかなければならないのだが、今のヤーとユーサーならできるかもしれない。そう思えるくらい順調だ。
「ですが……少しばかり問題があります」ヤーとユーサーが、ちょっとだけギスギスしていること、ではなさそうだ。「こちらのコメントをご覧ください」
「コメント……」一応すべてのコメントには目を通しているが、なんのコメントだろう。「えーっと……『最近、魔物のことを嗅ぎ回っている人たちがいるみたいですね。魔物の残党に話を聞いたりしてるとか……』」
「このチャンネルも人気が出てきましたからね……このように、動画とは関係がない話題も書き込まれます。注意喚起はしているのですが……まぁ、人気チャンネルの宿命ですかね」
そうかもしれない。どれだけ注意をしても、どうしても届かないことはある。すべての人が注意喚起を読むわけじゃないし、読んでも無視する人だっている。ならば……ある程度はしょうがないのだろう。
それにしても……
「魔物のことを嗅ぎ回ってる……? なんでそんなことを?」
「少し調べてみましたが……魔王派の人たちが魔物を嗅ぎ回っているようですね」
「魔王派……」魔王が生きていたほうが良かった、と考える人たち。「……魔王派がなんで魔物を調べるの?」
「……魔王軍再建、あたりが目的でしょうかね。生き残りを集めて軍を作ろうとしているのかも……」
「……それは……」
結構厳しい道程である。もう魔王軍の残党なんて数えるほどしかいないだろうに。仮にある程度再建できても……全盛期でも壊滅させられたのだ。これから魔王軍がさらに大きくなっていくとは思えない。
まぁ、壊滅させた張本人が言うことじゃないかもしれないが。ヤーさえいなければ、魔王軍はもっと大きく成長し、魔王派閥も満足しただろう。生きている状態で満足したかは謎だが。
「とにかく……一応注意しておきましょうか。ヤーさんは……魔王派閥からすれば邪魔な存在ですからね」
「まぁ……そうだろうね。僕を恨まずに、誰を恨むというのか」
魔王を倒して魔王軍をぶっ潰したのは勇者である。つまりヤーだ。魔王サイドからすれば、完全にヤーが悪役なのである。視点によって悪役が変わるのはよくあることである。
まぁ、恨まれることは承知の上だ。最初から自分が正義などとは思っていない。ただそれが自分の使命だと思ったから、やっただけである。そして幸いなことに……それを成し遂げるだけの力があった。
なんにせよ……ちょっとだけ注意しておこう。魔王派閥からすれば勇者はやはり邪魔な存在だ。最初に消しに来てもおかしくはない。
そう簡単には、消されないけれど。
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