第40話 サチュロスワークス

「さて……次のステップですよ」ユーサーはパソコンの画面を見せながら、「こちら……メールが届いております」

「メール……? 僕に?」

「はい。正確には……勇者チャンネルの連絡先に、ですね」

「そんなのあったっけ?」

「……え?」なんでユーサーが驚くのだろう。「……チャンネルの説明に書いてありましたが……」

「……?」しばらくして、思い出した。「ああ……そう。初期の頃に連絡先は書いておいたんだった。もしかしたらコラボがあるかもって」


 伝説の勇者チャンネル2時代である。勇者の知名度があればコラボの依頼があるかと思ったが、現実はそんなに甘くなかった……というより、投稿動画で愛想を尽かされたんだろうな。


「では……昔のヤーさんも先見の明があった、ということでしょうか」

「……ということは?」

「はい。コラボのお誘いです」

「コラボ……」実はちょっと憧れていたワードである。「どなたから?」

「えーっと……『サチュロスワークス』というチャンネルです」

「サチュロス……ああ、聞いたことあるよ。ヒゲのおじさんでしょ?」

「それはリチュオルです。そっちはゲームキャラクターです」紛らわしい名前だ。「サチュロスワークスは……数ヶ月前に現れて人気を伸ばしてきたone-tuberワン・チューバーです。ジャンルは……格闘技」

「ほう……つまり……」

「そうですね。ヤーさんとジャンルが似ています。だからコラボのお誘いがあったのでしょうね」


 ヤーも護身術やトレーニング、戦い方を動画で流しているチャンネルだ。格闘技とは似ているところがあるだろう。


「じゃあ……さっそくコラボ?」

「そうしたいところですが……」少しばかりユーサーの表情が曇る。「このサチュロスワークス……悪い噂を多く聞きます」

「悪い噂?」

「はい。町中での無許可での動画撮影。無理やり他人の家に押し入る。無抵抗の人間に暴行……格闘技とは名ばかりの、荒くれ集団のようですね」

「なるほどね……」暴行か……魔物を殺して回っていた勇者としては、あまり咎められないが……「あんまり……良い人たちじゃないみたいだね」

「そうですね……しかし、その横暴さに人気があるのも事実。実力が高いとされているのも事実。いつか炎上して消えていくと思いますが……今現在のチャンネル登録者も29万人もいます。登録者数で判断する気はありませんが……まぁ指標にはなるでしょう」


 そうは思う。登録者によって差別する訳では無いが、やはりわかりやすい数字だ。コラボをOKするかの指標には当然なる。そうじゃないとチャンネルを作ってすぐに『コラボしてください!』という依頼をすべて受けなくてはならなくなってしまう。

 

「さて……どうします? サチュロスワークスとのコラボ……受けますか?」

「……ちょっと、調べてもいい? その、なんとかワークス、さんのこと」

「はい。サチュロスワークスです」

 

 サチュバルワークスと検索して、もしかして:サチュロスワークス?となっている部分をクリックする。


 情報はすぐに出てきた。チャンネル登録者29万人の人気one-tuberワン・チューバー。チャンネル開設から数ヶ月で一気に人気を伸ばしている格闘家集団。


「集団?」

「はい。リーダーのヴェントを中心に、力自慢の若者が6人集ってできたチャンネルのようです」


 リーダーのヴェント……ヴェント……ヴェント……これくらいは覚えなければ。たぶん忘れると思うけれど、覚える努力はしなくては。


 とにかく、サチュロスワークスについて情報を調べていく。すると、いくつかのネット記事がヒットする。一番上にあるサイトをクリックして内容を確認していく。


『サチュロスワークス。人気急上昇中のone-tuberワン・チューバー。その素顔とは』


 どうやら本人たちに直接インタビューした記事であるらしい。その対話の内容がいろいろと記されている。


『筆者:サチュロスワークスといえば……屈強な若者たちによるバイタリティあふれる動画が人気となっていますね。動画のアイデア等は尽きたことはありませんか?』

『ヴェント:動画のアイデア? そんなの尽きないよ。だって俺たちはやりたいことをやってるだけだからね』

『筆者:やりたいこと、ですか』

『ヴェント:そうだよ。気に入らないやつを殴ったり、入りたいところに入って……それだけで再生数もらえるんだから』

『筆者:なるほど。つまりone-tuberワン・チューバーは天職だったと?』

『ヴェント:そうかもね。まぁ他のことやってもできるとは思うけれど、one-tuberワン・チューバーは許されるからね』

『筆者:許される?』

『ヴェント:面白いことやってたら許される。そして俺たちは面白い。ある程度のことは許容されるんだよ』

『筆者:なるほど。サチュロスワークスといえば過激な動画内容で有名ですが……』

『ヴェント:過激? あの程度で? 殺してないだけありがたいと思いなよ』

『筆者:無許可での動画撮影に憤慨している人もいますが……』

『ヴェント:そうなの? 有名にしてあげてるんだから、もっと感謝してほしいけどね』


 そこまで読んで、ヤーは記事を閉じる。そしてユーサーに向かって、


「コラボは却下。悪いけど、この人たちとは合いそうにない」

「そうですね……私もそう思います」


 明らかに不穏な人物たちだ。いくら人気者とは言え見過ごせない。勇者としても、ヤーとしても、動画投稿者としても見過ごせない。


 だからコラボはしない。断る権利はあるはずなのだ。


「では……お断りする方向でよろしいでしょうか」

「うん」

「わかりました。後ほど断りの連絡を致します。メールの文面は……」

「一緒に考えようか」

「ありがとうございます」


 下手に断ると因縁をつけられそうだから。その責務をユーサー1人に任せるのは酷だろう。


 なんにせよサチュロスワークスか……強いと評判だから、少しばかり戦ってみたかった。だけれど、今はチャンネルが最優先だ。横暴を通しているチャンネルを許容すると、勇者の名に関わってしまう。


 別に過激な動画を否定するわけじゃないのが、ヤーは苦手だ。


 とにかく……コラボはしばらくお預けのようだ。ちょっと、悲しい。

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