第41話 ちょっと、突然です……

「ちなみになんですが……サチュロスワークスの人たちは腕っぷし自慢で……一部では勇者よりも強いなんて言われていますが……実際はどうなんですか?」

「さぁ……? 戦ってみないとわからないけど……」実際にこの人たちが戦っているところを見たことがない。だから、わからない。「まぁ……戦うことはないだろうけどね」


 しかし勇者より強いと噂とは……ちょっと高ぶってくる。やっぱりコラボを受けて戦っても良かったかなぁ……


 そんなことを思いながら、さらに3日が経過した。


 いつも通りの起床。いつも通りの朝食。いつも通りの、天気なのだけれど……なんだか嫌な予感がする。空気が重いような、そんな感じ。


「ん……」朝食を食べ終わって、珍しくユーサーが無防備にあくびをする。「ふぁ……あ、失礼しました」

「いや、いいよ」あくびなんていくらでもしてくれて構わない。ただ、原因は気になる。「寝不足? 疲れてるようなら今日は休んでも……」

「大丈夫ですよ。ちょっと……気が緩んでいただけです」それからユーサーは照れくさそうに、「その……居心地が良くて……リラックスしていました」

「そう……それならいいんだけど」


 むしろ良かった。ずっとユーサーには気を使わせ続けるのではないかと思っていた。ある程度彼女がリラックスできる環境になっていたようだ。


 せっかくなので、これを気に雑談しておく。


「ねぇユーサーさん……」

「なんでしょう」

「……これまで、本当にありがとう」

「……」ヤーの突然のお礼に、「……いきなりどうしたんですか? 引退するとか言い出しませんよね?」

「しばらく引退はしないけれど……」たぶんしない。せっかくチャンネルがうまくいっているのに。「その……やっぱりユーサーさんがアドバイスしてくれて、僕たちのチャンネルは大きく変化したよね。それがうまくいって……だから、感謝してる。動画だけじゃなくて食事とかも、会話とかも……キミがいるから楽しい」

「な……」ちょっと褒めすぎたようで、ユーサーの顔が赤くなっている。出会った頃と比べると、かなり表情豊かになったものだ。「いえそんな……私のほうこそ、居心地の良い空間を作ってもらっています。だからお礼なんて……私が言うくらいで……」


 またこの流れだ。お互いがお互いに感謝して謙遜して終わる。そのグダグダも悪くないけれど、感謝は伝えられるときに伝えたほうがいい。感謝を伝えられないまま別れた人は、いくらでもいる。

 

「本当にありがとう」ヤーは深々と頭を下げて、「これまで支えてくれて、ありがとう。そして……もしユーサーがよかったらなんだけど、これからもずっと支えてほしい」


 ヤーは……ユーサーが独立したほうがいいとは思っている。だけれど、なぜかユーサーはそれを望んでいない。だとするならば、受け入れてあげるのがユーサーのためだと思うようになった。それがヤーのためでありユーサーのためであり、チャンネルのためでもある。


 そう思っての提案だった。


「な……!」感謝を伝えただけなのだが、急にユーサーがアタフタと、「そ、そそ……それは……その……えーっと……」

「……?」なにをそんなに慌てているのだろう。やっぱり独立したいのだろうか。「どうしたの……?」

「え……えぇ……? その、私が夢見がちなだけですか?」

「?」


 会話が噛み合わない。なんだか認識にズレが生じている気がする。なにがズレているのかはわからないけれど。


 考えていると、ユーサーが教えてくれた。


「それは……下手をすると……プロポーズとして受け取られますよ……?」

「……そうなの?」全然考えてなかった。動画投稿のパートナーとしての意味だった。しかし……「まぁ……ユーサーになら、そう思われてもいいよ」

「……」いよいよ目がまんまるで口がポカンと開いているユーサーだ。かわいい。「そ、それは……しかし……」

「……ダメ? 年齢的にアウト?」

「わ、私は人間じゃないので人間と同じ年齢で考えるのは不可能ですが……」やっぱり人間じゃなかったらしい。サラッとボロが出た。「人間の年齢に当てはめると……18歳から20歳くらいでしょうか……」


 なんとなくそんな気がしていた。見た目は10代前半くらいだが、それにしては落ち着きすぎだ。言動とか会話の噛み合い方からして、20歳くらいなのではないかと思っていた。まぁ何歳でもいいけれど。


「ですが……その、あぅ……心の準備が……ちょっと、突然です……」

「ごめん……」すごい困らせてしまっている。「まぁ……一応考えておいて。キミがそばにいてくれたら……僕は嬉しい」

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 さて、伝えることは伝えた。当初の予定とは違いプロポーズになったが、これはこれで良いだろう。おそらくヤーが告白する相手なんて、人生でユーサーだけだ。そんな気持ちに、自然となっていた。


 問題はユーサーが同じ想いかどうか、である。

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