第4話 トレーニング系

「さて現状をまとめると……魔王派閥のせいで勇者であるあなたは町におりづらい。発達した文明を利用して、動画投稿をする。しかし伸びない……という状況ですね」

「簡潔にまとめると、そうだね」

 

 かなり要約したが、まぁそういうことだ。要するに動画投稿でバズりたいのだ。


「さて……ではこれから動画投稿のアドバイスをしていくのですが……」ユーサーは勇者の家の中を見回して、「それにしても、こんな山奥に立派な家ですね……さらに電波まで完璧に届いている」

「ああ……魔王討伐した直後はVIP待遇だったからね。なんか電波がどうとか10年後に役に立つとか言ってたけど……見る目のある人だったんだね。当時はよくわかってなかったよ」

「……10年前からこの情報社会を予見してた人がいるのですね……なんとも天才的だ」


 ヤーも同意見である。この電波がなければ、動画投稿はおろかインターネットすらも使えないところだった。この辺は人里離れた山奥なので、通常であれば電波など届いていない。10年前の技師たちに感謝である。


「さて……では今までの投稿動画確認させてもらいますね……まぁなんとなく知ってはいますが」


 それから、ユーサーはノートパソコンの画面を見つめる。しばらく時間が経過して、


「……魔物を倒してみた289」それからユーサーはヤーを見て、「まさかとは思いますが……この289というのは……」

「289個目の動画だけど」

「全体として、ですか?」

「いや……魔物を倒してみたシリーズ」

「……再生数は……平均が329……最高が980ですか……」

「まぁ……うん……その……」


 怒られる、と身構えたヤーに対して、ユーサーが言う。


「悪くないです」

「えぇ……?」

「再生数のことじゃないですよ」ユーサーは立ち上がって、なぜか家に取り付けられていた黒板の前に立つ。「いいですか? one-tubeワン・チューブの鉄則です。『やはりを満たす』と『まさかを見せる』ことが鉄則です」


 やはりを満たす、まさかを見せる、とユーサーは黒板に大きく書いた。丸くてかわいらしい文字だった。


「……どういうこと?」

「いいですか? 視聴者は見たいものしか見ません。たとえば……『やはりこの人は面白い』『やはり発想がすごい』『やはりかわいい』『やはりかっこいい』という事前のイメージを満たすために動画を見ている」

「ふむ……」

「他にも例を出しましょう。たとえば『そのゲーム内で世界一強い』という動画投稿者がいたとしましょう。視聴者が求めるのは圧倒的強さです。苦戦すら許されない。圧勝と連勝……それらを視聴者は求めて動画を再生します。他にも『ゲーム紹介』をしているチャンネルがあったとします。これは『やはり』が別れます。『やはりこの人の動画は、有名なゲームを紹介してくれる』『やはりこの人の動画は、知らないゲームを教えてくれる』というように、魅力が別れていきます。同じゲーム紹介でも個性が別れるのはそれが原因です」

「へぇ……」

「わかったフリをしないでください。私だって説明が得意なわけじゃないんです。疑問があれば、どうぞ」


 なんでいまいち理解できてないことがわかったのだろうか。そんなにアホ面を晒していただろうか。晒していたんだろうな。


「じゃあ質問……俺が持つ『やはり』ってなに?」

「それは簡単です。勇者はやはり『世界一強い』」

「……世界一」

「それがあなたへの共通認識であり、事実です。だからあなたは動画内で『やはり勇者は世界一強いんだ』という視聴者の欲求を満たせばいい」

「……」

「だから『魔物を倒してみた』というコンテンツ自体は悪くないのです。問題なのは……ただの虐殺になっていること」

「……強さを証明できてないってことか」

「その通り。あなたが倒しているのは、勇者じゃなくても倒せる魔物ばかり……といっても魔王が討伐された今、強い魔物は存在しませんがね……」


 魔物は魔王がいたから、結束していた。魔王がいなくなれば烏合の衆に逆戻りだ。だから、魔王がいなくなって魔物数は激減した。


「それに……魔物討伐は魔王派閥の逆鱗に触れる可能性があります。別のコンテンツを探るべきでしょうね。できることなら動画も削除しましょう」

「え……? 結構頑張ったんだけど……」

「継続的な努力は認めます。289本の動画を投稿することは、並大抵の努力じゃできない」こうやってたまに褒めてくれるから憎めない。「ですが……このルートでは道は開けない」

「じゃあ、どのルートに行こうか」

「すでに考えてあります」


 それからユーサーはその言葉を黒板に書いた。


「ヤーさん……あなたは『トレーニング系one-tuberワン・チューバー』になるのです」

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