第24話 6項目を10点満点で評価

 さて夕食を食べて就寝して……その日は久しぶりに勇者時代の夢を見た。そもそもヤーは夢を見ることが少ない。勇者時代の夢となればなおさらである。


 勇者時代の自分は、その人生を楽しんでいたのだろうか。魔王を倒すことが自分の指名だと無理やり思い込んで、多くの魔物を殺した。そして魔王を討伐して、世界は平和になった。

 

 今でもたまに思う。あのまま魔王が世界を統治すれば、より良い世の中になったのではないかと。人間にとっては最悪の世の中でも、魔物が繁栄して魔物が生きやすい世の中になったかもしれない。


 この星に生きている生命体が人間だろうが魔物だろうが、本来はどうでもいい。なのになぜ、自分は人類を守るために戦ったのだろう。その理由がわからなくて、たまにうなされる。


 果たして自分がやったことは正義だったのか……それとも悪だったのか。魔王は悪だったのか勇者が正義だったのか……それともその逆か。考えてもわからない。


 ……


 ……


 寝ぼけた頭を叩き起こして、現実に戻ってくる。もう魔王もいない。勇者もいらない。そんな世界。


 ……


 今日も動画投稿だ。



 ☆



「おはようございます」ユーサーが朝食を作って出迎えてくれるのが当たり前になってきた。「……体調がすぐれないようですが……」

「いや……大丈夫」ちょっと変な夢を見ただけだ。「少し寝ぼけてるかな……顔洗ってくるよ」

「わかりました……無理はなさらずに」

「ありがとう」

  

 無理はしていない。体は頑丈なつもりだ。そうじゃないと、戦いの最中に死んでいた。ただ……少しだけ疲れた。変な夢を見て、謎の疲労感があった。


 少し外に出て、空気を浴びる。そして井戸から水を汲み上げて、適当に顔に叩きつける。


 ……よし……もう大丈夫。いつものように生活できるはずだ。動悸も収まった。


 ということなので室内に戻って、ユーサーの朝食をいただく。そしていつものように黒板の前に移動して、


「さて……では昨日はお疲れ様でした」

「お互いにね」

「ありがとうございます。そして……昨日の成果ですね。簡潔にまとめると『4つの技の動画』が撮影できました」

「あれだけ苦労して4つか……まぁしょうがないね」

「そうですね。いきなり苦手が得意になるわけもありません。地道に続けていくしかありませんね」

「そうだね……」先は長そうだ。「それで……どう?」

「動画に問題はありません。相談したいのは、解説のほうです」

「わかった。昨日の技について解説すればいいんだね」

「はい。そして少し考えていたのですが……評価の基準を決めましょう」

「基準?」


 ユーサーは黒板に文字を書き始める。『総合評価』『実用性』『威力』『速度』『使いやすさ』という5つの言葉だった。


「『総合評価』『実用性』『威力』『速度』『使いやすさ』……この5つの観点を10点満点で評価します。ゲーム内の性能ではなく、あくまでも現実世界で使った場合の評価です」

「ほう……」

「もちろん他の評価項目があるのなら、追加しても構いません。というより……ヤーさんが考えるほうが適任な気がしますが……まぁとりあえずの案です」

「そうだね……とくに異論はないよ。威力に関しては推定にしかならないけど……」

「推定で構いません。勇者の推定なら、そこそこの説得力があるでしょう。むしろ勇者以上に説得力がある人もいない」


 いる気はするけれど。製作者とか……格闘家とか。


「では……この5項目でいいですか?」

「そうだね……」同意しかけて、「あ、ちょっと待った。もう1つ付け加えたい」

「なんでしょう」

「攻撃範囲」勇者としては、その観点も見逃せない。「ついでに言うなら……1対1で役に立つ技なのか、大勢相手に役に立つ技なのか……その辺も気になった」

「なるほど」


 ユーサーは黒板の文字を追加する。『攻撃範囲』と『有効な相手』


「攻撃範囲はたしかに必要かもしれませんね。そして有効な相手ですが……せっかくなので人間以外のこともコメントしましょうか。魔物相手のときとか……これは得点ではなく、ただのコメントとして」

「有効な相手……」

「はい。さっきヤーさんが言ったように、1対1なのか大勢が相手なのか……それとも空を飛ぶ相手に使えそうだとか、素早い相手に有効だとか……その辺をコメントしてください」

「なるほど……」人間同士の格闘ゲームで、そんな場面があるのだろうか。だけれど、他のゲームをやるときには必要かもしれない。「わかったよ」

「はい……では『総合評価』『実用性』『威力』『速度』『使いやすさ』『攻撃範囲』の6項目を10点満点で評価。その後『有効な相手』がどんなものなのか、それをコメントする」

「総合評価が最後じゃないの?」

「最初と最後に言いましょう。最悪の場合、総合評価さえ見てもらえればい、くらいの感覚で」


 なるほど。へたにもったいぶるよりはいいかもしれない。ヤーがトークで視聴者を飽きさせないことができればよいのだが、それは難しい。ユーサーにばかり負担を強いることになってしまう。


 それに勇者チャンネルのコンセプトは実戦的な動画だ。最初から総合評価を言ってしまうほうが実戦的かもしれない。詳しく知りたい人は動画を続けてみればいい。


「では……さっそく聞いていきますね」


 ということなので、技評価開始。

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