ララ・ラララ
第28話 動画編集って勇者様がしてるのかな?
その後……そこそこの時間が経過した。1ヶ月ほどの時間が経過した。
その間に投稿したコンテンツは『トレーニング』『護身術』『技評価』『技再現』の4つのコンテンツである。
そして肝心のチャンネル登録者と再生数は……
「ふむ……」ユーサーはパソコンの画面を見ながら、黒板に成果を書き出していく。「これは……大成功と言っても差し支えないでしょうね」
ヤーもそう思う。そして黒板に書き出された成果を見て、我ながら良い成果だと納得する。
『最高再生回数 68万』『チャンネル登録者数8万5400』
本当にすごい数字だ。しばらく前のヤーからは考えられないような高い数字だった。
「素晴らしい……」ユーサーもちょっと満足そうに。「たった1ヶ月程度でここまで……やはり勇者の知名度は伊達ではありませんでしたね」
たしかにそうかもしれない。通常の一般人が1ヶ月でここまで再生回数を伸ばすのは難しいだろう。今回の伸びに勇者の知名度が大きく関わっていることは確実である。
だけれど、当然それだけではない。
「ユーサーさんのおかげだよ」心の底からそう思う。「僕は……勇者の知名度をドブに捨てていたからね。ユーサーさんがいたから、ここまでこれた」
勇者という肩書は会ったのに、再生数が伸びなかった時期があるのだ。その状況を打開してくれたのは間違いなくユーサーである。感謝してもしきれない。
しかし当のユーサーといえば、
「ヤーさんの努力あってこそ、ですよ」どこまでも謙虚なのだった。「私のような、なんの実績もない……素性もわからないような怪しいやつの……そんな奴の言うことを信じてくれたヤーさんのおかげです。ありがとうございます」
「お礼なんて……こっちが言うべきなのに……」もっとふんぞり返ってほしい。「収益化の申請も送ったし……あとは申請を待つだけ。その状態になったのはユーサーさんのおかげなんだから」
「いえいえ……そんな……」
「そこまで謙虚にならなくても……」
「謙虚とかではなく……」
「いやいや……」
「いえ……」
水掛け論になってきた。お互いに会話が得意ではないので、会話がグダグダになることは多々ある。しかしまぁ、そんなグダグダも笑いあえるくらいの中にはなったと思っている。
「ともあれ……分析を続けましょう」ユーサーは咳払いをして、黒板に文字を加えていく。「最高の再生回数を記録した動画は……『勇者がゲームの技を再現してみた リチュオル編』です。これはネット上で少し話題になり、そこから再生回数が急増しました」
「えーっと……技再現の一番最初のやつだね。ヒゲのおじさんのやつ」
「そろそろ名前を覚えてください。リチュオルです」
「ごめん……」リタンバルだっけ? まぁいい。「とにかく……技再現が人気なの?」
「主にそのようですね……それに付随して、関連動画として『リチュオルの技を再現するためのトレーニング2選』も人気です。他のキャラクターの技再現と、そのためのトレーニング……その辺が高い人気を持っていますね」
技再現と、再現するためのトレーニング……それはつまりどういうことだろう。ヤーが迷っていると、ユーサーが続ける。
「やはり……『創作キャラクターへの憧れ』というものは強いようですね」
「へぇ……つまり『あのキャラクターみたいになりたい』っていう想いが強いってこと?」
「はい」ユーサーはノートパソコンの画面を見せて、「こちらのコメントを見てください」
最近はコメントが多くなってきたので、印刷することはなくなった。すべてのコメントに目を通してはいるが、印刷すると紙が大量に必要になる。最近はペーパーレスに取り組んでいるのだ。
さて……ユーサーの示すコメントを確認する。
「……えーっと……『実現不可能だと思ってたけど……本当にできるんだ、この技。リチュオルみたいに筋肉ムキムキになりたかったから……俺もちょっと鍛えてみようかな』『格闘ゲームの動きが真似できたら楽しそう……』」
「このようなコメントから、ゲームキャラクターへの憧れは読み取れますね」
なんとなくわかる。ゲームだけに限らず、創作のキャラクターには憧れることがある。なぜなら彼ら彼女らは理想の投影だからだ。決して自分を裏切らないからだ。ずっとカッコいいままの姿を追い続けられるからだ。
「さらに」ユーサーは画面をスクロールして他のコメントを表示する。そしてそれを読み上げた。「次はこちらです。『他のキャラクターの技も見てみたいなぁ……』『ギャルドの超必殺も再現してほしいです!』等々……他の技に対するリクエストも多数です」
「ありがたいね」
「そうですね……この『技再現』はもはや人気シリーズと言っても過言ではないでしょう。しかも無数に存在するゲームの技を再現することにより、継続性も抜群。最新作のゲームが出るたびに注目され、動画のネタが増える。さらにヤーさんの得意分野」
「……なんとも都合の良いコンテンツがあったものだね……」
「そうですね……これもヤーさんが積み上げた実力があってこそですが……最初に技再現をリクエストしてくれた視聴者の方に感謝しないといけませんね」
「そうだね」
正確には技再現じゃなくて、技がリアルかどうか確認してくれ、というリクエストだったけれど。そこからさらに発送を飛ばして技再現を提案したのはユーサーだけれど。
「ともあれ……この『勇者』チャンネルは軌道に乗っているといって良いでしょう」ヤーもそう思う。「ですが……1つ困っていることがあります」
「なに?」
「……」なんだかユーサーは複雑そうに、「こちらです……」
とあるコメントを提示したのだった。
そのコメントは……
「……『動画編集って勇者様がしてるのかな?』」
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