第25話 やはりあなたは

「では最初は……リチュオルの技評価から行きましょう」

「あのヒゲのおじさんだね」

「そうですね……名前はリチュオルです。技の名前は『ウェーブアタック』」


 言って、ユーサーはノートパソコンを操作する。その画面には昨日ヤーが発動させたリチュオルの技、ウェーブアタックが映し出されていた。


「ふむ……」ヤーはその技の見た目を声に出す。「大剣を振るって……衝撃波かな? 衝撃波を出して相手を吹き飛ばす……そんな技かな」

「そうですね。リチュオルの剣は相手に直接当たっていません。しかし相手は吹き飛ばされてダメージを受ける。リチュオルは魔法が使えない設定なので、おそらく衝撃波でしょう」


 魔法無しで戦っているらしい。なんとも厳しい戦いを強いられそうだ。


「さて……この技はどうですか? 『総合評価』『実用性』『威力』『速度』『使いやすさ』『攻撃範囲』の観点から説明してください」

「そうだね……とりあえず総合評価は3点かな」

「……」少しばかりユーサーは意外そうに、「……低いですね……」

「そうだね……あんまり褒められる場所がなくて……」褒められるものなら褒めたい。「細かく分けると……『総合評価:3』『実用性:2』『威力:4』『速度:2』『使いやすさ:4』『攻撃範囲:1』って感じかな」

「か、辛口ですね……」

「……結構優しい点数にしたつもりなんだけど……」

「そうなんですか?」

「そうだね……これを戦場で使う? ありえないよ。構えてるうちに殺されるよ。こんな大振りで……しかも攻撃範囲が狭すぎる。そんな小さい範囲の衝撃波を飛ばすくらいなら、直接踏み込んで切ったほうがいいよ」

「攻撃範囲が狭い……ですか……」

「そうだね。そこが最大の悪いポイント。100人くらい一気に吹っ飛ばせる衝撃はなら意味あると思うけど……これじゃ頑張っても2人だよ。連発できるならともかく……単発火力でこんな技は振れない。唯一、相手をふっとばす能力に関しては少しあるから……1対1で相手を引かせたいときに使うくらいかな」


 それからヤーは画面を指して、


「このヒゲのおじさん……この人の使い方なら理にかなってる。このゲームは1対1だから……それなら使えなくもない。それでも僕は使わないけれど」

「なるほど……つまり『1対1なら使い所があるかも』という性能ですか」

「そうだね……そう考えるとリアルかな」リアル、という言葉を使ってから思い出す。「そういえば……たしか『この技はリアルじゃない』っていうことの真偽を確認するための動画だよね……」

「そうですね」

「この技はどこが……リアルじゃないって言われてるの?」

「えっと……それは……」なんだか言いづらそうなユーサーだった。「衝撃波が大きすぎると……人間を吹き飛ばすような衝撃波を……人間が出せるのか、ということです」

「……」しまった。勇者基準で話してしまった。「出せる……けど……」


 なんならもっと出せる。100人くらいなら軽く吹き飛ばせる。そんな衝撃波が魔法無しで出せる。それくらい出せないと死んでいた。


「やはりあなたは……伝説の勇者なんですね。今、ようやく実感がわきました」今までは実感がなかったらしい。そりゃそうか。「急に……ネタにされるタイプのウェブ小説の主人公みたいな事を言いだしたので……ちょっと驚きました。広告に掲載されて話題になるやつ……」


 その例え話はちょっとわからないけれど。


「と、とりあえず……」珍しくユーサーが困っていた。「このリチュオルの技は……実際に再現可能、ということでよろしいですか?」

「……たぶん……頑張って鍛えれば、できるよ」逆に戦場でこれくらいできないと死んでしまう。「……僕を基準にしないほうがいいかな……」

「……どうでしょう……ヤーさんを基準にしなければヤーさんがやる意味もないのですが……少しばかり非現実的すぎる……いや、勇者の言葉なら信じられるでしょうか? ……ううむ……」


 なんだか困らせてしまっているらしい。とはいえウソなんてつけないので本当のことを言うしかない。


「ヤーさんが嘘をついてるとは思っていませんが……問題なのは視聴者が信じてくれるかどうか、なんですよね……」ユーサーはしばらく悩んで。「よし……では、せっかくなのでもう1つのコンテンツも同時に始動しましょう」

「もう1つ?」


 勇者による技解説に続く、新たなコンテンツ。


「はい。名付けて……『勇者が技を再現してみた』です」

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