第26話 ちゃんと休めてる?
「勇者が再現してみた?」ヤーはユーサーの言葉を復唱してから、「つまり……?」
「ゲームの技を、ヤーさんが再現するんです。そしてそれを動画にします」
「へぇ……それは……なんで?」
「ヤーさんの言葉の信憑性を増すと同時に、勇者はやはり強い、という視聴者のやはりに答えます」
「ああ……なるほど」
つまり……リチュオルの技は再現可能です、とただ言葉でいうだけでは足りない。本当に勇者自身が再現して見せて、本当のことだと直接見せる必要があるわけだ。
「これも継続的なコンテンツになりそうですね。かつ……勇者ヤーにしかできないことだ」
「そうなの?」
「衝撃波なんて、まともな人間には起こせませんよ」どうやらヤーはまともじゃないらしい。「それに……一般の人でも再現可能な技や……その技を使いこなすためのトレーニング動画……いろいろな動画に派生できます。それぞれの動画が相乗効果的に再生され……なかなか良い結果になりそうですね」
「そ、そうなんだ……」そのあたりの計算はヤーにはよくわからない。勉強しなくてはと思うが……「ごめん……その辺は任せてもいいかな……」
「承知しました。ですが……学ぶことは放棄しないでくださいね」
「……わかりました……」
ユーサーがしっかりしすぎていて、たまに敬語になってしまうヤーだった。なんなら常に敬語で話さなければならないほど、動画に対する貢献度が違う気がする。ユーサーのほうがチャンネルに貢献している気がする。気がする、というよりそうなんだろうな。
「というわけで……今日の午後はさっそく『技再現』の撮影をしましょう。午前は……そうですね。どの技を再現するのか、さらに深掘りした技の解説。さらに他の技の解説もしてください」
「わかった」
……結構大変だな。点数をつけて解説して再現して……これを毎日か。得意分野だからまぁ悪くないとして……大変なのは大変である。
……大変なのはユーサーもだよな。そう思って、
「ねぇユーサー」
「なんでしょう?」
「最近……ちゃんと休めてる?」
「私が、ですか?」
「そう。僕は休みの時間も多いし、体力あるから良いんだけど……」
まだユーサーは子供に見える。時の流れの感覚が違うとは言え、少し心配だ。
「私も大丈夫ですよ。諸事情により……休憩は少なくても問題ありません。無理をしている、とかではないのでご安心を」
「そう……?」そう言われると、これ以上深掘りもできない。「ならいいんだけど……辛かったら遠慮なく言ってね。僕にできることは少ないけれど……できる限り協力するから」
「ありがとうございます」相変わらずしっかりと頭を下げるユーサーだった。「ですが……本当に大丈夫ですよ。私は……」
私は……その先の言葉が語られることはなかったが、まぁ聞き出すようなことじゃないだろう。その時が来れば、ユーサーが自分から話してくれる。それに話してくれなくたってかまわないのだ。そのことでユーサーとヤーの関係が変わるわけではない。
いや……変わるのだろうか。わからない。少なくともヤーはそれを聞かされても問題はない。すでに覚悟はできているし、なんとなくわかっていることでもある。
ユーサーは、隠せている気でいるのだろうか。わからない。だけれど本人が隠そうとしている以上、深く聞き出すことではないのだろう。本人から喋ってくれるのを待つしかないのだろう。
それまでは……今のままの関係で居続けよう。ユーサーは謎の少女で、ヤーは元勇者。お金を稼ぐために動画投稿をして再生数アップを目指す仲間としての関係を続けよう。
わざわざ、今の関係を壊す可能性があることを喋らなくてもいい。秘密は秘密でいい。誰にだって隠したいことくらいある。秘密を共有することが仲間だとは思わない。秘密すらも受け入れることが仲間なのだと思う。
というわけでまぁ……しばらくはこのままだ。
ずっとこのままいられると良いんだけどね。
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